障害受容のタイミング

就業実態調査2020 ~発達障害の600人に聞きました~ 其の壱
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発達障害の人に年1回ご協力いただいているKaienの「就業実態調査」。今年は約600人の方に回答いただきました。

過去の記事「就業実態調査」 – 発達障害の方のための就職応援企業 (kaien-lab.com)

回答者の分析

まずは回答者について。回答者の人数は595人。しかし回答項目によって、分析数はこれより下回ります。

そして、三分の二は当社サービス(就労移行・生活訓練またはガクプロ)の利用者または修了生です。それ以外は主にマイナーリーグ(発達障害の人のための転職サイト)の利用者です。回答項目によって、両者に差があるときはコメントを付けますが、(今後詳細を見ていきますが今のところ)両者で回答の傾向は変わらないようです。

年齢は20・30代が76%を占めます。

性別は下記のとおりです。男性がやや多めです。

この記事では「障害受容のタイミング」についてみていきます。前回も少し触れた内容をもう少し深くお伝えします。なおこの設問は今年初めて行ったものです。

❶「社会に出て」発達障害の特性に向き合うことが多い

今回の分析では…大学生や20代前半が最も多く28%、次いで20代後半、30代前半、が障害受容のタイミングでの上位となっていきます。ここまでで約60%です。

ここ10年20年は早期診断・早期療育が進んだと言いながらも、そしてその恩恵を受けているであろう20・30代の回答者が最大でありながらも、小中高の時代に特性受容している人は全体の20%にも満たないことがわかります。

早い段階で診断は受けていながら、あるいは療育は受けていながら、やはりご本人が壁にぶつかるタイミングは、就職活動や職場であるということがわかります。

❷障害受容のタイミングは診断時が最大

次の障害受容のタイミングについてです。

注目すべきは37%を占める診断時に受け止めた人でしょう。数としては最大です。発達障害の特徴を受け止める時に診断が説得力を持つということがわかります。(あるいは受け止める準備が出来たら、病院やクリニックに行って診断を受ける可能性に向き合えたともいえるかもしれません。)

もう一つ注目すべきは、診断後2年以上かかった、あるいはまだ受け止められていない人が25%もあることになります。もちろん診断から間もない人が「まだ受け止められていない人」にも一定数いると思いますが、障害福祉サービスや障害者雇用を検討していても診断を受け止められない人がいるのは、白黒つけられない発達障害の特徴でもあると思いますし、客観視が難しいことが発達障害の一つの特徴であることを表しているのかもしれません。

また22%の人は障害前には特徴を理解していたことがわかります。診断前から理解を深められた人については、もう少しデータを解析しました。

❸診断前から障害受容している人って?

それが下記です。

結論としては、女性が多く、一般雇用で働いている人が多く、年齢も高い。つまり、まだ診断を受けていないけれども、一般枠で働いていて、障害者雇用で働くことも検討して「発達障害×仕事」で情報を集めている30・40代の女性が多いということですね。年齢が若く、これから「社会」に出る前に受容しているという人が増えているという意味ではないようです…。

❹年齢が上がるほど、「診断前から受容」と「受容がまだ出来ていない」が増える

そしてこの記事最後の分析は、年齢と、障害受容のタイミングの関係性です。

明らかに年齢が上がるほど、診断前から受容している人が増えます。これはポジティブにも捉えられますが、実は大きな失敗や壁にぶち当たったものの、発達障害という言葉が一般的ではなかった時代に自分の特性を受容したという意味とも取れるでしょう。つまり、傷つく前に発達障害に出会えなかったのが、年齢が高い人たちという解釈です。

「受容がまだ出来ていない」人が年齢が高いほど多くなるのも、同じ理由かもしれません。つまり、診断を受けるタイミングを逸してしまい、苦労を重ねてきたということが背景にあるのではないかと思いました。もちろん年齢が高いほど、考えが凝り固まりやすい傾向はあり、自分を説明する新しい概念を受け入れにくいという側面もあるかもしれませんが…。

早期診断・早期療育で、ご自身の自己理解も早くなり、幸福や経済面も上がっていく!という、おそらく行政や専門家が考えていたストーリーは、まだデータからは見えないなというのが結論です。

このシリーズ。年末年始にまだまだ続きます。

文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS大学生向けの就活サークル ガクプロ就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