中度知的障害とは?特徴や向いている仕事、働き方について解説

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中度知的障害の人はいろいろな仕事に就いて活躍できますが 適切な支援が必要となるため、障害の特性や向き・不向きにあわせて業務内容や働き方を慎重に選ぶ必要があります。「どのような仕事を選べばよいかわからない」「専門的な知見を持つ人に相談したい」などと考えている方やそのご家族もおられることでしょう。

そこで本記事はそもそも中度知的障害とは何かから解説し、知的障害のある人がどのような仕事に就いているのか紹介します。また、就業にあたって利用できる支援制度や相談窓口も紹介しているので、中度知的障害のある人の就職や働き方を考える際にご覧ください。

中度知的障害とは?

知的障害とは、おおむね18歳までの発達期に生じた知的機能の障害によって、認知機能や適応能力の発達が遅れる状態です。中度知的障害は厚生労働省が定めた知的障害の区分の1つであり、適切な支援があれば日常生活や仕事をある程度行えるものの、すべてをこなすのが困難な状態を指します。

中度知的障害のある人は、知能検査で数値化された「IQ(知能指数)」において、35~50程度に相当します。IQとは「精神年齢÷生活年齢×100」で計算される指標です。例えば、20歳の人の精神年齢が10歳であれば「IQ=10歳÷20歳×100=50」となり、中度知的障害に区分されます。

中度知的障害の特徴

中度知的障害は、言葉を理解したり使ったりする発達に遅れが生じ、最終的な発達に限界があるのが特徴です。通常、幼少期の段階で発達に遅れがあることに周囲の人が気付きます。また、読み・書き・計算などの学習技能は、小学生程度に留まるのが一般的です。

具体的には、以下のような特徴があります。

  • ひらがな、カタカナの読み書きはできるが、漢字の読み書きがむずかしい
  • 数値や個数の計算がむずかしい
  • 全体の流れや作業手順が決まっている作業はできるが、場や状況に合わせた調整や判断がむずかしい

このように中度知的障害は日常生活や社会生活が部分的にできますが、周囲の人の支援や配慮が必要です。

中度知的障害の診断

中度知的障害を含めた知的障害の診断は、専門的な知識や経験を持った医師によって行われます。診断にあたっては、「いつ発症したか」「原因は何か」などを調べます。IQの検査や問診による言語機能や学習能力の評価なども診断項目です。また、中度知的障害の人のなかには身体障害のある人がいるため、運動機能の診断も併せて行われます。

上記は医学的な診断ですが、診断目的によっては福祉的な観点からの診断も行われます。例えば、療育手帳交付のための手続きでは、日常生活や社会生活でどのような支障があり、そのためにどのような支援が必要なのかという観点から手続きがされます。また、障害者手帳は医師による診断の結果交付されますが、同様の判断がされます。

どのような仕事ができそうか判断する際には、実用的な知識の習得能力や対人コミュニケーションの技能、仕事への責任感、行動の自己管理などの適応機能が診断されます。

中度知的障害以外の知的障害の種類

障害者の適切な支援を目的にした厚生労働省の区分では、中度知的障害以外に軽度知的障害、重度知的障害、最重度知的障害の3種類があります。ここでは軽度知的障害、重度知的障害の概要と特徴を解説します。

軽度知的障害

軽度知的障害は知的障害の分類のなかで最も軽い種類です。以下の特徴があります。

  • IQは50~70程度
  • 身辺生活の大部分が自分でできる
  • 簡単な読み書き、計算の大部分ができる
  • 会話と簡単な文通が可能

軽度知的障害の人は、一般的に特別支援学級や特別支援学校(高等部)を経て就労しています。就労の形式としては、一般就労や一般企業の障害者雇用より手厚い配慮がある場合が多い特例子会社の障害者雇用を選ぶケースが多いようです。

重度知的障害

重度知的障害は、中度知的障害よりも重い障害がある状態で、以下の特徴があります。

  • IQは21~35程度
  • 身辺生活が部分的にできる
  • 簡単な読み書き、計算の一部を除いてほとんどが不可能
  • 会話がやや可能

重度知的障害の人の多くは特別支援学校を経て就労します。重度知的障害の人が働く際は、生活指導員や職業指導員から支援を受けられる社会福祉施設で働くケースが一般的です。

