在職者向けのキスド会(土曜夕方に秋葉原と新宿で開催している、発達障害*のある在職者向けのしゃべり場)での皆さんの体験談を、承諾をもとに記事にしています。今回のテーマは人の話がすぐに理解できない特性。特に職場で実際に経験したやり取りを議論しました。
初対面の人の場合だけ?同じ人とでも何回も生じる?
Aさん: 人の話がすぐに理解できません。あとでよく考えると今までの知識を流用できるような時も、初めて聞くような感じで聞いてしまうのです。気持ち的にアップアップなまま聞いてしまいます。すると言葉だけを追って暗記するような聞き方しか出来ない。10秒か20秒ぐらいは理解できている気がするのですが、説明が長くなって1、2分経ってくると言葉自体は理解できているけれども、意味がわからない。指示を出している上長も「こいつわかっているのか!?」というような感じになってくる。作業の指示が終わって「何かわからないことがあるか?」と聴かれても、何がわからないのかわからず、質問もできないような状態になってしまいます。それが何度も繰り返されるので上長もやり取りに疲れてしまってきている感じです。
Bさん: 僕も人の話が理解できないということはよく分かります。でも僕の場合は、初対面の人と仕事をするときに限られます。言葉の定義って人によって違うじゃないですか。今までの経歴が違う人と初めて仕事をする場合って、相手が言っている単語の意味と、自分が言っている単語の意味と、同じ言葉でも定義が違うので、意識ってずれるんですよね。でも「この人が言っている、こういう言葉の定義は、こういうことだな」と何回か仕事をしている間にわかってきます。そうすると、だんだん齟齬や認識のズレがなくなってくる。自分としては最初の数回はしくじっても我慢しようという対応になっています。
Cさん: 私もBさんとおんなじです。相手のマニュアルを作っていきます。相手の辞書みたいのを作るんですね。そうすると少しずつその人と仕事がしやすくなるんです。でもAさんは、同じ人とでも、何回仕事をしても、という話ですよね。相手と接するためのマニュアル自体が作れない、何らかの特性がある可能性があるのだろうなと思いました。
人の話が理解できない理由はいくつも考えられる
Bさん: 理解できないのは何が原因だと思いますか?ASDの人って確かに人の話が理解できないということが多いですよね。ただし原因は一個ではなくて例えば想像力が弱くて聞いたことをイメージできるのが出来ないからなのかもしれないし、一つのことにこだわるからバーっと言葉を言われたときにわからないことがあるとそれにこだわってその後の話を聞いていないとか、他にも色々原因が考えられると思うのですよね。
Cさん: 私達の苦手なところって起きたことにとらわれてしまうというところがあると思うのですよ。苦しいことにばっかり目が向いてしまうと何も見えなくなってしまうので。まず上司の話がわからないなと思ったときには、自分と他人の何が違うのだろうと分析していくと原因がわかってくるのではないかなぁ。原因がわかれば自然と対応策もわかってくるのではないかなと思います。
Dさん: 大前提としてAさんが発達障害であることを上長は知っている?
Aさん: おそらく気づいていると思います。というのも、上長のお子さんは自閉スペクトラム症の診断が有るそうなんです。それとある発達障害のテレビ番組の話になったときに、これって「Aの特長そのものじゃん」と言われて、私が自閉スペクトラム症に近いと言っていたので。
高IQの人の対処法とそうでない人の対処法
スタッフ: 原因を分析したり、何度か働く中で相手のやり取りの癖をデータとして蓄積して対応策を考えるというのは、非常に高いIQを持った人の対応方法でしょうね。先程BさんやCさんがおっしゃっていた「一緒に働く人の話が最初は理解できないが、徐々に場数を踏むと大丈夫になる」というような処理はすべての人が出来るわけではないと思います。発達障害の傾向があると、相手が使っている単語のその時々の意味や、その人が喋っている意図・背景とかを想像するのは本来苦手なはずですよね。だけれども、ターミネーターのように知識として、人工知能のように知識として入ってくると、高IQの人だと頭のなかで蓄積して徐々に相手の癖を分析、理解して、行動に活かしていくのだと思います。そうすると、いわゆる定型発達者(健常者)が勘や阿吽の呼吸で理解していることを、知識と高IQという”AI”を使って擬似的に可能にしているのだと思います。高IQというのは知能検査で120、130、140ある人を指しています。
Fさん: 高IQだと洞察力が有るということですか?
スタッフ: いや、洞察力ではありません。他の人が全くエネルギー使わず、こんな感じかなと思うことを、非常に高いIQの発達障害の人は、膨大なデータを蓄えて、スーパーコンピューターのように計算して、多分こんなことと結論づけてくる。そういうアプローチの中で人の話をだんだん理解できるようになるのだと思います。ただそういうIQの地力に非常に恵まれていない大多数の人の場合は分析を繰り返しても、データ処理が難しく、有用な行動には結びつかないと思います。
高IQ以外の人のコミュニケーション術は?
Cさん: その場合の人達はどうしていけばよいのですか?
スタッフ: 周囲がご自身に対応策を伝える。あるいは周囲がご本人に合わせてあげる。どちらかだと思います。誤解してほしくないのは、ご本人がまったく進化しないわけではないです。だけれども、周りの人が許容できるスピードでは適応が難しい。
Cさん: 短期も長期も記憶保持の良さとか、同時処理の良さとか、あとは感情よりも論理が勝つという頭の系統が必要なので、多分どれか一つが欠けても、スタッフの方がおっしゃったようなマニュアルを作るということについては厳しくなるのかなぁと思います。例えば、Bさんとか私がしている自己処理を、外付けハードのような感じで他者に頼むことは出来ないのですか?
スタッフ: もちろん。それが周囲が対応策を考えてあげて伝えるということですね。
Cさん: 周りの人に合わせてねと言われても、周りも自分たちの世界を理解できていないから私たちに説明ができないとなると、ただイライラだけが募っていくと思うのですね。だったら外付けハードのような人を味方につけると良いのかなと思いました。
Bさん: ちなみに僕の周囲は優秀な人が多くて、そういう人は外付けハードになってくれるんです。通訳代わりになってくれるんです。
スタッフ: 気にかけてくれる人は、通訳になる可能性のある人ですよね。興味関心は持ってくれているので、こちら(発達障害)の世界に。
Gさん: 私は高IQではないので、たしかに皆さんがおっしゃる自己処理が出来ない方なんです。でも”通訳”を介して徐々に作業のレベルを上げていっています。
スタッフ: そうですね。頭ではわかってはいるけれども、すぐに行動出来るほどにはわかっていないという状態が、発達障害の人は職場で多いですね。”通訳”の人がいると心強いですね。
Gさん: 私は動けないベースで動くという感じ。私は「作業を一度しないとわかりません」というのを予め相手に言っておく。「一回聞いただけではわからないところがあるんです」ということを最初に伝えます。今までの経験では事前に伝えておくことで、大きな期待と現実の食い違いが生じにくくなると思います。
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監修者コメント
人の話をすぐに理解するというのは実は誰にでも難しいものです。しかしいわゆる”定型発達”の人だと分からなくても、それなりに分かったふりができるのだと思います。
iPhoneが直感的に操作しやすいように、定型の人たちは周りの雰囲気から、なんとなく合わせて動くことができるのでしょう。ですので、分かっているのか、聞いてみると全く分かっていないというのもよくあります。
理解力がないんだと落ち込むのではなく、周りと適当には合わせられない不器用さが原因なんだなと思う方が、少しは気が楽になるかもしれません。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属
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