「スペクトラム」とは
「スペクトラム」とは「連続体」を意味します。自閉スペクトラム症を含む発達障害*は、「障害がある」状態と「障害がない」状態を明確にわけることは難しいとされています。
例えば骨折の症状は「骨が折れている」状態と「骨が折れていない」を明確に区別することができます。一方で、自閉スペクトラム症の特性には濃淡があり、典型的な障害特性が強く表れている状態から全く表れていない状態がグラデーションになっている、と捉えられます。
個人がどの程度自閉スペクトラム症の傾向を持つかを調べることで、全体的な特性の濃淡や、自閉症スペクトラムの特性の中で特に顕著に表れている部分を検討することができます。
自閉スペクトラム症に関する説明は、「大人のASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)」もご参照ください。
Autism-Spectrum Quotient(AQ)
AQはBaron-Cohenら(2001)が開発した項目を、若林ら(2004)が日本語版に構成したものが元となっています。
自記式(検査を受ける人が自分で記入すること)のアンケートで、15分程度で回答することができます。
AQは個人の自閉症傾向を測定し、自閉スペクトラム症のスクリーニングに活用されています。ここでいうスクリーニングとは、質問項目への回答から自閉スペクトラム症の特性を検出するという意味です。グラデーションがある自閉スペクトラム症の特性の濃淡や、検査を受ける人の特徴を調べることができます。
AQは全50項目の質問から構成されていますが、各質問は「社会的スキル」、「注意の切り替え」、「細部への関心」、「コミュニケーション」、「想像力」の5つにカテゴライズされます。総合得点だけでなく、上記の各項目の得点によって、検査を受けた人の特性をより細かく分析することができます。
AQはメンタルクリニックや病院の精神科、保健所など、心理検査を実施している機関で受けることができます。例えば大学生であれば、心理の専門家が在籍している学内の相談機関で受けられる場合もあります。AQは診療報酬の点数が80点(800円)の検査ですので、保険診療で3割負担の場合、検査を受ける人の負担は240円です。
AQの結果をどのように活用する?
注意点として、AQの得点だけで自閉スペクトラム症の医学的診断がつくことはありません。記載したように、AQは自記式のアンケートです。検査を受けた人が自分自身の状態をどのようにとらえているかによって回答の状況は変わってきます。
例えば客観的にみればコミュニケーションの苦手さはさほどないような場合でも、検査を受ける本人が「自分はコミュニケーションが大の苦手だ」と感じていれば、本人の感じ方が得点に反映されます。もちろんその逆の場合もあり、本人はコミュニケーションの苦手さを感じていなくても、客観的にはコミュニケーションに課題があるという場合でも、検査結果には検査を受ける人自身の自己理解の状況が反映されます。
したがって、AQの回答から「自閉スペクトラム症の傾向が高い」という結果が出ても、それは自閉スペクトラム症の診断が出ることにすぐに結びつくわけではありません。また、「自閉スペクトラム症の傾向が低い」という結果が出ても、それで自閉スペクトラム症の診断が下りない、ということでもありません。
AQの得点は検査を受ける人の特性や現在の困っていることを整理し、今後の生活をより良くするために活用できます。
例えば先ほどの例から、以下の状況を考えてみましょう。【客観的にみればコミュニケーションの苦手さはさほどないような場合でも、検査を受ける本人が「自分はコミュニケーションが大の苦手だ」と回答している】、この場合、周囲からは気づかれにくいご本人の困り感を検査から明らかにできた、と考えることもできます。また、前述の5つのカテゴリ(「社会的スキル」、「注意の切り替え」、「細部への関心」、「コミュニケーション」、「想像力」)ごとに点数を出すことができるので、検査を受けた方の困り感や苦手さは特にどのような項目で強く表れているのかを分析できます。その結果を、具体的に必要なサポートの検討のために役立てることができます。
医療機関等でAQを受けた場合、検査結果のフィードバックの際、詳しい結果や、検査結果をどのように生活に活かしていくのかについて、医師やカウンセラーから説明があります。検査の数字だけに一喜一憂せず、回答状況やカテゴリごとの得点に着目して、検査結果を生活の中にプラスに活かしていきましょう。
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*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます