発達障害*の特性などの影響により仕事を退職した方や、仕事を辞めたいと考えている方もいるでしょう。しかし、障害があるからといって必ずしも仕事が続かないということはありません。自分の特性や得意不得意を理解し、適切なサポートを受けることで、長期間にわたって働くことが可能です。
この記事では、発達障害の特性や仕事が続かない理由とその解決策、仕事探しのポイントについて詳しく解説します。無料で利用できる就労支援機関も紹介しているので、自分に合う仕事を探している方はぜひ参考にしてください。
発達障害とは
発達障害とは、先天性の脳機能の発達に関する障害の総称です。注意力や集中力、こだわり、学習能力など、個人によって特性や障害の程度は異なります。
発達障害にはいくつか種類がありますが、代表的なのは以下の3つです。
- 自閉スペクトラム症(ASD)
- 注意欠如多動症(ADHD)
- 学習障害(LD)
それぞれの障害の特徴について詳しく説明します。
自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症(ASD)は、コミュニケーションが困難であったり独自の強いこだわりがあったりする特性が見られるのが特徴です。光や音などに過敏に反応する感覚過敏や、いわゆる空気が読めない行動が目立つなど、特性の出方は人により異なるので同じタイプとしてくくることはできません。
自閉スペクトラム症は子どもの頃に気づかなくても、社会に出てからさまざまな困りごとに直面することで自身の特性に気づき、障害が発覚するケースもあります。
注意欠如多動症(ADHD)
注意欠如多動症(ADHD)は集中力に欠け、うっかりミスの多い「不注意優勢型」とじっとしていることが苦手で衝動性のある「多動・衝動優位型」、両者の要素を併せ持つ「混合型」の3タイプに分類されます。主な特徴として注意を維持する難しさ、衝動的な行動、落ち着きのなさなどが挙げられ、これにより学業や仕事、日常生活に支障をきたす場合も少なくありません。
自閉スペクトラム症と同様に、子どもの頃は特性が目立たずに見過ごされ、ライフステージの変化に伴って生じるトラブルや困りごとなどにより、注意欠如多動症の特性に気づくケースもあります。
学習障害(LD)
学習障害*²(LD)は、読み書きや計算能力など、特定の学習が困難な状態のことです。これらの「読み書き障害」や「算数障害」などにより、学業成績や日常生活に大きな影響を及ぼします。例えば成績不振や学習意欲の減退などにより、不登校につながるケースも見受けられます。
発達障害の方が仕事が続かない理由
発達障害の方は、特性が影響して就労が困難になる方が多いと言われています。障害の種類や特性の出方により仕事が続かない理由は異なるので、自分の悩みや困りごとがどれに当てはまるかチェックし、自身の特性を見つめ直してみましょう。
自閉スペクトラム症(ASD)
コミュニケーションや他者との関わり方に困難を抱える傾向にあるため、チームワークや職場の人間関係が構築しにくい場合があります。また、仕事のスケジュールやプロセスの変更に対応できないなど、臨機応変な対応を苦手とする人が多いです。人によっては音や光、ニオイに敏感なため、職場の生活音や環境が気になって仕事に集中できないこともあります。
注意欠如多動症(ADHD)
優先順位付けやマルチタスクが苦手な方が多く、スケジュール管理や納期のある仕事に置いてミスが目立つ傾向があります。不注意によるうっかりミスや集中力の欠如が目立つ場合には、職場の信用を落としてしまう場合もあるため、対策が必要です。
学習障害(LD)
読み書きが困難であるため、文字による説明や指示の理解が難しく、マニュアルのある仕事やメモをとる作業を苦手とする方が多いです。また、計算や数字の概念のある業務も特性により困難を極めます。
また、発達障害のある方は興味関心が長続きせず、衝動的に退職や転職などの意思決定を行う傾向があります。これも発達障害の方が仕事が長続きしない大きな一因でしょう。
発達障害と知的レベルの関係
先述した自閉スペクトラム症や注意欠如多動症、学習障害の方の中には知的障害が併存している場合があります。また、知的障害の診断は出ていなくても、IQが71以上85未満の境界知能にある方もいるでしょう。
この場合、発達の凹凸だけでなく元来の知的レベルの低さが、仕事における苦しさや困難さにつながっているケースも少なくありません。他にも、非常に高い知能を持つギフテッドの方も凹凸が大きいため、能力や得意を仕事で活かしきれない場合があります。
発達障害の二次障害とは
発達障害の方は周囲とのコミュニケーションが取りづらく、対人関係で問題を起こしたり、ストレスを抱えたりしやすい傾向にあります。また、職場に障害が理解されず適切なサポートを受けられないことが原因で、うつ病などの精神疾患を起こしやすいです。このように発達障害が原因で起こる後天的な精神障害を「二次障害」と呼びます。
発達障害が原因で起こる二次障害の例は、以下の通りです。
- 不安障害
- 双極性障害(躁うつ)
- うつ病
- 適応障害
発達障害は人によってあらわれる特性が異なり、本人も気が付いていない場合も多いため周囲にも理解されにくい障害です。そのため適切な対応が遅れ、二次障害に発展することも少なくありません。「発達障害かもしれない」と思ったら、早めに医療機関や専門の窓口に相談しましょう。
発達障害の方が仕事を長続きさせるポイント
発達障害があるからといって、必ずしも仕事が長続きしないということはありません。自分の強みや得意なことを見つけ出し、それらを活かせる仕事に就くことで働きやすい職場が見つかるはずです。また、障害に対し適切に配慮された職場環境であれば、ストレスなども軽減します。
ここからは仕事を長続きさせるための対策方法や、職探しのポイントについて見ていきましょう。
自分の特性や得意不得意を理解する
仕事が長続きしない原因の1つは、発達障害の特性からくる困りごとにあります。対策するためには、自分の特性や得意不得意を理解することが重要です。自分がどんな特性があり、どのような作業や環境が苦手なのかなどを理解することで、適切な仕事を見つけやすくなります。
また、どんなミスが多いのか把握し、内容や原因を特定することも失敗を防ぐためには大切です。このような自己分析や自己理解を一人で行うのは難しいため、専門家やサポート機関に相談すると良いでしょう。
合理的配慮を求める
2016年の「障害者雇用促進法」の改正により、雇用者は「障害がある人の能力や特性に応じて雇用や労働条件、職場環境などを適切に調整すること」が義務付けられました。これにより、障害のある従業員が能力や特性に応じて仕事を遂行できるように、雇用主や企業は適切な調整や支援を行う「合理的配慮」が求められるようになりました。
合理的配慮は対人面、体調面、業務面、作業環境面など、個々の特性や症状に合わせて求められます。例えば、コミュニケーションが困難な方は、「あいまいな指示を避け具体的に指示してほしい」「上司を固定してほしい」などと希望を出せるのです。なお合理的配慮を求める際に障害者手帳の有無は問われませんが、医師の診断書などによる障害の証明が必要な点に注意が必要です。
働き方を見直す
発達障害の方にとって合理的配慮を求めることが、かえって負担になるという方もいるかもしれません。そのような場合には、障害者手帳を取得して「障害者雇用」の求人を探すという選択もあります。
障害者雇用であれば、障害に理解のある企業に就職できる可能性も高まり、働きづらさを感じたときに合理的配慮も求めやすくなります。また、障害者雇用は障害のある方の受け入れ環境が整っていることが多いため、一般雇用で働くよりも負担が少なく長期的な就業も見込めるでしょう。
支援機関を頼る
自分の特性に合う仕事を探し、履歴書作成や面接などの就職活動を1人でこなすのは難しいという方も多いでしょう。そんなときは、就労支援サービスを活用してみましょう。発達障害の方が利用できる就労支援サービスには次のようなものがあります。
- 就労移行支援事業所
- ハローワーク
- 発達障害者支援センター
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
これらの支援機関は、障害のある方が適切な職場を見つけるためのさまざまなサポートを行っています。お住まいの地域にある支援機関を探し、利用を検討してみましょう。
特性を活かした仕事探しは就労移行支援がおすすめ
就労支援機関の中でも「就労移行支援」では、障害のある方の一般就業と職場定着を目的とした就労に関するあらゆるサポートを行っています。就労移行支援事業所は全国各地にあり、専門の資格を持ったスタッフによるサポートのもと、ビジネスマナーやコミュニケーションスキルなど発達障害の方の就職に必要なスキルを習得できます。
いざ転職や再就職をしようと思っても何から始めたらいいのか分からず不安な方は、就労移行支援サービスを活用し、困りごとへの対策を身につけながら働きやすい仕事を見つけましょう。
発達障害の方に特化したKaienの就労移行支援
Kaienでは発達障害に特化した就労移行支援を行っています。主な支援内容は以下の通りです。
- 実践的な職業訓練
- 自己理解や苦手への対処法が身につくカリキュラム
- 強みを活かせる就活サポート
- 就職後も手厚い定着支援
職業訓練では、経理・人事・軽作業など100種類以上の職種を実践的に体験できるため、特性や能力に合った職業に出会うチャンスが広がります。ビジネススキルやキャリア・プランニングなど、就職に必要なスキルを習得できるカリキュラムも豊富です。
また障害に理解のある200社以上の企業と連携し、独自の求人を紹介できるのもKaienの特徴です。就職後は企業に定着できるよう、職場での困りごとをいつでも相談できる体制を整えています。一人ひとりに担当スタッフが付くので、困ったときに親身にサポートできる環境も魅力です。
Kaienでは、無料の見学・個別相談会を開催しています。カリキュラムの内容や支援内容に少しでも興味を持たれた方は、ぜひお気軽にご参加ください。
仕事が続かないお悩みは就労移行支援の利用で解決
発達障害の方の中には、「仕事がなかなか続かない」「障害があるのに再就職できるだろうか」と不安な気持ちや悩みを抱えている方も多いでしょう。自分に合った仕事を見つけ、障害に理解のある企業に就職すれば、こうしたストレスや負担を減らせます。発達障害の方の転職や再就職は、1人で抱え込まずに就労支援サービスを活用し、特性や興味のあること、得意分野などを活かせる仕事を見つけましょう。
Kaienでも発達障害の方向けに、さまざまな就労サポートを行っています。仕事に必要なスキルの習得や困りごとへの対策など、二人三脚での手厚い支援がKaienの強みです。個別相談会や見学会、体験利用は無料でご参加いただけます。まずはお気軽にご連絡ください。
*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます
監修者コメント
本コラムでは発達障害だと仕事が続かない?という疑問が出ました。では実際、何年くらい仕事が続くのでしょうか?筑波大学の佐々木准教授は、Kaien社との共同研究で就労移行支援を利用した発達障害を持つ方のうち、約1,000人を対象に勤務状況について調査しました。結果、2022年において労働政策研究・研修機構が調査した全国の平均勤続年数は12.3年であるのに対して(*1)、発達障害のある方の平均勤続年数は4.68年でした(*2)。
全国区の調査は疾患の区別なくサンプルしたものですし、佐々木准教授のサンプル数との違いもあり、厳密な統計検定はできませんが、それでも発達障害のある方の勤続年数は短いと言えそうです。
これにはいくつか理由が考えられます。一つめは大人になって発達障害と診断された方が一度は一般雇用で勤務したものの、30-40代になってはじめて障害者雇用で働き始めたから。二つめは働いている途中でメンタル不調をきたし、離職せざるを得なくなったから。三つめは企業の障害者雇用の促進が進まず、内定が出るまでアルバイトなどをせざるを得ないから。
発達障害を持つ方の雇用安定のためには社会のバックアップ、周囲の理解、勤務形態の柔軟性、労働環境のイノベーションなど課題は多いですが、見方を変えると働くことの人間にとっての意味を見直す段階に我々は来ているのかもしれません。
*1 労働政策研究・研修機構、平均勤続年数 1976~2022年、https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0213_01.html
*2 佐々木、「発達障害のある方の就業実態調査 2022年度版」、https://www.kaien-lab.com/wp-content/uploads/2023/03/20708485d50e27cfdac1164de25e923b.pdf
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。