仕事でミスばかりするのは発達障害が原因?失敗を防ぐ対策方法を解説

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「ミス・抜け漏れがなかなか減らない」「業務がうまくこなせず支障が出ている」といった仕事上の悩みには、発達障害*の特性が原因となっているケースが多く見られます。 発達障害にはASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、SLD(限局性学習症)などがあり、1つの特性が顕著な方もいれば、2つ以上の特性が併存している場合も少なくありません。

発達障害の特性を理解し、それぞれの状態に応じた対処法を身につければ、仕事のミスを予防し減らすことが可能です。この記事では発達障害の特性も踏まえ、仕事のミスを減らすための対策方法を解説します。

仕事でミスばかりする原因は発達障害だから?

仕事でミスをおかしてしまうのは、誰にでもありえることです。しかし、業務に支障が出るほど頻繁にケアレスミスやタスクの抜け漏れなどが起こっている場合、その原因に発達障害の特性が関係している可能性があります。発達障害の方にミスや抜け漏れが多い理由を見ていきましょう。

発達障害の方にミスや抜け漏れが多い理由

発達障害は生まれつきのもので、性格とは異なります。発達障害の1つである「ADHD(注意欠如多動症)」には、物事に対する注意や集中力が散漫になりやすい「不注意」と、じっとしていることが苦痛な「多動性」、思いつきで行動してしまう「衝動性」といった特性があります。仕事でミスばかりしてしまうと悩んでいる方の中には、このADHDの特性が原因にあるかもしれません。

また、発達障害の方は双極性障害や睡眠障害を併存しているケースが多く、睡眠に困難を抱えている方も多くいます。また、感覚過敏な方も少なくないため、小さな物音や明かりに反応してしまい、寝付きにくく中途覚醒してしまう場合もあります。睡眠不足も仕事のミスや抜け漏れを引き起こす原因となるので、睡眠の質を上げるために軽めの運動で程よく体を疲れさせる、寝る3時間前には食事を済ませる、夜は人工的な明かりをなるべく避けるといった工夫が必要です。

【種類別】発達障害の方に多い仕事での困りごと

発達障害には、先ほど挙げた「ADHD(注意欠如多動症)」のほかに、「ASD(自閉スペクトラム症)」、 「SLD(限局性学習症)」などいくつか種類があります。それぞれ特徴が異なる分、仕事での困りごともさまざまです。ここでは、発達障害の方に多い仕事での困りごとを特性ごとに解説します。

ASD(自閉スペクトラム症)の場合

ASD(自閉スペクトラム症)の方は、仕事で以下のような困りごとを抱えやすいです。

  • 曖昧な指示や抽象的な表現の理解が難しい
  • 会社の「暗黙のルール」の理解が難しく、融通がきかない
  • 臨機応変な対応が難しい
  • 相手の目を見て話すことが苦手
  • 他人の仕事のやり方やルール違反に過剰に反応してしまう
  • 空気を読むことが苦手で、周囲と足並みを揃えられない
  • ある程度のコミュニケーションはできるが疲労感や不安感が強い

ASDは、社会的なコミュニケーションや対人関係に困難を感じることが多い発達障害です。特定の興味や行動に強いこだわり(または反復性)を示す、感覚が過敏または鈍麻といった特性も挙げられます。またグレーゾーンで薄い自閉傾向のある方の場合は、相手の意見や空気に合わせようと一生懸命になるあまり、過剰適応を起こすことも少なくありません。

ADHD(注意欠如多動症)の場合

ADHD(注意欠如多動症)の方は、仕事で以下のような困りごとを抱えやすいです。

  • マルチタスクが苦手で、仕事の優先順位をつけられない
  • 注意散漫になりケアレスミスが多い
  • 衝動的な感情・行動により人間関係が険悪になりやすい
  • 集中力が持続せず、同じ場所で作業を続けるのが難しい

ADHDには、集中力を持続させることが難しい「不注意」と、落ち着きがなくじっとしていることが難しい「多動性・衝動性」があります。ADHDの特性は医学的なタイプ分けではないものの、不注意の特性が強く見られる「不注意優勢型」と多動と衝動性の特性が強く見られる「多動・衝動性優勢型」、その2つが混ざった「混合型」の3つに分類するとわかりやすいでしょう。

SLD(限局性学習症)の場合

SLD(限局性学習症)の方は、仕事で以下のような困りごとを抱えやすいです。

  • 資料やマニュアルの文章を正確に読むことが難しい
  • 会議や指示内容をメモに取ることが困難
  • お金の管理や計算が難しい
  • 不正確な文字を書いてしまう

SLDは、知的障害や視覚・聴覚機能の問題が伴わずに、識字や計算が困難になる発達障害です。SLDの特性は数字や計算の理解が難しい「算数不全(ディスカリキュリア)」、字を読むことが難しい「読字不全(ディスレクシア)」、書くことが難しい「書字表出不全(ディスグラフィア)」の3種類に大別されます。

発達障害の方が仕事でやりがちなミスと対策方法

発達障害の特性が要因となって起きる仕事のミスは、なぜそれが起きるのか原因と状態を把握し、どうしたらミスが起きないか工夫と対策を考えることで防げます。発達障害の方が仕事でやりがちなミスとその対策方法を、困りごと別に解説します。

マルチタスクが苦手で仕事が終わらない

サービス業で営業だけでなくお金の計算や事務作業も担当するなど、業務内容が多岐にわたると仕事が終わらなかったり、抜け漏れやミスをしてしまうことはありませんか。

こうしたミスは、発達障害の特徴の1つである「ワーキングメモリー(短期記憶)」の弱さが原因にあります。ADHDの方に当てはまりやすいパターンで、タスク内容を頭の中だけで処理しようとすると起こりがちです。

対策として、「タスク管理を外付けする」方法がおすすめです。パソコンやスマートフォンのタスク管理アプリを使う、ToDoリストをつくって目に入る場所に貼るなど、自分の脳内だけでなく周囲のツールを活用しましょう。

複数業務が重なるとパニックになる

バタバタしている時に電話がかかってきたり、仕事の納期が迫っていたり、一度に複数の業務が重なるとパニック状態に陥ってしまうことがあります。

これは先ほど説明した「ワーキングメモリー(短期記憶)」の弱さや、業務の優先順位がつけづらい「知覚統合」や「中枢性統合」の弱さの影響が考えられます。ADHDだけでなく、ASDの方にもよく見られる状態です。

こういった場合、業務内容をメモや表に書き出して「視覚化」すると思考が整理しやすいでしょう。また、日頃から優先順位付けの練習をすることもポイントです。優先順位は時間が絡む「緊急度」と、安全性や売上利益などが絡む「重要度」の2つの軸で構成されており、この優先順位付けに慣れておくと、いざという時焦ることが少なくなります。

マニュアルを読んでも内容が理解できない

対人関係の業務は得意なのに、「マニュアルを読んでも業務がわからない」「割合や比率などの単位が出てくると混乱する」という状態は、SLDの方に起こりやすいです。また、ASDやADHDの傾向がうっすらとある場合が多いといわれています。

これは「ディスカリキュリア」や「ディスレクシア」「ディスグラフィア」の特性が関係しているためで、苦手部分をサポートする補助道具の使用がおすすめです。例えば、書くことが困難ならメモの代わりにボイスレコーダーを使う、読むことが難しいならパソコンのナレーター機能を活用するといった方法があります。

スケジュールが立てられず納期に遅れる

1日単位のスケジュールは立てられても、1週間、1ヶ月単位だと全体の流れを想像して計画を立てることが難しく、結果的に納期に間に合わず遅れてしまうケースがあります。

こうしたミスの背景には、ASDの特性の1つである「想像力の弱さやズレ」があると考えられます。ASDの想像力の弱さは、人の気持ちや集団心理、物事の進み具合を想像・予想するのが苦手な点が特徴です。

対策として、他者とコミュニケーションを取りながら、想像力を補正・補填していく方法が挙げられます。自分でわかること・わからないことを仕分け、わからないことを上司や同僚に聞いてズレを補正する、また業務開始後も早い段階で方向性が間違っていないか聞くなど、周囲に相談しながら仕事を進めることが大切です。

うっかりミスや勘違いが多い

上司から受けた指示を勘違いしたり、業務の内容で思い違いをしたり、日常的にうっかりミスをしてしまうというケースも少なくありません。

こうしたミスは、先述した知覚統合や中枢性統合の弱さが原因の1つと考えられます。知覚統合とはいくつかの情報から1つの意味を見出したり、複数の情報をつなげて最適な行動を生み出したりすることです。一方、中枢性統合は全体の状況を見て把握する能力を指します。また、ワーキングメモリの弱さから、複数の指示や情報をうまくキャッチできていない可能性もあるでしょう。

対策として、まずは「自分は多くの情報を把握するのが苦手で、偏った情報から判断しがち」と自己理解することが大切です。そして、周囲に自分の行動を告げてから業務を始めましょう。もしその時点で勘違いや思い違いをしていた場合、周囲が教えてくれるため、業務完了後に修正が発生するリスクもありません。

会議などで集中力が続かず注意を受ける

会議など、長時間同じ場所に留まって集中しなければいけない場面で、注意散漫になってしまい上司から注意を受ける場合もあるでしょう。こうした状態は、ADHDの「不注意」や「多動性・衝動性」といった特性が関係していると考えられます。

対策として、「1時間作業したら5分間休憩する」など、短期集中できるよう日頃から訓練しておく方法があります。短期集中を繰り返し、結果的に長時間の業務をこなせるようになる状態が理想です。

自己流のやり方で進めて上司や同僚と衝突する

仕事を自己流のやり方で進め、上司や同僚から注意を受けたり助言をされたりしても聞き入れず、周囲と衝突してしまうケースがあります。これには、ASDの特性の1つである「こだわりの強さ」が関係しています。ASDの方が持つこだわりには、安心感を得る・不安感を減らすといった側面もあるため、周囲に何か言われても柔軟に変えることが難しいのです。

対策として、日頃から物事に対して妥協点を見つける練習をするという方法があります。また同時に、妥協によるストレスを溜め込まないよう、意識してストレスを発散することも大切です。

発達障害の診断方法

発達障害の診断は、精神科や心療内科といった医療機関で医師が行います。医療機関において発達障害の診断基準として主に参照されるのは、アメリカ精神医学会の「DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)最新版はDSM-5-TR」です。

どの病院に行けばよいかわからないというときは、都道府県や市区町村の相談窓口を活用してみましょう。発達障害の診断に対応している医療機関のリストのほか、発達障害の相談を受け付けている福祉センターなどの行政リストを公開している場合があります。

発達障害の診断方法や診断基準に関する詳細は以下の記事をご覧ください。

大人の発達障害と診断されたらどうなる?特徴や仕事への影響、受けられる支援を解説

発達障害のミス防止に役立つ支援機関

発達障害由来のミスを防止するには、医療機関で投薬やカウンセリングを受けるほかに、支援機関を利用する方法もあります。

例えば、発達障害の当事者会です。当事者活動をされている方の中には、ミスや抜け漏れなど、共通の困りごとへの対策をいくつも持って社会に適応している方が数多くいます。こうした方々のお話を参考に、自分に合った対処法を取り入れてみましょう。

また、離職中や転職を検討している場合であればKaienのような就労移行支援事業所を活用する方法もあります。Kaienでは職業訓練やビジネススキル講座、就活サポート、定着支援などを行っています。発達障害の困りごとや苦手の対処方法も学べるほか、発達障害の特性に理解のある企業への就職もサポートするので、お悩みの方はぜひ見学にいらしてください。

Kaienの就労移行支援について詳しくは以下をご覧ください。

職場での苦手を克服(コミュニケーション・ミス・抜け漏れ)を目指すプログラム

仕事のミスは発達障害の特性に合わせた対策を

発達障害の特性が原因のミスは、特性に合わせた対策を行うことで予防できます。発達障害には「ASD(自閉スペクトラム症)」や「ADHD(注意欠如多動症)」、「SLD(限局性学習症)」といった種類があるので、自分に当てはまる特性や状態を把握し、対処方法を実践することが大切です。

発達障害の方の仕事のミスは、決して甘えや不真面目さから来るものではありません。今回紹介した対処方法を参考に、自分の働きやすい環境をつくってくださいね。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

監修者コメント

私たち精神科医は、患者さんから「仕事でミスが多くて困っている」と伺うことが多くあります。私たちはすぐにADHDの可能性を検討しがちなのですが、具体的にそのミスはどのようなものかを聞くと、さらに診断の可能性が広がります。つまり、一人で行う作業で間違いを起こしやすい場合は不注意型のADHDの可能性が、上司や同僚の会議をした後でレポートを求められたにも関わらず、会話の内容が分からなくて頓珍漢な内容を書いてしまったのであればASDの可能性が高くなります。また、ミスが起こる場所が職場だけでなく、家庭や友人とのサークルなど複数の場面で起こることを確かめることも大切です。なぜなら、ADHDもASDも、発達障害は複数の場面で同じような行動パターンが見られるというのが定義だからです。

さて、皆さんは「マインド・ワンダリング」という言葉をご存じでしょうか?仕事や読書のように集中している最中に全く関係のない昔のエピソードや、聴いたことがある曲のワンフレーズが繰り返し流れるといった現象です。皆さんも経験があるのではないでしょうか?このようなマインド・タイムトラベルを「マインド・ワンダリング」というのですが、この現象は人間のみに備わっていると考えられ、ゆえに創造性に関与しているのかもしれません(*1)。しかし、「マインド・ワンダリング」に何かしら問題があると、発達障害の原因になるのではないかと言う研究があります(*2, 3)。

これと反対に意識を「いま・ここ」に向け、身体の一部一部に集中し、呼吸を整える方法は「マインドフルネス」と呼ばれ、現在の心理療法で重要な位置を占めています。「マインドフルネス」は「マインド・ワンダリング」と逆と考えられますが、「マインド・ワンダリング」がなぜ人間に生得的なのかを研究することで、意識と無意識の違いや精神疾患のいくつかを解明できるかもしれません。

*1: マイケル・コーバリス(鍛原多惠子:訳):『意識と無意識のあいだ』、講談社ブルーバックス、2015

*2: doi: 10.1016/j.neubiorev.2018.07.010.

*3: doi: 10.1016/j.jpsychires.2020.12.059.

監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。


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