知的障害の原因

知的障害の原因は、生理的要因と先天的要因、後天的要因の3つに大きく分けられます。それぞれの要因について解説します。

生理的要因

生理的要因とは、突発性要因とも呼ばれ、特に基礎疾患はみられないが、知的機能に影響を与える要因です。一般的な妊娠、出産を経て生まれたが、IQが知的障害に分類される場合に、生理的要因とみなされます。

知的障害の人の多くは生理的要因が原因で、そのため健康状態は良好です。生理的要因の知的障害の場合、軽度または中度であることが一般的です。

先天的要因

先天的要因とは、出産前に生じた知的障害の原因です。以下のような要因が挙げられます。

  • 遺伝子異常、染色体異常(ダウン症候群など)
  • 先天性の代謝異常(フェニルケトン尿症など)
  • 出産前後の感染症

先天性の代謝異常は新生児のスクリーニング検査で判明することがあります。この場合は投薬や食事療法などの治療が行われるのが一般的です。

後天的要因

後天的要因とは、出産後の病気やケガが原因となって知的障害を生じる要因です。具体例を以下に示します。

  • 外傷性の脳挫傷
  • けいれん性疾患(てんかん、脳性麻痺など)
  • 感染症(日本脳炎、ポリオ、百日咳など)
  • 乳幼児期の栄養不足

これらの要因は知的機能の障害を引き起こすだけでなく、身体的な障害も生じる可能性があります。

知的障害と発達障害の違い

出典:政府広報オンライン「発達障害って、なんだろう?」

発達障害*1とは、何らかの原因で脳機能の一部がうまく働かない障害です。発達障害にはASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害*2)、ADHD(注意欠陥多動症)の3つがあります。いずれの場合も、社会的なコミュニケーションが苦手で、独特のこだわりや感覚があるのが特徴です。

知的障害と発達障害は、障害の特性でそれぞれ定義したものなので同じではありません。 

しかし、ASDとADHDの一部の人は知的障害を伴うこともあり、この場合には発達障害であり知的障害であるといえます。

知的障害の方はどんな仕事をしている?

厚生労働省がまとめた「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書(p.10~13)」によると、一般企業における知的障害者の雇用傾向は以下のとおりです。

知的障害者の一般企業での雇用数推定27万5,000人
障害者の内訳・重度:11.8%
・重度以外:81.0%
・不明、無回答:7.2%
雇用形態・有期契約の正社員以外:40.7%
・無期契約の正社員以外:38.9%
・無期契約の正社員:17.3%
・有期契約の正社員:3.0%
・無回答:0.1%
労働時間(週あたり)・30時間以上:64.2%
・20~30時間未満:29.6%
・10~20時間未満:3.2%
・10時間未満:2.1%
・無回答:0.9%
職業で多いもの・サービス:23.2%
・運搬・清掃・包装など:22.9%
・販売:16.8%
・生産工程:16.6%
1カ月の平均賃金・13万7千円(超過勤務手当含む)
・13万3千円(超過勤務手当除く)
賃金の支払い形態・時給制:72.5%
・月給制:24.8%
・日給制:1.9%
・その他:0.6%
・無回答が 0.2%
平均勤続年数・9年1カ月

出典:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書

知的障害の方に向いている仕事

知的障害の人は障害の程度や適性がさまざまなので、向いている仕事を一括りに述べることはできません。しかし一般的には、状況の変化が少ない単純作業や反復業務が働きやすい傾向があります。

具体例を以下に示します。

種類具体例
飲食、卸売、小売など・食器洗浄
・商品の梱包
運搬・清掃・包装など・建物の清掃
・衣服のクリーニング
販売・配膳業務
・ピッキング、出庫作業
生産工程・部品組み立て
・食品の加工(パンを焼く、お弁当を詰めるなど)
・農業の手伝い

上記のほかにも仕事の種類はたくさんあります。障害の特性や得意分野にあわせて仕事を選ぶことが大切です。

知的障害の方の働き方

中度知的障害がある場合、一般企業で働くと支援が手薄になってしまうケースが少なくありません。このような場合に検討したいのが、民間企業や社会福祉法人などが運営する「就労継続支援事業所」で働く福祉的就労です。

この福祉的就労には、就労継続支援A型とB型の2つがあります。

就労継続支援A型

就労継続支援A型とは、一般就労はむずかしいものの、雇用関係に基づいて就労可能な障害者が利用する制度です。

就労継続支援事業所に通って生産的な活動を行い、給与をもらいます。この働き方は一般の労働者と基本的に同じであるため、最低賃金以上が保証されています。

A型で働くなかで知識や技能を身に付けて一般就労できる見込みが立ち、なおかつ障害者本人が希望する場合は、「就労移行支援」制度を利用することも可能です。就労移行支援では一般就労に向けた訓練や就職支援、職場定着支援などを受けられます。

就労継続支援B型

就労継続支援B型とは、一般就労または雇用関係を結んで働くのがむずかしい人が利用する制度です。一般的には、就労継続支援B型を利用する人は、就労継続支援A型の利用者よりも障害の程度が重い人です。

就労継続支援事業所に通所する点はA型と同じですが、給与でなく工賃をもらいながら生産的な活動を行います。一般の就労と異なる面が多いため、最低賃金は保障されません。

就労継続支援B型による就労によって知識や経験を向上させられた場合、A型に移ることも可能です。

中度知的障害の方が利用できる支援制度

中度知的障害の人はさまざまな支援を受けられます。ここでは、そのなかでも代表的な療養手帳、中度知的障害、自立支援医療制度の3つを紹介します。

療育手帳

療育手帳は障害者手帳の一種で、知的障害があると判断された人に対して交付されます。自治体によっては「愛の手帳」や「緑の手帳」などとも呼ばれています。

療育手帳を持つと受けられる援助は次のとおりです。

  • 特別児童扶養手当(子どもの福祉、養育のための手当)
  • 心身障害者扶養共済(保護者が死亡したり、重度障害を持ったときの補償制度)
  • 国税、地方税の控除、免税
  • 生活保護額の障害者加算
  • 生活福祉資金の貸し付け
  • 公営住宅の優先入居
  • NHK受信料の免除

旅客鉄道株式会社などの旅客運賃の割引

  • 携帯電話使用料の割引
  • 公共施設の利用料割引
  • NTTの無料番号案内を利用できる

療育手帳は市区町村の役所窓口から申請できます。

自立支援医療制度

自立支援医療(精神通院医療)制度とは、精神疾患の治療のための通院医療費の自己負担額を軽減する制度です。自立支援医療制度はうつ病や統合失調症、パニック障害などの精神障害のある人が対象ですが、知的障害の人も含まれています。

具体的には以下の援助を受けられます。

  • 3割の医療負担が1割に軽減される
  • 1カ月の自己負担分の上限措置を受けられる(世帯収入に応じて0円~2万円)
  • 長期の高額治療費が必要な人には、通常とは別に負担上限月額が定められ、負担が軽減される

詳しくは下図をご覧ください。

出典:厚生労働省「自立支援医療(精神通院医療)について」

なお、入院医療や、医療施設以外でのカウンセリング、知的障害に無関係な医療費などは対象外です。

障害年金

障害年金とは、病気やケガなどで生活や仕事に支障が出た際に、現役世代のうちから受け取れる年金です。中度知的障害の人の場合は18歳未満で障害の診断を受けるため、ほぼ自動的に要件を満たします。

ただし、障害年金を受けるには障害認定基準において、日常生活が困難で常時援助を必要とする1級、もしくは日常生活で一定の援助が必要な2級と認定されることが必要です。医師から診断書をもらったうえで、全国の年金事務所や年金相談センターに申請する流れになります。

障害基礎年金の年金額は以下のとおりです。

区分支給額
1級102万円+子の加算額
2級86万6,000円+子の加算額
子の加算額1人につき23万4,800円、3人目以降は1人につき7万8,300円

※昭和31年4月2日以後生まれの人に対して令和6年4月分から適用される額

中度知的障害の方の仕事に関する相談窓口

ここでは、中度知的障害の人が就労に関して相談できる以下の窓口を紹介します。

機関名利用に向く人
地域障害者職業センターどのような仕事が向くのか相談したい人、職場定着の支援を受けたい人
障害者就業・生活支援センター就労相談と生活相談の両面で相談したい人
ハローワーク求人情報や仕事内容を相談をしたい人
就労移行支援事業所一般就労を目指しており、職業訓練や就業支援、職場定着などの支援を受けたい人

それぞれについて解説します。

地域障害者職業センター

地域障害者職業センターは「どのような仕事が向くのか相談したい」「職場定着の支援を受けたい」という知的障害のある人やその家族に向く相談窓口です。

障害者職業カウンセラーが在籍しており、知的障害を踏まえた就職の助言を受けられます。ただし、仕事紹介や求人情報は取り扱っておらず、ハローワークや福祉機関などに引き継ぐまでが担当範囲です。

また職場適応援助者(ジョブコーチ)も在籍しており、職場との橋渡し役になってもらえます。障害のある人ができること・できないことを説明してもらったり、職場の環境整備を依頼してもらったりできます。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターとは、就労相談と生活相談の両面で相談したい人に向く機関です。就業に対する相談支援とともに、日常生活や地域生活に関する相談も受け付けています。

障害者就業・生活支援センターで解決できないときは、ハローワークや地域障害者職業センター、保健所、医療機関などの各機関に連絡する役割もあるため、どこに出向いたらよいかわからない場合にも相談しやすいでしょう。

就業に関する相談支援としては、職業準備訓練や職場実習のあっせん、障害者の特性・能力にあった職務の選定、職場定着に向けた支援などが挙げられます。例えば、スタッフがハローワークに同行したり、企業見学・面接へ同席したりします。

ハローワーク

ハローワークは求人情報を知りたい人や仕事内容の相談をしたい人が利用できる機関です。ハローワークには障害のある人を専門に担当するスタッフがおり、障害に寄り添った就職支援を受けられます。

また、ハローワークでは清掃やパソコン操作などの基礎を学ぶ講座もあるため、職業スキルを獲得したい場合に利用できる可能性があります。

就労移行支援事業所

就労移行支援事業所とは、一般就労を目指す人が職業訓練や就業支援、職場定着などの支援を受けられる通所型の福祉施設です。以下のようなサービスを提供しています。

一般就労に向けた訓練・事業所内や一般企業での作業や実習
・マナーや挨拶、身支度などの習得
就業支援・障害の特性や得意・苦手分野に応じた職種、職場探しの支援など
職場定着支援・仕事に関する相談
・職場訪問

就労移行支援事業所は、通算で24カ月間まで利用できます。

就労移行支援事業所を活用する代表的なケースは、学校卒業後にいきなり一般就業するのがむずかしい場合や、何らかの問題があって離職した場合です。このようなときに実践的なスキルを身に付けることで就職の機会を増やせます。また、就労継続支援A型・B型を経て一般就労を目指す際に、就労移行支援事業所を利用するケースもあります。

特性にあわせた働き方を検討してみよう

中度知的障害のある人は、適切な支援があれば身の回りのことや仕事などをある程度行えます。実際、障害の特性や得意分野に合った職業や職場を探して長期安定的に働いている人も少なくありません。知的障害のある人が活用できる各種の支援制度や相談窓口を有効活用すると、負担を減らしながら長所を活かせる仕事に巡り合いやすくなるでしょう。

Kaienは発達障害や精神障害のある人の就労支援を得意としている就労移行支援事業所です。知的障害を伴う発達障害、精神障害の人に対しては、事務作業や軽作業など100種類以上のなかから、特性を活かす適職をみつける実践的な職業訓練をしています。また、障害者に理解のある企業200社以上と連携しているので、他社にない独自求人を紹介できます。ぜひお気軽にご相談ください。

*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます


監修者コメント

知的障害は従来は精神発達遅滞と言われたりしましたが、最新のアメリカの診断基準DSM-5‐TRでは「知的発達症(知的能力障害」の訳語が当てられています。呼称が色々あるので、文書を読み解く際には注意してください。

中等度の方はIQの数値上はかなり低いと感じるかもしれませんが、必ずしも幼少期からわかるとも限りません。その意味で、必要な支援が遅れることもありはします。それでも、多くの場合幼少期に気づかれていますので、御本人もご家族の方も支援を受ける必要性を理解してくださっていると思います。本記事にある通り、どのサービスを利用するかは、本人とご家族の現状にあった支援を選ぶよう必要に応じて福祉の窓口にいる方と相談してください。必要な支援は、知能指数(IQ値)だけで判断できるものではありません。実際に生活上何ができて何ができないか、本人の性格傾向や向き不向き、精神症状はあるのか、などによって支援内容が決められるでしょう。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。