発達障害*¹の特性は他人に劣ることばかりではありません。出来ることと出来ないことの差が激しくても、出来ることが多い職場ならば戦力になれます。また苦手だと思っていた特徴も、違う職場や職種だと重宝されることもあるでしょう。自分の特性をよく知り、企業が雇いたくなる”戦力”としてアピールする方法を伝授します。
目次
- まずは情報収集 経験談を聞くことがお勧め
- 得意と苦手は表裏一体 9つの具体例
- 苦手対策 配慮を受けるか環境調整を受けるか
- 一般雇用(一般枠)か障害者雇用(障害者枠か) メリット・デメリット
- 気をつけておきたいこと
まずは情報収集!経験談を聞くことがお勧め
就職活動にしろ、今の職場で働くにせよ、発達障害の方はなんらかの苦手感や困り感があることがほとんどです。あるいは自分が感じていなくても周囲の方が困っているということも生じる場合があります。自分も周囲の人も気持ちよく働く職場に出会うにはどうしたらよいのか?まずは苦しみを経ながらも今充実した職業人生を送っている先輩の経験談を聞くことがおすすめです。身近にそういった機会がない方はウェブ上の体験談を読むことも良いでしょう。
特に自分に似たタイプの当事者の話を読んだり聞いたりすると良いでしょう。ASD(自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群)が優勢なタイプか、ADHD(注意欠如多動症)が優勢なタイプか、いずれの特徴も見られないLD(学習障害*²)の特徴があるのかによっても参考になる経験談は変わってくるかもしれません。また性別や年齢、目指す職種によっても心に響くか響かないかが異なるでしょう。
当事者の経験談を聞くためには、当事者会や就労移行支援など、多くの人が集まる場所を訪ねてみてください。もちろんすべてが参考になるわけではありません。経験談を読んだり聞いたりしたときは、一つでも二つでも参考になったり、前向きになったりする情報を持ち帰るようにするぐらいの期待度で臨むとよいでしょう。
【参考】発達障害のある人の就活体験記
得意と苦手は表裏一体 9つの具体例
発達障害の方は細かく見ると一人ひとり違います。しかし診断名によって大きな傾向に分類できるのが特徴です。またある会社や業務では苦手に思えた特徴が他の会社や業務では重宝されることもしばしば起きます。ここでは得意と苦手が表裏であることを知っていただくために、出来る限り得意と苦手をセットで説明していきます。
まずはASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)傾向のある人に当てはまりやすい代表例を見ていきましょう。
ASD傾向のある人に当てはまりやすい例
◯ コツコツ同じ作業が出来る 集中力が高い
✕ 同時並行が難しい 変化に弱い・パニックになる
ASD傾向のある人の場合は、周囲の状況に左右されず、我が道を行くという印象が強めです。このために他の人が嫌がるような仕事でもコツコツ、集中して、長時間同じような作業をできるという特徴があります。ただしご本人はこのことを「普通に誰でも出来る」と思っていることが多く、長所と思っていないかもしれません。この例に漏れずに発達障害の方は自分の強みを客観視出来ていないことが多いため、他の人からの評価を自分の強みとして取り入れられると良いでしょう。
ただしこの長所はデータ入力やピッキングなどの作業には良いかもしれませんが、いくつもの仕事を同時に抱えたり、作業が少しでも変わると適応に時間がかかったりすることが見られます。仕事によっては褒められる特徴も、違う環境になると弱点になるというのは、他の発達障害の特徴でも頻繁に見られるものです。
◯ 事前に決められたルール通りに出来る
✕ こだわりが強い 柔軟さ・適当さがない
一つ前の特長と重なりますが、発達障害の方は事前に決められた手順通りに物事を進めてくれることが多めです。このため総務や法務、経理、財務などの適当にすることが許されない仕事は適任と言えるでしょう。その他ITなどの手順が重要な業界や、規制の多い業界(例えば医療や福祉の世界)も職種によっては長所が活かせるでしょう。
一方で字義通りに受け取りすぎたり、必要以上にルールを人に押し付けてしまったりする危険性もあります。特に対人のやり取りが必要なところ、状況によって正しい選択肢が次々に変わる交渉事が多い仕事は苦手な面が強く出てしまうでしょう。具体的には接客業はルールはあくまでルールでその場の状況によって適当な行動が変わります。ASDの人にとっては苦手とされることが多いでしょう。
◯ 読む力/書く力/まとめる力がある
✕ 堅苦しい 柔軟な会話・文章が苦手
特に大学や大学院で勉強が得意だったタイプの方は、読む力、書く力、まとめる力が際立っています。メールやチャットでの文章でのやり取りが多い、設立から比較的若い会社では重宝される可能性があるでしょう。喋ることに不安がない場合は、コールセンターなどだと流暢な言葉遣いが評価されることがあります。
一方で行政的な、堅苦しい文章をかけるものの、柔らかな人に共感されるような文章を書いたり、まとめ上げたりするのは苦手とすることが多いでしょう。また流れの中で相手を気持ちよくさせるような言葉がけをするのは不得手かもしれません。実際に人と対面するような仕事は避けるほうが懸命でしょう。
◯ 細かいことに気付ける
✕ 大きな流れを見極められない
ASDの方は視野が狭いというマイナス面があるかもしれません。しかし一方でミクロの目線でちょっとしたズレや細かな違いに気づけることがあり周囲を驚かすことがあります。バグ探しや品質評価の仕事などは、その細部への気配りの特徴が出やすい仕事で、強みを活かせる仕事であることが多いです。品質に関する業務はほぼすべての業界でありますし、資格なども整っている仕事内容ですので、見えるものを重視するASDのタイプの方にはうってつけでしょう。
ただし数年や数ヶ月と言った中長期的な視点で物事を判断したり、物事の軽重(重要か重要でないか)を判断するのは苦手であるようです。部下や協力会社の社員を管理するような仕事になると高い視点で複数の人を大きな流れから見る必要があります。木を見て森を見ずというような状況になると困る仕事は避けたほうが良いでしょう。
◯ 真面目である 丁寧である 素直である
✕ 馬鹿が出来ない 砕けた会話ができない 嘘をつけない
人間として尊敬できる、という点はASD傾向の人の最大の美徳かもしれません。どこまでも自分に素直ですし、人を押しのけて何かをするという貪欲さはなく、あくまで利他的に、社会の中で調和しながら真面目に発言し行動してくれます。もちろん後述するように空気や人の気持ちを察しづらくて失敗することもあるかもしれませんが、人に迷惑をかけても自分が得をすれば良いという思いがないことはどんな仕事をするうえでも周囲から信頼される要因となるでしょう。
ただし、ノリについていくことが苦手だったり、嘘をつけなかったり、砕けた会話が苦手だったりと、大勢に群れて行動することは苦手であることが多いでしょう。特に嘘も方便というようにある程度の嘘をつけないといけない営業や販売などの仕事の場合はASD系の人は自分の良さがかえって足かせになってしまい、苦しむことが多いでしょう。
次にADHD(注意欠如多動症)傾向のある人に当てはまりやすい例です。
ADHD傾向のある人に当てはまりやすい例
◯ 好きな知識・業務は誰にも負けない
✕ 切り替えが難しい 好きなことしか集中できない
ADHDの人に当てはまるのが、好きなことはとことんはまる、ということでしょう。次々に難題が襲ってきても、自分の好きなことをしている限りは楽しく仕事ができるようです。自分の興味が活かせるゲーム業界、出版や放送の業界、その他研究職などADHDの特徴がプラスになる業種や職種はたくさんあります。
ただし好きなことばかりをしていればよいという仕事は少ないでしょう。例えばゲームクリエーターでも、場合によってはコンプライアンスに伴う書類を書かないといけなかったり、営業書類を社内の書式に合わせてまとめていく必要があったりと、面倒だなぁと思う業務のほうが多いのが実際です。特に好きなものをしたり、楽な状態から、頭を切り替えて、自分の不得手なことを我慢してすることが多い職場はやはりあっていないと言えるでしょう。
◯ 発想力がある 他の人と視点が違う
✕ ミスが多い 抜け漏れが多い 多動・注意力が散漫
