日本でギフテッド教育を取り入れるには 諸外国の事例を参考に

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才能あるお子さんへの特別な教育(いわゆるギフテッド教育)について諸外国の事例を調査研究した「平成30年度『教育改革の総合的推進に関する調査研究~社会の持続的な発展を牽引する力の育成に関する調査研究』調査報告書」~という報告書(以下「報告書」)が、文部科学省のウェブサイトで公開されていましたので紹介します。

上記報告書では、諸外国、特にギフテッド教育先進国のアメリカと北欧の教育大国フィンランドについて調査し、わが国の教育行政への反映可能性についてまとめています。

(言葉について…いわゆるギフテッド教育のことを日本のアカデミックな場では「才能教育」というそうで、上記の報告書でも才能教育という言葉が使われています。しかし一般には「ギフテッド教育」という言葉のほうがなじみのある方が多いと思いますので、この記事ではギフテッド教育という言葉を使います。)

「平等主義」と「ギフテッド教育」の噛み合わせの悪さ

有識者からは「『個に応じた教育』という文脈で実施する場合、特に小学校、中学校段階への支援が必要で、通常のクラスの中で、違いや個性を受け入れあえる環境を積極的に整えるべき」(p.133)という意見が挙がっています。

また、「『平等主義』を重んじる教育文化のため、『インクルーシブ』や『合理的配慮』という文脈で才能教育を進めることが望ましいのでは」という意見もありました。

「特別支援教育」と「ギフテッド教育」の共通点

特別支援教育(障害をお持ちのお子さん向けの教育)とギフテッド教育とでは、一見まるで方向性が逆のようにも思えるかもしれません。しかしどちらも、個々のニーズに応じカスタマイズした教育を行う必要がある点は共通するようです。

この点横並び主義とは相性がよくない。フィンランドやアメリカの現地調査でも、ギフテッド教育を行うには多様性への理解があることが望ましいという関係者の見解が載っています。

特に、一部の才能あるお子さんは通常の授業を「つまらない」と感じてしまうことがあるようです。レベルに見合わないこともあるでしょうし、もしかしたら興味関心が持てず能力を発揮できていないこともあるかもしれません。それぞれの能力を引き出す取り組みが望まれます。

ギフテッド教育の先進国で見える課題

コロンビア大学の研究者へのインタビューによりますと、ギフテッド教育先進国のアメリカでも、お子さんの「つまらなさ」というギフテッド教育のニーズについて最初に気づくのは「保護者」(p.92)だそうです。

それに加えてアメリカやフィンランドでも、お子さんが才能に見合った教育を受けられるかは良い先生に巡り合えるかどうかも大きいとも。

ただし、アメリカでは様々な団体が多種多様なギフテッド支援を行っているため、保護者様がその中からお子さんにとって適切な支援を選択することが難しい(p.103)ということも指摘されています。

また、お子さんの興味関心を引き出しつつも、それをどのように進学・就職など進路選択の幅を広げる方向に導けるかも難しいところのようです。

「保護者の要望は近視眼的なものに陥るジレンマもあるとし、研究者は保護者の欲求や要望にだけ焦点化することの危険性」(p.127)も訴えています。

とはいえ、贅沢な課題とも言えるかもしれません・・・。次は我が国の現状を見てみましょう。

日本のギフテッド教育は後進的

「教育改革の総合的推進に関する調査研究」が行われた理由なのですが、「『才能ある子どもの個性・能力を伸長する』教育について、10年以上前からその必要性が述べられているにも関わらず、科学技術・国際分野において、断続的・部分的に実施されているのみで、国全体の統一した才能教育が実施されているとは言い難い」のが実情でしょう。

「才能教育の実践者、実践事例が国内にほとんどない」「体系的な研究を行っている研究者は 10 名ほどで、研究量自体も少なく、才能教育のみを専門にすることも難しい」(p.134)ということで、民間やアカデミックな場でもまだあまり光が当たっていないようです。

「2E研究」が目立つ日本

ところで、「日本における gifted 研究は数人の研究者が知見を発表している状況で、2E(Twice Exceptional:二重に例外的の意味)の研究が中心になっており、主に日本LD学会で研究が発表されている現状である」(p.2)とあります。

わが国のアカデミックな場においては、才能の発現の仕方が独特で型にはまった学校教育では見過ごされがちなお子さんが「ギフテッド教育」では主な研究対象になっているようです。

ただ、「才能教育は韓国はじめ国外では進展しノウハウの蓄積もあることから、日本で才能教育を始める場合、①後発国としてノウハウを活用しながら効率的に進められること、②元々の教員の質が高いことが強みになるだろう」(p.134)という有識者の声もあります。

世論の動き次第によっては、状況が一変することもあるのかもしれません。

先進的な取り組み「異才発掘プロジェクトROCKET」

東大先端研(中邑・近藤研究室)と日本財団の協働で、「異才発掘プロジェクトROCKET」という取組が行われています。現在オープンプログラムと選抜者向けのプログラムとに分かれており、オープンプログラムについてはお子さんご本人に参加の意思があれば参加できるようです。

「教育改革の総合的推進に関する調査研究」調査報告書でもROCKETについて触れられていますが、「問題意識としては、(凹んでいる部分を平らにするアプローチとは異なる)、尖った部分をさらに引き上げるような凸の部分をさらに伸ばす、アプローチがあってもよいのではないか、ということがあった」(p.135)。「保護者に『無理やり連れてこられた』子どもを選抜することはなく、学校には行きたくないが、やりたいこと、探究したいことをはっきり持っている子どもを選抜している」(p.137)とのこと。

どうしても画一的な教育のみでは取りこぼされる層が出てきてしまう。特別支援教育でもギフテッド教育でも、ROCKETのような実践的な場で個々のお子さんに応じカスタマイズした教育を行うノウハウが蓄積され広まっていくことが期待されます。

当社の支援でも弱みの目立たない層だけを見ず、個々の強みに合った支援を行うことを大事にしています。

ご利用者様や先達の方々の知見を取り入れながら、まだ社会が活用できていない才能を引き出すよう取り組んでいきたいと思います。