目次
そもそも知能検査とは?
知能検査とは、個人の特性(得意なことや苦手なこと)がどのような点に現れるか、知能や発達の水準を客観的に明らかにするための検査です。
検査を受けることのメリットは大きく3つあります。
1. 他の人と比較して自分の特徴を知ることができる
学校のテストに置き換えて考えてみましょう。
英語のテストで70点の成績だったとします。
この点数が高いのか低いのか一概には判断できません。
クラスの全員が100点をとったテストなのか平均点が30点のテストだったかによって70点という点の意味が変わるからです。
それと同じように検査を受けることで一般的な水準と比べて自分の状態はどうかということが把握できます。
2. 自分の中での能力の凸凹を知ることができる
またもや、学校のテストに置き換えて考えてみましょう。
英語のテストは70点でしたが、数学、国語、社会、理科は90点をとれていたとします。
この場合、おそらく英語の力がやや弱い状態だということが分かります。
このように検査を受けることで複数ある項目について能力のばらつきがあるかどうかを確認することができます。
3. 今後の生活を送りやすくするためのヒントになる
例えば、「業務中に上司からの指示が伝わらない」とされているAさんがいたとしましょう。
この困りごとを解消するために「なぜ A さんには上司からの指示が伝わらないのか」を考えていく必要があります。
そんな時、例えば発達検査の結果があると、
「 A さんは耳から入った情報を記憶しておくことが苦手だから、メモにして後からでも確認できるように指示を渡せばいいかもしれない。」
「 A さんは言葉で理解することが苦手だから、もう少し具体的に分かりやすい言葉で説明すればいいかもしれない。もしくは、言葉ではなく図や表にまとめて伝えたほうがいいかもしれない。」
など、結果をもとに仮説を立てることができます。
また、自分自身の特性についてほかの誰かに伝える際に客観的な資料としてこのような検査結果が役立つことも多いでしょう。
大学などで合理的配慮を希望する際に支援のための根拠資料を提出することがありますが、このような検査の結果や所見も根拠資料として有効になるでしょう。検査によっては結果が点数として出されることがありますが、単に点数が高ければ良い、低いから悪い、ということも言えません。
全体的な発達の様子がゆっくりなのか、得意なことと苦手なことの差が大きいのか、など検査全体の結果からご本人の状態を把握し、日々の生活がよりよくなるような手立てを考えることが検査の目的です。
WAIS-Ⅳ とは何?
WAIS-Ⅳ とは、ウェクスラー式知能検査の成人用、 WAIS(ウェイス)の第4版のことです。
発達障害のある方の現在の発達・知能の水準や凸凹の様子をとらえるためにしばしば用いられます。
WAIS-Ⅳ では大きく分けて「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリー」「処理速度」という4つの指標と、それらを合わせた総合的な指標(全検査 IQ)で個人の特性を評価します。
それぞれの指標にはより細かな「下位検査」が設定されており、下位検査の得点状況も踏まえながらご本人の特性を分析します。
例えるなら「国語」「数学」「理科」「社会」という4つの指標で学力を評価する際、国語の能力はさらに「読み」「書き」「表現」の3つの下位項目に細分化される、というようなイメージです。
検査にかかる時間は大体90分前後ですが、これには個人差があります。
WAIS-Ⅳ の各項目とその意味
①言語理解(VCI)
言語理解指標は、語彙やことばで説明する力などを測る指標です。
また、「結晶性知能」と言われるこれまでの経験や学習が土台となる知能も測られます。
言語理解(VCI)が強い人
ことばでまとめたり説明したりすることが得意で語彙も豊富です。
学校で習うような教科の知識が良く身についている人も多いです。
つまりいわゆる「勉強ができる人」はこの指標の得点が高くなる場合があります。
補助検査である「理解」の得点が高い場合は、明文化されていない社会的なルールを捉えることが得意な場合が多いでしょう。
一方「言葉で表現することの得意さ」はそのまま「コミュニケーションをとることの得意さ」には必ずしも結びつかないので注意が必要です。
厳格に定義された言語理解はできても日常のコミュニケーションで行われるあいまいな言語によるやり取りが得意とは限らないからです。
言語理解(VCI)が弱い人
ことばの意味を正確にとらえずに使用していることがあるかもしれず、それが原因で相手が伝えたいことと実際に伝わっていることに齟齬が生まれるかもしれません。
より一般的なことばで具体的に説明をしてもらったり、情報を伝える側と受け取る側で認識にずれがないかを確認するようにすることで、ある程度の齟齬は防げるでしょう。
また、絵や図が入ったマニュアルを用意してもらうとより作業に取り組みやすくなるでしょう。
②知覚推理(PRI)
知覚推理は、目で見た情報を踏まえて論理的に物事を考える力を測る指標です。
また、「流動性知能」と呼ばれる新しい情報への適応に必要な能力についても測ることができます。
知覚推理(PRI)が強い人
目で見て得た情報を整理したり、推論することが得意な傾向があります。
例えば数学で言えば図形の問題が得意だったりします。
ものごとを論理的に考えること、とくに目で見た情報からパターンを発見することが得意です。
知覚推理(PRI)が弱い人
目で見て情報を捉えることが苦手な場合がありますので、図や表が入った説明では情報を省略しすぎずに言葉での説明も補足として要求するとよいかもしれません。
また、この指標の得点が低いことは「論理的な思考が苦手」とは必ずしも言い切れません。
考えるのにゆっくり時間をかけるタイプの人も、この指標の得点が低くなることがあるためです。
③ワーキングメモリー(WMI)
耳から入った情報を短時間記憶にとどめたり、その情報を頭の中で整理しながら考える力を測る指標です。
ワーキングメモリー(WMI)が強い人
聞いた情報を頭の中で整理して考えることが得意です(例えば、暗算などが得意です)。
職場では口頭での指示が受け取りやすく「〇〇と、△△をして、その後で~~に行ってきてもらえる?」なんていう指示も覚えていられます。
短期的に物事に集中できる人も多いでしょう。
ワーキングメモリー(WMI)が弱い人
耳から入った情報を覚えておくことが苦手な人が多いです。
例えば、口頭での指示が覚えきれなかったり、電話の対応が苦手だったりする場合があります。
指示を受けたらメモを取るようにする、もしくは初めからメールやメモなど、あとから確認できるような方法で指示を受けるようにするとよいでしょう。
たくさんの情報(特に耳から入った情報)を一度に処理するのは苦手な場合が多いので指示は一つ一つ小出しにしてもらうとよいかもしれません。
また、音や光など周囲の環境によって集中が途切れやすい人は、得点が低くなるかもしれません。
④処理速度(PSI)
目で見たものを書き写すなど、単純作業を素早く、正確に行う力をはかる指標です。
処理速度(PSI)が強い人
目で見たものを短時間覚えて書き写すなどの作業をスピーディに、正確に行うことが得意という場合があります。
たとえば、黒板やホワイトボードに書かれた内容を書き写したりすることなどがあります。
処理速度(PSI)が弱い人
単純な作業(例えば学校の勉強だとノートを書き写すようなこと)が平均よりもゆっくりになったり、速度は平均的でもケアレスミスが多かったりします。
何か作業を行う場合は、余裕をもって取り組めるような時間設定を心掛けるとよいでしょう。
ケアレスミスが多い場合は、ミスの出やすそうな部分を中心にダブルチェックをすることを心掛けるとよいでしょう。
また「書く」作業が苦手だとこの指標の得点が低い場合があります。
学生時代から、ノートをとるのに人一倍時間がかかったり、ノートの罫線から字がはみ出してしまったりということがなかったでしょうか。
書字の苦手さについては社会人になり文書作成をPCで行うようになることで解消することもあります。
どこで検査をしてもらえる?費用はかかる?
