努力しても苦手なことや出来ないことが多くて、「自分に残念だなぁ」と思い続けている発達障害*の方。多いですよね…。でも周囲が(周囲も)困っている場合もあります。そして周囲が困っている例は上手にサポートが受けられないことに繋がってしまい、本人もいつの間に不幸になりがちです。今日は特に他人が困っている発達障害の例を考えてみましょう。
発達障害の人は下にまとめるような強みや弱みを持っています。
発達障害の苦手さ
- コミュニケーションのズレ
- 社会性の弱さ
- ミス・抜け漏れの多さ
- 作業速度の遅さ
- 独特のこだわり
発達障害の強み
- 素直さ・表裏のなさ
- 集中力の高さ
- 独自の発想
- 細部への気付き
- 丁寧さ、ルール遵守
本来、発達障害の人もそこまで鈍感ではない
発達障害の良い特徴も残念な特徴も、ほとんどは他人との関係性の中で出てきます。なので他人の感情によほど鈍感でない限りは、周囲が困っているのに気づかないわけはないのです。周囲の困りが自分にきちんと繋がっている、あるいは上に書いた自分の苦手さが相手の困り感になってしまっていることを認識しています。
例えば、仕事でミスが多いと、職場の同僚としても任せていたものが完成しないとか、完成したと思ったら大きなミスをお客様に指摘されて上司が冷や汗をかくとかがあり、その後たっぷり怒られるため、自分の困り感と周囲の困り感が一致しやすいでしょう。
でも、いくつかの場合は、自分が気づかないけれども、周囲だけが困っているということになってしまっていることは確か。それらを一つ一つ見ていきましょう。
「孤立型」はあまりのマイペースぶりに、周囲の期待が焦りを生む
まずは昔で言う「孤立型」(周囲の感覚に左右されず、一人で過ごすことにストレスを感じず、友人がいなくても泰然としている)の場合です。親や周囲はその人に友だちを作ったりワイワイガヤガヤしたりの中で楽しんでほしいと期待している。その期待がことごとく裏切られるので徒労感に襲われる。そうすると「どうして家の息子(娘)は普通にしてくれないのかしら。発達障害とはわかっているけれども、今のままでは本当に不幸だ」と“困り感”を抱えてしまうものです。
でもこのケースはご本人のペースや価値観に合わせるしかありません。周囲が勝手に困っていると言いますか、周囲の価値観をやや押し付け気味なのかもしれません。親兄弟であっても、タイプが違うことは往々にしてあります。孤立型の人には「一人で楽しめる人生を送ってもらう」というはっきりとしたアドバイスをする医師もいるほど。なにかのめりこめるもの(支援した中でもプラモデル、スキーなどにハマっている方々を思い出します)をもたせることが重要です。
学校に上手に適応していたタイプは、焦りのなさに周囲が困る…
次のタイプは「勉強ができていたタイプ」あるいは「学校で周囲と折り合えていたタイプ」です。2004年に発達障害者支援法が出来てから、小さい頃から療育を受けている人が本当に増えています。そうすると他のお子さんや先生との諍いも少なめですくすくと育っていることが少なくありません。この場合は、いくらミスをしても、周囲とのコミュニケーションがズレても、上手に周囲が吸収していることが多く、もうすぐ社会にでるという大学3年、4年になっても、自分の苦手さをどこか他人事のように感じている!?と周囲に思わせることがあるでしょう。本人に焦りがなく、これまた親が困る状況です。
特にこのタイプですと、「その状態のまま一般雇用で就職させると二次障害を起こすから、障害者枠に本人を説得しないといけない。それが親の責務であり、支援者の役割だ」と息巻く方もいなくはないのですよね。でも、もし本当に心理的に感受性が高すぎる(つまり抑うつになりやすかったり、勤怠に影響が出やすかったりする)ならば、いくら周囲が配慮してくれても、小さい頃から不登校やいじめに近いことを受けてビクビクしながら生きていることが圧倒的に多いのです。親が心配するほど焦りがない状態ならば、その面の皮の厚さ、マイペースさは良い特徴とも言えます。たしかに働き始めて叱責を受け続けるとどうなるかはわからないので、支援には繋がりつつも、まずは普通に就活をさせて、困り感に本人が直面したところで早めに対策を打つということがよいのではと僕は思っています。
職場で他責になるタイプは実は2種類?
最後のタイプは、職場でミスをしたり、自分勝手なこだわりを押し通したりしているけれども、本人は気づいているのか気づいていないのか…。周囲が指摘をすると、むしろ大きな声をあげたり、他人のせいにしたり、自分が悪くないと認めたりしないようなタイプです。わがまま、現実を見ない、など周囲が困ってしまうことがよくあります。特に上司がそうだったり、正社員でなかなか処遇が変えられないなど、立場によってはなかなか難解になります。
もしどちらにも発達障害が絡んでいたとしても、実はここには2つのタイプが混在しているかもしれないな、と支援の経験上思わされます。
一つは、自分も実は自分の困り感(自分がミスをしたりうまく行っていなかったりすること)に気づいているが、周囲にさとられないために大げさに振る舞っているケース。窮鼠猫を噛むような状態が四六時中続いているような感じでしょう。信頼できる人がご本人の不安に寄り添うようなアプローチが、本人がズレを認め、周囲の困り感を減らしていくのに効果的でしょう。
そしてもう一つは発達障害の他にパーソナリティ障害を二次障害として抱えてしまった人です。本来は素直で真面目で他人思いのはずの発達障害の人も、色々と苦しさが続くと、ストレス不安によって人格(パーソナリティ)が変わってしまって、他人を攻撃しだすということです。この場合は病院・クリニックでの医学的な治療が望まれます。一番つらいのはご本人でしょうね…。ここまでなってしまったのがどういう背景なのか、ゆっくりと過去までさかのぼって治療していく必要がありそうです…。
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いかがでしたか?ややざっくりと切り分けすぎたかもしれませんが、周囲が困る発達障害…といっても色々な背景がありそうなことがわかって頂ければ幸いです。本人に困り感がない!と思っても、それぞれの原因を分析して上手に周囲が対応してみてください。
文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS、大学生向けの就活サークル ガクプロ、就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA) 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴・社長ブログ一覧
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます