発達障害の人に年1回ご協力いただいているKaienの「就業実態調査」。2020年は約600人の方に回答いただきました。
過去の記事「就業実態調査」 – 発達障害の方のための就職応援企業 (kaien-lab.com)
- 導入「人生の満足度 福祉につながっている人 vs. つながっていない人」
- 其の壱「障害受容のタイミング」
- 其の弐「就労移行支援 Before/After」
- 其の参「発達障害の人の就業実態(平均年収は236万円)」
- 其の四「一般雇用だがオープンにしている人が増加中!?」
- 其の五「就労移行・生活訓練 Kaien利用者データ 2020年版」←今回
今回は「当社の利用者について現状」をまとめます。年が変わってしまいましたが、2020年の就業実態調査。今日が最後の投稿です。
20・30代で未婚のASD+ADHDの男性が多め
当社の就労移行と生活訓練を利用する人に限って分析をしていきます。
診断名はASDが多いです。広汎性発達障害という診断名を含んでASDに入れましたので多めになったと思います。加えて半分はADHDですので、いわゆる合併している診断の人が多いということになります。(もちろん診断がなくても特性はあることがほとんどですので、診断名は当社は非重視であることに変わりありません。)
二次障害ありが三分の一を超える程度。肌感覚ではもっと多いと思うのですが…。今まで当社では、やはり過去の登録データから「半分は二次障害があります」とお伝えしていましたが、ある程度二次障害が収まった段階で福祉(就労移行や生活訓練)を利用していると考えるとよいのでしょうか?もちろん二次障害がないに越したことは無いので、数値が下がることは良いことです。
性別で見ると男性が多いのが発達障害の特徴ですね。当社も7割超が男性。3割弱が女性というデータです。とはいえ、女性は目立たないことが多いですので、実際は潜在利用層はもっと多いはずと考えています。
年齢は20・30代が多いです。とはいえ、40・50代も増えてきたかなと感じています。どんな人でも再チャレンジをいつでも安心して出来る社会であるべきです。私たちの世代は(年金にはまず期待できないですから)70歳までは働く必要があると思いますので…。
結婚状況も聞いてみました。未婚が多いですね。9割を超えています。当たり前と言えば当たり前ですが、生活基盤が出来て、結婚や出産・子育てということに初めて目が向くと思います。このあたりは今後の就業実態調査でも聞き続けて、(就職だけではなく)あらゆる面で生活が充実する方向にサポートし続けたいです。
Kaienは成長意欲のある人が多く来ている
Kaienは「適職探し」のために利用するというのが一番。そして「苦手克服」・「自己理解」といった自分の把握、そしてスキルアップなど「武器を作る」という就職活動のための要素が理由として入ってきています。
いずれにせよ「自分が成長したい」というポジティブな意味で使っていただいているのは本当にありがたいです。モチベーションがある方が来ていただいている時点で支援者としてはとてもやりやすいですから…。(とはいえ、今後「生活訓練」ではこのモチベーション作りからお手伝いするという気持ちで事業を立ち上げています。)
他の事業所ではなくKaienをなぜ選んでいただいたのかというのは、家族や医療機関・支援機関からの推薦が多いですね。推薦だけで4割ぐらい。ぱっとみで分かるような簡単な客引きをしていないという意味かもしれませんが、ご自身にも納得して選んでいただけるようにPRを上手にしないといけないとは思います。
緊急事態宣言が響いた利用期間
今年、就労移行支援を修了した人に限った利用期間の平均は11ヵ月でした。例年より2か月ほど伸びました。緊急事態宣言の長さに重なるといってもよいと思います。
山としては3つありそうで、6か月までの山、10か月前後の山、そして1年半(18か月前後)の山の3つでしょうか。一つ目の山は、自己理解もスキルも高めの方(やはり年齢と経歴が長めの方が多いでしょう)、二つ目はどちらかが時間がかかるタイプ(働いたことがある20代や30代前半の人が多いと思います)、そして1年を超える人は初めて就活をする20代前半が多そうですね。
中退率13% 高いか低いか…
中退率。この数字は他社はまず出せないでしょう。やはり事業者としては出すのは怖い数字です。
とはいえ、当社は13%を必ずしも悪い数字とは思っていません。本人も挑戦したくて挑戦をした。次にしっかりつなげられれば良い挑戦だったと思いますし、再チャレンジも当然受け入れています。絶対就職できそうな人だけを支援する機関ではあってはいけないと思いますので、中退率が0%が絶対に良いのかというとそうとも言い切れないと思っています。
就職率は中退率の逆になりますので、87%となります。(就労継続A・B型も”就職”に入れましたが今年は1人のみでしたので1%未満の影響です)
就労移行支援後の「初任給」は平均18万円
そして初任給は18万円が平均でした。初任給の分布は下記のとおりです。
これも高い低いは個人での感覚。その人のポテンシャル(つまり他人に比べてではなくご本人自体が環境調整された中で出せる”等身大の力”・”実力”)が評価されるところに就職できたかが問題ですし、安定して働き続けられるかが重要だと思っています。
なお、定着率は毎年年度終わりに行政に出していますが、今年も90~95%の数字になりそうです。
Kaienで利用者の希望は成就できたのか?
さて、Kaienに来た目的は成就されたのか?そのためには、90%近くの方が就職しただけでなく、その後もKaienで学んだこと、Kaienとつながっていることが、仕事や生活でプラスになっているかが重要です。
Kaienで学んだことは下記のチャートで分かります。一番はコミュニケーションでほぼ75%の回答率。ソフトスキルやハードスキルが満遍なく学べていかせているようだなという印象です。適職探しのために、また自己理解のために当社に来た方が、人生を前進するお力にはある程度はなれたのかなぁと感じます。
現状での仕事満足度も聞いています。やはり給与のところはまだまだ不満が多く、40%近くがもう少し、あるいはもっと欲しいということ。それ以外は満足が8割を超えていて、今の方向で支援を続けていって良いのかなと思いました。
テキスト分析は「譲る」「頂く」が意外にもランクイン
最後に、Kaienについての感想やメッセージをテキスト分析してみました。
「テキスト分析をどう分析するのか?」は私もまったく学んだことがなく我流であり試行錯誤でもあるのですが、ざっと見るに1対1でのやりとりや、PCなどの専門学校などでも学べるスキルではなく、職場でつきものの集団で自分の特性を上手にフィットさせる方法(報連相・コミュニケーション・相談)やポジティブな考え方(自信・出来る・良い)などが習得できたのかなと感じます。
「譲る」とか「頂く」というのがやや意外にもランクインしているようで、このあたりの表現が多めに使われているのも、Kaienの特徴なのかもしれません。
いかがだったでしょうか?このシリーズ。今回で終了ですが、始まったばかりの2021年も1年後に振り返っていきます。ぜひお楽しみに!
文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS、大学生向けの就活サークル ガクプロ、就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