重度知的障害とは?診断や利用できる支援・制度を解説

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重度知的障害とは、知的能力に障害があり、日常生活や社会生活に大きな影響が出る症状です。特別な支援や配慮が必要になるため、重度知的障害を持つ人やその家族は、行政や民間の福祉サービスや特別手当などを積極的に利用したほうがよいといえるでしょう。

そこで本記事は重度知的障害とは何か、知的障害の種類や特徴、原因や診断などを解説し、続いて重度知的障害者が利用できる支援や制度を紹介します。

重度知的障害とは

重度知的障害は知的障害の一種で、知的水準や日常生活の能力に比較的重い問題が出る症状です。知的障害の定義は統一されておらず、さまざまな機関が独自の定義と障害の程度の区分をしています。その理由は、下表のように機関によって定義の目的が違うからです。

機関主な目的
アメリカ精神医学会DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)で精神障害の診断基準を定めるため
世界保健機関(WHO)保健について指示、啓もうするため
文部科学省知的障害に応じた教育的対応をするため
厚生労働省各種の支援、制度を運用するため

しかし、いずれの知的障害の定義でも、以下の点は共通です。

  1. 同年齢の人に比べて認知や言語に関わる知的機能に遅れがみられる
  2. 日常生活、社会生活などの適応能力が不十分
  3. 特別な配慮や支援が必要な状態

重度知的障害を持つ人は、上記1~3が比較的重い状態にある人といえます。

知的障害の種類と特徴

本記事は、重度知的障害の方が利用できる支援や制度について知りたい方に向けたものですので、厚生労働省による知的障害の定義や分類を解説します。厚生労働省ではIQ(知能指数)と日常生活能力によって、重度知的障害を4つに分類しています(下図)。

引用:厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査:調査の結果」

上図のIQとは知能検査の結果を数値化したものです。IQは「精神年齢÷生活年齢×100」で計算され、例えば10歳の子どもが知能検査上で10歳までの問題を解ければIQ100(標準的な知能)、5歳までの問題が解ければIQ50のように算出されます。

また、a~bは支援や配慮が必要な度合いを示す区分です。aが最も支援や配慮が必要な区分で、dが最も自立的な生活ができることを表します。

知的障害の4つの区分の概要や特徴を解説します。

軽度知的障害

厚生労働省の定義において、軽度知的障害は最も障害が軽い種類です。就学前の子どもの場合、障害者だとはっきりわからないケースもめずらしくありません。

軽度知的障害には以下のような特徴があります。

IQ51~70
知的能力・簡単な読み書きや計算がほぼできる
・会話や簡単な文通が可能
身辺生活・食事・身支度・衛生面などが年齢相応にできる
学業、就業・単純な作業であれば可能

中度知的障害

中度知的障害では、知的能力にややはっきりとした遅れがみられます。特徴は以下のとおりです。

IQ36~50
知的能力・簡単な読み書きや計算が部分的にできる
・会話や簡単な文通が可能
身辺生活・食事・身支度・衛生面などの大部分が年齢相応にできる
学業、就業・単純な作業であればできる

重度知的障害

重度知的障害の人は、一般的な学業や就業などの社会的生活がむずかしい状態といえます。日常的な介助者が必要で、興奮による乱暴行為や強いこだわりなどがある人もいます。

IQ21~35
知的能力・簡単な読み書きや計算のごく一部ができる
・コミュニケーションがむずかしい
身辺生活・支援を受ければ、食事・身支度・衛生面などができる
学業、就業・簡単な手伝いであれば可能

最重度知的障害

最重度知的障害の人は周囲の状況を理解したり、それに応じて行動したりすることがむずかしい状態です。最重度知的障害の人の多くは、視覚障害や聴覚障害、てんかんなどの身体的障害も持っています。

IQ21~35
知的能力・簡単な読み書きや計算が不可能
・コミュニケーションがほぼできない
身辺生活・介助を受けないと食事・身支度・衛生面などのほとんどが不可能
学業、就業・簡単な手伝いであれば可能

重度知的障害の原因と診断

重度知的障害の人に必要な支援や対応をしたいときは、重度知的障害の原因や、どのように診断されるのかを知っておくと役立ちます。ここで説明するのはあくまで概要に過ぎないため、詳しい原因や診断は医師や専門家に相談することをおすすめします。

原因

重度知的障害の原因としては、先天的な要因や後天的な要因があります。また、突発的な要因や生理的要因によって障害の状態が変わる場合もあり、原因を特定するのがむずかしい場合もあります。

個人によって原因は違いますが、代表的な例を挙げると以下のとおりです。

種類原因例
先天的な要因・染色体異常、遺伝・代謝異常・胎児期の感染症(先天性の風しんなど)・脳の奇形など
後天的な要因・外傷性の脳挫傷・てんかん発作・けいれん性疾患・感染症(ポリオ、麻疹、百日咳など)など
突発的要因、生理的要因・障害と環境とのミスマッチ・人や対応とのミスマッチなど特に基礎疾患がないもの

診断

医師による重度知的障害の診断は、医学的な診断と福祉的な捉え方での診断の2つがあります。

医学的な診断では、IQ(知能指数)や、原因の特定、疾患の有無などが診察されます。また、知的能力の評価のほかに、運動能力や手足の操作性など身体的な診断も併せて行われるのが一般的です。

一方、福祉的な捉え方での診断とは、必要な支援やその度合いを見極めるために行われます。福祉的な捉え方での診断は、以下の3つの領域があります。

領域診察する内容
概念的領域読み書き、計算、記憶、判断などの能力
社会的領域コミュニケーション能力や、社会的な判断能力
実用的領域時間管理、金銭管理、行動管理、セルフケアなど実生活に必要な能力

たとえば、障害者手帳の発行に必要な医師の診断書・意見書には、これらの福祉的な観点が欠かせません。

重度知的障害の方が受けられる支援・制度

特別な支援や配慮が必要な重度知的障害の人に対しては、さまざまな支援や手当、相談窓口が用意されています。ここでは代表的な支援制度を6つ紹介します。

療育手帳

療育手帳とは、知的障害があると判定された人に交付される障害者手帳です。自治体によっては「愛の手帳」や「愛護手帳」とも呼ばれています。知的障害は成長発達期までに現れるケースが多いので、未成年のうちに療育手帳を取得するのが一般的です。

重度知的障害がある人が療育手帳を取得すると、以下のように多岐にわたる支援を受けられます。

  • 所得税、住民税、相続税が優遇される
  • 一部の公共交通機関、宿泊施設の利用料が割引になる
  • 一部の公共料金が割引になる
  • 障がい者雇用枠での採用や就労支援を活用できる

療育手帳は児童相談所または知的障害者更生相談所で申請し、取得後は2年ごとに更新手続きが必要です。

障害年金

障害年金とは、病気やケガにより生活や仕事が制限されたときに、現役世代でも受け取れる年金です。国民年金の加入者は「障害基礎年金」、厚生年金に加入している人は「障害厚生年金」として受け取ります。

障害基礎年金の年金額は以下のとおりです。

区分支給額
1級102万円+子の加算額
2級86万6,000円+子の加算額
子の加算額1人につき23万4,800円、3人目以降は1人につき7万8,300円

※昭和31年4月2日以後生まれの人に対して令和6年4月分から適用される額

障害年金を受け取るには、市区町村の役所の窓口に年金請求書を申請します。病気やケガをした時期や保険料の納付状況などの要件があるので、事前に確認しておくとよいでしょう。

参考:日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」

特別障害者手当

特別障害者手当とは、重度の障害があり、日常生活で常に介護を必要とする状態にある20歳以上の人に支給される手当です。ただし、病院に入院している人や介護施設に入所している人は対象外です。また、所得が多いと手当を受け取れない場合があります。

支給金額は令和5年4月からは2万7,980円です(令和6年4月時点)。変更される可能性があるので、厚生労働省か地方自治体のホームページで最新情報を確認してください。特別障害者手当の申請先は、住んでいる地域の福祉事務所です。

知的障害者更生相談所

知的障害者更生相談所とは、知的障害者の自立と社会参加を支援するための活動をしている公的機関です。全国の都道府県に設置されています。

知的障害者更生相談所では、学校や職場での不適応行動や困った状況への専門的な見地からの助言、指導を受けたり、進学や就職について相談したりできます。相談する際は、通常、事前の予約が必要です。

また、先に紹介した療養手帳を交付しているのも、この知的障害者更生相談所です(申請先は市区町村の役所窓口)。

成年後見人制度

成年後見人制度とは、知的障害や精神障害、認知症などがあり、自分1人では適切な判断や行動ができない人が、成年後見人等と呼ばれる人から保護・支援を受ける制度です。成年後見人等になる人は、家族や親戚のほか、福祉や法律の専門家です。

具体的には、以下のような事柄をサポートしてもらえます。

  • 財産管理:預貯金の管理、賃貸物件の契約、遺産分割協議、納税など
  • 身上保護:介護・福祉サービスの利用契約、施設への入所、入院の手続きなど

しかし、買い物や介護といった日常的な支援は対象外なので注意しておきましょう。

相談先に関しては、成年後見人になる人が家族や親戚、福祉の専門家の場合は、市区町村や社会福祉協議会、権利擁護センターなどの相談窓口です。また、法律の専門家に成年後見人になってもらう場合は、弁護士や司法書士などの事務所に連絡します。

障害福祉サービス

障害福祉サービスとは、知的障害を含む障害者への支援を定めた「障害者総合支援法」にもとづく福祉サービスです。主なサービスは「訓練等給付」と「介護給付」の2つです。

サービス概要具体的な制度
訓練等給付日常生活や社会生活に必要な訓練、指導を提供・就労支援(就労移行支援、就労継続支援など)
・自立訓練(機能訓練、生活訓練など)
・居住訓練(自立生活支援、共同生活支援など)
介護給付日常生活や社会生活に必要な介護、支援を提供・訪問介護(居宅介護、行動援護など)
・日中活動(療養介護、生活介護、短期入所など)
・施設入所支援

このように障害福祉サービスは多彩ですので、本人やその家族の現状に合った支援を選ぶことが大切です。

医療機関や自治体の支援をうまく活用しよう

重度知的障害の人は、日常生活や社会生活で特別な支援や配慮を必要とします。だからこそ、医師から障害者としての適切な診断を受け、さまざまな福祉サービスや手当などを利用していくことが大切です。

とはいえ、利用できる支援制度や現状に合った方法を、家族や周囲の関係者が自力でみつけていくのは大変だといえるでしょう。まずは、市区町村の福祉窓口や民間サービスなどにいる専門的な知識を持った人たちに相談することをおすすめします。


監修者コメント

知的障害は従来は精神発達遅滞と言われたりしましたが、最新のアメリカの診断基準DSM-5‐TRでは「知的発達症(知的能力障害)」の訳語が当てられています。呼称が色々あるので、文書を読み解く際には注意してください。

重度の方になるとほとんどの場合には幼少期に気づかれていますので、御本人もご家族の方も支援を受ける必要性があることはおわかりですね。本記事にある通り、どのサービスを利用するかは、本人とご家族の現状にあった支援を選ぶよう必要に応じて福祉の窓口にいる方と相談してください。必要な支援は、知能指数(IQ値)だけで判断できるものではありません。実際に生活上何ができて何ができないか、本人の性格傾向や向き不向き、精神症状はあるのか、などによって支援内容が決められるでしょう。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。