愛着障害とは、子どもの頃に何らかの理由で親との愛着が形成されず、情緒や対人関係に問題が生じている状態です。
愛着障害という言葉がさまざまな場面で使われるようになり、愛着に課題や問題があるというケースを含めて愛着障害と呼ぶことがあります。ただ、実は医療の中で愛着障害と診断されることは滅多にありません。正しい知識を持って検討することが必要です。
本記事では、大人に見られる愛着障害の特徴や診断基準、考えられる原因や治療法などについて解説します。愛着障害のように見えて、実は少なくても医療的には別な部分に必要なことが隠れていることは有りえます。本記事を必要な対処法や治療を検討するヒントにしてください。
愛着障害とは?
愛着障害とは、何らかの原因で乳幼児期に母親や父親といった養育者との愛着形成がうまくいかず、問題を抱えている状態のことです。子どもの頃の人間関係、とりわけ両親との親子関係はその後の人生の基本になるほど重要な要素になります。
乳幼児期の子どもは、自分の欲求や感情を泣いて伝えます。その際に、母親などの養育者がすぐに駆けつけ、優しい言葉をかけるなど愛情あるコミュニケーションを取ることで、子どもは安心できます。
子どもは、安心していられる居場所の中で、養育者とのやり取りを通して愛着を形成していきます。愛着が形成されることで、子どもの自立性や社会性の習得につながっていきます。
一方で、愛着形成がうまくいかないと、自己肯定感が育まれない、他人に対する基本的な信頼感を得られない、といったように子どもの成長に影響が及ぶ可能性があります。そして、一度身についてしまった特徴に対して、刷り込みされることで、問題として表れるようになるのです。
愛着障害の種類と診断
医療的な分類では、愛着障害は「反応性アタッチメント障害」と「脱抑制型愛着障害」の2タイプに分けられます。反応性アタッチメント障害では、人に過剰に警戒しやすいのに対し、脱抑制型愛着障害の場合は人に対して過度に馴れ馴れしい、という正反対な特徴が見られやすいという特徴があります。
ここでは、それぞれの特徴について説明します。
反応性愛着障害
「反応性愛着障害」とは、愛着障害のうち、人に対して過剰に警戒するタイプのことです。
反応性愛着障害に見られる主な特徴は、以下の通りです。
- 他人を頼れず助けを求めることが少ない
- 感情を表現することが苦手
- 恐怖心や警戒心が強い
- ちょっとしたことでひどく落ち込みやすい
安心できる居場所がないために自己肯定感が下がりがちで、他人を信じられず助けを求められない、感情を出せないといった問題を抱えやすい傾向にあります。反応性愛着障害の特徴には、発達障害*のASD(自閉スペクトラム症)と似ている部分も見られます。
反応性愛着障害の特徴は以下の通りです。
- 5歳までに発症する
- いろいろな対人関係場面で、ひどく矛盾した、両価的な反応を相手に示す(しかし間柄しだいで反応は多様)
- 情緒障害が、情緒的な反応の欠如や人を避ける反応、自分自身や他人の悩みに対する攻撃的な反応、および(または)過度の警戒などにあらわれる
- 正常な成人とのやりとりで、社会的相互関係の能力と反応する能力はあると確認できていること
脱抑制型愛着障害
「脱抑制型愛着障害」は、反応性愛着障害とは反対に、人に対して過度に馴れ馴れしいタイプです。乳幼児期に養育者との愛着形成がうまくいかなかったために、自分が示す愛着の範囲が分からず、広範囲の人から注意を引くために情動的行動をする傾向があります。
脱抑制型愛着障害の主な特徴は、以下の通りです。
- 誰にでもかまわず馴れ馴れしくしやすい
- ボディタッチが多い
- 見慣れない場所や初対面の人に対するためらいがない
上記以外にも、協調性に欠けやすいなど、発達障害のADHD(注意欠如・多動症)と似ている点が見られる場合もあります。
脱抑制型愛着障害の診断基準は以下の通りです。
- 広範囲な愛着が、5歳以前の持続的な特徴としてみられる(選択的な社会的愛着を十分に示せないことを意味する以下2つの確認が必要)
(1)苦しいときに、他人から慰めてもらおうとするところは正常
(2)慰めてもらう相手を選ばない(比較的に)というところは異常
- なじみのない人に対する社会的相互関係がうまく調節できない
- 次のうち1項目以上当てはまっていること
(1)幼児期では、誰にでもしがみつく行動
(2)小児期の初期または中期には、注意を引こうとしたり無差別に親しげに振る舞う行動
- 上記の特徴について状況特異性のないことが明らかである
愛着障害の原因とは?
愛着障害の代表的な原因として以下が挙げられます。
- 養育者との離別、死別などで愛着形成の対象がいなくなってしまう
- 養育者によるネグレクト、無視、無関心による放任などがあった
- 養育者のような立場の大人が複数いる、もしくは頻繁に替わっていた
- 養育者による厳格なしつけや体罰、身体的虐待を受けて育った
- 兄弟など他の子どもと差別や優劣をつけられ、明らかに差別されていた
- 褒められることが極端に少ない環境で育った
愛着を形成するために必要な「安心していられる居場所」を獲得できず、愛着の形成が阻害されてしまいます。その結果、大人になり、社会に出てから対人関係や自己肯定感、気持ちの表現といった面で悩みやすくなります。
愛着障害は他の疾患と併存しうる
愛着障害とともに、他の疾患/障害と併存している場合があります。代表的なものとしては、以下が挙げられます。
- うつ病
- 心身症
- 不安障害
- 境界性パーソナリティー症 など
愛着障害がある大人の場合、仕事や家庭における生活のしづらさや困りごとが出てくるだけでなく、二次的に生じたとも考えられる併存症を合併することがあります。ただ、適切な治療や生活の工夫を取り入れることで、困りごとの克服や症状の緩和につながることもあります。
大人の愛着障害とは?症状や特徴を紹介
愛着障害は一般的に子どもに付ける診断名であり、大人に愛着障害という診断をつけることはほとんどありません。ただ、乳幼児期の愛着障害がある子どもが大人になり、他人とのコミュニケーションがうまく取れない、自己肯定感が下がる、といった生活しづらさを感じる場合には、大人の愛着障害と呼ぶことがあります。
ここでは、大人の愛着障害によく見られる症状や特徴について解説します。
対人関係に関する特徴
愛着障害がある子どもが大人になってから、他人との適切な距離感を保つことが難しく感じられる場合があります。結婚してもパートナーや自分の子どもに対して愛情の注ぎ方がわからず、家庭生活がうまくいかない、場合によっては虐待の加害者となる、などのケースが考えられます。
また、仕事では、周りの人とうまくコミュニケーションが取れずに大きな失敗を起こす、いつも上司から叱られる、など関係づくりに苦労することがあります。他にも、愛着障害の原因となった養育者に対する態度に特徴が見られるケースも見られます。
情緒面に関する特徴
愛着障害がある大人は、情緒が不安定な傾向が見られます。乳幼児期に養育者と愛情のあるコミュニケーションを交わし、無条件の愛情を受けることが少なかったために、大人になってから情緒が不安定になってしまいます。
例えば、他人に言われたことで大きく傷ついてしまう、ちょっとしたことでひどく落ち込むなどです。反対に、感情をうまくコントロールできずに、一旦怒ってしまうと攻撃的になり、冷静な話し合いができなくなるケースもあります。
また、白黒思考が強く、融通が利かないために柔軟なコミュニケーションや建設的な話し合いができず、仕事や家庭生活に影響が及ぶこともあります。
大人の愛着障害の治療法
大人の愛着障害の治療においては、職場の同僚や友人、恋人、パートナーなどの関係性を重視していくことで、改善に向かう可能性があります。
ありのままの自分を受け入れてもらえる人、守られていると感じられる環境が身近に存在することで、自分の安心していられる居場所を確保できます。
そして、安心できる居場所があると、感情的にならずに対人関係を構築でき、自己肯定感や自尊心を下げることがなくなって、愛着障害が原因とされる症状の改善につながる場合があります。
愛着障害を理解することが改善へつながる
愛着障害は、何らかの原因で乳幼児期に子どもと養育者の間の愛着形成がうまくいかず、さまざまな問題を抱えている状態のことです。愛着障害には2つのタイプがあり、いずれも子どもの頃に診断される場合が多いですが、大人になってからも状態を引きずってしまうことが少なくありません。
その結果、対人関係や情緒面に影響が及び、仕事や家庭で生きづらさや困りごとを抱えることがあります。人それぞれ育ってきた家庭環境が異なるため、愛着障害の原因はさまざまですが、安心していられる居場所を構築することで、対人関係や自己肯定感の改善につながる可能性は高いでしょう。
愛着障害を正しく理解することが、課題を改善するために重要です。医療的な愛着障害の診断について適切な知識を持ち、日々の生活の中で改善に向けて考えていくことが大切だといえます。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
実は愛着障害と診断されることは滅多にありません。その意味で病名としての愛着障害はアダルトチルドレンやHSPに近い立ち位置ですが、違いはきちんとした病名もあるということでしょう。DSM-5では愛着障害として、反応性アタッチメント障害と脱抑制型対人交流障害が当てられていますが、いずれも被虐待者の中でもごく少数が生ずる障害という位置づけです。昨今、愛着障害は随分拡大されて大人で自認傾向が強い印象を持ちます。今現在の生きづらさの背景に、自分の育った養育環境とそれによってもたらされた「何か」の説明に愛着障害がぴったりくると感じることは理解できます。ただ、それがその人の今と未来の問題を解決するかは別問題です。自分は愛着障害かもと思った方が、記事にある通り、「安心していられる居場所を構築すること」が非常に大事なことはいうまでもありません。その上で、精神科/心療内科に罹るのであれば、何をすると今の生きづらさを解消する手立てになりうるのか、是非未来を見て効果的な方策を医師や心理士と共に考えてみることをお勧めします。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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