パーソナリティ障害とは、物ごとの考え方や感じ方に、多くの人とは著しく異なっていたり、偏っていることがあり、それに基づく行動などのパターンが続くことで日常生活や人間関係に支障をきたす障害をいいます。パーソナリティ障害と一口にいっても特徴はさまざまで、アメリカ精神医学会の診断基準DSM-5では10種類のパーソナリティ障害に分類されます。
本記事ではそれぞれのパーソナリティ障害の症状の特徴について紹介します。また、パーソナリティ障害と似ているといわれる発達障害*との違いや、パーソナリティ障害の方に起こりやすい合併症についても解説します。ぜひ最後まで目を通してみてください。
パーソナリティ障害(パーソナリティ症)とは
パーソナリティ障害(パーソナリティ症)とは、物の感じ方や考え方、行動パターンがその人の属する文化圏で期待されるものと著しく異なることで、本人が大きな苦痛を感じたり、日常生活に支障が出たりする障害です。
誰にでも個性・パーソナリティというものがあって、特定の考え方や行動パターンを繰り返す傾向があります。通常は、もし自分のそうした個性が周囲にそぐわず悪い結果となることがあれば、その考え方や行動パターンを修正することができます。
しかし、パーソナリティ障害の場合は、その極端な個性が周囲にそぐわずトラブルを繰り返し起こすことになっても、融通がきかないため修正ができません。持続的に社会的不適応な行動を繰り返してしまうこととなります。
パーソナリティ障害の原因とは
パーソナリティ障害の原因は明確な1つの理由があるのではなく、下記のような原因がさまざまに絡み合っているといわれています。
- 生まれつきの気質や遺伝的要因
- 育ち方や家族との関わり方などの生育環境
- 社会状況・時代背景といった社会的要因
人は生まれつき気質があり、その気質には遺伝的要因も影響するといわれています。もともと持っていた気質に、子ども時代につらい思いをしたり、社会人になって仕事や人間関係がうまくいかなかったりという環境要因が絡まって、気質が強められるようです。
パーソナリティ障害は10種類に分けられる
パーソナリティ障害は、先にお伝えした通り10種類のタイプに分けられ、さらにそのタイプは症状の特徴に基づいて3つのグループに分類されます。
A群パーソナリティ障害、B群パーソナリティ障害、C群パーソナリティ障害の3つグループ別に、それぞれに属するパーソナリティ障害について紹介します。
A群パーソナリティ障害
A群パーソナリティ障害は、奇妙で風変わりな考え方や行動が特徴のパーソナリティ障害です。A群には、妄想性パーソナリティ障害・シゾイドパーソナリティ障害・統合失調型パーソナリティ障害の3つが含まれます。
・妄想性パーソナリティ障害
妄想性パーソナリティ障害とは、他人に対して極度な不信感を持つあまり、周囲とうまくコミュニケーションが取れないといった特徴を持つ障害です。
他者が自分に対して悪意をもって騙そうとしている、害を与えようとしていると根拠なく常に思い込む傾向があります。さらに、自分のこの考えを正当化するために、他者の行動を細かく調べるといった行動をとることも少なくありません。
妄想性パーソナリティ障害の発症には、小児期に心理的・肉体的虐待を受けたり、犯罪被害にあったりしたことが影響しているともいわれています。
臨床症例では女性よりも男性に多く見られる症状で、家族間で受け継がれる傾向が見られるとされています。
・シゾイドパーソナリティ障害
シゾイドパーソナリティ障害とは、社会や他人に無関心なうえ、対人関係において感情表現が乏しく、社会と関係を持ちたがらないという特徴のある障害です。
他者と親密になることに興味がなく、他者と一緒にいるよりも一人で過ごすことを好みます。他者から何をいわれても怒らなかったり、笑ったりうなずいたりすることもないため、冷淡・鈍感という印象を与えるものの、内面では苦痛を感じていることが少なくありません。
シゾイドパーソナリティ障害は、統合失調症や統合失調症型パーソナリティ障害を持つ人の親族に比較的見られるため、遺伝的要因が関わっている可能性があるといわれています。また、小児期に養育者から感情的に冷たく扱われたり、ネグレクトされたりしたことが、発症に影響しているとも考えられています。
・統合失調型パーソナリティ障害
統合失調型パーソナリティ障害は、人と親密な関係であることに居心地の悪さを強く感じたり、風変り・奇妙な行動をとったりする特徴のある障害です。
名称に「統合失調」とあるものの、統合失調症とは別物です。奇異な行動と、思考・感情の障害は統合失調症と似ていますが、統合失調症特有の異常はありません。
必要であれば人と関わるものの、人と親密な関係を築くのが苦手なため、近親者をのぞき、親しい友人や相談相手はいない傾向です。また奇妙な思考、知覚、会話がみられ、奇妙な信念に基づいて呪術めいた行為をしたり、話が曖昧かと思うと奇妙なフレーズを用いたり、奇妙な服装をしたりと独特の表現・行動が見られます。
B群パーソナリティ障害
B群パーソナリティ障害は、感情が激しく衝動的、あるいは移り気で、周囲を巻き込みやすい行動が特徴のパーソナリティ障害です。B群には、反社会性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害、演技性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害の4つが含まれます。
・反社会性パーソナリティ障害
反社会性パーソナリティ障害は、社会の規則やルールを守らなかったり他人を傷つけたりいじめたりすることに罪悪感を持たない障害です。
自分の行動による結果や他者の権利を軽視し、自分の利益や快楽のために、人を欺いたり痛めつけたり、人の物を盗んだり破壊したりします。悪質で無謀な行動をとっても良心の呵責を感じることはありません。
発症には、遺伝子的な要因のほか、小児期の逆境などといった環境的な要因が関わっているといわれています。
幼児期に暴力やネグレクトといった虐待を日常的に受けていると、道徳心や倫理観が育たず、人の痛みを理解することができません。その結果として成長後、反社会的行動を取ると考えられています。
なお、家族に反社会性パーソナリティ障害の人がいると発症しやすいともいわれています。
・境界性パーソナリティ障害
境界性パーソナリティ障害とは、自分が見捨てられることを恐れて、感情や人間関係における反応が不安定、あるいは衝動的になる障害のことです。
人とのやり取りの中で、ちょっとしたことで急激に怒りだしたり傷ついたりと、気分や感情の変動が激しくなるため、周囲がついていけずにトラブルとなることも少なくありません。
相手を思いやる行動はできるものの、相手が自分から離れていくと感じると、不安や怒りに襲われ、かんしゃくを起こしたり自殺未遂を起こしたりと激しい行為に走る傾向があります。
発症には、小児期に受けた身体的・性的虐待やネグレクト、養育者との分離、片親の喪失といった病歴が関係しているといわれています。
・演技性パーソナリティ障害
演技性パーソナリティ障害とは、継続的に他人から注目されたいために、不適切に誘惑的・挑発的な行動をしたり、自分を大げさに表現したりする障害のことです。
注目の的になっていないとひどく落ち込んだり不快感を覚えたりするため、嘘をついたり、大げさな物言いをしたり、派手で挑発的な装いをしたりと注目を惹くための努力を厭いません。
強い意見や大げさなことを言う一方で、話に内容がなかったり意見を裏付ける根拠がなかったりするため、浅はかな印象を与えることもあります。
発症の原因は明らかになっていないものの、幼少期に保護者からの愛情が十分に得られなかったことや、個人の性格的要因、教育環境などが関係しているといわれています。
・自己愛性パーソナリティ障害
自己愛性パーソナリティ障害とは、自分を過大評価して優越感や過剰な賞賛を得たがる一方で、他人を過小評価し思いやることができない症状が特徴の障害です。
自分が特別だと思う認知の偏りが見られ、自尊心に問題を抱えているケースが少なくありません。
自分の優越感や自尊心を高めるために、特別な人物や組織と関わろうとしたり、他者を低く評価したりします。自分を特別扱いすることを求めたり、部下を過剰に見下し叱責したりするといった行動が見られ、本人より周囲が辛い立場を訴えることも少なくありません。
発症原因の断定は難しいとされるものの、小児期に養育者から過度に批判されて育ったり、反対に過度に賞賛されて育ったりして、自己愛が成熟していないためともいわれています。
C群パーソナリティ障害
C群パーソナリティ障害は、不安や恐怖心が過度に強い点が特徴です。C群に含まれる回避性パーソナリティ障害・依存性パーソナリティ障害・強迫性パーソナリティ障害の3つについて詳しく解説します。
・回避性パーソナリティ障害
回避性パーソナリティ障害とは、自己を拒絶されたり批判されたりすることに恐怖心を抱き、社会的状況や人との交流を避けようとする特徴を持つ障害です。
他者に受け入れられたいという思いが強いものの、重度の自意識過剰や不安から、あえて人付き合いや自分の意見を言うことを避けようとします。とにかく批判や否定、恥をかくことに耐えることができません。
仕事において、失敗を恐れて会議に参加しなかったり、同僚の嫉妬心や批判を気にするあまり昇進を拒否したりすることもあります。
原因は、明確ではないものの、遺伝要因と生まれ育った環境要因との相互作用で発症するとも言われています。
幼児期から臆病だった人、また、小児期に保護者から褒められた経験があまりなかったり、学校でいじめにあったりして、長く他者から否定されてきた人に多く見られるようです。
・依存性パーソナリティ障害
依存性パーソナリティ障害とは、自分自身での判断や決断ができず、誰かに面倒をみてもらいたいと依存・服従する特徴のある障害です。
誰かの支えを得たいという強い欲求のために、相手に服従したりしがみついたりする行動に出ます。自分で自分の世話ができるとは思っておらず、自分の面倒をみてくれる人と離れることを極端に恐れる傾向があります。
依存性パーソナリティ障害の原因は明確でないものの、文化的要因や、幼児期の否定的な体験、不安を抱えやすい先天的傾向が影響している可能性があるといわれています。
また、服従性や控えめな行動など、家族内で受け継がれた特性が寄与しているとも考えられています。
・強迫性パーソナリティ障害
強迫性パーソナリティ障害とは、完璧であることや秩序にこだわるあまり、柔軟性や開放性、効率性に欠き、仕事や計画が終わらないといったトラブルを生じやすい障害です。
自分なりの完全主義を追求するために規則や手順、形式にこだわります。また、自分が物事を正確にコントロールできる状態にあることを必要とし、他者の手助けを信用せず拒絶する傾向があります。
計画や活動の全体像よりもルール、段取りを重視するために、しばしば最も重要な仕事や課題を最後まで残すことも少なくありません。
強迫性パーソナリティ障害は最も多いパーソナリティ障害の1つと考えられています。発症原因は定かではないものの、家族内で受け継がれる一定の特性(強迫性、完全主義など)が影響しているともいわれています。
パーソナリティ障害と発達障害との違い
パーソナリティ障害が、遺伝的要因だけでなく環境要因との相互作用などによって徐々に形成されるのに対し、発達障害は生まれつきの脳機能の障害とされる点で異なります。
とはいえ、パーソナリティ障害と発達障害は、似ているとされる症状が少なくありません。
例えば、A群パーソナリティ障害のシゾイドパーソナリティ障害は自閉的な要素がASD(自閉スペクトラム症)と似ているといわれています。
また、C群の強迫性パーソナリティ障害もASDのこだわり行動と似ています。さらにいうと、C群全体が、他者とのコミュニケーションを苦手とする発達障害と似ているので、混同されやすいといえるでしょう。
このため、パーソナリティ障害と思っていたケースでも、実際に医療診断を受けると発達障害と診断されることが少なくありません。
パーソナリティ障害の方に起こりやすい合併症
パーソナリティ障害であることによって、起こりやすい合併症があります。
パーソナリティ障害は、職場や家庭などにおける人間関係で問題を起こしやすく、ストレスを抱えやすいため、下記のような症状を引き起こすことがあるといわれています。
- 不安障害
- 抑うつ状態
- うつ病
- 統合失調症
- アルコール依存症
- 摂食障害
パーソナリティ障害に加えて上記のような疾患を抱えている場合は、個別の対処をしても治療が効きにくくなるため、注意が必要です。
パーソナリティ障害の治療
パーソナリティ障害の治療は、基本的に精神療法となります。
精神療法とは、化学的な手段や物理的な手段でなく、人との対話や訓練などを通して認知や行動などに変化をもたらす方法です。
抑うつや不安などの症状を和らげるのに、薬が用いられることがあるものの、薬では、パーソナリティ障害を治療することはできません。
なお、パーソナリティ障害の治療の一般原則としては、下記点が治療目標とされています。
- 苦痛の緩和
- 起きている問題の原因が自分にあると自分自身が理解できるよう支援する
- 社会的不適応と思われる行動を減らす
- パーソナリティ特性を是正する
パーソナリティ障害の治療を進めやすくするためにも、現状の抑うつや不安などをまず緩和させることが第一の目標となります。
なお、「境界性パーソナリティ障害」「反社会性パーソナリティ障害」「回避性パーソナリティ障害」の場合は、まず行動を変化させることが最も重要とされています。
パーソナリティ障害でお悩みの方は支援機関や医療機関に相談してみよう
パーソナリティ障害とは、一般的に期待されるものと大きく異なる考え方や感じ方、行動などのパターンが続くことで生活や人間関係に支障をきたす障害のことです。パーソナリティ障害には10種類のパターンがあり、症状はさまざまです。
もしパーソナリティ障害でお悩みの場合は、一人で抱え込まないで支援機関や医療機関に相談することがおすすめです。専門機関のサポートを受けることでつらい状況から抜け出せるきっかけが掴めるでしょう。
相談窓口としては、医療機関のほか、各都道府県に設置されている精神保健福祉センターの「心の相談窓口」が利用できます。無料で気軽に相談できる窓口のため利用を検討してみてください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
パーソナリティ障害は診断基準の中でも非常に特殊だと感じます。診断基準上にあるとはいえ、パーソナリティという言葉は人格そのものを指しているようにも感じられてしまいます。本文で示されているように実際にはその人の全人格を指すものとは違いますね。
また、定義からして長期に渡って持続的に存在していることから、他の大部分の診断のように、ある時点から生じて診断に至る、というコースをたどるわけでもありません。文化的な面を考慮する必要があることも多く、国や文化圏が違えば、パーソナリティの偏りとは言えないということもあるでしょう。そういうこともあり、実際に精神科の診察場面で診断するということは滅多にない印象です。それよりは本文にある通り、何がしかの苦痛が日常生活の中にあり、かつそれが客観的にはパーソナリティの面も考慮しないと説明付かない中で話題に上ることがある、という程度が大部分と思いますね。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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