「非定型うつ病」は、文字通りの意味では、典型期なうつ病とは違う経過をたどるうつ病という意味ですが、最近使われているDSM-5の診断基準では一定程度その基準が定められています。過去に「現代型うつ病」や「新型うつ病」といった言葉がメディアで取り上げられていた時期がありましたが、これらはメディアが作り上げた用語であり、医学的な診断名ではありません。
「非定型うつ病」とされる方の場合は、典型的なうつ病の方に比べて、気分の変動が激しく、過食傾向や過眠傾向などの特徴が見られます。誤解されやすい病気と言われることもあります。
本記事では、非定型うつ病の症状や診断基準、典型的なうつ病との違い、治療法などについて解説します。非定型うつ病について理解を深め、治療法を検討する上での参考にしてください。
非定型うつ病とは
非定型うつ病は、抑うつ気分など典型的なうつ病の特徴や診断基準は満たしていることが前提となります。うつ病の代表的な特徴としては、以下があります。
- 抑うつ、気分の落ち込み(特に朝に強く見られる)
- 喜びや興味、関心がなくなる
- 強い罪悪感
- 死んでしまいたくなる
- 集中力や思考能力に欠けている
非定型うつ病は、上記のような症状に加え、うつ病とは異なる特徴が確認できるものを指します。
非定型うつ病の症状と診断基準
非定型うつ病の症状や診断基準として、主に以下4つが挙げられます。
- 気分・反応性
- 拒絶過敏性
- 植物症状
- 鉛様麻痺
それぞれの項目について、うつ病との違いを含めて解説します。
1.気分・反応性
気分・反応性とは「良い出来事があると気分が回復する」という特徴です。うつ病では、何事に対しても憂鬱に感じていて、抑うつ気分が改善することはほぼありません。しかし、非定型うつ病では基本的には抑うつが続いているものの、何か良いことがあったときに一時的に気分が明るくなることがあります。
例えば、非定型うつ病の人は、仲の良い友人から誘われるなどで気分が持ち上がることがあります。具体的な変化はさまざまですが、落ち込んでいるときとまるで別人のように気持ちが軽くなるケースも見られます。
2.拒絶過敏性
拒絶過敏性は、人から嫌われる、ぞんざいな扱いをされる、といった場合に激しく落ち込むことです。非定型うつ病では、自分を否定されることに対して過敏になっていて、ちょっとした指摘や注意を受けただけで極端に塞ぎ込んでしまう、強いストレスを感じてしまう、といった傾向が見られます。
仕事の小さなミスを上司に指摘されただけで、自分自身を否定されているかのように感じて強く落ち込むケースが多く見られますが、反対に逆ギレして攻撃的になることもあります。そんため、周囲の人が本人に対して必要以上に気を遣わなければならない状態になっている場合もあります。
3.植物症状
非定型うつ病では、食欲や睡眠欲が増大する植物症状も大きな特徴とされています。一般的なうつ病では、不眠や拒食が主な症状ですが、非定型うつ病ではその正反対で、過眠や過食の傾向が見られます。
甘いものや炭水化物を無性に欲するケースも見られます。食べることで一時的に気分は良くなりますが、食べてしまうことに対して嫌悪感を覚える、太ってしまうことでさらに落ち込む、といった傾向も少なくありません。
なお、植物症状は、非定型うつ病の診断基準のうち、臨床現場において医師が非定型うつ病であると判別しやすい項目とされています。「ひたすら食べてしまう」「ひたすら寝てしまう」というものは客観的に把握しやすく、明確な診断基準となりうるからです。
4.鉛様麻痺
非定型うつ病では、鉛がのっているように体が動きにくい「鉛様麻痺」の傾向が見られます。
対人関係でのストレスや嫌なことがあると体が動かなくなってしまう、といったように、鉛様麻痺の症状は、拒絶過敏性と合併しているケースも少なくありません。
また、倦怠感は急に襲ってくることも多く、重度の場合は本人ではコントロールができないため、周囲からは怠けているように見えてしまう場合もあります。
非定型うつ病は双極性障害にも似た特徴を持っている
非定型うつ病は、双極性障害(躁うつ病)に似た特徴も多いと考えられています。双極性障害とは、抑うつ気分や活動性の低下といった「うつ状態」と、気分の高揚や活力の増加といった「躁状態」のエピソードが反復する病気です。
躁状態と診断されるほど激しくはないものの、周りから見て明らかにいつもより気分が高揚し、睡眠欲が減っているような状態は「軽躁状態」と呼ばれます。一般的には、軽い躁状態は数日間、躁状態が1週間以上、うつ状態は2週間以上続く場合に、双極性障害が疑われます。
躁状態は、浪費や誇大的な言動などにより自他共に気づきやすいものの、軽躁の状態では「調子が良い」と判断され、見逃されることも少なくありません。非定型うつ病と診断された後に、双極性障害へと診断を変更する必要性が出てくる場合もあるため、慎重な判断が求められています。
非定型うつ病と似た症状を引き起こす体の疾患とは?
非定型うつ病と似た症状を引き起こす体の疾患もあります。例えば、睡眠時無呼吸症候群が候補の1つです。睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が止まる、あるいは浅くなることで、体の低酸素状態が発生する病気です。体が酸欠状態となり、深い睡眠が取れないため、日中の強い眠気やだるさにつながります。
うつ病の患者の場合、よく処方される抗うつ剤の副作用としての体重増加により、睡眠時無呼吸症候群となってしまいます。その結果、非定型うつ病によくある植物症状や鉛様麻痺といった特徴が見られる場合もあります。
その他にも、糖尿病の悪化や甲状腺機能の低下といった体の疾患や、鉄不足など倦怠感が出やすい体の状態が原因となって、気分の浮き沈みや激しい落ち込みが発生していることも考えられるため、体の疾患が合併していないか疑ってみる必要があるでしょう。
非定型うつ病の治療はうつ病と基本的に変わらない
非定型うつ病の治療方法は、基本的にうつ病の治療の方針と変わらず、休養と薬の服用が中心です。
ただし、うつ病の治療に使われる薬でも、患者の状態や症状によっては非定型うつ病に効果がない場合もあります。また「気分・反応性」や「拒絶過敏性」といった特徴は、人生の中で起こりうるライフイベントに反応しやすい傾向を表すものでもあるため、認知行動療法も有用とされています。
認知行動療法は、ストレスなどにより狭まってしまった考えや行動を、自ら柔らかくときほぐし、自由に考え行動できるようサポートする心理療法です。現在、精神科の治療だけではなく、教育やビジネスなど、認知行動療法の考え方を取り入れる領域が増えており、積極的に取り入れることで非定型うつ病の改善につながる可能性があります。
非定型うつの特徴を理解しよう
非定型うつ病は、うつ病とは異なり、良いことがあると一時的に気分が回復する、過食や過眠といった植物症状が出る、といった特徴が見られます。また、他人からの指摘や注意に過剰に反応してしまい、攻撃的になるケースもあるなど、常に落ち込みが続くうつ病とは異なります。
双極性障害と似た症状が出る場合もあるため、後に診断を変える必要性も考慮して、慎重な診断が大切です。また、睡眠時無呼吸症候群などの体の疾患の可能性もあるため、総合的な状態を考慮して治療を進める必要があるでしょう。
なお、「非定型うつ病」は正式な病名であり、メディアで取り上げられる「新型うつ病」や「現代型うつ病」とは異なるものです。非定型うつ病が疑われる場合は、医療機関で適切な診断と治療を受けることが重要です。
監修者コメント
非定型うつ病は、DSM-5ですと補足の中に収載されているうつ病病態の1つです。こうして整理されてみると一定の特徴があることがわかりますが、一方で実際の外来では、「うつ病」として考えるべきか、それとも「適応障害(適応反応症)」として捉えたほうが良いのか迷う場面も多いですね。精神科診断は何らかの数値で判定するものではなく、また、日常生活においてストレスの無い環境というのも少ないので悩ましいですね。個人的には「拒絶過敏性」については、うつ病になったから出てきた、というよりはそもそも人からの強い言葉や当たりに敏感だったり、繊細な方もいて、一つの特性として考えたほうが良い方もいる印象です。いずれにしても治療においては、薬のみ、では難しく、何らかの精神療法や環境調整が効果を持つことが多いでしょう。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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