障害者控除は所得控除の1つです。障害の程度や世帯の状況によって控除額は変わりますが、数万円~数十万円の節税が見込めるため、対象となる方やそのご家族は忘れずに申請しておきましょう。
この記事では障害者控除とは何か、対象者や節税額、申請方法などを解説しています。節税額のシミュレーションも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
障害者控除とは
障害者控除とは、障害をお持ちの方や、障害をお持ちの家族と同居している方などの税負担が軽くなる制度です。給与や賞与といった所得から障害者控除分を差し引けるため、所得税や住民税の節税になります。
障害者控除と聞くと特別に感じるかもしれませんが、ほとんどの国民が申請している「所得控除」の1つです。所得控除とは、世帯や負担状況などによって所得から一定の金額を差し引ける制度であり、代表例には以下のようなものがあります。
- 基礎控除
- 配偶者控除
- 扶養控除
- 社会保険料控除
- 医療費控除
- 生命保険料控除
- ひとり親控除
- 寡婦控除、など
上記の控除を申請した際も、障害者控除を重複(合計)して申請できます。
障害者控除の対象者とは?
障害者控除の対象者は、以下のいずれかの条件を満たす方です。
条件 | |
---|---|
(1) | 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人 |
(2) | 児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医の判定により、知的障害者と判定された人 |
(3) | 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人 |
(4) | 身体障害者福祉法の規定により交付を受けた身体障害者手帳に、身体上の障害がある人として記載されている人 |
(5) | 精神または身体に障害のある年齢が満65歳以上の人で、その障害の程度が(1)、(2)または(4)に掲げる人に準ずるものとして市町村長等や福祉事務所長の認定を受けている人 |
(6) | 戦傷病者特別援護法の規定により戦傷病者手帳の交付を受けている人 |
(7) | 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律の規定により厚生労働大臣の認定を受けている人 |
(8) | その年の12月31日の現況で引き続き6か月以上にわたって身体の障害により寝たきりの状態で、複雑な介護を必要とする(介護を受けなければ自ら排便等をすることができない程度の状態にあると認められる)人 |
障害者控除は日常的な支援や介護が必要な障害者に限らず、自立的な生活をしている方でも受けられる控除です。なお、法令については更新される可能性があるため、国税庁のホームページなどで最新情報をご確認ください。
障害者控除の区分とは?
障害者控除は、障害の程度と同居の有無によって以下のように変わります。
区分 | 概要 |
---|---|
障害者 | 障害者控除の条件のいずれかを満たす場合に受けられる控除 |
特別障害者 | 特に重度の障害を持つ場合に受けられる控除 |
同居特別障害者 | 特別障害者と同居しているか、同居と同等だとみとめられる場合に受けられる控除 |
(一般の)障害者の条件は前述の条件のいずれかを満たす人ですので、ここでは特別障害者と同居特別障害者について解説します。
特別障害者
特別障害者は障害の程度が重い方が対象です。特別障害者として控除申請できるのは、前述した障害者控除の条件において、以下のいずれかの条件を満たすことが必要です。
条件 | 特別障害者となる条件 |
---|---|
(1) | 特になし(特別障害者となる) |
(2) | このうち重度の知的障害者と判定された人 |
(3) | このうち障害等級が1級の人 |
(4) | このうち障害の程度が1級または2級と記載されている人 |
(5) | このうち特別障害者に準ずるものとして市町村長、特別区区長や福祉事務所長の認定を受けている人 |
(6) | このうち障害の程度が恩給法に定める特別項症から第3項症までの人 |
(7) | 特になし(特別障害者となる) |
(8) | 特になし(特別障害者となる) |
特別障害者の条件を満たすと、控除額が大きくなります。金額については後ほど解説します。
同居特別障害者
同居特別障害者とは、”特別障害者である同一生計配偶者や扶養親族で、あなたや配偶者、生計を一にする親族のどなたかとの同居を常としている方”です。
引用元:国税庁「同居特別障害者」
例えば、以下のような場合に同居特別障害者として申請できます。
- 同居している子どもが特別障害者
- 納税者は単身赴任中しているが、特別障害者の子どもが配偶者と一緒に暮らしている
- 特別障害者の方が病気の治療のために入院している(住所は自宅とみなされる)
一方、例えば特別障害者の家族が老人ホームで暮らしているような場合は、同居とみなされないため、同居特別障害者で申請できません。
障害者手帳がなくても障害者控除は受けられる?
障害者手帳がなくても、条件を満たせば障害者控除は受けられます。具体的なケースとしては、以下の3つがあります。
- 身体障害者手帳か戦傷病者手帳の交付を申請中、または交付を受けるための医師の診断書を持っている
- 条件を満たす程度の障害を持っていると明らかにわかる場合
- 市区町村から「障害者控除対象者認定書」の発行を受けている
ただし手続き・時間が別途かかることから、Kaienの利用者で障害者控除を受ける方のほとんどは障害者手帳を取得されています。
障害者控除の金額はどれくらい?
障害者控除の金額は先に紹介した3つの区分に応じて決められています。
区分 | 所得税(一人あたり) | 住民税(一人あたり) |
---|---|---|
障害者 | 27万円 | 26万円 |
特別障害者 | 40万円 | 30万円 |
同居特別障害者 | 75万円 | 53万円 |
上記のように一般の障害者と特別障害者、同居特別障害者では控除額に差が出るので、条件を確認しておくとよいでしょう。
なお、納税者本人が障害者のときは、前年の所得合計が135万円以下(給与収入のみのときは年収204万4,000円未満)であれば住民税は非課税になります。
障害者控除でどれくらい税金が減る?
収入や世帯状況によっても異なりますが、障害者控除を申請すると所得税で1万~4万円程度、住民税で0~8万円程度の節税が見込めます。医療費控除や配偶者控除などその他の控除と合わせれば、5万~20万円くらいの節税も可能です。
ここでは、シンプルなケースとして以下の条件で具体例を紹介します。
【納税者の条件】
年収 | 240万円(月額20万円) ※会社の給与のみ |
社会保険料(年間) | 36万円 ※40歳未満(介護保険料なし)、東京勤務、協会けんぽ加入を想定 |
参考:全国保険協会「令和5年4月分(5月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」
なお、収入に応じた基礎控除額や給与控除率、所得税率については国税庁のページをご覧ください。
障害者の場合
納税者本人が納税者で一般の障害者控除を受ける場合をシミュレーションしたのが以下の表です。
項目 | 金額(障害者控除あり) | 金額(障害者控除なし) | 備考・計算式 | |
a | 所得 | 240万円 | – | |
b | 給与所得控除額 | 80万円 | 年収×30%+80,000円 ※収入金額180万円超~360万円以下の場合 | |
c | 基礎控除額 | 48万円 | ※納税者本人の合計所得金額が2,400万円以下の場合 | |
d | 社会保険控除 | 36万円 | – | |
e | 障害者の所得控除額 | 27万円 | 0円 | ※「障害者控除の金額はどれくらい?」の見出し参照 |
f | 所得控除合計 | 191万円 | 164万円 | b+c+d+e |
g | 課税所得 | 49万円 | 76万円 | 所得-所得控除合計=a-f |
h | 所得税 | 2万4,500円 ※控除申請なしに比べて1万3,500円減 | 3万8,000円 | g×5% ※課税所得1,000円から194万9,000円までの所得税率は5% |
j | 障害者の住民税控除額 | 26万円 | 0円 | ※「障害者控除の金額はどれくらい?」の見出し参照 |
k | 住民税 | 2万3,000円 ※控除申請なしに比べて5万3,000円減 | 7万6,000円 | (課税所得-住民税控除額)×10%=(g-j)×10% ※住民税は10%固定 |
上記のように、一般の障害者控除を申請すると所得税1万3,500円+住民税5万3,000円=合計6万6500円の節税になります。
特別障害者の場合
納税者本人が納税者で特別障害者控除を受ける場合をシミュレーションしたのが以下の表です。
項目 | 金額(障害者控除あり) | 金額(障害者控除なし) | 備考・計算式 | |
a | 所得 | 240万円 | – | |
b | 給与所得控除額 | 80万円 | 年収×30%+80,000円 ※収入金額180万円超~360万円以下の場合 | |
c | 基礎控除額 | 48万円 | ※納税者本人の合計所得金額が2,400万円以下の場合 | |
d | 社会保険控除 | 36万円 | – | |
e | 障害者の所得控除額 | 40万円 | 0円 | ※「障害者控除の金額はどれくらい?」の見出し参照 |
f | 所得控除合計 | 204万円 | 164万円 | b+c+d+e |
g | 課税所得 | 36万円 | 76万円 | 所得-所得控除合計=a-f |
h | 所得税 | 1万8,000円 ※控除申請なしに比べて2万円減 | 3万8,000円 | g×5% ※課税所得1,000円から194万9,000円までの所得税率は5% |
j | 障害者の住民税控除額 | 30万円 | 0円 | ※「障害者控除の金額はどれくらい?」の見出し参照 |
k | 住民税 | 6,000円 ※控除申請なしに比べて7万円減 | 7万6,000円 | (課税所得-住民税控除額)×10%=(g-j)×10% ※住民税は10%固定 |
上記のように、一般の障害者控除を申請すると所得税2万円+住民税7万円=合計9万円の節税になります。
同居特別障害者の場合
納税者本人が父親(扶養者)で同居する10歳の子ども(扶養控除なし)が特別障害者の親子2人暮らしでシミュレーションしたのが以下の表です。
項目 | 金額(障害者控除あり) | 金額(障害者控除なし) | 備考・計算式 | |
a | 所得 | 240万円 | – | |
b | 給与所得控除額 | 80万円 | 年収×30%+80,000円 ※収入金額180万円超~360万円以下の場合 | |
c | 基礎控除額 | 48万円 | ※納税者本人の合計所得金額が2,400万円以下の場合 | |
d | 社会保険控除 | 36万円 | – | |
e | 障害者の所得控除額 | 70万円 | 0円 | ※「障害者控除の金額はどれくらい?」の見出し参照 |
f | 所得控除合計 | 239万円 | 164万円 | b+c+d+e |
g | 課税所得 | 1万円 | 76万円 | 所得-所得控除合計=a-f |
h | 所得税 | 0円(1000円以下切り捨て) ※控除申請なしに比べて3万8,000円減 | 3万8,000円 | g×5% ※課税所得1,000円から194万9,000円までの所得税率は5% |
j | 障害者の住民税控除額 | 53万円 | 0円 | ※「障害者控除の金額はどれくらい?」の見出し参照 |
k | 住民税 | 0円 ※控除申請なしに比べて7万6,000円減 | 7万6,000円 | (課税所得-住民税控除額)×10%=(g-j)×10% ※住民税は10%固定 |
上記のように、一般の障害者控除を申請すると、所得税3万8,000円+住民税7万6,000円=合計11万4,000円の節税になります。
障害者控除の申請方法
障害者控除の申請方法は、会社員か個人事業主によって変わります。それぞれの申請方法を解説します。
会社員の場合
会社員の方の場合は、勤務先の会社が年末調整を実施します。会社から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が配布されるので、障害者控除を記入して提出しましょう。
障害者控除に関する記入欄は「C 障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」です。この欄に以下の内容を記入します。
- 障害者との続柄
- 障害者控除の区分
- 人数
- 内容(「<対象者氏名> 障害者〇級 障害者手帳〇月〇日交付」など)
なお、年末調整で申告し忘れてしまった場合は、確定申告で申告できます。
個人事業主の場合
個人事業主の場合は確定申告を行います。記入箇所は以下のとおりです。
記入箇所 | 記入内容 |
---|---|
第1表⑲~⑳欄 | 控除額を記入※勤労学生控除額もある場合は、こちらも合計 |
第2表「本人に関する事項(⑰~⑳)」欄 | 確定申告をする方が障害者の場合、「障害者」または「特別障害者」のいずれかに〇を付ける |
第2表「配偶者や親族に関する事項(⑳~㉓)」欄 | 同一生計配偶者や扶養親族が障害者または特別障害者である場合は、「障」か「特障」に〇を付ける |
参考:国税庁「手順3 所得から差し引かれる金額(所得控除)を計算する」
なお、障害者控除についての添付書類はありません。
相続税も障害者控除を受けられる
障害者の税額控除としては所得控除のほかに相続税の控除があります。相続税の控除は、相続人が85歳未満の障害者のときに相続税の額から一定の金額を差し引ける制度です。例えば障害者の方を残して両親がお亡くなりになったような際に、相続税控除を適用できます。
相続税の控除を受ける障害者の方の条件は以下の3つです。
- 日本国内に住所がある
- 相続や遺贈で財産を取得したときに障害者である
- 法定相続人である(相続の放棄があったときは、なかった場合における相続人)
ほとんどの場合は相続税の控除を受けられるので、忘れずに申請しておきましょう。
障害者控除の対象になるか確認してみよう
障害者控除は所得控除の1つで、所得税や住民税の節税が可能です。年末調整や確定申告の前までに障害者手帳や障害者控除対象者認定書、医師の診断書など、障害を証明できる書類を準備しておきましょう。
節税額は収入や世帯状況、その他の所得控除などによって異なりますが、数万円~数十万円の節税が見込めます。障害者控除の対象になる可能性がある場合は、今一度確認しておきましょう。
監修者コメント
障害者控除は本コラムで具体的な控除額などについて説明がありますので、よくお読みになって理解を深めてください。本コラムでは所得税と住民税について解説がありましたが、そのほか相続税、贈与税、自動車税などについても控除や非課税の対象となることがあります。
医療従事者として一つお願いしたいことがあります。それは、精神障害者保健福祉手帳を交付された後も主治医の指示に従って、定期的に受診していただきたいということです。障害の程度が長年固定している知的障害の方では頻回に受診する必要のない方もいらっしゃいますが、症状が不安定だったり、長期的に内服する必要のある方はきちんと治療を受けていただきたいと思います。
また、初診で精神障害者保健福祉手帳の更新のために診断書を書いて欲しいと言う方もいらっしゃいますが、その場合はカルテ記録や診断書のコピーが残っている医院を受診してください。医師は診断書交付の義務を負いますが、ほとんど過去の情報のない中で更新の診断書を書くことは極めて困難です。不十分な情報で作成された診断書を自治体に提出しても、受理されず返戻されるなど時間をロスすることになりますので、お気をつけください。
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。
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