発達障害の就労支援を行っている株式会社Kaienでは、2012年10月に就労移行支援開始以来、首都圏7拠点に展開するまでになりました。5年で合わせて1,000人以上に支援をし、修了した850人のうち700人以上の方が就職を果たしています。前回のデータ編に引き続き、この記事では339人に回答いただいたアンケートに基づいて就労移行支援での体験をコメントから振り返ります。前回の記事は こちら から。
基礎情報
- アンケートは2017年11月から12月の一ヶ月間、オンラインフォームで行いました。
- およそ1000人に回答を依頼。就労移行利用中の155人と、過去に利用した修了生184人が回答してくれています。
- 性別は男女比が72:26 。LGBTという選択肢も設けたところ1%強の回答がありました。
Kaienの就労移行支援前の仕事内容や苦しみ
前回分析したとおり、就労移行支援の前は仕事についていても、短時間だったり、長時間すぎたり、苦手が目立つような仕事についていた方が多いということがありました。コメントでKaien就労移行支援以前の職場を聞いていますので、いくつかご紹介しましょう。
- 展示場での、ブース設営、解体などの軽作業。各地のイベント(花火大会など)でのテントなどの設営、解体業務。短期のアルバイトを所属先から紹介されるような形に近かったため、業務時間、給与が安定せず、急な夜勤も度々ありました。
- クリニックでの患者対応や軽作業(清掃・器具洗浄)→飲料の検品、パッケージ組み立て→食料品・日用雑貨のピッキング→食品工場での製造補助
- 接客・販売のほか、品出しや値付け、倉庫整理など軽作業系の業務もあった。柔軟な対応を求められることが多く、マニュアルは存在せず自分で考えなけれればならないこともあった。
- 中古車の買い取り・販売を行う会社での営業業務。洗車や書類処理等を行った後、買い取り・販売も担当しました。
よく質問されますがすべての人に当てはまる ”発達障害にあった仕事”・”あわない仕事” というのは有りません。しかし、多くの場合、同時並行が要求されたり、急かされる状況だったり、臨機応変さや即時応答を要求されたりする職場は苦手です。
実際、上のコメントを見ると、大多数の方は苦しむだろうな、という仕事に就かざるを得なかったのだということがわかります。このため今回のアンケートを見ると、自分の得意を活かした仕事を見つけたいという思いと、自分の苦手を克服したいという二つの思いを持って当社の就労移行支援の門をたたく方が多いことが頷けます。
就労移行で身につく力は ”見えづらい力”
ではそうした期待は果たされたのでしょうか?今回のアンケートではKaienの就労移行支援で自分の成長のきっかけになったところは?という質問を伺っています。
Kaienの就労移行支援は、(A)仕事に活きる見えやすい力(パソコン操作、経理・会計や総務の事務、プログラミング、ピッキングや清掃などの作業力)や、(B)就活支援力(求人を紹介してもらったり面接の練習をしてもらったり)が伸びたり、得られたりと思っている方が多く、実際今回のアンケートでもその二つのことについて触れる方も多かったのですが、(C)ソフトスキルや職業人としての心構え(見えづらい力)を挙げる方が多かったのが印象的でした。
- 出来ない事や分からない事があった時に、どの段階でどのように周囲にヘルプを求めればいいのか、正解ではないかもしれません。でも、第三者の「これくらいでいいんじゃないか」というご意見を頂けて非常に助かりました。何でも自分一人の力でやるのが仕事だという訳ではないと分かり、楽になりました。
- 失敗から学ぶ。日々の日誌で気づきを見つけて対策を立てる事が大変参考になりました。
- 自分は何も出来ないと思っていたが、職業訓練の中で自分にも出来ることがたくさんあると知り、色々なことに踏み出すことが出来た。
特にKaienが初期から重視している「報告・連絡・相談・質問」と「メモ」の必要性は多くの修了生に染み付いて今でも職場で力になっているようです。
- それまでは自分だけで判断して失敗することが多かったが、Kaienで周囲に相談したり新しい連絡・注意事項はすぐに共有したりするなどの習慣が身についた。
- 指示内容に対し、メモを取る。そして人に確認を取る。認識のズレがないか再確認をする癖が身についた。
- ごく基本的なことですが、誰かに声をかける時は「○○さん、今よろしいですか」と基礎講座?に明文化されていて、報連相時の振る舞いを見直すきっかけになりました。上記を必ず言うように習慣化できました。
- 「上司が知りたいのは、仕事の進捗状況」「根拠に数字」
職場での苦手を克服(コミュニケーション・ミス・抜け漏れ) Kaienの就労移行支援
自己理解を挙げる方も多くいらっしゃいました。
- そもそも自分の能力に向き不向きがある事に全く気付いていなかったので「出来ない事は人に任せる」が非常に大きなきっかけになった。
- オンライン店舗の店長業務で、何でも自分でやるのではなく、上手に周りを使って調整を図るという指導をいただいた点。(従来は、何でも自分でやろうとしてしまい、結果パンク未遂を起こしたことから。)
- キャリアカウンセリングにて自分の強みや特性上の弱みをしっかりと理解出来たこと。
実際多くの方が、発達障害の人が苦手にしやすい明文化されていないソフトスキルの上達がKaienに来た成果だと答えてくれています。
発達障害はスパイスのようなもの まず一人の人間として接する
良質な支援はどうしたらできるのでしょうか?Kaienでは、発達障害の前に人としてきちんと向き合うこと、一般枠・障害者枠や業界・職種に関係なく職業人として必要なことをきちんと身につけてもらうことだと思っています。
Kaienは発達障害に特化した支援を行っています。でも語弊を恐れずに言うと発達障害はスパイスのようなものです。発達障害の特性を論じる前にその人の人格・個性・過去をきちんと受け止めて、一人の職業人として成長してもらうことに協力する姿勢が重要だと思っています。
そういった想いはKaienの就労移行支援を受けた人にも伝わっているようです。最後に二人の方のコメントをご紹介します。
- 個々のプログラム内容というよりは、スタッフや講師の「社会人スキル」に触れることが大きかった。今でも、「あの方ならどう考える」かなどのヒントになっている。
- 今村講師のもとで週替業務をしていた時の話です。マニュアルと講師の説明で理解できない部分があり、質問に行くと今村講師が一部誤解されていた部分がありました。その点に気づかれたときに今村講師は席を立ち、「申し訳ありませんでした。」と私に謝ってくださり、「間違って説明した方に伝えないと。」とおっしゃっていました。私は自分が上司の間違いを指摘してしまったことに後ろめたさを感じていましたが、「上司が一訓練生に謝る」ということに驚くとともに、今村さんの謙虚で真摯な姿勢に感動しました。その仕事・人に対する誠実な姿勢を見習わせていただきたいと思い過ごしています。
Kaienで働く講師は、大企業の社長や部課長を勤めた企業戦士が、60歳を迎えたあとの第二のキャリアとしてつとめている場合がほとんどです。そういった人でも、あるいはそういった人だからこそ、真摯に接するまっとうさがあるということに気づいて、日々職場で頑張ってくれているというのは、スタッフにとって、とても勇気づけられるものです。
来年も発達障害の人の支援をするという姿勢の前に、対等に接すること、一人の職業人を育てること、という当たり前を大事に、まっとうな支援を提供していきたいと思います。