NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」を見て考えさせられました。
暴走行為や窃盗、家出、薬物乱用、援助交際…。思春期の少年少女が起こすさまざまな問題行動。彼らを逮捕するのではなく、立ち直りを支援する「警察職員」がいることはほとんど知られていない。大人を拒絶する少年少女たちの心を開き、更生へと導く知られざる「少年育成指導官」の仕事に密着。なぜ子どもたちは非行に走り、どうすれば立ち直らせることができるのか。非行の根っこにあった、子どもたちの「声なきSOS]の正体とは
思春期の問題行動そして立ち直り・更生の話ですので、ほぼ必然的に親と子の関係がクローズアップされます。
当社Kaienの大人向けサービスの利用に結び付く人の中には、番組で取り上げられたような「逮捕」とか「非行」とか「更生」など、暴走行為や窃盗、家出、薬物乱用、援助交際といった部分に踏み入れる人は皆無といってもいいほどいません。なので「まだ自分や当社が見ているのは現実社会の一片でしかないのだな」というのが見終わった感想です。
愛着と発達障害*
しかし、親との関係で愛着の話はよく出てきます。アダルトチルドレンの文脈などでですね。いわゆる軽度ではあっても、愛着の問題が疑われるケースは結構多いです。親も特性が見られるケースもあります。
そしてそういう人たちは福祉や医療につながるのが遅くなりがちです。自分で頑張ろうとしますから…。支援とのつながりが遅くなると発達障害的な認知特性とは別の生きづらさを幾つも人生経験の中でくっつけてしまっている割合がどうしても高くなります。
発達障害の二次障害
発達障害での生きづらさによって引き起こされる主な精神障害(宮尾医師 監修記事)
福祉へつながるのが遅れがち
つながるのが遅いといっても当社の場合は30・40歳ぐらいでつながってくれている人たちとお会いします。もう少し早かったらな、思春期の頃からお会いしていたらもう少し楽に働けるだろうし暮らせるだろうし、社会的にも支援エネルギーが少なかったろうなぁとは確かに思います。とはいえ、まずはたどり着けたことを褒め・感謝し、その段階でできる最善を探して問題解決に向けて行動していく形になります。
たしか番組の中でも堀井さんが「この子たちは小さいころに、(親との関係で)使わなくては良いエネルギーを使っているということを、周囲はわかってあげないといけない」という趣旨のことを仰っていました。少年に「小2のころに家出するなんて怖かったでしょう」と声をかけ、その少年から「(薬物中毒になっている親のいる)家のほうが怖かった」と答えられるくだりですね。
こういう「使わなくては良いエネルギー」を使っていただろう人は、やはり大きくなって本来のエネルギーが出なかったり、過去との問題に向き合い続けるエネルギーを使い続けないといけなかったり…。ご本人も頑張ってフルスロットルを踏んでも、周囲からは「何でこの程度なの?」と思われがちなのですよね。
自分もNHKで働いて取材をしてきたときすら、社会の多くの人がここまで脆いとは思っていませんでした。自分は世の中で勝たせてもらえていてその結果強くなった、また強い人に囲まれていたのだなぁと。環境によって、特に小さい頃のエネルギーの使い方によって、大人になってポテンシャルを発揮しづらい人は相当数いるんだなというのがKaienという会社を興してからの一番の学びかもしれません。30になってようやく世界が見えてきたといいますか…。
自助だけでよいの?
その意味でも、今の政権でも言われている「自助・共助・公助」の自助の部分は限界があって、共助・公助は必要だと思います。自助だけでは難しくなる人もいます。
地域でどう支えるか?あるいは公的な福祉の制度なども生かすか?いわば補助輪をつけつつもまずはその人の全力に合わせた支援を組み合わせていくのが自分たちの仕事の一つだなと改めて感じました。
具体的には障害福祉関係では、障害年金という制度は重要だと思いますし、生活保護はもっとポジティブに前広に使われてよいのではないかと思います。制度はあるけれども使いづらいということですね。もちろんハウジング(住居)問題のように制度が不十分と思われるところもまだあります。
不正受給など言われてそこに目くじらを立てる人もいますが、そういう人たちは後から罰せればよいのであって、清濁併せ吞むというか、必要としている人に届けるためにはまずはカジュアルに使える福祉・医療じゃないといけないよねということです。そのほうが最終的にかかる社会コストは圧倒的に低いと思うのですけれどもね…。自助→共助→公助という順番だけで考えると、かえって公助の部分の負担が大きくなるのではということですね。
愛情があればよいというわけでも…
なお、親に愛情があればよいというわけでもなく、愛情があるゆえに不安が強くなり、その結果しつけが強くなりすぎたり、過保護になってしまったり…。
そういえば昨日も、知的障害が中程度と思われる子が正式な検査もせず、義務教育の間、通常級にいさせたいという親御さんの話を聞きました。そこまでは良いかもしれないですが、結果、しっかりと読み書きそろばん的なものが出来ていないという状況を聞くと…。やはり支援級や支援学校につながったほうが良いのでしょう。
が、このケースも、親の価値観というか愛情ゆえに”普通”の教育を受けさせたいという想いが強いのが厄介とも言えます。その愛情は理解しつつも、愛情を注ぐなら別の方法のほうが将来的にも良いですよと納得してもらうやりとりは福祉の専門家としてはし続けないといけないのでしょう。
自分の場合もそうですが、しっかりと親が出来ている人なんてそうそういない…。親になるのはほとんどの人の場合とても難しい。親だけに任せていると社会にとっても一人一人の能力を伸ばせないから、積極的にサポートするという世論になってもらえないかなと思います。(逆にいうと、自分は「毒親に育てられた」という方も、周囲のまっとうそうに見える他の家の子育ても、試行錯誤で間違えだらけかもしれないという視点は持ってほしいなとは思います。「毒親」をここ数年、当事者から聞かされることが多くなってきていまして…。)
上記のケースも「母親が通常級と決めるならばそうしましょう」と学校も福祉もなってしまっているらしいですが、良い意味でおせっかいをして誰にも難しい子育てに違う視点を入れていくのは社会として必要だと思います。
最後の砦と最初の砦
番組の中で堀井さんは、「私たちはこの子たちの最後の砦」というような発言をされていました。きっとそうなのでしょう。こういう方々にはリスペクトしかないですね。
Kaienの社員には「私たちは福祉の中でもフォワードだ」と伝えています。最初に守備をするところでもあるし、社会に接続する攻めの役割でもある。最後の砦と対比すると最初の砦ともいえるでしょう。最初の砦としてまずは頼ってもらいたいなと思いました。
再掲。NHKのプロフェッショナル 仕事の流儀は → https://www.nhk.jp/p/professional/ts/8X88ZVMGV5/episode/te/WWJ53VY44J/
文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS、大学生向けの就活サークル ガクプロ、就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます