ASD・ADHD・LD以外の発達障害

▽発達性協調運動障害 ▽チック障害・トゥレット症候群 ▽緘黙症・言語障害
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 発達障害*に分類されることが多いものの、多くは自閉スペクトラム症(ASD)・アスペルガー症候群(AS)や注意欠如多動症(ADHD)などと併発しているため、個別に取り上げられることが比較的少ない諸症状について解説します。

発達性協調運動障害

 発達障害の人に苦手な科目を聞くと大きく他を引き離して第1位になるのが体育です。当社を利用する8,9割の人が運動に苦手意識を持っているというアンケート結果でもそれがわかります。体育では様々な体の部位を脳が上手に操る機能(協調運動)が必要とされます。その力が著しく劣る状態を発達性協調運動障害と言います。

原因と特徴

 原因についてははっきりとわかっていません。他の発達障害と同じく、脳の機能に違いがあり、神経伝達物質の異常などが起こっているのではと言われています。身体に問題はないものの協調運動が苦手であるため、脳に何らかの原因があると考えられています。

 発達性協調運動障害の人は自分の手先や身体全体をスムーズに動かすのが難しいだけでなく、そもそも自分の体の各部分がどこにあり、どのような状態かを瞬時に把握する感覚が乏しいことが知られています。例えばストレッチという簡単な動作でも不思議な恰好になってしまう人がいますが、それは多くの人が無意識にできている、自分の頭、手足、腰の位置の把握が意識しないと難しい状態であることが疑われます。

協調運動=粗大運動+微細運動

 様々な体の部位を脳が上手に操る機能を協調運動ということは先に解説しましたが、協調運動は2つに分けられます。

  • 運動神経の良さ悪さ → 粗大運動力
  • 手先の器用・不器用 → 微細運動力

 例えば大きな段ボールを壁にぶつけずに運ぶときに、バランスよく段ボールを抱えて足を適切に運びながら、自分の姿勢を整えて動く必要があります。これが粗大運動(そだいうんどう)です。特に球技では粗大運動が様々に要求され、ボールを投げるにも左足を出しながら徐々に腰をひねり右手が背中から巻き込むように肘をたたみながら動かす、などという関節や筋肉が協調して動く必要があります。体育でも持久走・マラソンだけは得意な発達障害の人が多いのは、単純な繰り返し運動であり、粗大運動があまり求められないからでしょう。

 一方で、箸を使ったり、文字を書いたり、靴ひもを結んだり、ボタンをはめたりするときに使う協調運動が微細運動(びさいうんどう)です。いわゆる極端に不器用で細かな作業に異常に時間がかかったり、ストレスを感じたりする人が発達性協調運動障害と診断されえます。ただし、粗大運動にせよ、微細運動にせよ、苦手にして診断基準であっても、ADHDやASD(自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群)の傾向が合わせて見られることが非常に多いため、発達性協調運動障害が診断書に記載されることは少なめでしょう。

対策・対応は?

 食事や勉強、仕事など日々日々のあらゆる行動に協調運動は求められます。その都度都度困難を感じているわけですので、発達性協調運動障害の傾向がある人は日々疲れやすく、自己肯定感が低めです。粗大運動の対策・治療法としては感覚統合が挙げられます。遊びや運動を通して脳に刺激を与え、色々な感覚を意識させ働かせる療育の一つです。運動神経が鈍いからと言って、身体を動かすことは好き、気持ちが良いという人が多いですので、感覚統合でなくても各部位の感覚を確かめながら体を動かす運動は効果が高い可能性があり、例えばヨガなどを試す人も多くいます。

 微細運動については、細かな動きをつまみ出して、集中的に訓練することが多いようです。しかし微細運動をきちんと行うためには、姿勢の安定があってからこそ。手先だけではなく姿勢や歩行など運動基盤のトレーニングも必要です。またご本人にとってはどうしてもイライラする行動を繰り返す必要がありますので、焦らせず、気長に、ご褒美なども用意しながら対策をすることが求められます。

チック障害・トゥレット症候群

 自分の意思に反して体の一部分(目、顔の一部、首、肩、手足)が急に動いてしまったり、無意識に声や咳が出てしまう状態をチックと言います。体が動くものを運動チック、音が出るものを音声チックと言い、両方が長期間続くものをトゥレット症候群と言います。

 チックも自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群などと合併することが多い発達障害の一つです。原因は他の発達障害と同じくはっきりとはわかっていませんが、子育てや本人の努力不足で起こるものではありません。やはり脳の機能の障害が関与し、神経伝達物質に異常が起きているのではないかと言われています。

 チックは幼少期に発症することが多いですが、青年期以降も軽くはなりつつも継続することがあります。また精神的に不安定な状態ではチック症状が引き起こされやすくなります。チックが増えてきたときは大きなストレスにさらされている可能性が高いですので、環境を変えたり、休んだりするなど、対策が必要になります。

 またチックの症状にはお薬が出ることも多いため、医療機関に定期的に相談することが良いでしょう。

緘黙症・言語障害

 自閉スペクトラム症はコミュニケーションの困難さが一つの診断基準ですが、言葉を聞いたり話したりというところの障害自体を言語障害という一つの発達障害ととらえることもできます。具体的には、構音障害(こうおんしょうがい。活舌が悪い状態であり、発音が不明瞭で言っている事がわかりにくい。)や、吃音(きつおん。いわゆる”どもり”であり、言葉の最初が出にくい。)などがあります。

 対応としては言語聴覚士によるセッションが考えられますが、多くは幼少期に受けるものであり、成人してから極端に改善することは少ないでしょう。他の発達障害との合併は非常に多く、言語障害はご本人も意識しやすいことから、活舌やどもりを恥ととらえている方には多く出会います。しかしご本人が思う以上に周囲は活舌・吃音を意識していないことが多く、むしろ話す内容や態度を気にしていることが多いですので、苦手意識を持ちすぎないことが重要です。

 最後に緘黙症(かんもくしょう)の解説です。緘黙はご家族など安心できる一部の人とは会話ができるものの、学校や知らない人がいる特定の環境では別人のように押し黙るような状態のことを言います。このような状態は正確には場面緘黙といわれ、まったくどこでも喋れない状態は全緘黙と言われます。場面緘黙であっても、家以外ではまったくしゃべらない状態の人もいますし、小声で単語をいくつか喋る程度はできる場合もあり、症状の出方は様々です。自閉スペクトラム症が基盤にない場合に診断することが一般的です。

 喋ることを強要するとかえって状態が悪化し、引きこもりや抑うつなど二次障害をうむこともあります。対応も長期化することが多いですが、ご本人がストレスを感じにくいコミュニケーション手段(手紙やメールなど)を駆使しながら、徐々にできる範囲を増やしていくことが必要でしょう。なお、緘黙症も他の発達障害と重なることが多いのが特徴です。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます


監修者コメント

発達障害や、DSM-5にて神経発達症群とされるもののうち、自閉スペクトラム(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)に関しては診断されることも多く、最近では学習障害(LD)もようやく話題に上がることが増えてきました。一方で、本記事に紹介されている発達性協調運動障害に関しては、それを抱えている子が多いものの、しっかり認知されているとは言い難い状況です。私も診断したことはありません。チックや緘黙も認知度が低いと言えますが、チックはドパミンを中心とした神経伝達物質の脳神経系における利用の問題が確実にありますし、緘黙は近年では発達障害というよりも不安症の1つに位置づけられています。いずれにしても特に学齢期の子において支援の対象となるのは、ASD,ADHD,LDに限定されるものではなく、その子のどこに支援が必要かは個別に考えられていくべきでしょうね。


監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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