うつ病で休職していると、「仕事は続けられるのだろうか」「早く復帰しないとまずいのではないか」などと不安に思うこともあるでしょう。そこで、この記事では、うつ病の症状や仕事への影響について解説します。
また、うつ病でも働ける場所や向いている仕事、復職・転職する際の注意点についても紹介します。休職・退職・就労の際に利用できる支援制度についても解説するので、復職や転職にお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
うつ病とは
うつ病という言葉が浸透してきていますが、病気としての症状や診断基準はあまり知られていないかもしれません。まずは、うつ病の症状や医療的な診断基準を押さえておきましょう。
うつ病の症状
うつ病は、医学的には気分障害の1つに含まれます。うつ病の代表的な症状としては「1日中気分が落ち込んでいる」「何をしても楽しめない」といった精神症状とともに、「眠れない」「食欲がない」「疲れやすい」などの身体症状があります。
これらの状態によって日常生活に大きな支障が生じている場合、うつ病が疑われます。うつ病になると、物事の捉え方が否定的になり「自分はダメな人間だ」と感じることも少なくありません。
精神的・身体的なストレスにより脳がうまく働かず、普段なら乗り越えられる問題もいつもよりハードに感じられ、イライラや焦りの気持ちが強く出ることがあります。重症化すると、「死んでしまいたいようなつらい気持ち」が出るケースも見られます。
うつ病の診断基準
うつ病の診断基準には、アメリカ精神医学会が作成した「DSM-5」と世界保健機関WHOが作成した「ICD-10」とがあります。ここでは精神疾患の分類のみを扱う「DSM-5」における、うつ病の診断基準を紹介します。
「DSM-5」によるうつ病の診断基準は、次の通りです。
うつ病を診断するには,以下のうち5つ以上が同じ2週間の期間中ほぼ毎日認められ,かつそのうちの1つが抑うつ気分または興味もしくは喜びの喪失でなければならない:
出典:MSDマニュアル(プロフェッショナル版)「抑うつ障害群の症状と徴候」
・ほぼ1日中みられる抑うつ気分
・ほぼ1日中みられる,全てまたはほぼ全ての活動における興味または喜びの著明な減退
・有意な(5%超)体重増加もしくは体重減少または食欲の減退もしくは亢進
・不眠(しばしば睡眠維持障害)または過眠
・他者により観察される(自己報告ではない)精神運動焦燥または制止
・疲労感または気力減退
・無価値感または過剰もしくは不適切な罪悪感
・思考力もしくは集中力の減退または決断困難
・死もしくは自殺についての反復思考,自殺企図,または自殺を実行するための具体的計画
一般的に、上記の箇条書きで挙げられた症状が一時的ではなく2週間以上続いている場合に、うつ病の診断が出されるといえます。
うつ病でも仕事は継続できる?仕事への影響とは?
うつ病の治療には、休養が最も重要です。ただ、症状の程度や内容は人によって異なるため、仕事への影響が少なく休職や退職が必要ない場合もあります。また、医師から休職を勧められたとしても、最終的な判断は本人に委ねられるため、仕事を継続する人もいるでしょう。
しかし、仕事を続けることで症状が悪化する、完治するまでに長引くといった可能性も否めません。また、無理をしてまで働き続けると、集中力や思考力が低下しミスが増える、イライラから周囲の人との関係性が悪くなるなど、仕事への悪影響も考えられます。
基本的には、仕事から離れて休養に専念することが理想です。さまざまな事情があって、どうしても仕事を続ける場合には、できるだけストレスを溜めないように、環境や生活リズムを整える必要があります。
うつ病の人に向いている仕事とは?向いている仕事のタイプ
うつ病を抱えながら働く場合には、心身の不調にこれ以上大きなストレスを与えないように、精神的・体力的な負担の少ない仕事が向いているといえるでしょう。以下では、そうしたうつ病に向いている仕事のタイプについて具体的に紹介します。
在宅ワークなど自分のペースですすめやすい仕事
うつ病の人に向いている仕事としては、自分のペースで進めやすい在宅ワークなどの仕事が挙げられます。
うつ病を抱えている場合、気分が落ち込んだり、意欲が減退したりして、思うように仕事を進められないことが少なくありません。その点、在宅ワークでは、仕事に取り掛かる時間や、仕事の進め方をある程度自分で決めることができるため、比較的マイペースで仕事を進められます。
在宅ワークには、例えばシステムエンジニアやプログラマー、Webライター、Webデザイナー、翻訳家などといったものがあります。心身の状況に合わせて仕事を進めることができるため、働きやすい仕事といえるでしょう。
人との関わりやコミュニケーションの機会が多くない仕事
人との関わりやコミュニケーションの機会が少ない仕事もうつ病の人に向いているでしょう。
うつ病では他者とのコミュニケーションが大きな負担に感じられるケースが少なくありません。そのため、営業や接客といった他者との交渉や協議などのコミュニケーションが重視される仕事でなく、事務や経理などの個人で進められる仕事の方が適しているでしょう。
人との関わりが少ない仕事には、経理・事務職以外にも、校正士や校閲士、清掃員、工場・倉庫作業、また、先ほど紹介した在宅ワークの仕事などが挙げられます。コミュニケーションの機会が少ないため、大きなストレスを受けずに働けるでしょう。
プレッシャーが比較的少ない仕事
大きなノルマや責任を課せられない、プレッシャーが比較的少ない仕事もうつ病の人に向いているといえます。
うつ病の場合、体調や気持ちに波があるため、ノルマ達成のためにチャレンジを重ねるようなプレッシャーの大きな仕事は不向きといえるでしょう。また、体調に波があったり、注意力が散漫になったりすることもあるため、ミスが許されないような責任重大な仕事も向いていないでしょう。反対に、そうしたプレッシャーがなければ、働きやすく仕事も続けやすいといえます。
プレッシャーの少ない仕事には、例えば、一般事務職、受付事務、マンション管理人、清掃員、検針員、工場・倉庫作業といったものがあります。
マニュアルをもとに進められる仕事
マニュアルをもとに進められる仕事も、うつ病の人に向いているといえるでしょう。うつ病を抱えている場合、「とりあえずやっといて」というような抽象的な指示ではうまく動けず、負担に感じてしまうことが少なくありません。
そうした抽象的な指示が苦手な人は、マニュアルをもとに進められる仕事の方が、目標や求められる行動が具体的なため、心理的な負荷が少なく働きやすいといえます。
マニュアルをもとに進められる仕事としては、一般事務、医療事務、コールセンターのオペレーター、プログラマー、配達員、工場・倉庫作業などがあります。
単発や短期の仕事
うつ病の場合は、単発や短期の仕事も向いています。
単発や短期の仕事は、働く期間や時間を選べるため、気分や体調に合わせて働きやすいといえます。また、短期の派遣社員やアルバイトの場合は、責任の度合いも低いため、大きなプレッシャーを感じることなく働けます。万が一、仕事内容が合わない場合でも、単発や短期の仕事であれば、辞めやすく、他の仕事に移りやすいこともメリットといえるでしょう。
単発や短期の仕事には、データ入力やコールセンターのオペレーター、工場・倉庫作業、試験監督、イベントスタッフなどがあります。
うつ病の治療の経過
うつ病の治療の経過は、大きくわけて「初期」「急性期」「回復期」「再発予防期」という4つのプロセスがあり、落ち込み度合いや症状の出方はそれぞれで異なります。ここでは、各段階における特徴や症状について解説します。
初期
うつ病の初期には、気分の落ち込みに多少波が感じられることがあります。気分のアップダウンが激しく、中には「うつ病ではなくて躁うつ病ではないか」と疑う人もいるようです。
ただ、躁うつ病(双極性障害)の場合、半年近く落ち込みが続き、気分が上がっていく躁病相が2~3ヶ月ほど見られます。一方、うつ病の場合、1日の中で気分の波が大きい傾向があります。
精神状態のギリギリまで働くなど、限界まで何かをする「過剰適応」と呼ばれる状況が見られ、体がボロボロになっても動こうとします。そうしたタイミングで運よく精神科にかかり、「うつだから休んだ方が良い」と診断されて休むケースも少なくありません。
また、心の余裕がなくなり、イライラや怒りっぽい印象を与えることや自然と涙が出てくるといった症状も見られます。
急性期
急性期には、初期にうつ病の診断を受け、休むことによって気分がガクッと落ちる場合があります。休み始めると、良くならずに一旦は調子が一気に悪くなることが多く、「休んだら良くなると言われたのに違うじゃないか」と思われるかもしれません。
ただこれは、それだけ張り詰めていた証拠であり、一気に下がることで本格的な休養が始まります。急性期と呼ばれる期間は約3~6ヶ月続きますが、気分は落ち着かない、頭は回らない、わけがわからず1日がすごく長く感じられることもあります。中には、急性期に入って別人のようになる人もいます。
急性期には記憶があいまいになる、考えられない、などの特徴も見られるため、回復後は本人も急性期の記憶が少ない場合があります。そういう時期だと理解して、無理なく乗り切るよう意識することが大切でしょう。
回復期
急性期が過ぎると、回復期に移行します。回復期に入ると、眠れなかった時期とは反対に、よく食べてよく寝るフェーズに入ります。1日15時間寝ることもあり、朝ご飯を食べて寝て、昼ごはんを食べて寝て、夜も寝る、というのが回復期の特徴です。
寝過ぎて不安になる人もいますが、脳が休めという合図を出しているのであって、寝ることが脳の回復に必要だと考えたほうがいいでしょう。
回復期の後半になり、認知行動療法、散歩、料理、片付けといった提案に進む場合があります。ただ、100%回復してから復帰するのではなく、回復期の途中で休むばかりでは物足りなくなって、約7~8割くらい回復してきたら復職準備を始めます。
中には復職するとガクッと一度下がる場合もありますが、下がって回復して良くなっていく、という繰り返しが自然なので、焦らずに生活することが大切です。
再発予防期
気分の波が落ち着いてくると、再発予防期に入ります。医療的には、抗うつ薬は初発には約4~9ヶ月、再発の場合は約1~3年くらい続けるのが目安とされています。一般的には、うつ病は5年以内の再発率が40%以上あると言われており、薬を続けた方が良いでしょう。
なかなか回復の兆しが見られない人や、中高年で発症した人、家族の中にうつ病の人がいるといったケースでは、初発であっても長めに服用した方が良いと判断される場合もあります。
うつ病で仕事を休職・退職する際に利用できるお金に関する支援制度
うつ病で仕事ができなくなった際に、収入面で不安を感じる人もいるでしょう。ここでは、うつ病により休職や退職をする際に利用できる支援制度について解説します。安心して治療に専念するためにも把握しておきましょう。
傷病手当金
傷病手当金は、うつ病などの病気や怪我のために働けなくなり、仕事を休むときに健康保険から支給される制度です。休業中の被保険者やその家族の生活を保障するために設けられています。
原則として病気や怪我で仕事を休む必要があり、かつ十分な給与が支給されない人が受給対象です。全国健康保険協会では、以下すべての条件を満たしている必要があります。
- 業務外の病気や怪我で療養中である
- 療養のための労務不能である
- 4日以上仕事を休んでいる
- 休業中に給与の支払いがない
支給期間は2022年より、支給開始日から通算して1年6ヵ月に変更されています。支給金額は、おおむね給与の3分の2程度で、仕事を休んだ日を含む3日間の待機期間を経て、4日目以降から支給されます。
自立支援医療制度
自立支援医療制度は、うつ病などで通院が必要な場合に、精神疾患の医療費の自己負担を軽減できる制度です。公的医療保険による医療費の自己負担は3割ですが、自立支援医療が適用されると1割まで軽減できます。
特定の精神障害を持つ人に加えて、身体障害者手帳の取得者なども対象です。ただ、世帯の総所得額によっては、1ヶ月あたりの自己負担上限額が定められている場合があります。また、対象外となる可能性もあるので、助成制度の内容や条件について、窓口や病院にて確認しておくと安心です。
障害年金
障害年金は、病気や怪我によって生活や仕事が制限される場合に支給される年金のことです。障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があります。
障害の原因となる病気や怪我について医師の診療を受けた時に、国民年金に加入していた場合は障害基礎年金、厚生年金に加入していた場合は障害厚生年金を受け取れます。
障害年金を受けるには、「初診日要件」「保険料の納付要件」「障害状態該当要件」といった条件を満たしている必要があります。うつ病には1〜3等の等級があり、それぞれで支給額が異なります。
失業手当
失業手当(失業保険)は、仕事を退職して失業状態にある人が再就職するための支援制度です。労働者の生活や雇用の安定を目的とした公的保険制度である「雇用保険制度」に含まれています。うつ病に限らず、一定期間は雇用保険の加入状況に応じて手当が支給されます。
失業手当の給付は任意であり、申請手続きが必要です。また、受給には、ハローワークでの求職活動など一定の条件を満たしている必要があります。病気などで今すぐに働けない状態の場合は、働ける状態になった時に備えて受給期間の延長手続きが可能です。
受給期間や受け取れる金額は、雇用保険の加入期間や離職時の年齢、退職前の給与などによって異なります。離職理由が自己都合(一般受給資格者)の場合は、離職後7日間の待期期間と、2ヶ月間の給付制限を経て支給が開始されます。
一方、会社都合で退職した場合(特定受給資格者)は、求職の申し込み後、7日間の待期期間が終わると給付が始まるため、支給開始のタイミングは異なります。
うつ病で仕事が困難な方が利用できる就労に関する支援先
うつ病で仕事ができなくなると、社会生活や日常生活についてさまざまな不安が出てくる場合もあります。ここでは、うつ病で仕事が困難な場合に利用できる支援機関を紹介します。うつ病の症状が悪化したり、長引いたりする前に、利用を検討してみましょう。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、障害のある人が一般企業に就職するためのサポートを提供する支援機関です。事業所によって支援内容は異なるものの、働く上で必要な知識やスキル、自己管理の方法を学べる場所の提供や、仕事やメンタル面の相談といったサポートが受けられます。
うつ病で悩む人は、専門医による診断書があればサービスを利用できます。また、退職済みの人だけではなく、休職中で元の職場に戻りたい場合にも使うことが可能です。
利用料金は事業所ごとに設定されていますが、生活保護の受給がある世帯や市町村民税非課税世帯は無料など、世帯の給与収入や納税額などの条件により変わります。
精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは、うつ病などの病気について幅広い相談ができる支援機関です。精神保健福祉法により各都道府県での設置が定められており、政令指定都市を中心に開設されています。
精神保健福祉士、臨床心理士、保健師や看護師などの専門家が在籍しており、メンタルヘルスに関する困りごとなどさまざまな悩みを相談できます。また、本人だけでなく家族からの相談にも対応可能です。
東京都では、少人数の医療デイケアにおける援助などの活動も行っています。
ハローワーク
ハローワーク(公共職業安定所)は、求職者や求人事業主にさまざまなサービスを提供する総合的雇用サービス機関です。中には、「障害者専用窓口」を開設し、障害のある人の就職活動を支援するために、専門知識を持つ職員や相談員を配置しているところがあります。
障害のある人向けの求人だけでなく、一般の求人応募も可能です。また、履歴書の書き方の指導や採用面接への同行、障害のある人を対象とした就職面接会なども利用できます。求職者にあった求人の提供を事業主に依頼するなど、柔軟な支援体制を整えています。
なお、就労だけでなく、生活面を含む幅広い支援を希望する人に、障害者就業・生活支援センターなどの支援機関の案内も行っています。
地域若者サポートステーション
地域若者サポートステーション(サポステ)は、働くことに悩みを抱えている15~49歳までの人を対象に、就労に向けた支援を行っています。厚生労働省が委託した民間団体などが運営しており、身近に相談できる機関として各都道府県に設置されています。
専門スタッフとの個別面談を経て、就労に必要な技術や知識、マナーを身につけるための講座に参加できます。コミュニケーション講座や就活セミナー(面接・履歴書の指導)の他、実際に現場に出るジョブトレ(就業体験)や、合宿形式を含む生活面等のサポートと職場実習を組み合わせた集中訓練プログラムなどが提供されています。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障害がある人の自立と職業生活の安定を目的とした支援機関です。本人の身近な地域における就業面と生活面の一体的な支援を目指し、雇用、保健、福祉、教育等の関係機関と連携してサポートを提供しています。
2023年4月1日時点で全国に337の拠点があり、窓口での相談や職場・家庭訪問などさまざまな活動を実施しています。就労だけでなく生活に関することも幅広く相談できます。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、うつ病の人や障害のある人に対して、個人のニーズに応じた職業リハビリテーションを提供する施設です。公共職業安定所と連携して、各都道府県に設置されています。
精神障害者および事業主に対しては、主治医等の医療関係者と連携を行いつつ、障害のある人の新規雇入れや職場復帰、雇用継続のために、専門的・総合的な支援を実施しています。
職業の評価・指導・訓練など、仕事に付くための専門的な支援を受けられる他、事業主の雇用管理に関する相談・支援も受け付けています。
うつ病でも無理なく働きやすい場所や働き方
うつ病に向いている仕事のタイプや就労に向けて利用できる支援制度について紹介しましたが、それでも「実際に無理なく働ける場所や働き方はないか」と悩むこともあるでしょう。そこで、うつ病でも無理なく働ける場所や働き方について解説します。
一般企業の障害者雇用
うつ病でも無理なく働く環境を得る方法としては、一般企業の障害者雇用を利用するという手段があります。
一般企業の障害者雇用とは、企業が一般雇用とは別に、障害のある方を雇用することです。障害者雇用は、「障害者が地域の一員として共に暮らし働く」ことを当たり前にするために、法令によって一定規模以上の企業などに障害者の雇用を義務付けたものです。該当する企業は、障害者手帳を持つ人を、従業員の一定割合(法定雇用率)以上、雇用することとなっています。
障害者雇用では、企業と障害についての相互理解を深められる上、障害に配慮された環境で働くことが可能です。うつ病の場合、障害者手帳の有無を問わない一般雇用枠でも働けますが、障害者雇用の方が障害の特性に合わせた働き方を実現しやすいでしょう。
参考:厚生労働省「精神障害者雇用促進キャンペーンリーフレット」
特例子会社
特例子会社とは、障害者の雇用促進・安定を図るために、企業が設立した子会社のことをいいます。
先述の通り、一定規模以上の企業は法定雇用率を上回る障害者の雇用を義務付けられています。こうした企業が、特例子会社を設立し、一定の要件を満たす場合には、特例として子会社の障害者雇用を親会社の障害者雇用と見なして、実雇用率を算定できることとなっています。
特例子会社の場合、障害者の働く環境を整える設備投資を集中的に行えたり、親会社とは異なる労働条件を柔軟に設定したりすることが可能といわれています。能力を発揮しやすいように配慮された職場環境の中で働けるため、働きやすいといえるでしょう。
参考:厚生労働省「特例子会社」制度の概要
就労継続支援事業所
一般企業の障害者雇用や特例子会社で働くことが難しい場合は、就労継続支援事業所が活用できます。
就労継続支援事業所とは、一般企業で雇用されることが難しい場合に、就労の機会を提供したり、生産活動の機会を提供したりといった就労継続支援をする事業所のことです。
就労継続支援事業所の行なう支援には「就労継続支援A型」と「就労継続支援B型」とがあります。就労継続支援A型は、事業所と雇用契約を締結するもので、就労継続支援B型は事業所と雇用契約を締結しないものです。
A型では契約した事業所の勤務時間などのルールに従って働くこととなりますが、B型ではA型ほど事業所に合わせる必要はなく、体調に合わせて働くことが可能です。
うつ病の人が復職・転職する際のポイント
うつ病の人が復職や転職をする場合には注意したいポイントがあります。無理なく働くためにも、以下で紹介するポイントを押さえておくことが大切です。
体調が回復してから活動を始める
うつ病の人が復職や転職でつまづかないためにも、体調が十分に回復してから復職・転職活動を始めることが大切です。
うつ病を抱えながら復職や転職のことを考えると、つい気持ちが焦り、体調が回復しないうちに就労活動を始めてしまうことが少なくありません。しかし、症状が重い時は気持ちも不安定になりやすく、冷静な判断をすることが難しいといえます。
気持ちや体調が不安定なうちに慌てて復職や転職をして事態を悪化させないためにも、まずは体調の回復を優先させましょう。
リハビリ期間を作る
体調が回復してきたら、社会復帰に向けたリハビリ期間を設けることが大切です。特に復職までのブランクが長い場合は、ストレス耐性が弱くなっていることもあるため、いきなり職場復帰をすると大きなストレスを感じかねません。
復職・転職した際にスムーズに働けるように、生活リズムを整えたり、体力をつけたりといった準備を行うことが重要です。朝早く起きて夜早めに寝たり、軽作業や軽いトレーニングを行なったりするとよいでしょう。復帰に向けて徐々に体を慣らし、ストレス耐性を高めていくようにしましょう。
焦らずじっくり取り組む
復職や転職は、焦らずじっくり取り組むことが大切です。
症状が回復してくると「早く復帰しないと周囲に迷惑がかかる」と復職を急ぐ人は少なくありません。しかし、早々に復職したとしても、すぐに仕事を再開できるとは限らず、無理をして症状が再発することもあります。症状の再発や悪化を防ぐためにも、焦る必要はないといえるでしょう。
また転職の場合は、転職を急いでもよい求人がすぐに見つかるとは限らず、よい求人が見つかってもすぐに採用されるとは限りません。転職活動はもともと時間のかかるストレスの多い活動のため、急がず、時折休みながら取り組むのがよいでしょう。
勤務時間がある程度固定されている仕事を選ぶ
うつ病の人が復職や転職をする際には、勤務時間がある程度固定されている仕事を選ぶこともおすすめです。
うつ病では、生活リズムが狂ってしまうことが少なくありませんが、勤務時間が固定されている仕事に就くことで、規則正しい生活を送りやすくなるでしょう。安定した生活リズムですごすことで体調の安定にもつながります。
日によって勤務時間が異なるといった仕事や夜勤の多い仕事は生活リズムが崩れやすいため避け、働く曜日や時間が固定されている仕事を選ぶようにしましょう。
治療中の場合は事前に伝え、通院がしやすい仕事を選ぶ
復職や転職をした後も、うつ病の治療のためや、症状の悪化・再発を防ぐために通院をする人は少なくないでしょう。
治療中などで通院が必要な場合は、事前に職場に伝えるようにしましょう。事前に伝えることで、通院がしやすいように、時間を調整してもらったり、業務をサポートしてもらったりすることが可能です。
また、転職などで、新しい職場を選ぶ際には、通院しやすい勤務時間で働ける仕事や通院しやすい場所にある職場を選ぶなど、通院がしやすい仕事を選ぶことが大切です。
うつ病でも働ける場所はある!体調の回復を最優先し、じっくり取り組もう
うつ病でも向いている仕事は少なくない上、実際に働ける仕事が多くあることを紹介しました。無理なく働くために、一般企業の障害者雇用や特例子会社、就労継続支援事業所を利用することができます。
また、就労に向けて就労移行支援事業所や精神保健福祉センターなどの支援先を活用できたり、休職・退職中には傷病手当金や自立支援医療制度を活用できたりすることを紹介しました。
復職・転職後に症状を悪化させたり再発させたりしないためにも、これらの制度をしつつ、まずは体調の回復を最優先することが大切です。うつ病でも働ける場所はあるため、復職や転職については焦らず、じっくりと取り組むようにしましょう。
監修者コメント
うつ病はとてもポピュラーな疾患であり、世界では3億人以上、日本だけでも100万人以上の方が罹患しています。ですが、その割には、いざ罹患したときの周囲の方の理解や、職場対応は依然として準備不足なことが多いですね。やはり休むことが一番の治療であり、唯一の選択肢であることが多いため、しっかり休養を取ることをまずは目標にします。抗うつ薬という選択肢はありますが、それにばかり頼るわけにもいきません。まとまった期間を治療のために休むことは、多くの人にとって未体験なので、戸惑いやそう言われてもできないと思いがちですが、良くなるためには必要なことがほとんどです。うつ病発症の後にどのような仕事が適切か、は、ご自身の状況、症状の安定度、能力によっても様々です。ただ、近年は、抑うつや悲哀感、不安といった気分に関連した症状の回復に対して、集中力不足や頭の回転不足、意欲面の低下など、認知機能や実行能力といった面の症状が残りやすいことも知られてきました。回復の過程はゆっくり考えることが大事です。本記事にあるように、ゆっくり焦らずに社会復帰を目指してください。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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