Kaien社長の鈴木です。今週はじめに「実践に基づくエビデンスでつながる発達障害*の早期支援エコシステムの構築」というシンポジウムに行ってきました。
日本型の療育を証明する
シンポジウムの主催団体は、来年から江戸川区で発達相談・支援センターを受託運営することが決まったNPO法人ADDSさん。江戸川区の他にも鎌倉市や企業、そして慶応大学と産官学と連携しながら、発達障害児の早期支援の実践や研究をされています。今回のシンポジウムは、そのADDSさんが採択された国の研究助成の成果発表。民間のNPO法人として研究が採択されるのは非常に稀ということですが、採択された期待と実力がしっかりわかるシンポジウムでした。
今回のシンポジウム・研究では、米国のように家庭に訪問し週30時間以上のセッションを行う形では効果が確認されているABA(応用行動科学)に基づく療育が、日本の環境(具体的には週数時間という低頻度の介入、あるいは事業所に通所して貰う形)でも効果があるかが検証されていました。もちろん制度の違いや頻度の差(30時間と数時間の差)を補うため親御さんの協力をどのようにしていくのかや、専門家が集まるADDSさん以外の全国の事業所でも低頻度介入の療育をするための支援者支援の方法などが試行されていました。
エビデンスに基づいた支援の重要性
当社は近接事業を同じ都内で行っているということで、ADDSさんとは創業依頼、思いついた頃にという感じの(それこそ低頻度で!?)交流させていただいています。
最初の出会いの頃から、お話をするたび事業所を見学させて頂くたびに感じていたのが、ADDSさんの「エビデンスベース」の大原則。博士課程を修了した方々が事業を運営されているので、しっかりとした根拠のある療育を丁寧に行うとともに、まだまだなんとなくの支援が多い日本にそのエビデンスベースのアプローチを広げていこうという意思を持たれていました。
今回の研究でも、まだまだ課題や検証が途中のものがあるということでしたが、(なおそれら課題は次の3年も採択されたという研究で検証が続くということでしたが)、低い介入でも、またADDSさん以外の事業所でも、親御さんへのアプローチやICTの活用で、米国での高頻度のプロによる介入の効果レベルと遜色ないことを証明されていました。特に言語分野でのIQの向上がくっきりとしていて印象的でした。
次の仕事があり、最後までいられなかったのですが、とても勉強になりました。
ああ自分もエビデンスが欲しい
で、その後…。シンポジウムの様子を社内外の人と共有するうちに徐々に自分の心に出てきた感情が、自分も修士や博士で研究をしようということ。
Kaienは良い支援をしているのに、エビデンスがないのに、すごく悔しいと言うか、焦りと言うかを感じたわけです。もちろん就職者数は1,000人を遥かに超えているのですが、それは結果であり、学術的なエビデンスがあるわけでは残念ながら無いのですよね…。なにか良いことをしているらしいのですが、結構な部分は内部でも感覚でしか伝えられていない。支援の調合がどういう風になっているのか。すべてではないですが、一部だけでもエビデンスが出来れば、当社も自信が持てるし、他の支援にも良い影響が出ると思うわけです。
ただし就労移行支援のベストプラクティスというのはアカデミックにふさわしいかと言うとそうではないと思いますし、もう少し大きな視野で、つまり発達障害×経営×労働というような感じで、研究をして何らかのエビデンスを作っていきたいな、そのためには修士か博士課程を目指そうかなという気持ちがここ数日ふつふつと湧いてきたのです。(ADDSの代表の熊さんにも伝えたら、それ良いですね、と賛成して頂けましたし…。)この気持が続けば2021年春から院に入って勉強をし直そうと思います。念の為、社会人入試をして、働きながら研究をする形になると思います。Kaienはもちろん続けます。
エビデンスに基づけるという長期的視野は人の気持ちを大きくする
自分の父も、40を越してから大学に戻って勉強をし直していました。子どもの頃、よくそんな年取って、勉強したくなるね…と信じられない気持ちで勉強する姿を見ていましたが、そうか、自分もそんな感じになるんだなぁ。、普段の業務では一日一週間単位で頭をつかいがちなのですが、年単位の研究・エビデンスづくりと考えるとだいぶ気持ちが大きくなる気がしています。色々上手く行って、院にはいっても、研究成果が出るのは2025年ぐらいでしょうからね…。
ということでまずはどこで研究をさせてもらえるか…。まずは今月下旬に大学のセンセイにアポを取っているので聞いてみようと思います。社長ブログが受験生ブログに変わる日も近いかもしれません。
文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS、大学生向けの就活サークル ガクプロ、就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴</
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます