「わけあって大学を中退した」あるいは「目下、大学中退を考えている」といった場合、大学を中退しても就職ができるかどうか、不安に思うこともありますよね。
そこでこの記事では大学を中退しても就職できるかどうか、就職できる場合の就職率や就職活動のポイントについて解説します。現在中退するかどうか悩んでいる人の相談窓口も紹介しますので、ぜひ最後まで目を通してみて下さい。
発達障害と中退
文部科学省の調査によると、大学を中退する人の中退理由では、「転学等」を除くと「学生生活不適応・修学意欲低下」が最も多いことが分かっています。
このことから、大学中退の背景には、生きづらさや学びづらさがあることが推測されます。さらに、こうした生きづらさや学びづらさの背景には、発達障害*がある可能性も否定できません。
発達障害の場合、本人や家族が発達障害の特性に気づかないままで、大学生活に悩みを抱えているケースも少なくありません。例えば、下記のようなケースです。
- 時間割がひとりで組めない
- 履修登録ができない
- レポートの提出日の締切を忘れる
- ノートを取るのに時間がかかる
- 手書きでノートを取るのが難しい
- 先生や学生とのコミュニケーションがうまくいかない
こうした学びづらさや居づらさを解消しないままにいると、不登校につながり、そのうち休学や中退になってしまう可能性も否定できません。
上記のような悩みを抱えている場合には、専門機関や医療機関に相談してみるのがよいといえます。
参考:文部科学省「大学等における令和4年度前期の授業の実施方針等に関する調査及び学生 の修学状況(中退・休学)等に関する調査の結果について(周知) 」
参考:国立障害者リハビリテーションセンター「大学生活」
大学の中退に関する相談先
大学を中退するかどうか迷っていて、誰かに相談したいといった場合もあるでしょう。そうした場合、下記のような相談先があります。
- 学生支援センター・学生相談室
- 保健管理センター
- 医療機関
大学には、学生生活全般におけるさまざまな相談ができる学生支援センターや学生相談室が設けられています。学生生活の悩みや対人関係、学業、進路、就職といったさまざまな悩みについての相談ができ、中退に関する相談も可能です。
保健管理センターは、病気や怪我への対処のほか、健康増進や学生生活における不安や悩みの相談が可能です。
また、心や体の不調で中退するかどうか悩んでいる場合は、医療機関に相談し診断をあおぐことが大切です。
迷っているなら休学も選択肢の一つ
大学を中退するかどうか迷っている場合には、中退せずに休学することも選択肢の一つといえます。
中退でなく休学を選択した場合のメリットとデメリットには次のようなものがあります。休学を検討する場合の参考にして下さい。
【休学した場合のメリット】
- 学生という身分を維持したまま休養できる
- 学生という身分を維持したまま学業以外の好きな活動に打ち込める
- 休学中の授業料の免除を受けられる
【休学した場合のデメリット】
- 休学した分、卒業が遅れ、負い目や焦りを感じやすい
- 同期が先に進学・卒業してしまい、復学後には新たな人間関係を形成する必要がある
- 就職活動時には休学の理由を説明しなければならない
休学のメリットとしては学生という身分を維持できるということが大きな利点といえます。デメリットは休学した分、卒業が遅れ、負い目を感じたり焦ったりしやすい点が挙げられます。
大学を中退すると就職は難しい?
結論を先にいうと、大学を中退しても正社員就職は可能です。しかし、大学を中退すると、中退しない場合よりは就職は厳しくなる傾向にあります。以下では具体的に、大学を中退することで就職にどのような影響があるか解説します。
大学中退者の正社員就職率
大学中退者でも正社員就職をする人は少なくありません。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によると、2012年の大学・大学院中退者の正社員就職率は33.9%です。大学を中退していても、3人に1人は正社員として就職している計算です。
男女別では、男性の大学中退者の正社員就職率は35.3%、女性の大学中退者の正社員就職率は30.1%と、男性の方が若干高くなっています。
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「大学等中退者の 就労と意識に関する研究」
大卒・高卒者の就職率との比較
大学中退者と大卒・高卒者の正社員就職率を比較してみると、大学中退者の正社員就職率が低めであることが分かります。
例えば、2012年の大学中退者の正社員就職率33.9%であるのに対し、大学・大学院卒業の正社員就職率は69.1%です。大学中退者の正社員就職率は、大卒の正社員就職率のほぼ半分で、それだけ大学中退者の正社員就職は難しいということが分かります。
また、大学中退者の正社員就職率33.9%に対し、高卒の正社員就職率は62.4%です。大学中退者は高卒のカテゴリーに含まれますが、高校を卒業してすぐに就職した人たちも含めて高卒全体で考えると、正社員就職率は大学中退者の33.9%をはるかに上回る水準になっています。
高卒全体と比べても大学中退者の正社員就職率は低めといえるでしょう。
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「大学等中退者の 就労と意識に関する研究」
大学を中退して就職するメリットとデメリット
大学を中退して就職する場合にはメリットとデメリットがあります。それぞれについて以下で詳しく解説します。
メリット
大学を中退して就職するメリットは次の3つです。
- いち早く働き始めることができる
- 卒業を気にせずに自分のやりたいことに集中できる
- 環境をリセットして新たな心持ちで取り組める
いち早く働き始めることで、社会人としての経験やキャリアを、より早く蓄積していくことができます。
また、卒業のために学校に通ったり単位を取ったりするといったことを気にせず、自分のやりたいことに集中できることもメリットです。起業や留学、就きたい職業など取り組みたいことがある人にとっては、すぐに取り組める良い機会といえます。
また、大学を中退することで、環境は変わります。これまでの人間関係や所属場所から解放され、新たな環境で心新たに物事に取り組めるメリットがあります。
デメリット
大学を中退して就職するデメリットは次の4つがあります。
- 大卒に比べて応募できる求人が狭まる
- 大卒と比べると給与が低い傾向にある
- 就職活動で「中退」がマイナスイメージに捉えられる傾向がある
- 奨学金の返済が始まる
まず、「大卒」を応募条件として掲げている企業が多く、中退では応募できない求人が多いといったデメリットがあります。
また、大学中退の場合は、最終学歴は高卒の扱いとなり、入社後、大卒社員よりも給与水準が低くなる傾向があります。例えば、2023年の大学中退を含めた高卒の平均賃金は28.1万円ですが、大卒の平均賃金は36.9万円です。大学中退の給与は大卒よりも低いのが一般的です。
さらに、就職活動にあたって、大学中退は「途中で物事を投げ出しやすい人ではないか」などと悪い印象で捉えられてしまうことがあります。面接などでは大学中退の理由をポジティブに伝えるなどの工夫をしましょう。
また、貸与型の奨学金を借りている場合は、大学を中退すると奨学生としての資格を失い、返済が始まります。返済のメドがつかない場合などには、返済額の減額や免除ができないか、奨学金の相談窓口に確認するようにしましょう。
参考:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
大学を中退した人が就職活動するときのポイント
大学を中退した人が就職活動をするときに押さえておきたいポイントがあります。就職活動で失敗しないためにも次の6つのポイントを参考にして下さい。
中退の理由や中退からの学びをポジティブに伝える
就職活動の面接などで、中退の理由を聞かれた場合には、中退の理由や中退からの学びをポジティブに伝えるようにしましょう。
「サボっていたから」「なじめなかったから」などのネガティブな理由をそのまま伝えると、また同じ理由で会社を辞めてしまうのではないかと捉えられてしまいます。そのため、「早く働きたかったから」「他にやりたいことがあったから」など前向きな理由を伝えることが大切です。
とはいえ、中退の理由について嘘をつくことは避けましょう。嘘は、詳しく質問をされた場合に、簡単にバレることが少なくありません。嘘だと知られてしまうと、より印象が悪くなってしまいます。
嘘ではなく、前向きなポイントを探して伝えることがポイントです。
できるだけ空白期間を作らない
大学を中退してからできるだけ空白期間を作らずに、就職活動をすることがおすすめです。
大学中退からの空白期間が長くなると、企業から「就業意欲が低いのではないか」「怠惰なのではないか」などネガティブに捉えられることが少なくありません。
説明のできない期間が長いと企業からの不信感を招くため、中退後、早めに就職活動や資格取得などの前向きな活動に取り組むようにしましょう。
企業研究や自己分析を行う
大学を中退して就職活動を行う場合には、自分の強みを活かせるように企業研究や自己分析をしっかりと行うことがおすすめです。
企業を選ぶ際には、自分の得意なこと、好きなことが活かせる業種や事業内容の企業に応募すると、受かる可能性が高まります。そのためにも、自分の強みを自己分析でしっかりと洗い出すことも大切です。
例えば、大学は中退したものの、アルバイト経験で身に着けたスキルや知識があれば、それは就職における強みとなります。
内定の可能性を高めるためにも、企業研究や自己分析をしっかりと行い、自分の強みを活かせる企業に対して、着実にアピールしていくようにしましょう。
有名企業や大手以外も候補に入れる
大学を中退して就職活動を行う際には、有名企業や大手企業以外も候補に入れることがおすすめです。
有名企業や大手企業は、大卒を応募の条件とするケースが少なくないため、そもそも応募できないケースがあります。また、有名企業や大手企業は、人気が高く応募が殺到することから競争倍率も高くなる傾向です。これらの企業は、一般的に就職難易度が高いといえるでしょう。
有名あるいは大手企業といったことにこだわらずに、企業を選ぶことが内定を勝ち取るためにも大切です。
日本の全企業数のうち99.7%が中小企業であり、大手企業ほど規模の大きくない企業の方が圧倒的多数です。
有名・大手以外の企業ということにこだわらず、名前をあまり知られていない企業、中小企業などに目を向けることで、選択肢を増やすことができます。
参考:独立行政法人中小企業基盤整備機構「日本を支える中小企業」
学歴不問や未経験可の求人も検討する
大卒を中退して就職活動を行う場合には、学歴不問や未経験可をうたった求人も検討してみましょう。応募条件のハードルが低いため、書類選考などでふるい落とされにくいといえます。
また、学歴不問、未経験可とする企業での仕事は、積極性や柔軟性などがあれば必要なスキルを習得できるケースが多く、学歴を気にせずチャレンジできます。さらに、未経験者の採用を前提として、研修制度やサポート体制が充実しているケースも少なくありません。
入社後も学歴や経験を気にせずキャリアを積みやすい傾向があるため、検討してみるとよいでしょう。
就職に有利になる資格を獲得する
大卒を中退して就職活動を行う場合には、就職に有利な資格を取得することもおすすめです。
希望する職種に関連する資格を取ることで、志望動機の説得性が増したり、スキルや知識があることの証明ができたりします。また、資格取得のために努力をした姿勢も評価してもらえる可能性があります。
例えば、下記のような資格がおすすめです。
- 簿記2級以上:経理や営業事務、会計などの転職に役立つ
- 宅地建物取引士:不動産営業、建設業、不動産投資のコンサルなどで役立つ
- 基本情報技術者:システムエンジニア、プログラマーなどで役立つ
すぐの就職が難しい場合は就労移行支援の利用も検討してみよう
すでに大学を中退した人、あるいは大学を中退しようと考えている人で、就職が不安な場合は就労移行支援の利用もおすすめです。
就労移行支援とは、一般企業などへの就労を希望する障害者に対し、就労支援を行う事業所です。発達障害の人も利用できる障害福祉サービスです。就職に必要な知識やスキルを向上させるためのサポートを受けることができます。
また、就労だけでなく生活面に不安がある場合は、「自立訓練(生活訓練)」といった障害福祉サービスもあります。
自立訓練(生活訓練)は、障害者が自立した生活を送ることを目的とした支援です。食事、洗濯、掃除、金銭管理などの生活能力を向上させるためのプログラムを受けたり、ストレス対処法や生活リズムの整え方などの体調管理のためのプログラムを受けたりできます。
就労の前に、まずは生活基礎力を高めたいといった場合の利用に向いています。
大学中退後の就職が不安なら専門機関に相談してみよう
大学を中退しても、3人に1人は正社員としての就職が可能です。しかし大学を中退しない大卒などの場合よりも就職は厳しいといえるでしょう。
大学を中退する原因として発達障害であることが関係している場合もあります。
発達障害で就労にお悩みの場合には、Kaienにご相談下さい。Kaienは、発達障害の方の就労移行支援や自立訓練(生活訓練)サービスを提供しており、豊富な実績があります。
- Kaienの就労移行支援
- Kaienの自立訓練(生活訓練)
また、発達障害・グレーゾーンの学生に向けた「ガクプロ」といったサービスも展開しています。
- Kaienの発達障害・グレーゾーンの学生向け「ガクプロ」
就活に向けた準備をしたい、障害者雇用も検討しているといった発達障害で悩む大学生によく利用されています。見学・個別相談会を実施しているため、ぜひお気軽にお問い合わせください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます