すべての症状は発達障害に通ず!?

vol.5-2 1st STEP こころのクリニック 鈴木雅弘院長
HOME医師と語る 現代の発達障害すべての症状は発達障害に通ず!?

シリーズ『医師と語る 現代の発達障害*』

3回シリーズの第2回。第1回はこちらから。

雅弘 → 1st STEP こころのクリニック 鈴木雅弘医師
慶太 → 株式会社Kaien 代表取締役 鈴木慶太

ASDもADHDも対応はそれほど変わらない!?

 慶太) これまでのお話はいわゆるASD傾向の発達障害という印象ですが、ADHD傾向についてはどうお考えですか?

雅弘) 都立小児総合医療センターでは全部分けて教わりました。でも僕は今は分けていないんです。今はざっくりどっちかと言うと広汎性発達障害として取っているんです。表出・表現型が違うだけで元は一緒で、やることは変わらない気がするんですよ。診断名をわける意義を臨床的には感じなくなってしまったと言えますね。書類上は分けて書きますし、治療チームのコンセンサスのためには分けて書きますけど。

慶太) 現場での対応はあまり変わらないと。

雅弘) はい。それほど変わらない感じがするんです。薬の使い方もそうですし、僕ら医者なんで、薬をまず考えるし、生活を作っていくことに関しても、ASDでもADHDでもおんなじ感じがするんですよ。その人の特性に合わせるだけであって、方法論的にはあまり変わらない気がして、今は僕はさほど区別していないんです。 発達障害と言うと、社会性の障害とか、想像性の障害とか、堅い話になりますけれども、学校の生活とか成績表とかに出ない、苦手な部分がある人と思うようにしています。

一番のズレは状況が読めないと言うか、全体像が取れないと言うか、情報がバラけている感じですね。社長さんがおっしゃる通り、情報が混乱しているわけです。その根本が、例えばこのPC一式を見ても、全体に行き着かない。キーボードありますね、モニターありますね、だけでそこで終了してしまって、その下にあるPC本体まで考えが及ばないようなんです。ASDでもADHDでも、発達障害系のどの人でも。その全体像をとるまでの集中力がないととっても良いかもしれない(編集注:ADHD的)し、ある情報とある情報がつながらないだけかもしれない(編集注:ASD的)ですけれども。ディスレクシアであろうが、ASDであろうが、ADHDであろうが、根本は全体を把握しづらいという症状な気がするのです。そこから先はキャラが違う、認知能力の違いの感じがするので、今ではあまり区別しなくなっちゃんたんです。

慶太) 「発達」と「精神」は分けるんですか?

雅弘) 僕は精神病系は根本的には今言われているよりも少ないんじゃないかと思っているんですよ。都立小児総合医療センターで先生たちがちょっと幻覚妄想になった子を診ても、こんなの統合失調症じゃないと言うんです。「北朝鮮が!!!」とかいって燃えているんですけれどもね。でもそういう子たちを入院させて3週間ぐらいすると、確かに普通のアスペなんです。急性一過性精神病に見える子が多くても、絶対に簡単には統合失調症と取らなかったんですよ。自分としては最初はすごい違和感があったんです。でも今になってみると、統合失調症という概念ってあるのかなというほどですね。結局全部社会でうまくいかないと精神病って出るじゃないですか。上手くいかなくなる元が発達障害という感じがするわけですよ。

子どもだけではなく大人の症状もそうですね。精神病の素には発達障害があるというか。ヤクザに追われていると主張する30代の女性。誰が診ても統合失調症。それで10年ぐらい治療されている方だったんです。いたずら好きな僕は考え直してみたんですよ。将来何がしたい、と人生設計をし始めたんです。少しずつそれに向けて治療をし始めたわけです。ヤクザに追われているという妄想があるまま、仕事についてもらって、一人暮らしをしてもらって、家にもお金があったので援助をしてもらいつつ。その生活にある程度乗ってきたら幻覚妄想が無くなっちゃんたんですよ。体もすっと痩せてきて、そうしたら私結婚したい、と言うようになって、ヤクザもいなくなり。薬も切っていって、外来1年ぐらい続けたかな。そうしたら統合失調症っぽい症状が無くなっていたんです。そして治療終了なんです。

構造化と言うには微妙ですけれども、統合失調症の症状はガン無視して、就労支援をしていくと、実は治ってしまうというような経験は数多くあります。でも考えてみるとSST(もともと統合失調症患者の社会性保持のために開発されている)も構造化チックじゃないですか。デイケアとかも。ああいうもののプッシュバージョンをしてみるといいのかなぁと気づいたんですよ。その人ができる方向に押していくという感じです。 最近は自分のことを近所のおじさんだと思っているのですが、「それはあかんだろう」「こっちが得意なんちゃう?」と言っていくと、僕から巣立っていく気がして、そこが治療の一番ポイントだと思っているんです。

得意を押すリスク 廃人になるリスク

慶太) 二次障害とか、うつとか不安障害の時は、そちらを落ち着かせてから、発達障害の特徴に対応しましょうと。でも先生のお話を伺っているとそうでもないのかなと。

雅弘) そうでもないと思っています。リスクは伴います(編集注:症状が強まることもある)ので気をつけないといけないんですけれども、医者として、押さないで廃人にするか、リスクをかけて押すかだと思うんです。もちろんそういう支援方針を伝えると、可愛そうだからと親御さんが子どもを連れ帰っちゃうこともあります。でも押すとリスクはありますが、押さないと廃人になるケースをたくさん見てきたんですよ。 実際、成人の精神病棟に行くと、慢性期の入院患者の半数以上が、「なんで入院しているの?」と言う感じです。会っていてもそんなに病気感はないんです。本気で病気な人は少ない気がするんです。社会的入院が圧倒的な気が。

慶太) 犯罪を繰り返す人が、刑務所にしか居場所がないから罪を犯すというのを聞いたことを思い出るしました。

雅弘) 全く一緒です。以前はストレスが掛かって病気になるという発想だったじゃないですか。そうなんですけれども、ほとんどが二次障害じゃないかと思っているんです。だから関わりを変えるとよくなるです。だから元の生活に戻すとダメになるんです。最後は環境を変えないといけないんです。

慶太) 今診ている人たちは10代の若者が多いのですか?

雅弘) はい。児童思春期はやっぱり結果が良いので。戦ったかいがある感じがするんです。30を過ぎるとやっぱりちょっと。

慶太) 整えるという感じになりますかね。

雅弘) そうですね。あくまで頑張って福祉にのせる事が多いですけれども、若い人の場合は、頑張れば頑張っただけ前に進んでくれることもあるので、戦い甲斐がある感じがするんですよね。

慶太) 若い人を診る時に気をつけられているところはありますか?

雅弘) 特に思春期だから何ということはないですね。でも、小児総合の田中先生がよく話していたのですが、パーソナリティ障害という概念。あれは、発達障害の人が間違って学習した結果ではないかと。田中先生はおっしゃり、僕もそう思うのです。なので小さい頃の社会性の学習は重要です。 発達障害がある人は、他人との相互交流が難しいわけですので、自分のアイデンティティを作るのが極めて苦手ですよね。社会での立ち位置を作れないというか。そこができていないのは小学生からおじいさんまで一緒だと思うのです。年齢関係なくアイデンティティ形成が出来上がっていない感じなんです。それを何らかの形で作る方向に連れて行ってあげることが治療であり支援かなと。その人が社会で生きていく立ち位置をつくっていくことが大事だと思うんです。それこそ全員違うので、発達障害だから決まった形ということはないと思うのですよね。弱点を探し、得意で楽しいところへ、みたいなイメージですね。

支援者としての上達方法 自分のダメさをわかっているか

慶太) 仲良くなるというか、好いてもらうか、ラポールと言うか。それは自然にできている感じですか?

雅弘) 確かに患者さんに嫌われることはないです。はじめは嫌われますよ。かなり厳しくスパルタなので。殴りかかられるし掴みかかられるし、怪我はしますけれども。単に僕を恐れている人もいますけれども、最終的には嫌われている感じはないですよ。親御さんには嫌いといいますよ。僕から逃げたいから。でも実は求めている感じがするんです。仕切ってくれるから。そこを欲しがる感じがあるので。わざわざ好かれには行きません。好かれる必要すらないと思っているんです。好かれる必要はあるんですかね?

慶太) 無いと思うのですけれども、なぜかというと福祉に来る人って…

雅弘) わかるわかる

慶太) 自分がいい人になりたいと言うか、好かれたいという感じで、来る人が多く、それだとちょっとなぁと。

雅弘) 違うんですよね。自分がいい人に、そうなんだけれどね。

慶太) そうなんですけれどもね。

雅弘) でもちょっと違うんですよね。そこを上手く言えないのですけれども。自分のためになっちゃだめなんですよね。その人のためじゃないといけないんですよね。

慶太) 受けたいという人の中には、福祉をファッションのように来る人もいれば、今までの経験を社会に恩返ししたいとか。そういうのいらないんだけれどもなとは思いますね。

雅弘) そういう人が来ますよね。このジャンルは。でも、自分もそうですけれども、こういうジャンルに来る人はスネに傷がないと来ない気がしますね。

慶太) それを受け止められていればいいのですけれども。

雅弘) 自分のダメ度合いを理解しているか否かかもしれないですね。

慶太) なるほど。それを裸になって言えるかどうかは。

雅弘) 気づいていてもしまっている人はだめですよね。気づいていますからね。

第1回 愛ある構造化を目指して
第2回 すべての症状は発達障害に通ず!?
第3回 Kaienはスパルタが足りないのでは?

鈴木 雅弘 医師

精神保健指定医
1st STEP こころのクリニック 院長

1st STEP こころのクリニック

心療内科・児童精神科・思春期精神科・精神科
JR山手線 代々木駅西口より徒歩7分/副都心線 北表参道駅より徒歩7分
https://www.1st-step.org/リンク

シリーズ 医師と語る

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます