自立支援医療(精神通院医療)制度とは?対象者や申請方法、就職や仕事への影響を解説

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障害がある方にとって日々の医療費は大きな負担です。自由に働けないなかでの出費を、ついためらってしまう方もいるのではないでしょうか。そんな方にこそ、毎月の通院費や薬代を大きく減らせる可能性がある「自立支援医療(精神通院医療)制度」を知っていただきたいです。

この記事では、自立支援医療制度の概要を分かりやすく解説します。気になるメリット・デメリットも一緒に見ていきましょう。なお、本記事では主に精神通院医療にフォーカスしています。

自立支援医療(精神通院医療)制度とは?

自立支援医療制度とは、精神または身体に障害がある方を対象として、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度です。対象は「精神通院医療」と「更生医療」、「育成医療」の3つに分かれており、精神疾患がある方は「精神通院医療」に基づく支援を受けられます。

支援内容は、制度で定められた医療費の自己負担上限額を超えた分を公費で補うというものです。月額自己負担上限額は、世帯の所得と障害の状態によって段階的に変わります。

なお、診断書作成やカウンセリングなどの自費診療は自立支援医療の対象とはなりません。あくまで健康保険内の治療に限り、公費負担の適用となる点に注意が必要です。

自立支援医療制度の対象者

自立支援医療制度の対象者はそれぞれ以下のとおりです。

  • 精神通院医療:統合失調症など精神保健福祉法第5条に規定する精神疾患のある者で、通院による継続的な精神医療が必要な者
  • 更生医療:身体障害者手帳の交付を受けた者で、手術などの治療により確実に障害の除去・軽減が期待できる者
  • 育成医療:身体に障害を有する18歳未満の児童で、手術などの治療により確実に障害の除去・軽減が期待できる者

また、精神通院医療の対象となる精神疾患は以下のとおりです。

  1. 病状性を含む器質性精神障害
  2. 精神作用物質使用による精神及び行動の障害
  3. 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害
  4. 気分障害
  5. てんかん
  6. 神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害
  7. 生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群
  8. 成人の人格及び行動の障害
  9. 精神遅滞
  10. 心理的発達の障害
  11. 小児期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害

発達障害は自立支援医療制度の対象に含まれる?

発達障害*は上記の支援対象になる精神疾患のうち「心理的発達の障害」に含まれるので、制度の対象になります。ただし、すべての方が対象になるわけではなく、通院による継続的な治療を要する場合に限られます。

より具体的に説明すると、制度対象の判断は世界保健機関(WHO)による診断基準であるICD-10(国際疾病分類)の分類コードに基づいて判断されます(最新版はICD-11)。

「心理的発達の障害」の対象は分類コードF80からF89までを対象としているので、自分の具体的な条件を知りたい場合は、医師に該当コードについて質問してみてもよいでしょう。

自立支援医療制度による自己負担額

自立支援医療制度による自己負担額の上限は、世帯収入と障害の状態によって以下のように定められています。

精神通院医療・更生医療育成医療
生活保護世帯月額0円月額0円
市町村民税非課税の低所得世帯月額2,500~5,000円月額2,500~5,000円
市町村民税23万5,000円未満(年収833万円未満)の中所得世帯総医療費の1割または高額療養費(医療保険)の自己負担限度額月額5,000~1万円
市町村民税23万5,000円以上(年収約833万円以上)の世帯対象外対象外 

出典:厚生労働省「自立支援医療の患者負担の基本的な枠組み

自立支援医療制度を受けるメリット・デメリット

自立支援医療制度のメリットは、自己負担上限額を超えた医療費を補ってもらえることです。

精神疾患の治療は焦らずじっくり取り組むのがセオリーです。医療費の悩みを抱えたままだと、十分な期間を確保せずに治療を中断してしまう恐れもありますので、治療に取り組むうえで金銭面の負担軽減は大きなメリットといえるでしょう。

一方、主なデメリットは以下のとおりです。

  • 原則特定の医療機関でしか使えない
  • 適用対象外の費用がある
  • 交付まで時間がかかる
  • 更新手続きが必要

なかでも対象となる医療機関と適用対象外の費用があることは覚えておきましょう。

なお、交付まで時間がかかることや更新手続きが必要なことは、あらかじめ理解しておけば大きなデメリットにはなりません。後ほど手続きについて説明しますので、かかる期間や必要手続きなどを理解して早めに取り掛かりましょう。

自立支援医療(精神通院医療)の適用範囲

自立支援医療制度が適用される医療の範囲は、自立支援医療費支給認定申請書に記載されている精神障害及びその障害に起因して生じた病態に対する、入院を伴わない行為です。具体的には、診察や薬の処方、デイ・ケア、訪問看護などが該当します。

このとき、医療を受ける医療機関は「医療受給者証」に記載された「指定医療機関」に限定されます。

また、指定医療機関で医療を受けた場合でも、精神疾患と関係ない治療や公的医療保険の対象にならない治療・投薬などは対象になりません。以下に条件を箇条書きで書き出します。

【自立支援医療の適用に必要なこと】

  • 申請書に記載した精神障害及びその障害に起因する病態の治療を目的としている
  • 医療受給者証に記載された指定医療機関が行うこと
  • 入院を伴わない
  • 精神疾患に関係のある医療である
  • 公的医療保険の対象である

自立支援医療制度を利用すると仕事や就職に影響はある?

自立支援医療制度の利用が職場に知らされることはありません。制度の利用を知っているのは、本人に加えて市区町村と指定医療機関、保険組合のみです。

ちなみに、利用の際は指定医療機関の窓口で医療受給者証を提示するだけで、その場で自己負担上限額を超えた分の医療費の支払いが不要になります。あとで減額分が振り込まれるような方法ではないので、通帳に履歴が残ることもありません。

自立支援医療制度の申請の流れ

自立支援医療制度の申請の流れは以下のとおりです。

  1. 申請に必要な書類を用意する
  2. 住んでいる市区町村の担当窓口に提出する
  3. 申請の審査を受ける
  4. 自立支援医療受給者証が交付される

また、申請時には以下のような書類を用意します。必要な書類は都道府県によって一部異なる場合がありますので、お住まいの申請窓口で確認してください。

  • 自立支援医療(精神通院医療)費支給認定申請書
  • 医師の診断書
  • 受診者と同一世帯の方の所得状況が確認できる書類(課税証明書や非課税証明書など)
  • 健康保険証の写し
  • マイナンバーの確認書類
  • その他(身分証や委任状など)

書類の準備で気を付けたいのは、診断書を書いてもらう医療機関と受給者証に記載される指定医療機関が同じであることです。原則として、診断書を発行した医療機関でその後も医療を受けることになります。

また、健康保険証の写しは医療保険の加入関係を確認できるよう、世帯全員の名前が記載されているものを用意しましょう。

申請の際の注意点

自立支援医療制度を申請する際には、以下の3点に特に注意しましょう。

  • 交付に2ヶ月程度かかる
  • 有効期限は原則1年
  • 転院した場合は変更申請が必要

いずれも制度を安心して利用するために欠かせないポイントなので、手続きで必ず気を付ける点として覚えておきましょう。医療を受けたいときに受給者証ができていなかったり、更新が間に合っていなかったりすると、通常と同じ費用を支払うことになるため注意が必要です。

自立支援医療制度の更新方法

自立支援医療制度の更新手続きは新規申請時とおおむね同じです。以下の書類を揃えてから、住んでいる市区町村の担当窓口に提出します。必要な書類は新規申請時と同様、都道府県によって一部異なる場合があります。

自立支援医療制度の更新に必要な書類

  • 自立支援医療費支給認定申請書
  • 医師の診断書
  • 受診者と同じ世帯の方の所得状況が確認できる書類(課税証明書や非課税証明書など)
  • 健康保険証の写し
  • マイナンバーの確認書類
  • その他(身分証や委任状など)

なお、医師の診断書は治療方針などに変更がない更新の場合に限り、2年ごとの提出になります。また、更新時も新規申請時と同様に時間がかかります。更新申請は有効期限が切れる3ヶ月前からできるので、早めの手続きを心がけましょう。

