発達障害*の確定診断までに、知能検査(大人の場合はWAIS、子どもの場合はWISC)の最新版を受ける方が多いと思います。
Kaienに通所・利用している方々もWAIS・WISCをもとに支援のヒントを探していくことがあります。Kaienでも実際に知能検査を受けることができますので、ご興味がある方はぜひご確認ください。
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また、もちろんまだ多くが解明されていない脳の力を数時間のテストで分かるはずはなく、分かったとしてもごくごく一部分であることは確かなのですが、それでも知能検査があることで支援の方向性に自信がついたり、見落としているポイントを探すことに役立ったりと有効性が高いです。(知能検査は相当数支援を経ないとその数字の意味が把握しづらいですが、下記に素人でもわかる知能検査の読み解き方を書いていますので参考にされてください。)
[参考] 知能検査とは? 大人の知能検査 WAIS-Ⅳ を読み解く
発達障害 得意と苦手の差が大きい ≒ 知能検査の数字が凸凹している
発達障害というと得意と苦手の差が大きいと言われます。知能検査では下記の図のように、4つの指数(一般の人が言う”IQ”はいくつものテストの数字の総合点。一つ一つの教科の得点が指数と考えるとわかりやすいです)が凸凹していることが多くあります。
発達障害の特性が薄い、または、無い人でも、もちろん完全にすべての指数が同じ数字ということはなく、いくぶん凸凹しているのでしょうが、指数間の数字が15とか20とか”統計的に有意に”差がある場合に、発達障害の可能性をより考慮する必要があると言われます。
処理速度はあまり取り上げられない
ものすごくざっくりいうと、自閉スペクトラム症(ASD)の中核症状と言われる、例えば三組の障害の「コミュニケーション」、「社会性」、「想像力」でいうと、”知覚統合”の部分に起因すると考えるとわかりやすいですし、注意欠如多動症(ADHD)の中核症状の「不注意」や「衝動性」は”作動記憶”、つまり短期記憶が弱いために、抜け漏れ、うっかり、混乱・ドタバタ、という特徴に繋がりやすいと考えると自然に思えることがあります。
しかし、処理速度は最も取り上げられることが少ない印象です。たとえば、MSPA(※)で挙げられている特性は「コミュニケーション」「集団適応力」「共感性」「こだわり」「感覚」「反復運動」「粗大運動」「微細協調運動」「不注意」「多動性」「衝動性」「睡眠リズム」「学習」「言語発達歴」 と14も有るのですが、少なくとも私には処理速度という項目に関連する特徴があるようには思えません。
(※)発達障害の要支援度評価尺度(MSPA:エムスパ) -特性の個人差を一目で把握、ケアの現場で活用へ-
多くの研究で共通する処理速度の低さ
しかし実は4つの群指数の中で、様々な発達障害の研究でも共通して低いのが「処理速度」なんだそうです。下記の当社の分析でも同じ傾向が出ています。
4つの群指数の中で青は最も高かった項目、赤は2番目だった項目、黄色は3番目、そして緑が最も低い項目です。
明らかにわかるのが”言語理解”が高い人が多いことです。傾向として知識やルールは入りやすい人が多いことがわかります。
実は処理速度が4指数のうちで最も高かった人もそれなりに多いのですが、最も第4位の項目になった人が多いのが”処理速度”です。ASD的な傾向にも、ADHD的な傾向にもダイレクトには結びつきづらい処理速度が実は低いことが多いというのが、医療や福祉に繋がりやすい発達障害の特徴と思われるのです。
処理速度が低いと何が困るのか?
これは一体どういうことなのでしょうか?
まず、処理速度が高いと、もしかしたら”知覚統合”や”作動記憶”の弱さを補えるのかも知れないということです。多少空気が読めなくても、多少ミス・抜け漏れが有っても、処理速度が早いと何度もトライできるので挽回が出来る可能性があること。それゆえに発達障害の診断や困り感まで至らないかも知れないことです。逆に言うと、”知覚統合”や”作動記憶”の苦手さが、処理速度の遅さによって、明確になってしまう、掛け算のように出てきてしまうということかもしれません。
次に考えられる仮説は、処理速度というのは、環境調整や、自分の工夫で、伸ばせるもの・対策しやすいものではなく、弱さがそのまま出やすいということです。学校ではいい意味でも悪い意味でも集団行動なので多くの人が解き終わるまで他の人が待ってくれる文化であり、処理速度が目立ちづらいですが、職場では処理速度の弱さはそのまま出てしまいます。
処理速度を落とさないためには
ちなみに、処理速度を必要以上に低くしないためには、愛情深く、安心して過ごすことが重要だそう。たしかに自信を持って落ち着いて行動できる時は自然と自分本来の”速度”が出る気がします。実は当社の訓練も、通常の職場に比べるとやや学校的にみんなが終わるまで少し待つということが多く、処理速度の遅い方でも落ち着いて自分の能力が発揮しやすい環境のため、学びが得られるのかも知れないなと思っています。
Kaienでは、自分の特徴・強みを生かして就職を目指す就労移行支援や、自立に向けた基礎力を上げる自立訓練(生活訓練)、また学生向けのガクプロというセッションを運営しています。それらの中で処理速度の対策についても日々取り組んでいますので、そうしたプログラムの中で専門のスタッフにご相談いただくこともご検討ください。
また支援者や当事者の皆さんにとってヒントになるような分析ができましたら、またこちらで共有していきたいと思います。
文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS、大学生向けの就活サークル ガクプロ、就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA) 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴・社長ブログ一覧
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
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