よく起業家にADHDが多いと言われるのはこの点です。発想があり、他の人と違うことをしないと、新しいサービスや商品は作れないですし、他の人が無謀と思うことを無謀とは思わないところも才能と言えます。新商品の開発にも上手に当てはまる特性かもしれません。ただし一人ではなかなか全ては出来るものではありません。発想を上手に形にしてくれる人たちと信頼関係を結ぶように工夫していきましょう。
発想が豊かな人ほど頭の中からアイデアが湧く一方で、次から次へ注意が移り、ミスが多くなったり、抜け漏れが多くなったり、集中が散漫になりがちです。残念ながらミスはほとんどの組織で望まれることはありません。ミスは出るものとしてダブルチェックを工程に入れている製造業の現場などを探していくか、ミスをしてもやり直しが効いたり、大きな損失にならないような環境で働くと良いでしょう。多くの場合、ミスをある程度許容できる社風かどうかが問題になってきます。
◯ 人柄が朗らか 元気いっぱい
✕ 気持ちにもやる気にもムラがある
ADHDの人は見た目も精神も若いことが多く、元気を周囲に届けられるのは長所といえます。特に年齢が上がれば上がるほど、ADHDの特徴は貴重で、若い人に囲まれても物怖じせずに職場に馴染めることが多いでしょう。
一方で上述の点と重なりますが、やる気にムラがあるのが難点です。明るい時もあったら、どんよりと暗くなり、職場に足を運ぶのが辛くなったり、衝動的に退職届けを出してしまうことがあるでしょう。これらの特徴はどの仕事・会社を選ぶというよりも、あなたのムラがありながらも魅力ある特徴を受け入れてくれる組織で理解のある人達に囲まれて働くのがポイントになります。
◯ 思い切りが良い 即決即断が出来る
✕ 独断で動きやすい チームプレーが苦手
フリーランスが多いのもADHDの人の特徴かもしれません。周りにとらわれず自分のペースでとことん働くという形に潔さを感じる人が多いようです。またフルコミッションの営業など、一匹狼的に働いている人もいます。組織に所属していてもライターやカメラマンなど、場所や時間を選んで働ける環境で自分を信じて働けるところが特徴と言えます。
決してADHDの方が組織で働けないと言っているわけではありません。しかし古い会社組織では意味がわからない慣習ともいえる様々なルールや手続きがあり、それを守ることでチームが維持されていることもあります。あまりにも一人ひとりの裁量がない、硬直した伝統的な組織はフィットしないでしょう。面接の場や採用段階のやり取り、ウェブからの情報で働きやすさを知ることが良いでしょう。
なお発達障害の方の場合、上記以外にも長所や短所があります。専門家に相談するなどしてご自身の特徴に会った環境を探していきましょう。
- 不安感が強い(一方で繊細である 感受性が高い)
- 感覚過敏(音がうるさいところでは働けない 周囲の話し声が気になってしまう)
- 不器用(手先の器用さや手作業の迅速さが求められるようなところは苦手)
- 数字が苦手(比率や割合、単位の違い、お金のやり取りが何度説明されても頭に入ってこない)
- 段取りが苦手(計画を立てたり、状況に合わせて修正したりが苦手)
配慮を受けるか環境調整を受けるか
自分の苦手感、困り感をどのように解消・克服できるか。大きく分けて4つの方法があります。
- 自分で工夫する
- 苦手な仕事・方法を避ける
- 苦手を配慮してもらう
- 得意な仕事に転職する
まずは自分で工夫し対策を練ることがあるでしょう。<1>を選ぶ上で注意したい点は他の人の助けを借りてほしいということです。発達障害の特徴は生まれてから基本的に変わるわけではありません。これまでの何十年の人生の中でなかなか克服できなかった特徴を急に自分だけの努力で変えることは難しいでしょう。<2><3><4>を選ぶ時もそうですが、発達障害に理解のある医療機関や福祉機関などに相談をすることをおすすめします。
もう一つ注意いただきたいのは苦手なことはそれほど地力が伸びるわけではないということです。例えばコミュニケーションが苦手な方の場合は会話に関するセミナーを受けることで少しは話しやすさが変わるかもしれませんが、根本的にレベルが上がるというわけではありません。むしろ喋ることが難しい場合は喋らないで自分の意志や状況を伝えるような方法(代替手段)を考えたほうが良いでしょう。それが②になります。仕事の目標はあくまで売上を上げたりコストを削ったりすることであり、コミュニケーションでどの方法を取るかは手段にしか過ぎません。仕事の目標は何かを考えて苦手なことは避けて他の手段を検討することが重要でしょう。
もちろん職場の事情で<2>が認められないこともあります。職場によってメールを使うような環境ではなくやはり口頭で連絡することが必須になるような場合です。周囲に手伝ってもらったり、期待度を落としてもらって負担を下げていくのが<3>の方法です。<2><3>については障害者雇用ですと職場での理解が得やすいでしょうが、実は一般雇用でも交渉ができないわけではありません。一般枠と障害者枠については次の項でもう少し詳しく解説します。
最後にあるのが他の仕事への転職です。ただ<4>を選ぶのは、<1><2><3>を試した上ですることを強くお勧めします。実は転職先のほうが自分の苦手が出やすかったということは度々聞くところです。転職するというのはリスクが有ることですので、周囲からの協力を得ながら<1><2><3>を試し、その後転職を考えるということが賢明でしょう。
一般雇用(一般枠)か障害者雇用(障害者枠か) メリット・デメリット
発達障害のある方にとって一般雇用か障害者雇用かというのは大きな意思決定になります。グレーゾーンと言われても通常は診断書は出ます。精神科で傾向を指摘され、かつ就職に困難を感じている場合は障害者手帳を申請して障害者枠へ応募するということは選択肢に入れることが出来るでしょう。
先に書いたとおり、一般雇用(一般枠)でも合理的配慮を受ける権利はあります。会社の利益になる限りは、合理的な配慮を受けてパフォーマンスを上げる権利が労働者側にあるわけです。しかし実際のところ本格的な配慮や理解を受けるには障害者雇用(障害者枠)を選ぶ必要があるでしょう。
一般雇用のメリットは職種が多く、昇格や昇給があることです。一方で正社員であっても中小企業の求人が多く、実は雇用が安定しないという難点と、求められるレベルが高かったり、配慮や理解を得にくいということがあります。一方で障害者雇用のメリットデメリットはその逆となり、職種がやや限られ、昇給や昇格が少ないことがデメリットでありますが、契約社員という立場であっても大企業の求人がほとんどで、雇用が安定している(契約が基本的には続く)ことと、配慮や理解を得ることが前提になっているところがあります。
一般雇用と障害者雇用に優劣はありません。また障害者枠から一般枠、一般枠から障害者枠に動くことも可能です。あくまでもその時にどちらによりメリットを感じるかをご家族や支援者と検討して決めていきましょう。なお一般枠の場合はどのように苦手を伝えるか、あるいは苦手が出にくい就職先を求人票から判断するかが支援を受けるポイントとなり、障害者枠の場合は配慮や理解をどう求めるか、一般枠に比べて特殊な面接などの採用選考への専門的なアドバイスを受けるのが支援のポイントになります。
気をつけておきたいこと
最後に発達障害の傾向のある方が就活をしたり働いたりするときに気をつけておいていただきたいことをまとめます。
- 発達障害の方はひとりひとり特徴が異なる部分がありますが、対策や適職の方向性が似ているものです。ぜひ「先輩」の声を聞いたり、体験談を読んだりして、自分にあった就活や職種をイメージしてみてください。
- 発達障害の方は自分のことを客観的に見ることが苦手です。自分だけで判断すると自分の良さを見落とすことにもなりかねません。より良く働くために支援者・専門家に頼ることを積極的に考えてください。もちろん最終的に判断するのはあなたです。頼れる専門家の意見や評価を取り入れて、納得の行く決断をしてください。
- 同じ職場でも期待は変わっていきます。また今の職場は数年前の常識が通じないことも多い変化が避けられない環境です。一般枠や障害者枠など柔軟に使い分けて、その時にあった働き方を選ぶようにしてください。
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*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます
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