障害のある方が利用できるその他の経済支援

自立支援医療制度で負担が減るのは、あくまで医療費のみです。治療中にお金で困った場合は、以下のような経済支援制度の利用も検討しましょう。

  • 傷病手当金
    ケガや病気で仕事を休んでいる間の生活を保障するための制度。会社員や公務員など社会保険加入者が受給できる。
  • 障害者医療費助成制度
    障害がある方の医療費を一部または全額助成する制度。身体障害者手帳1級・2級、療育手帳1度・2度、精神障害者保健福祉手帳1級の人が対象。
  • 障害年金
    ケガや病気で生活や仕事が制限される場合に受給できる年金。障害基礎年金、障害厚生年金、障害手当金の3種類がある。
  • 障害者手帳
    身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3種類がある。手帳の種類や等級に応じて公的サービスを受けられる。

障害のある方の自立を支援する自立訓練(生活訓練)

障害の状態が落ち着いてきたら、改めて働きたいと思う方も多いでしょう。しかし、障害と付き合いながら働くことに不安を感じることもあるはずです。

そこで紹介したいのが、Kaienの「自立訓練(生活訓練)」です。いきなり仕事を探して働き始めるのではなく、まずは日常生活の基礎を整え、自立した生活を送ることを目的とします。

障害の理解や生活習慣の改善、将来設計や他人とのコミュニケーションなどが主なプログラムです。自分でできることが増えれば、その延長線として仕事への不安も減っていくのではないでしょうか。

なお、利用料は福祉事業のため9割以上の方が自己負担額0円で利用できます。在宅(オンライン)利用も可能なので、まずはお気軽にご相談ください。

障害のある方の仕事探しをサポートする就労移行支援

Kaienでは自立訓練(生活訓練)のほかに、障害がある方の就労をサポートする「就労移行支援」も行っています。

主な支援内容は、職業訓練や就労に関するスキル向上、独自求人の提供を含む就活サポートなどです。一人ひとりの個性に寄り添い、総合的なカリキュラムを提供することで、あなたが持つ可能性を引き出します。

就労移行支援の対象は発達障害や不安障害、パニック障害などの精神疾患がある方や、知的障害がある方などです。利用料は自立訓練(生活訓練)と同様に、9割以上の方が自己負担額0円で利用できます。

過去10年間の就職実績は2,000人以上、求人の職種はサービス業からIT・ハイテク、金融、不動産など多岐にわたり、給与額は3人に1人が20万円以上をもらっています。

また、就職率86%、1年後の離職率9%と、職場への定着率が高いのもKaienの強みです。最長3年半の定着支援も実施していますので、二人三脚で仕事探しに取り組みましょう。

適切な支援の利用で経済的負担を減らそう

病気や障害で働けない、日常生活がままならないときほど「早くなんとかしたい」と焦りがちです。そこにお金の問題が絡んでくると、余計に焦りが増してしまいますよね。

そんなときこそ自立支援医療制度や経済支援制度を活用して、自分のための時間を確保することが大切です。心と身体が落ち着いてきたら、自立訓練(生活訓練)や就労移行支援を利用して、自分のペースで再スタートを切りましょう。Kaienはあなたが輝ける場所を探すお手伝いをさせていただきます。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

監修者コメント

自立支援医療費制度(精神通院)は2006年4月より施行されました。原則として医療費の30%から10%支払に減額になるので、経済的なメリットを感じることができるでしょう。もともとは「通院医療費公費負担制度」がもとになって、患者さんは全体の5%のみ負担すれば良かったのですが、メンタルクリニックの増加により精神科に関わる医療費が増大したため、患者さんの所得に応じた応益負担に変更された経緯があります*。

自立支援医療費制度を受けるには、主治医の診断書が必要です。各都道府県・政令指定都市によってフォーマットが異なりますので、大都市のクリニックに他県から通院されている患者さんは、主治医に住所地のフォーマットをお持ちか確認すると良いでしょう。自立支援医療費診断書は自費のためクリニックによりますが、4,000‐5,000円が相場でしょう。最初は高いと感じるかもしれませんが、最長2年間は1割負担で済みますので、十分元が取れます。詳しくは精神保健福祉士(PSW)などにお問い合わせください。

*https://ja.wikipedia.org/wiki/自立支援医療_(精神通院医療)

監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。


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