就労継続支援A型は、障害や難病のある人を対象とし、就労訓練や就労機会を提供する障害福祉サービスです。障害者総合支援法により定められている就労支援サービスの1つで、利用者は雇用契約を結び、一定の支援やサポートのある就労継続支援事業所で働くことができます。
本記事では、就労継続支援A型の概要や対象者、仕事内容、事業所の選び方など利用方法について詳しく解説します。どんな人が就労継続支援A型に向いているのかも紹介しているので、自分に合った就労支援サービスを選ぶための参考にしてください。
就労継続支援A型とは?
就労継続支援A型とは、病気や障害のある人で、一般就労が難しい場合に就労支援や就労機会を提供する福祉支援サービスです。一定の支援を受けられる就労継続支援事業所(事業所)で雇用契約を結んで就労します。
障害者総合支援法で定められている就労支援サービスの1つで、利用には各自治体の障害福祉窓口へ申し込みする必要があります。
就労継続支援A型はどんな人が利用できる?障害手帳がなくても利用可能?
就労継続支援A型の対象者は、「身体障害や知的障害、発達障害*を含む精神障害、難病などにより一般就労が難しいものの、適切な支援を受けながら雇用契約に基づく就労が可能である人」とされています。具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
“
① 移行支援事業を利用したが、企業等の雇用に結びつかなかった者
② 特別支援学校を卒業して就職活動を行ったが、企業等の雇用に結びつかなかった者
③ 就労経験のある者で、現に雇用関係の状態にない者
”
また、原則として18歳以上64歳以下が対象でしたが、2018年4月以降は65歳以上でも条件を満たせば利用できると変更されています。
“65歳に達する前5年間障害福祉サービスの支給決定を受けていた者で、65歳に達する前日において就労移行支援の支給決定を受けていた者は当該サービスについて引き続き利用することが可能。”
就労継続支援A型を利用するために障害者手帳は必須ではなく、「障害福祉サービス受給者証」をもって利用できる場合があります。
障害福祉サービス受給者証の申請や発行条件は厳密には自治体によって異なりますが、基本的には障害者手帳や自立支援医療受給者証、医師が発行した診断書といった障害や疾患を証明する書類を提出します。
就労継続支援A型の利用者はどんな人が多い?
厚生労働省の資料「障害者の就労支援について(2021年発表)」によると、就労継続支援A型の利用者全体に対し、身体障害者と知的障害者が占める割合は減少傾向にあります。一方で、 精神障害者の利用割合は増加しており、2020年の調査結果では47.8%を占めています。
就労継続支援A型の利用者数自体は、2015年の約5.5万人から2020年は7.5万人へ増加しています。中でも、精神障害者は2.4万人から3.6万人へ増加しました。
また、年齢階層別の利用者分布の推移を見ると、就労継続支援A型では40歳以上の利用者が増えており、2020年の調査結果では、54.7%となっています。特に50歳以上65歳未満の利用割合において増加傾向は顕著です。
就労継続支援A型はどんな人に向いている?
就労継続支援A型は、支援を受けながら仕事に取り組むことができ、給料をもらえるのが特徴です。そのため、次のような人に向いています。
- 今すぐ一般企業で働くのは難しいが、働く意欲はある
- 支援を受けながら仕事をしたい
- 訓練を行いながら収入を得たい など
就労継続支援A型以外にも、就労関連の障害福祉サービスは複数あります。それぞれ向いている人が異なるので、上記に当てはまらない人は他のサービスのほうが適しているかもしれません。
就労継続支援A型と他の障害福祉サービスとの違いについては後ほど詳しく解説するので、そちらも参考にしながら自分に合ったサービスを探してみてくださいね。
就労継続支援A型の仕事内容・勤務時間
就労継続支援A型の仕事内容は、雇用契約を結ぶ事業所によって異なりますが、例として以下のようなものがあります。
- パンやお菓子などの製造
- パソコンを使ったデータ入力代行
- カフェやレストランのホールスタッフ
- Webサイトのデザイン制作
- 車部品などの加工業務
- 商品のパッキング・発送作業
- 清掃業務
就労継続支援A型の勤務時間は、1日あたり約4〜6時間が目安で、一般就労よりも比較的短めです。勤務時間が長くなるほど受け取れる賃金は上がりますが、体調や体力に合わせて無理のない範囲で短時間の労働を行うケースが多い傾向にあります。
就労継続支援A型の給与・工賃はどれくらい?
厚生労働省の「令和4年度工賃(賃金)の実績について 」によると、2022年度の就労継続支援A型の平均賃金は、月額が83,551円、時間額は947円でした。前年比は月額、時間額とも102.3%と向上しています。また、平均賃金の推移を見ると、2014年度の66,412円から右肩上がりで増加しています。
就労継続支援のもう1つのタイプであるB型は、月額17,031円、時間額243円であり、比較するとA型の方が大幅に高くなっています。これは、就労継続支援A型において最低賃金以上が保障されていることが要因の1つです。
就労継続支援A型の利用料
就労継続支援A型の利用料は、事業所に通所する日数と、利用者本人とその配偶者の所得を合わせた世帯収入によって異なります。通所日数が多いほど利用料は上がる傾向にあります。
ただ、障害福祉サービスの自己負担は、所得に応じて以下のように無料または上限が設定されています。
世帯の収入状況 | 負担上限月額 | 収入の目安 |
生活保護受給世帯 | 0円 | 給与収入の場合おおむね年収100万円以下、障害者は給与収入の場合おおむね年収200万円以下 |
市町村民税非課税世帯 | 0円 | |
市町村民税課税世帯 | 9,300円 | おおむね年収600万円未満 |
上記以外(20歳以上の入所施設利用者、グループホーム利用者を含む) | 3万7,200円 | おおむね年収600万円以上 |
就労継続支援A型の利用期間に制限はある?
就労継続支援A型は、利用期間の制限がありません。利用する事業所と雇用契約を結んでいる限り、同じところで働き続けることができます。
ただし、事業所との雇用契約が有期である場合は、契約が更新されるかによって利用期間が変わる点に注意してください。もし雇用契約が更新されなかった場合、同じ事業所で働き続けることはできません。
就労継続支援A型と他の障害福祉サービスとの違い
就労に関する障害福祉サービスには、就労継続支援A型の他に以下があります。
- 就労継続支援B型
- 就労移行支援
- 就労定着支援
各サービスの概要や主な特徴は以下表の通りです。
就労継続支援A型 | 就労継続支援B型 | 就労移行支援 | 就労定着支援 | |
対象者 | 1. 移行支援支援サービスを利用して就職活動を行っても企業等の雇用に結びつかなかった人2. 特別支援学校を卒業して就職活動を行ったが、企業等の雇用に結びつかなかった人3. 就労経験のああり、現在は離職している人 | 1.就労経験があり、年齢や体力面で一般企業での雇用が困難な人2. 50歳以上または障害基礎年金1級受給者3. 1および2に該当せず、就労移行支援事業者等によるアセスメントにより、就労面に係る課題等の把握が行われている人 | 一般就労を希望する人(2016年4月より65歳以上でも要件を満たせば利用可能) | 就労移行支援、就労継続支援、生活介護、自立訓練の利用を経て一般就労へ移行した障害者で、就労に伴う環境変化により、日常生活や社会生活上の課題が生じている人で、かつ一般就労後6ヶ月を経過した者 |
利用期間 | 制限なし | 制限なし | 2年※必要性が認められた場合は最大1年間の更新可能 | 3年 |
雇用契約 | あり | なし | – | – |
事業所数 | 4,575事業所(国保連データ令和5年12月) | 17,059事業所(国保連データ令5年12月) | 2,941事業所(国保連データ令5年12月) | 1,616事業所(国保連データ令5年4月) |
利用者数 | 88,967人(国保連データ令和5年12月) | 348,016人(国保連データ令和5年12月) | 36,667人(国保連データ令和5年13月) | 16,867人(国保連データ令5年12月) |
参考:厚生労働省「就労系障害福祉サービスの概要」
ここからは、就労継続支援A型と他の支援サービスの違いについて解説します。
就労継続支援B型との違い
就労継続支援B型は、病気や障害のある人が、雇用契約を結ばずに働くことができる障害福祉サービスです。就労継続支援A型とB型とでは、雇用契約の有無や賃金、利用対象者などに違いがあります。
A型では事業所と雇用契約を結んだ上で労働するため、雇用契約を結ぶA型では最低賃金以上が保障されています。一方、B型は雇用契約を結ばないため、事業所などによって月額工賃や時間給は変わります。また、B型の利用条件はA型とは異なっています。
就労移行支援との違い
就労移行支援とは、障害や難病のある人が一般企業への就労に向けた支援を受けられる障害福祉サービスです。雇用関係はなく、全国各地の事業所に通いながら、職業訓練や就職に関する指導を受け、一般企業への就職を目指せます。
働くための知識やスキルの習得、職場見学や実習体験、職場探しや就職活動のサポートなど幅広いサービスがあり、個人が希望する支援を受けられます。また、就職後も長く働けるよう定着支援を行うケースも少なくありません。
就労移行支援が、一般企業などでの就労を目指した支援サービスであるのに対し、就労継続支援A型は事業所での就労により賃金を得られるサービスです。また、就労移行支援のサービス提供期間は2年と決まっていますが、就労継続支援A型に期間の制限はありません。
なお、就労移行支援は現時点で就労している人は対象外であり、就労継続支援A型と併用することはできない点にも注意が必要です。
就労定着支援との違い
就労定着支援とは、就労継続支援や就労移行支援、自立訓練サービスなどを活用し、一般企業に雇用された人を対象とした障害福祉サービスです。就職が決まった後、長く安定して働くことを目的として、労働に関する悩みやトラブル対応、職場へのフォローといったサポートを提供します。
就労継続支援A型は、事業所と雇用契約を結ぶことで利用がスタートしますが、就労定着支援の場合は就労移行支援後6ヶ月を経過し、さらに半年後から利用することが可能です。また、就労継続支援A型の利用期間の制限はないのに対し、就労定着支援の利用期間は最長3年と決まっています。。また、就労継続支援A型の利用期間の制限はないのに対し、就労定着支援の利用期間は最長3年と決まっています。
就労継続支援A型のメリット・デメリット
就労継続支援A型にはメリットとデメリットの両方があるため、利用する前に確認しておきましょう。特にデメリットについて把握しておかなければ、利用を開始してから「思っていたのと違った」と後悔してしまう可能性があります。
ここでは就労継続支援A型のメリット・デメリットをそれぞれ紹介するので、利用する障害福祉サービスを選ぶ際の参考にしてください。
就労継続支援A型のメリット
就労継続支援A型のメリットには、次のようなものがあります。
- 地域の最低賃金以上の給料が支払われる
- 自分に合ったペースで支援を受けながら働ける
- 働きながら一般企業への就職も目指せる
就労継続支援A型の大きなメリットは、給料がもらえることです。事業所と雇用契約を結ぶため、その地域の最低賃金以上の給料が保証されます。
事業所には職業指導員が在籍していて、それぞれの特性や状況を考慮して適切なサポートが受けられるのもメリットです。
事業所での仕事によって習得したスキルを活かして、一般企業への就職を目指すこともできます。収入を得ながら就職に必要なスキルを身につけられるのも、大きなメリットでしょう。
就労継続支援A型のデメリット
就労継続支援A型の利用を検討している人は、次のようなデメリットに注意してください。
- 一定の体力や能力が求められる
- 事業所の数が少ない
就労継続支援A型は事業所雇用契約を結んで働くため、一定の体力や能力が必要です。「継続して事業所に通うのが困難」といった人は、利用が難しいでしょう。
就労継続支援A型は、事業所の数が少ないのもデメリットです。令和5年12月実績の事業所数は、就労継続支援B型が17,059箇所あるのに対して、就労継続支援A型は4,575箇所となっています。就労継続支援A型を利用したいと思っても、自宅から通いやすい事業所が見つからないかもしれません。
参考:厚生労働省「就労系障害福祉サービスの概要」
就労継続支援A型の利用の流れ
ここからは、実際に就労継続支援A型を利用する流れについて解説します。利用を希望する場合は、事業所と住んでいる自治体の障害福祉窓口にて手続きが必要になり、場合によっては利用開始まで時間を要するため、計画的に準備を進めましょう。
事業所を探す
まず、就労を希望する事業所を探します。市区町村の障害福祉窓口やハローワーク、インターネット検索を活用して、住んでいる地域にどのような事業所があるのか調べてみましょう。
事業所によっては応募前に見学や体験実習ができるため、事業所の雰囲気やスタッフの支援などを把握するために活用しても良いでしょう。
希望する事業所へ応募する
利用したい事業所を見つけたら、就労希望の旨を伝えるために連絡しましょう。応募方法や選考の流れを確認し、履歴書を送って面接などの選考を受けます。面接では通常、病気や障害によって必要な配慮や就労可能時間などのヒアリングが行われます。
なお、空きがないなどの理由で利用できない可能性もあるため、連絡の際に確認しておくとスムーズでしょう。
自治体の障害福祉窓口で利用申請を行う
事業所の利用が決まったら、市区町村の障害福祉窓口で利用申請を行います。就労継続支援A型を利用するためには、自治体に「障害福祉サービス受給者証」を発行してもらう必要があります。
障害福祉サービス受給者証の発行に時間がかかる場合もあるため、申請のタイミングについて事前に事業所へ相談しておくと安心でしょう。
窓口では、担当職員による生活状況などのヒアリング調査を受け、どのような利用意向があるのかを説明する「サービス等利用計画案」を提出します。サービス等利用計画案の作成は、特定相談支援事業者に依頼することも可能です。
事業所と契約を結ぶ
市区町村の障害福祉窓口で申請した後、利用サービスの内容が通知され、受給者証を受け取ります。その後、事業所での仕事内容や勤務時間、賃金などの条件を確認し、問題がなければ雇用契約を結んで勤務開始となります。
就労継続支援A型の事業所を選ぶポイント
就労継続支援A型の事業所は多数あり、それぞれで特徴が異なります。ここでは、自分に合った職場を見つけるためのポイントを紹介します。
仕事内容や給与
事業所によって、仕事内容や求められる能力は異なります。また、同じ職種でも具体的な作業内容が異なる場合もあります。契約後に「思っていた仕事と違う」とならないために、事業所見学などの際に仕事内容を確認しましょう。
就労継続A型では最低賃金が保障されていますが、具体的な給与は事業所や仕事内容によって変わるため、事前に聞いておきましょう。
事業所までの通いやすさ
事業所までの通勤時間や交通費を調べて、無理なく通えるか確認しておくことも大切です。仕事が決まったら、働くために週に何度も通うことになります。せっかく仕事が決まっても、事業所が遠すぎると通勤が苦痛になってしまう可能性があります。
自宅から事業所への行き方を把握し、電車やバスなどの交通機関と交通費について確認しておきましょう。事業所によっては交通費が支給されるケースもあるため、事前に聞いておくことをおすすめします。
事業所の雰囲気や相性
事業所の利用者やスタッフの雰囲気が自分に合っているかどうかは、長く働く事業所を決める上で重要なポイントです。忙しすぎる、反対に時間に余裕がありすぎる、など希望と違う職場ではストレスになる可能性もあります。
事業所見学の際に、自分が実際に働くことを想定して継続的に利用できる場所であるかを確認しましょう。
就労継続支援A型から一般就労へ移行できる?
就労継続支援A型を利用した後、一般企業などで働く一般就労へ移行する方法もあります。
厚生労働省の資料「就労支援施策の対象となる障害者数/地域の流れ」によると、就労継続支援A型だけでなく、B型や就労移行支援も含めた就労系障害福祉サービスから一般就労へと移行した人数は増加しています。令和元年には、移行者数が初めて2万人を超えました。
また、サービス利用終了者のうち、一般就労へ移行した人の割合は就労継続支援A型・B型ではほぼ横ばいか低下傾向にありますが、就労移行支援では5割を超え、徐々に上昇しています。
就労系障害福祉サービスを利用しながら、一般就労に必要な能力やスキルを身に着け、一般就労への移行を目指すことは可能であると言えます。
就労継続支援A型から一般就労への移行を目指し、面接練習やトレーニングを実施している事業所もあります。
ただし、一般就労への移行にどの程度力を注いでいるかは事業所によって異なる点に注意してください。「事業所で戦力となって働いてくれているので抜けられると困る」「福祉的な支援で手一杯で、就職支援までスタッフの手が回らない」といった理由から、一般就労への移行に注力できていない事業所もあります。
将来的に一般就労を目指す場合は、毎年何人が就職しているかなどを確認したうえで事業所を選ぶようにしましょう。
一般就労が難しい場合は就労移行支援A型の利用も検討してみよう
一般就労が難しい場合は就労移行支援A型の利用も検討してみよう
就労継続支援A型は、病気や障害のある人が事業所と雇用契約を結んだ上で、一定のサポートを受けながら就労する障害福祉サービスです。雇用契約を締結するため最低賃金以上が保障されており、給与をもらいながら一般就労に必要なスキルや能力を習得することもできます。
サービスの利用に障害者手帳は不要ですが、障害福祉サービス受給者証をお住まいの市区町村の障害福祉窓口にて発行してもらう必要があります。事業所を探す際には、見学や体験を通してサポート内容や具体的な仕事を確認し、自分に合った事業所や仕事を見つけることが大切です。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
就労継続支援A型は以前、A型作業所と呼ばれていました。コラムにあるように病気は落ち着いているけれども、まだ就労するまでには至っていない方々の働く場所として機能しています。とはいえ、就労継続支援A型の勤務時間は一般就労より短いものの、週5日勤務であるところが多く、患者さんにはそれなりの体力が必要となります。
もし就労継続支援A型で働くのが難しいと感じた場合、そこは無理せずB型で働くことも検討なさってみてはいかがでしょうか。収入面を心配される患者さんもいらっしゃいますが、まずは定期的に働くことができると自信を持つことができ、A型や就労移行支援事業所へのステップアップに繋がりやすいと言えます。
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。
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