障害者向けの作業所とは?就労移行支援と就労継続支援の違いや特徴も解説

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障害者向けの就労支援について調べていると、「作業所」という言葉を見たことがある人もいるでしょう。作業所とは、かつて使われていた名称であり、現在は就労移行事業所や就労継続支援事業所という名前に変わっています。

本記事では、就労支援サービスの種類や利用する流れなどについて解説します。障害者向けの就労支援制度ついて理解を深め、利用を検討する際にぜひお役立てください。

障害者向けの作業所とは

障害者向けの作業所は、2006年に施行された「障害者自立支援法(障害者総合支援法)」以前の制度で使われていた名称です。障害や病気があり、一般企業での就職が難しい人向けの障害福祉サービスとして、小規模作業所や共同作業所と呼ばれる事業所が存在していました。

現行の制度では、「就労継続支援事業所」や「就労移行支援事業所」へ移行しています。ただ、名残として作業所と言われているケースもまだあります。

作業所から名称が変更された経緯

2006年の「障害者自立支援法(障害者総合支援法)」の施行前は、障害のある人へ就労機会を提供する障害福祉サービスとして、小規模作業所や共同作業所といった事業所が運営されていました。

ただ、賃金の安さや一般企業への就職率の低さが問題化しており、障害者自立支援法の施行と共に就労支援の強化が図られました。以前の制度における作業所は、就労移行支援事業所と就労継続支援事業所の2種類に移行していった経緯があります。

ただ、今現在も作業所という名前が残っているケースがあります。これは、障害者自立支援法が施行される前から事業所として稼働していた事業所に多く見られます。

就労移行支援と就労継続支援の違い

ここからは、就労移行支援と就労継続支援の違いについて見ていきましょう。おおまかな違いを表にまとめました。

就労移行支援就労継続支援A型就労継続支援B型
利用対象者一般的な企業等への就労を希望する人・移行支援支援サービスを利用しても企業等の雇用に結びつかなかった人
・特別支援学校を卒業して就職活動を行ったが、企業等の雇用に結びつかなかった人
・就労経験があり、現在は離職している人
・就労経験があり、年齢や体力面で一般企業での雇用が困難な人
・50歳以上または障害基礎年金1級受給者
・1及び2以外で、就労移行支援事業者等のアセスメントにより、就労面に係る課題等の把握が行われている人
サービス内容・職業訓練(事業所内作業、講座、企業実習など)
・就活支援(求人選定、選考フォローなど)
・定着支援(職場訪問など)
・事業所での生産活動や就労・事業所での生産活動や就労
雇用契約の有無なしありなし
賃金又は工賃(月額)なし83,551円17,031円

参考:厚生労働省「令和4年度平均工賃(賃金) の実績について」

就労移行支援の特徴

就労移行支援は、障害や病気のある人が一般企業の就労に向けた支援を受けられる障害福祉サービスです。就労移行支援事業所に通いながら、職業訓練や就職に関する指導を受け、一般企業への就職を目指せます。

働くための知識やスキルの習得、職場見学、就職活動のサポートなど幅広いサービスの中で、希望する支援を受けられます。また、採用先で長く働くための定着支援も利用可能です。

就労移行支援は、原則として就労意欲があれば利用対象に該当します。ただ、利用には障害福祉サービス受給者証が必要です。受給者証は、お住まいの地域の障害福祉窓口へ申請します。

就労移行支援の利用料金は、世帯の収入状況により異なりますが、約9割の人が無料で利用しています。自己負担があっても、ほとんどの場合9,300円が上限額です。一部の市区町村では、軽減措置が受けられる場合もあります。

就労継続支援の特徴

就労継続支援には、雇用契約を伴うA型と、雇用契約を伴わないB型の2種類があります。それぞれの特徴について解説します。

就労継続支援A型

就労継続支援A型とは、障害や病気のある人に対して就労支援や就労機会を提供する福祉支援サービスです。現時点では一般企業での就労が難しい場合に、一定の支援を提供する事業所と雇用契約を結んで働くことができます。

事業所での仕事内容は、データ入力やカフェスタッフ、商品梱包などさまざまです。就労継続支援A型の利用対象として、以下のような人が該当します。

  • 就労移行支援を利用したものの、雇用に結びつかなかった人
  • 特別支援学校を卒業して就職活動を行ったが、雇用に結びつかなかった人
  • 就労経験があり、現在は雇用されていない人

原則として18歳以上64歳以下が対象でしたが、2016年4月以降は65歳以上でも条件を満たせば利用できます。

就労継続支援A型の利用料は、事業所の通所日数と世帯収入によって変わります。通所日数が多いほど利用料は上がりますが、所得に応じた自己負担の上限額が設定されています。

就労継続支援A型では雇用契約を締結するため、法律で規定されている最低賃金以上が保証されています。工賃は、市区町村の地域区分などによって設定される単位で計算されます。厚生労働省のデータによると、令和4年度の平均賃金は月額83,551円です。

就労継続支援B型

就労継続支援B型は、障害や病気のある人が、雇用契約を結ばずに就労できる障害福祉サービスです。就労継続支援A型と違って雇用契約がないため、体調や症状などに合わせて勤務日数や勤務時間を調整しやすい傾向があります。

就労継続支援B型の利用対象者は、以下のいずれかに該当する人です。

  • 就労経験があり、年齢や体力面で一般企業での雇用が困難な人
  • 50歳以上または障害基礎年金1級受給者
  • 上記2つの条件に該当せず、就労移行支援事業者等によるアセスメントにより、就労面に係る課題等の把握が行われている人

就労継続支援B型の仕事には、部品加工やパンなどの製菓作業、農作業などがあります。

就労継続支援A型と同様に、B型の事業所を利用する際には国が定めた利用料金がかかります。ただ、世帯収入に応じて自己負担の上限額が定められており、利用日数が増えても上限以上の料金は発生しません。

就労継続支援B型の工賃は、作業した量に応じて金額が決まる歩合制、もしくは1日あたりの金額で計算する日額制のいずれかです。厚生労働省のデータでは、令和4年度の平均賃金(工賃)は月額17,031円です。

就労移行支援・就労継続支援を利用する流れ

ここからは、就労移行支援や就労継続支援を実際に利用する流れについて解説します。

就労移行支援の利用の流れ

就労移行支援を利用するには、以下の流れで手続きをします。

  1. クリニックを受診する
  2. 利用する事業所を決める
  3. 障害福祉サービス受給者証を申請する
  4. 利用計画を作成する
  5. 障害福祉サービス受給者証を受け取る
  6. 利用者契約を行う
  7. 利用開始

就労移行支援に申し込む際に、障害福祉サービス受給者証が必要です。受給者証を市区町村で申請するために、クリニックで医師に「意見書」や「診断書」を発行してもらいます。

事業所ごとに特色やサービス内容が異なるため、体験会や見学などを利用して希望する事業所を見つけましょう。

就労継続支援の利用の流れ

就労継続支援(A型・B型)を利用するときの流れは、以下の通りです。

  1. 就労継続支援の利用について医師から許可をもらう
  2. 利用したい事業所を探す
  3. 市区町村の障害福祉窓口で利用申請をする
  4. サービス等利用計画書を窓口に提出する
  5. 受給者証がを受け取る
  6. 事業所と利用契約を行う
  7. 利用開始

就労継続支援の利用を検討するにあたって、事業所を探す前に医師に申請しても問題がないか確認しておきましょう。利用申請から受給者証の発行までは、通常約2ヶ月ほどかかります。

自身のニーズにあった事業所を利用しよう

障害者向けの作業所は、現在は「就労移行支援事業所」もしくは「就労継続支援事業所」へと移行しています。それぞれの事業所で就労支援を利用する際には、医師への確認を得た上で希望する事業所を選び、市区町村の窓口へ申請します。

制度によって利用対象者や就労支援の内容、賃金などが異なるため、自分の状況やニーズに合わせて利用を検討しましょう。

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監修者コメント

クリニックで患者さんを拝見していると、「そろそろ仕事をしたい」というお話を良く伺います。それがプレッシャーになることもあるので医療者として心配なときもあるのですが、働くという意思は人間に根源的に備わっているのかなと思います。

いきなりフルタイムで働くのは難しい場合や、就労移行支援も大変そうに感じる場合、就労継続支援を検討すると良いでしょう。いくつか施設(作業所)を見学して、利用者さんの様子を見たりスタッフにどんなことができるか聞いたりすることは参考になります。最近はPCを使った音楽制作やグラフィック制作をして人気のところもあるようですので、ご自分に合った施設が見つかると良いですね。


監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。