個人の状況や体調など、さまざまな理由で大学の休学を検討している人もいるでしょう。大学の休学に必要な手続きを行うことで、在籍した状態のまま休むことができます。
本記事では、大学を休学するメリットやデメリット、休学時の手続き、学生生活に関する相談先など、休学前に知っておきたい情報を解説します。安定した生活リズムの確立や復学への準備に向けた支援としての自立訓練についても紹介しますので、大学の休学を検討する際にぜひご覧ください。
大学を休学する人はどれくらいいる?
実際に大学を休学する人はどのくらいいるのでしょうか。大学を休学した人数や休学の主な理由、発達障害と休学との関連性について詳しく見ていきましょう。
1年間で大学を休学した人数
全国の国公私立大学と短期大学、高等専門学校を対象とした文部科学省の調査によれば、令和3年度に休学した人数は65,143人です。令和元年から引き続き減少しています。そのうち、コロナを理由とした人数は5,451人で、前年度の4,627人から徐々に増加傾向にあります。
学生数に占める休学者数の割合は、令和3年度は2.19%で、こちらも令和元年度から減っていることがわかります。
参考:文部科学省「大学等における令和4年度前期の授業の実施方針等に関する調査及び学生の修学状況(中退・休学)等に関する調査の結果について(周知)」
大学休学の主な理由
大学を休学する理由は、人によってさまざまですが、代表的なものには以下があります。
- 経済的困窮
- 心身衰弱・疾患
- 病気・けが・死亡
- 学生生活の不適応・修学意欲の低下
- 海外留学
- 就職・起業
- 転学など
- 学力不振
- その他(学校以外にやりたいことがある)
特に、「心身衰弱・疾患」「学生生活不適応・就学意欲低下」は休学者全体においても上位に入る項目です。大学を休学する背景には、生きづらさや学びづらさがあることが推測されます。
参考:文部科学省「大学等における令和4年度前期の授業の実施方針等に関する調査及び学生の修学状況(中退・休学)等に関する調査の結果について(周知)」
発達障害と休学との関連性
発達障害のある学生、または発達障害が疑われる場合は、大学生活においてさまざまな悩みや困りごとを抱えやすい傾向にあります。代表的なものには、以下が挙げられます。
- 自分で時間割を組めず、履修登録ができない
- 教材や資料の整理整頓ができず、忘れ物が多い
- レポートの締め切りや個人面談など重要な予定を忘れてしまう
- 文字の読み書きに他人よりも時間がかかる
- ゼミやサークルで先生や他の学生とのコミュニケーションがうまくいかない
- 予測できない出来事が起こると対応できず、講義室を飛び出す、声をあげる
- 就職活動の計画を立てることができない、履歴書を書くことが難しい
学生本人や家族が発達障害の特性を認識せずに入学し、学生生活を送っている人もいます。発達障害の気づきや適切な介入がないまま上記のような悩みが続くと、精神疾患や体調不良を引き起こし、留年や休学、中退につながる可能性があります。
大学を休学する前に知っておきたいポイント
大学では、在籍したまま休むことができる休学制度が用意されています。ここでは、大学を休学する前に知っておきたいポイントについて解説します。
休学できる期間
休学できる期間の上限は、2年間とする大学が一般的です。また、最短で半年から休学できるケースが多く見られますが、大学ごとに異なる場合もあるため事前に確認しておきましょう。
休学期間の目安としては、必修単位の取り漏れなどでどうしても休学が必要な場合は、半年です。よくある休学期間は1年間で、留学やインターンなどさまざまな理由で休学するケースが見られます。また、長期留学や国家資格の取得などの場合、延長して2年休学する人もいます。
通常、休学しようとする1〜2ヶ月前には窓口で申請を行う必要があるため、それまでには休学期間を決めておくと良いでしょう。
休学の費用
休学中の学費についても、大学によって異なります。国立大学では、休学中の学費は全額免除となるケースが多いでしょう。一方、私立大学では休学費用として授業料の一部を支払う、あるいは授業料は免除で在学費を支払う、などケースバイケースで変わります。休学中にかかる費用について、大学の窓口で確認しておくと安心です。
また、奨学金を受け取っている場合、休学中は原則として支給されません。ただ、多くの場合、自動的に支給が止まる訳ではなく、休学に入るときと復学するときに自分で手続きを行う必要があります。
休学に必要な手続き
休学時に必要な手続きは大学によって変わる場合がありますが、おおまかな流れは以下の通りです。
- 大学の担当窓口に相談する
- 休学届を提出する
- 面談や審査が行われる
- 休学許可を受領する
- 休学の開始
大学の担当窓口では、前述した休学の期間や費用など制度に関する説明を受けられます。休学届には、休学理由の記載が必要ですが、場合によっては追加書類の提出を求められる場合があります。
例えば、病気や疾患などによる休学の場合は、医師の診断書が必要です。休学届の提出後は、教授との面談や審査などを行い、休学が認められると許可を受領します。
大学を休学するメリット
大学を休学することで、期待できる主なメリットを紹介します。
病気の治療や体調の回復に専念できる
大学を一時的に休学することで、病気の治療や体調回復に専念できます。大学生活は、講義やゼミ、サークル、アルバイトなど1日中スケジュールが入って、時間を捻出することが難しい場合もあるでしょう。
休学により、休養する時間が十分に確保されれば、病気の治療に集中できます。疾患や状態によっては、回復に時間を要する場合や、なかなか良くなる見通しが立たないようなケースも考えられます。心身をしっかり休養できれば効率的に治療が進み、態勢を立て直せる可能性があるでしょう。
やりたいことに集中できる
休学することで、時間や精神的な余裕が生まれるため、やりたいことに集中できます。大学に行かなければならないというプレッシャーから一時的に解放され、将来や学業以外にやりたいことについてじっくりと考える時間を確保できます。
留学したい場合には、希望する場所や学校に半年から1年といったまとまった期間で留学することが可能です。また、インターンや海外ボランティア、資格取得など学業以外の活動に専念できます。
大学生でいることができる
休学中は、大学に在籍している状態であり、学生という身分は変わりません。中退した場合は学生ではなくなりますが、休学期間は大学生の身分であるため、以前と同様にさまざまな場所で学割を利用できます。
また、図書館などの大学の施設や、学生相談・特別支援センターなどの窓口、サービスも利用することが可能です。
大学によっては学費がかからない
大学によっては休学中の授業料が免除されるため、学費がかかりません。通常、学費はまとまった金額であるため、一時的な休学であっても支払い負担の軽減につながります。
前述の通り、国立大学は休学中の学費は全額免除されるケースが多く、私立大学では、ケースバイケースで異なります。詳しくは、大学の窓口で確認しておきましょう。
大学を休学するデメリット
大学を休学することで、多くのメリットが期待できますが、デメリットがないわけではありません。ここでは、大学を休学することで考えられるデメリットを紹介しますので、両面を理解した上で休学を検討しましょう。
同級生より卒業が遅れる
休学中は授業を受けない分、単位も取得できません。そのため、休学した年数分だけ卒業が遅れる場合があります。一緒に入学した同級生が一足先に卒業し、社会に出てしまうことで、学内で過ごす友人が減って孤独に感じられるかもしれません。
また、休学期間の学費は免除となる可能性がありますが、卒業が遅れる分、生活費が増えて負担となることも考えられます。
負い目を感じる場合がある
休学を申請し、いざ学校に行かない日々が始まると負い目を感じてしまう可能性があります。周囲の学生は、以前と変わらず大学に通っているように見えるため、自分だけ前に進んでいないような、何とも言えない違和感を抱くこともあるかもしれません。
休学することで同級生より卒業が遅れ、焦りが生じる可能性もあるでしょう。
友人付き合いが減る可能性がある
大学という接点がなくなることで、友人との付き合いが減ってしまう可能性があります。また、休学によって負い目を感じ、地元の友人と連絡が取りにくくなり、疎遠になる人もいます。
加えて、同級生が先に卒業してしまったことで、後輩との関わりが増えることが負担となる場合もあるでしょう。新しい人間関係の形成が億劫に感じられるケースもあります。
とはいえ、休学中や復学後も友人とのつながりを保ち、コミュニケーションを続けることで関係性を維持することは十分に可能です。
大学を休学すると就職に影響する?
大学を休学した場合、卒業に遅れが生じるなどで、就職活動に影響が出ることを心配する人もいるでしょう。休学したこと自体はマイナスに評価されることは少ないものの、選考時には休学の理由や成果について聞かれることが想定されます。
休学自体がマイナスイメージというよりは、休学する人が少ないために、経緯や詳細を聞かれやすい傾向にあります。そのため、留学やインターン、資格やスキルの習得など、目的を持って休学した場合には、プラスに働くでしょう。
面接に備えて、説得力のある理由を話せるよう準備しておくことが大切です。何のために休学したのか、休学期間にどのような成果を得て、どう成長できたと感じているか、といった点を具体化し、好印象を残せるような答えをまとめておくと良いでしょう。
大学の休学に関する相談先
大学の休学を検討する際に、利用できる相談先をいくつか紹介します。状況や悩みに応じて、個別の支援を受けられる場合もあるため、利用を検討してみましょう。
学生支援センター・学生相談室
大学に設置されている学生支援センターや学生相談室では、学生生活全般におけるさまざまな相談ができます。学生生活の中で感じる心配や不安はもちろん、家族や友人などに関する悩みを含めて話ができる場所です。
大学によって利用方法などの詳細は異なりますが、専任の教員や臨床心理士などのカウンセラーに相談できる場合もあります。守秘義務は守られており、安心して話ができる環境が整備されています。
また、学内外の諸機関との連携や、関係機関とのコーディネイトを通した学生支援活動を行っている大学もあります。
保健管理センター
保険管理センターは、病気や怪我の応急処置をはじめ、健康増進や学生生活での不安、悩みを含めて幅広い相談に応じてくれます。大学によって利用条件は変わる場合がありますが、保健管理センタ-での診察や処置、健康相談などは基本的にすべて無料です。
必要に応じて外部医療機関の紹介も受けられますが、健康保険証の提示が求められます。また、定期健康診断も実施しています。就職や進学に必要な健康診断証明書の発行も可能です。
医療機関
大学の保健管理センターでの対応の後も、継続的な治療や通院が必要なときや、発達障害のような生きづらさにつながる特性がある場合は、医療機関も利用しましょう。
医師の診断や医療機関での治療により、症状の効率的な改善や、生きづらさの緩和といった良い影響が出る場合があります。もし休学前に診断書を書いてもらった場合には、症状や状態について理解してもらいやすく、スムーズな治療につながる可能性があります。
生活リズムの安定や復学への準備には自立訓練の利用もおすすめ
生活リズムの安定や復学への準備には、自立訓練(生活訓練)の利用もおすすめです。「自立訓練(生活訓練)」とは、障害のある人が自立した生活を遅るために、必要な支援やアドバイス、相談の場を提供する制度です。
支援機関ごとに幅広いサービスが提供されており、例としては、生活リズムやセルフケア、生活における金銭管理や家事に関するトレーニングや学習などです。
なお、自立訓練は、障害者総合支援法に基づく福祉サービスの1つであり、利用するためには障害福祉サービス受給者証が必要です。医師の受診を経て意見書や診断書を発行してもらい、自治体の窓口で申請する必要があります。また、利用期間は原則として2年間で、その間に自立に必要な能力を習得する仕組みです。
休学のメリット・デメリットを踏まえて判断しよう
大学の休学は、通常半年から2年間の間で申請できる制度です。休学する目的は人によって異なるものの、病気の治療や休養、留学など学業以外のやりたいことに専念できます。また、場合によっては授業料が全額免除になるため、支払いの負担が減るでしょう。
一方で、同級生から卒業が遅れることで、負い目や違和感を抱える可能性があります。また、後輩との関係構築や、友人付き合いの減少などで孤独に感じられる場合もあるでしょう。こうした休学のメリットとデメリット両方を理解した上で、よく検討することが大切です。
学生生活の安定性や復学に向けた準備の際には、自立訓練を利用するという選択肢もあります。Kaienの自立訓練(生活訓練)では、自立生活や将来の進路、地域生活に役立つ講座やカウンセリングなどを利用できます。
発達障害の強みを活かしながら、将来の再設計につなげることが可能です。説明会や見学会を随時開催しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
監修者コメント
発達障害はもともと子どもの領域で研究されていましたが、近年になって成人や学生など全年齢で見られることが分かってきました。
学生さんには昔から「ステューデント・アパシー」と呼ばれる、授業があるときは気力が湧かずに出席できず、授業がないときには遊びに行けるという現象が知られていました。これは社会の影響を受けたうつ病の現代版だという議論が主流でしたが、近年になって、もしかするとベースに何らかの発達障害があるのではないかと考えられるようになりました。
発達障害の大前提は、患者の小さなときから複数の場面で問題が見られることですが、特にADHDでは親御さんの強力な介入で荷物の準備や宿題をしてもらえると、本人の問題が目立たないことがあります。大学生で一人暮らしを始めて自分でやることが増えることで、ADHDの症状から勉強も生活もおざなりになり、結果うつ病も併発するのです。
診療では、大学宛の診断書に合理的配慮を求める内容を書くことがあります。具体的には試験時間を延ばしてもらったり、ディスカッションの課題をレポート提出に変えてもらったり、授業をビデオに撮って授業後にも見られるようにしてもらったり、という配慮を大学側に求めます。また、欧米、オーストラリアなどの大学は発達障害者向けの対応も充実しているようです。
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。
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