WAIS-Ⅳ は基本的に医療機関(精神科)や個人で運営しているクリニックで実施されることが多いです。
公的な病院での検査は保険内診療になりますが、個人運営のクリニックでは自費診療になります。
また検査とは別に検査結果を踏まえた所見が必要な場合(ほとんどの場合は必要になるでしょう。数値だけではなく、その数値がどのような意味を持つのかが分かりやすくまとめられているのが所見です。)は、保険内診療であっても別途費用が掛かります。
自費で検査を受ける場合、各クリニックによって設定される金額は異なりますので、まずはお近くのクリニックのウェブサイトを確認してみるとよいでしょう。
相場は1万円~2万円です。大学生の場合、大学によっては学内の保健管理センターで臨床心理士などの資格を持つカウンセラーが実施してくれる場合もあります。
また大学が外部に向けて開いている心理相談室のような場所で所属の学生に限らず一般の方も検査を有料で申し込めることもあります。
この場合は、一般的な自費診療よりも費用が安いことが多いようです。
検査を受けるときの注意点
ここまでご紹介したように検査ではなるべく現在のご本人のありのままの状態を評価する必要があります。
したがって「検査を受ける前に練習をすればよい成績が取れるかも…」と考えて練習することは望ましくありませんし、一度検査を受けた後、次に同じ検査を受けるまでには一定期間時間を(最低でも1年程度)空ける必要があります。
やや専門的な言い方をすれば、「学習効果」が生まれることを避ける必要があります。
同じような理由で検査の内容を外部に漏らすことは、検査を実施する人にとっては最大のタブーです。
事前に検査の内容が分かっている人に対して検査を実施しても正確な情報は得られないからです。
ご本人のありのままの状態を確認することではじめて今後の生活に検査の結果を生かせるようになるのです。検査の結果からわかることはたくさんあります。
一方で検査を受けて知ったことだけが「万能薬」になるわけではありません。
検査の結果だけで障害の有無を判定することもありません。
検査結果がご本人の状況にぴったり当てはまることもあるでしょうし、そうではないこともあります。
例えば初めての環境では緊張しやすい人が、初めて訪れた場所で初めて会った検査者と検査を行った場合、緊張のせいで実力を十分に発揮できないかもしれません。(もちろん、検査者はそういった個々の状況を踏まえて検査を実施したり、分析をしたりはします。)
検査結果は、あくまでもご本人の特性を知る一つの資料に過ぎず、ご本人の状態を網羅するものではありません。
結果に一喜一憂しすぎず、今後の生活に役立てられるとよいでしょう。
【参考】Kaienでも心理検査(WAIS-Ⅳ)を受けることが可能です!興味がある方は下記の画像をクリック
監修者コメント
知能検査で示されるIQは悩ましい指標です。確かに知的能力の参考にはなります。ですが、いわゆるIQの値が社会生活適応や、学業成績に直結するかと言えば、なかなかそうは言えません。特に苦手さに関しては社会生活への反映を推測するのに役立つことが多いですが、得意に関してはあまり参考にならないことが多く、人の認知能力の全てをWAISで計測できているわけではないことを実感します。低い場合に心配は必要ですが、高いからといって心配ないとは言えないのです。私の経験したある認知症の方は、社会生活が全く送れなくなっているのに、IQは116と平均以上の値でした。つまり、WAISなどの知能テストはあくまでも心理試験室という条件の整えられた、一定条件下での成績を示すだけであり、実生活のように刺激に溢れた、条件の揺らぐ中での知性の発揮とは別物であるとは認識しておく必要があるでしょう。特にADHD特性のある方は能力の発揮に揺らぎが大きいと感じます。限界を知った上で、ある人の知的能力を判断するときには、IQ値のみでなく、その人の歩んできた社会生活、生活技能、学業への知性の反映など、総合的に解釈する必要があります。支援者の方は、くれぐれもWAISの結果だけでその人を判断することは無いようにお願いします。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
あなたのタイプは?Kaienの支援プログラム
お電話の方はこちらから
予約専用ダイヤル 平日10~17時
東京: 03-5823-4960 神奈川: 045-594-7079 埼玉: 050-2018-2725 千葉: 050-2018-7832 大阪: 06-6147-6189