この記事のポイント
- サザビーリーグHRのIT開発を担当する山崎さんは、高校中退と引きこもりを経験している
- 就職活動は困難の連続だったが、支えになったのは就労移行支援での成功体験だった
- 未経験ながらITエンジニアとしての才能が開花、現在は開発チームのエースとして活躍している
取材:Kaien 編集部
生活雑貨・飲食のAfternoon Tea、セレクトショップのRon Hermanなど、約40のブランドを展開するサザビーリーグのグループ特例子会社では、4拠点に渡り様々な業務内容で、約80名の発達障害*がある方が強みを活かして活躍している。
4拠点それぞれ主業務が異なるが、横浜業務サポートセンターはIT・事務領域に特化した拠点で、グループ会社のシステム開発の受託や、RPAの設計・導入、Webデザイン、人事サポートなどを行っている。
今回はIT開発領域での活躍事例として2017年4月にサザビーリーグHRに入社し、横浜業務サポートセンターで、社内の業務を支援するWebサービスの開発を担当している山崎さん(仮称)にお話を伺った。
4年間の引きこもりを経てIT開発チームのエースに
「アプリ開発のプロセスは苦労することもあるが、パズルを解くように試行錯誤をすることに楽しさを感じています」
少し伏し目がちに、控えめな口調でそう話す山崎さんだが、その活躍ぶりは「IT開発チームのエース」と言っても過言ではない。
横浜業務サポートセンターのIT開発チームでは、従業員数3,220人のサザビーリーグ全体のシステム開発を統括する情報システム部から受託した業務アプリ開発を行っている。山崎さんはコーディングはもちろんのこと、仕様書の作成、詳細設計など開発の上流工程に近い部分も担当し、受託した案件開発の中心的な役割を担っている。これまで対応した案件の代表例は社員番号の管理システムの開発だ。グループの各部門で活用されており、採用活動の際に発生していた業務負担の解消に役立っている。
しかし山崎さんがこの場にたどり着くまでには、多くの紆余曲折があった。
「高校の環境になじむことができず、2年生で中退しました。苦手な先生もいたりして。それからは自宅での引きこもり生活でした。自宅では好きなゲームをしたり、プログラミングで自作のゲームを作ったりしていましたが、社会とのつながりが少なく、疎外感と孤独感を感じていました。」
自分が自由に使えるお金がほしい、でも自分に働くことが出来るのだろうか?という不安が付きまとった。一念発起し、引きこもっていた部屋の戸を開け就職活動をはじめるまでには、実に4年間の月日が経過していた。
苦しかった就職活動、心の支えになったのは職業訓練での成功体験
山崎さんは自宅を出て就職活動をはじめるにあたって、就労移行支援に通うことを選択した。その際に発達障害*の診断を受け、精神障害者保健福祉手帳を取得し、障害者採用に絞って就職活動を行ったが、現実は厳しかった。
「数十社に応募しましたが、なかなか決まりませんでした。就職活動はしんどかったです。24歳、高校中退、職歴なし、でしたから。面接が苦手だったので、就職活動を始めたころは経歴のブランクをうまく説明することが特に困難でした。」
たくさんの不採用通知を受けながらも、もう一社、あと一社と応募し続けることができた支えは、就労移行支援の「職業訓練」で得られた成功体験があったからだという。
「Kaienの職業訓練ではEC店舗を運営し、実際に古書をインターネット販売をするプログラムがあったのですが、そこで店長業務を経験したことが自分にとっての自信につながりました。みんなの意見を聞いたり、業務を効率化するための改善提案をしたり。一時は引きこもって社会とのつながりが断ち切れそうになったときもありましたが、自分は社会の役に立てるはずだ、と思えるきっかけとなりました。」
就労移行支援の利用開始から2年。内定を勝ち取ったサザビーリーグHRの採用プロセスで「あなたの強みは何ですか?」と問われた。質問への回答は、たしかに山崎さんの中にあった。
応募時に作成した自己PRの内容には、このように記載されていた。
- 解決力:業務で利用するシステムやソフトについて情報を収集し、いかに手間を減らし、いかに正確性を上げるかを工夫して作業することができます。Kaienで行った古書販売の実店舗を運営する訓練において、販売実績ファイルを修正する際に、関数等を活用し既存の機能性を残したまま使い勝手をよくし、新たな機能を追加いたしました。
- 向上心 : システムエンジニアやIT系の分野に興味を持っており、日々、情報技術に関するニュースを積極的に取り入れたり、情報系の資格に関する勉強に意欲的に取り組んでおります。
- 勤怠の安定 : 就労経験はありませんが、Kaienには、訓練開始から、ほぼ無欠席で通っております。
2年間、就労移行支援で経験を積んだおかげで具体的な自分の強みをアピールすることができた。就労経験はないが、それに代わる実績と自信をアピールできたことが、内定につながったと感じているという。
職場で開花したエンジニアとしての才能
現在はSEとして活躍をしている山崎さんだが、はじめから開発業務に携わることができていたわけではない。山崎さんの上司は本人のSEとしての素養の高さを早い段階で見通していたが、入社当初は社会人としての経験がなかったことを鑑み、Web更新業務などの比較的事務的な要素の業務をアサインした。
システム開発はチームで行うので、メンバーと協調しながら業務を進めていく。プロジェクトを進めるために、時には異なる考えを受け入れることも必要になってくる。SEとして活躍するためには、ハードスキル(プログラミングなどの技術力)のみならず、実務を通じてソフトスキル(ソーシャルスキル・協調性・ストレス対処等)を身につけることが不可欠なのだ。
山崎さんがWeb更新の業務担当からIT開発チームへ異動したのは、データ入力やWeb記事の制作補助などを担当して1年が経った頃だ。SNS投稿を収集・分析するチームで出てきた課題を目にする機会があり、山崎さんは自分が以前、趣味で個人的にプログラミングした際のアルゴリズムが応用できると考えた。
山崎さんは、自ら上司に解決案を提案した。それでは試しにやってみてくれ、ということでコードを書いた。すると見事に要件を満たすものが出来上がり周囲を驚かせた。1年間の下積み経験を通じて、SEとして活躍するためのハードスキルとソフトスキルの両方を身に着けたことが証明されたのだ。この成功体験をきっかけに、山崎さんは、本格的にIT技術者としての第一歩を踏み出した。
現在のIT開発チームでの山崎さんの活躍ぶりは上司の目にどう映っているのだろうか。直属の上司の大久保さんと、横浜オフィスリーダーの髙橋さんにお話し伺った。
大久保さん「山崎さんにはSEとしてのセンスの高さを感じています。設計の粒度に粗さがあっても、要件を理解して、詳細設計にまとめてメンバーに伝達することが出来ているので、一般職のシステムエンジニアとしても十分に活躍できるように感じています。」
髙橋さん「入社したてのころと比べて、ずいぶん自信がついたように見えます。私もIT開発部門の出身ですが、まだまだ伸びしろがあるように感じますね。プレッシャーがきつい開発現場で独り立ちするにはまだ少し早いですが、スモールステップでも良いので、更に経験と自信を身に着けてもらい、将来的には次のステップに羽ばたいてほしいと思っている人材のひとりです。」
働き始めて気付いた「誰ひとり完璧な人なんていない」
入社して5年。自宅に引きこもっていた期間よりも長く働き続けている山崎さんに聞いた。「働いてみて、自分が変わったな、と感じることはどんなことですか?」
「少し、自信がついたと感じられるようになったことです。『完璧を求めなくてもいいんだ』ということを知りました。働き始めてからも、失敗や間違いはありましたが、その都度謝ればいいし、リカバリーをどうすればいいか考えて、それを実行すればいいだけなんだと分かりました。見渡してみれば他の人たちも決して完璧に生きている人なんか、一人もいなかった。だから自分が出来ることをやっていけばいいんだろうな、と感じてここまで働いてきました。」
インタビューも終わりに差し掛かったところ。山崎さんの言葉に、思わず心を打たれた。
「この記事が、いまも引きこもって悩んでいる人に届いて、勇気をもってくれるきっかけになるといいな、と思いました。」
終始、控え目な語り口の山崎さんが語る「自信」という言葉が、他の誰が語るよりも説得力があるように感じられた。
取材協力
株式会社サザビーリーグHR 横浜業務サポートセンター
生活雑貨・飲食のAfternoon Tea、セレクトショップのRon Herman、アクセサリーブランドのageteなど、衣食住に関する”モノ””コト”を通して、半歩先のライフスタイルを提案し、新たな価値を創造し続けるサザビーリーグの特例子会社。
2012年から国内でいち早く発達障害*人材の能力に着目し、現在は約80名の発達障害*人材を活用。WEBデザイン、システム開発、WEBアクセス解析などのIT領域や、ロジスティクス、DTPセンター、店舗支援など幅広い業務で、本業に貢献している。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
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