Kaien社長の鈴木です。
日本を代表する大企業による「発達障害*勉強会」
昨日「東京人権啓発企業連絡会」の会員企業が当社の会議室に入り切らないほど大挙してKaienに来られました。2年前も連絡会の広報委員会の方がいらしており2回めです。
東京人権啓発企業連絡会については上記のリンクからウェブサイトを見ていただければと思いますが、会員企業様は日本を代表する超一流企業123社で構成されています。会の性格上、各社の人事の方が参加されているようで、今回はそのうちワーキンググループで「発達障害」を2年間に渡り研究するということで、当社にまず概要理解のためにいらしたということでした。
発達障害がメディアを賑わせてからだいぶ経ちますので、特に大企業の人事の方ともなると、本を読んだり、ご自身が外部のセミナーに出たり、あるいは既に社内で発達障害に関するセミナーを社内向けに開いて、様々に知識と経験をつもうと尽力されていました。そんな方々が今更勉強することはあるのか?とは思いましたが、1時間のやり取りの中で下記のようなことが話題になりました。
- 障害者雇用ではなく一般雇用で働いている人の中で発達障害と思われる人が出たときどうすればよいのか?(いわゆるグレーゾーン)
- 本人が途中で発達障害と人事・職場にオープンにした時に、会社として職場としてどの程度配慮すべきなのか?(合理的配慮やセルフアドボカシー)
- 配慮をして環境調整をしても、周囲が疲弊する場面も見られる。本人は働きやすくなるかもしれないが、しわ寄せが来たと感じている部署や社員にどう対応すればよいのか?(ここはカサンドラ症候群にやや近い、『職場のカサンドラ症候群』ともいえる状況でしょうか?)
どうしても大企業は複雑に緻密に作られて、運営をされている、人事制度・給与テーブルがありますので、配慮をサクッと一人だけにするのは難しい。一般雇用のなかだと、ルールや社内の常識がある中でどのように工夫をしていくのか、常に勉強すべきところがあるのだなぁと感じました。
一方で(別ルール・制度が整備されている)障害者雇用の方も、どんどん障害者雇用率が上がっていきますので、どのような仕事を任せられるのか、どのような受け入れ体制をするのか、そもそもリクルーティングをどう工夫すればよいのか?という疑問もありそうです。というのも、これまで大企業は身体障害の人を雇うことで雇用率を達成できていた側面が大きいのですが、これからの時代、それではとても雇用率達成ができないために、精神・発達といわれる障害セグメントに取り組むのが急務なのだと思います。
SPIをクリアする層とそうじゃない層
前置きが少し長くなってしまいましたが、ここからが今日の本題。
実は大企業の方々8名とお話していて気づいたことがあります。それがSPIなど適性検査についてです。
大企業で「発達障害に後から気づく」場合は、厳しい就活戦線を勝ち抜いてきた人である事実があります。入社試験の時に、大企業だとSPIなど適性検査が有り、学力・知識・人間性など幅広い面から見られ、苦手が極端にないオールラウンダーが通りやすい傾向があると思います。
私が特に指摘したいのが、学力の面と速度の面です。SPIだと小学校の国語や算数レベル、簡単だけれども、簡単だからこそ対策が取りづらい部分が繰り返し見られてしまいます。発達障害の人は好き嫌いが多かったり、学習の仕方にこだわりがあったり、出来る出来ないの差があったりして、学力面で凸凹が目立ちやすい印象です。そしてSPIでは何よりも処理速度が重要です。それまでの学科試験とは違う面が見られるというわけです。
発達障害の傾向があっても、SPIを通過できる人は、それなりにオールラウンダー&処理速度の力がある人と言えます。なので大企業のほうが、ある程度整った発達障害の人に遭遇しやすい。だからこそ対策をどうするか考えるのが遅くなりがちなのだと思います。
中小企業は、日々発達障害の社員に接している!?
一方で中小企業で働く人は、多くの場合、大企業の就活戦線で苦労した人が多いです。(とはいえ最近では中小企業のほうが働きやすい、あるいはベンチャーで始めから挑戦したいと言う人がいて、これから論じる傾向は薄まっていく可能性が高いです。)中小企業を渡り歩いている人にはSPIなどで失敗した人が一定数いると思われ、オールラウンダーではない、処理速度の面で課題のある人が多いという可能性が挙げられます。
実は私も、これまで川越高校→東京大学→NHK→米国MBAと来ているので、周囲はオールラウンダー(得意がある人であっても、学力の面で苦手がそこまで見えない人)で処理速度のある人達だったと思います。Kaienを起業して気づいたのは、発達障害の人も確かに凸凹があるのですが、中小企業で働いている人も、それなりに明確な凸凹がある人が多いということです。
昨日、大企業の人事の方に聞いたのですが、これまで学生時代、社会人時代、そして友人関係でも、同じように偏差値の高い国公立や科目数の多い私立の学校にいき、大手企業に入り、と言う人に囲まれて育っています。なので、中小企業であるあるの、経理しか出来ずに他に異動させると急に戦闘力が落ちる人のような、大企業のジョブローテーション型の人事・労務制度ではありえないような凸凹人材が多いのが、肌感覚としてはあまりわからない方が多いと思われます。
ですので、極論を言うと、中小企業のほうが、日々日々発達障害に近い、あるいはグレーゾーン、あるいは既に診断を受けている社員や求職者に接している可能性が高い。それゆえに、対策や配慮の方法も一日の長がある可能性が高い、というのが私の予想です。もちろん、多くの仕事を同時並行でせざるをえなかったり、離職率が高くて予想外の負担がかかりやすかったりと、中小企業はいつの時代も辛いので、発達障害の人の聖地だとも思わないのですが…。
今Kaienでは、中小企業にもウイングを広げて求人開拓をしており、「2020年代 障害者雇用の主戦場は中小企業だ」とも考えています。障害者雇用はもちろん、一般雇用に置いても、働きづらい凸凹のある人材を既に活用しており、大企業としても学ぶことが多いかもしれません。人手不足によって、仕事の発想を切り替えるチャンスともいえます。当社も、中小企業的ノウハウを大企業にインストールしていくお手伝いができればと思いました。
文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS、大学生向けの就活サークル ガクプロ、就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます