気分変調症とは?うつ病との違いや過ごし方の注意点、仕事を続けるコツを解説

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「なんとなく気分の落ち込みが長く続いている」といった症状がある方は、気分変調症の可能性があります。これを単に疲れや性格の問題と考えて放っておくと、症状が悪化して仕事や日常生活に支障をきたす恐れがあるため要注意です。

この記事では、気分変調症の症状や併存しやすい病気、過ごし方のポイントについて詳しく解説します。気分変調症で就労に悩みを抱えている方をサポートする支援機関も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

気分変調症(気分変調性障害)とは

気分変調症(気分変調性障害)とは、軽度の気持ちの落ち込みが続く精神疾患です。成人期早期に発症することが多いといわれ、気分の落ち込み以外にも不眠や食欲不振などが数年から一生、慢性的に続きます。症状自体は比較的軽度ですが、慢性的な不調が続くため仕事や家事など、日常生活に及ぼす影響は大きいでしょう。

近年、気分障害(うつ病や気分変調症を含む)の患者数は増加傾向にあり、厚生労働省の患者調査によると2017年の89.6万人から2020年には91.4万人と増えています。気分障害は他の精神疾患と併発する可能性が高いため、早期発見と適切な治療が重要です。

気分変調症は性格によるもの?

かつて、気分変調症は軽度のうつ状態が続くことから、抑うつ神経症などと呼ばれていました。成人期早期に発症することが多く「なんとなく気分が乗らない」といった状態が慢性的に続くため、性格的なものと思われがちです。そのため病気と気づかずに放置され、症状が悪化してしまうケースも少なくありません。

現在、気分変調症は性格的な問題ではなく薬物療法が必要な疾患である、と考えられています。症状の改善には、自分自身や周囲の理解を深め、適切な治療やサポートを受けることが不可欠です。

気分変調症の主な症状

気分変調症の主な症状は以下のとおりです。

  • 持続的な気分の落ち込み
  • 疲労感やエネルギーの低下
  • 自信の喪失
  • 集中力の低下
  • 食欲の変動(過食または食欲不振)
  • 睡眠障害(不眠または過眠)

抑うつ状態によるストレスや感情のコントロールが難しくなると、食べることで一時的な安心感や快楽を求め過食になる場合もあります。これらの症状は生活の質を大きく損なうため、医療機関等で適切な治療や支援を受けながら対処法を見つけることが大切です。

日常生活でのストレス管理や健康的な食生活の維持のほか、生活リズムの安定や食事の管理、カウンセリングを受けるなど、さまざまな対処法を検討しましょう。

気分変調症の診断基準

気分変調症は、世界保健機関(WHO)の診断ガイドラインである「ICD-10(国際疾病分類第10版)」で使われる名称です。一方、「DSM-5(アメリカ精神医学会の精神疾患の診断と統計マニュアル第5版)」では「持続性抑うつ障害(気分変調症)」と呼ばれています。

ICD-10の基準では、1日の大半で疲労や抑うつを感じる状態が2年以上続いていることなどを基準に、気分変調症と診断されます。DSM-5においては、食欲の変動や睡眠障害などいくつか挙げられる症状のうち、少なくとも2つ以上該当する状態を指します。

いずれにしても、長期間にわたる比較的軽度なうつ症状と、日常生活における機能の低下が診断の要点です。

気分変調症とうつ病の違い

気分変調症とうつ病は多くの症状が重複しますが、明確な相違点があります。それはうつ病は抑うつ症状が2週間以上続くことが多い一方、気分変調症は比較的症状の軽い抑うつ症状が、2年以上持続する点です。

気分変調症とうつ病の症状が同時にあらわれることを「二重うつ病」や「重複うつ病」と呼び、合併すると再発しやすく治療が困難です。どちらの症状も見過ごさないよう、早めに医療機関を受診しましょう。

気分変調症と併存しやすい病気

気分変調症は他の病気と併存しやすく、うつ病以外にも他の精神疾患と合併するケースが見られます。ここでは、気分変調症と併存しやすい病気を2つ紹介します。

発達障害

気分変調症は発達障害*の二次障害としてあらわれる場合があります。発達障害は先天的な脳の機能障害であり、生まれながらに一定の特性があります。特性は人によりさまざまですが、特性による生きづらさや失敗体験、過度なストレスなどが原因で、気分変調症などの精神疾患を発症することを二次障害といいます。

発達障害は性格などと誤解されて見過ごされるケースもあり、気分変調症の発症をきっかけに発達障害が発覚する例も珍しくありません。気分変調症が二次障害の場合は、気分変調症の治療と併せて発達障害の特性へのアプローチも必要になります。

境界性パーソナリティ障害(BPD)

境界性パーソナリティ障害(BPD)も、気分変調症と併存する可能性があります。境界性パーソナリティ障害は感情や人間関係、自己像の不安定さが見られるのが特徴です。

見捨てられることへの不安や恐怖が強く、相手が離れていくと感じると感情が制御できず、衝動的な行動をとることもあります。ただし現在は類似した症状や診断名で説明されることが多いため、境界性パーソナリティ障害と診断されるケースは少なくなっています。

気分変調症の治療法

気分変調症の治療法は、一般的に以下のようなものが挙げられます。

  • 薬物療法(抗うつ薬など)
  • カウンセリングなどの精神療法

以前は精神療法が行われていましたが、近年はより有効性の高い抗うつ薬などの薬物療法が主流です。さらに精神療法を併用することで、より効果が見込まれます。気分変調症は再発しやすいといわれているため、寛解を目指すために医師と相談しながら自分に合う治療法を試していきましょう。

気分変調症の方の過ごし方で気をつけたいこと

気分変調症は軽度のうつ状態が続きますが、日常の過ごし方を工夫することで症状をやわらげることも可能です。ここからは、症状と上手く付き合うための過ごし方のポイントや注意点を解説します。

生活リズムを整える

気分変調症のときは、睡眠や食生活などのリズムが乱れがちです。生活習慣を整えるためには、毎日同じ時間に就寝・起床をして体内時計を安定させ、規則正しい食生活を整えることを意識しましょう。日中は適度な運動を取り入れ、エネルギーの向上とストレス軽減を図ることも大切です。

このような習慣を続けることで、気分の安定や症状の改善が期待できます。もし自分だけで生活リズムを整えるのが難しい場合、後述する支援機関を頼るのも1つの手です。

リラックスして過ごす

ストレスを溜めないよう、リラックスする時間を設けることもポイントです。ストレスを軽減し心身を休めるために、毎日の生活にリラックスできる時間を取り入れてみましょう。例えば、深呼吸や瞑想、ヨガなどのリラクゼーション法を実践すると、気分が安定しやすくなります。

また、趣味や好きな活動に時間をかけるのも有効です。音楽を聴いたり、読書をしたり、自然の中で散歩をするなど、自分が心地よいと感じることを見つけてください。これらのリラックス法を取り入れ、日常生活の中で無理をせずに過ごすことが、気分変調症の症状を和らげることにつながります。

専門家の支援を受ける

医療機関の治療以外にも、気分変調症の方を対象とした支援はいくつか挙げられます。専門家によるカウンセリングやグループセラピーなど、自分に合った通いやすいものをいくつか調べてみましょう。個別カウンセリングやグループセラピーなどを利用することで、他者との交流が励みになり孤独感が軽減されるケースもあります。

地域のメンタルクリニックや福祉サービスなどの公的支援機関を活用し、定期的なフォローアップを検討してみましょう。

気分変調症の方が就職や転職に利用できる支援機関

気分変調症により就労が困難になった場合や、転職などを考えている方は以下のような支援機関を利用できます。

  • 就労移行支援
  • ハローワーク
  • 地域障害者職業センター
  • 障害者就業・生活支援センター

これらの支援機関は、精神疾患や障害のある方が就労できるように、さまざまなサポートを行っています。なかでも就労移行支援は、職業訓練や就活サポートなど、個々に必要なスキルを習得しながら一般就労を目指せる支援機関です。

担当者と相談しながら自分に合った方法で就職に必要なスキルを学べるので、復職を考えている方やブランクがある方でも安心して利用できます。

Kaienの就労移行支援

Kaienでは、気分変調症や発達障害などの精神疾患がある方を対象とした就労移行支援を行っています。一人ひとりの悩みや特性に対し、専門知識と経験を持つスタッフが親身にサポートするので、障害とうまく付き合いながら働く方法を見つけられます。Kaienで行っている主な支援内容は、以下のとおりです。

  • 100職種以上の職業訓練
  • 個々に合わせた独自のカリキュラム
  • 豊富な求人の中から就労先の紹介
  • 就職後の手厚い定着支援

Kaienの就労移行支援を利用すれば、基本的なビジネススキルやパソコンスキルなど、就職に必要な知識や資格取得に向けたスキルを習得できます。専門のカウンセラーと相談しながら就職活動を進められるため、未経験の職種でも安心です。障害に理解のある200社以上の企業と連携しており、他事業所にはないKaien独自の求人も紹介できます。

就職が決まった後も職場に定着できるように、職場での困りごとを相談できる環境を用意しているので、安心してご利用ください。

Kaienの自立訓練(生活訓練)

気分変調症による生活習慣の乱れを改善したい、働く自信がまだなく将来について考えたいという方は、就労移行支援の前に自立訓練(生活訓練)の利用がおすすめです。Kaienでは気分変調症などがある方に対し、自立した生活を送れるようさまざまなサポートを行っています。

食習慣や規則正しい睡眠、身だしなみ、リラックスの方法などの生活スキルを身につけられる講座や実践プロジェクト、困りごとなどを相談できるカウンセリングなどを通し、あなたの自立をアシストします。就職の前にまずは生活リズムを整え、就労へのモチベーションをアップさせたいと考えている方は、ぜひ利用をご検討ください。

過ごし方に気をつけて無理のない就労を

気分変調症の方は、軽度のうつ状態が長期に続くことから、性格によるものと考える方もいるかもしれません。しかし、放っておくと他の精神疾患と合併するリスクがあり、治療が難しくなるため、早めに専門機関に相談し治療を受けましょう。

気分変調症で就労が困難になった場合や、転職を考えている方は就労移行支援の利用がおすすめです。生活リズムをまず整えたいという方は、自立訓練(生活訓練)の利用も検討してみましょう。Kaienではどちらのサービスも実施していますので、興味を持たれた方は、お気軽に無料の見学・個別相談会にご参加ください。あなたのご連絡をお待ちしています。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

監修者コメント

うつ病の概念は広大で細分化されています。それはドイツ精神病理学の伝統と変遷が色濃く反映されています。気分変調症(Dysthimia; ドイツ語ではDysthimie)はその最たる例かもしれません。

もともとうつ病は、19世紀後半にドイツ語圏や北欧で明らかなきっかけなく発症する疾患と考えられてきました。これを「内因性うつ病」と言い、治療では精神療法は効果がなく、電気けいれん療法など直接脳に作用する治療が有効と考えられました*1。

しかし、戦争の時代を迎えて、精神医学会のうつ病に対する認識が変わります。特に1950年の西ドイツでは、ナチスによる甚大な被害に遭ったユダヤ系住民に対する賠償のための精神鑑定が大変な問題となりました。つまり、内因性うつ病のような症状を呈するが、発症のきっかけは明らかな迫害や喪失による(これを反応性と言います)という、これまでとは異なるうつ病の定義が必要となったのです。この研究にあたったWeitbrechtは、この病態を「内因反応性気分変調症」(endo-reaktive Dysthimie)と命名しました*1。

現在、DSM-5では気分変調症の診断基準として、必ずしも明らかなきっかけ(反応性)を求めることはありません。しかし、現在でも幼少期の被虐待体験や違法薬物使用歴が気分変調症と関連していると考えられ、学問的には一定の因果関係が想定されています*2。

*1: 大前晋, 精神神経誌, 2022; 124(2): 91-108

*2: 大野裕, 総合健診, 2018; 45: 359-365

監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。


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