ひきこもりと発達障害の関連性とは?ひきもりにつながりやすい理由や相談先を解説

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ひきこもりで悩んでいる人の中には、「もしかすると発達障害*¹ではないか」と気になっている人も多いのではないでしょうか。厚生労働省の「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」でも「ひきこもりの大半の事例には多彩な精神障害が関与しており、中でも発達障害の関与は決してまれではない」としています。

本記事では、ひきこもりと発達障害の関連性、またひきこもりにつながりやすい理由や相談できる先について解説しますので、気になっている方はぜひ最後まで目を通してみて下さい。

ひきこもりと発達障害の関連性

ひきこもりは、「いじめ」「家族関係の問題」「病気」などさまざまな要因で起きるとされています。その中でも、近年は精神疾患、特に発達障害が関与していることも少なくないと考えられています。そこで、以下では、ひきこもりと発達障害の関連性について解説します。

発達障害とは

発達障害とは、生まれつき脳機能の発達に偏りがあることが原因で、周囲の環境や人との関わりにおいて困難さを抱えることを指します。

発達障害と一口にいっても、外見からは分からないことも多く、現れる特性や困りごとは個人によってさまざまです。

発達障害は大きく分けて次の3つのタイプがあります。

  • 自閉スペクトラム症(ASD):人との関わりが苦手、強いこだわりを持つといった特性がある
  • 注意欠如多動症(ADHD):物をなくす、ミスを繰り返すなどの不注意さ、絶えず動き回るとなどの多動性といった特性がある
  • 学習障害*²(LD):知的な遅れがないものの読み書きや計算などが苦手といった特性がある

大きくわけて3つのタイプがあるものの、1つのタイプだけに該当するか、あるいは複数のタイプを併発するか、どの程度の症状が現れるかなどは、人によって異なります。日常生活にほとんど支障がない人もいれば、生きづらさを過度に抱える人もいます。

発達障害の二次障害としてのひきこもり

先でも触れましたが、近年は発達障害とひきこもりとの関連が指摘されるようになっています。

例えば、厚生労働省で2010年に作成された「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」では、ひきこもりと精神障害の関連性について言及されています。特に、精神保健福祉センターの調査結果で、ひきこもりの相談来談者の約30%に発達障害の診断があったことが挙げられています。

ひきこもりと発達障害との関連が指摘される中で、「発達障害の二次障害としてひきこもりが起こっている」といった指摘もなされるようになりました。

例えば、発達障害の一例として紹介した自閉スペクトラム症(ASD)の場合、人とのコミュニケーションにおいて、空気が読めない、うまく会話ができないといった特性から、トラブルに発展してしまうことも少なくありません。そうしたトラブルをきっかけにひきこもりとなってしまうケースもあります。

このように発達障害の人が、その特性を理解されずに不適切な環境に置かれると、うまく環境や人に適用できずに、二次障害としてひきこもりになる可能性があるといえるでしょう。

ひきこもりにより発達障害が見逃されるケースもある

ひきこもりの要因が発達障害にあったにもかかわらず、そうと気付かずに見逃しているケースもあります。

ひきこもりになると、なおのこと症状が他人からは見えにくくなります。発達障害と気付かれないまま事態が長期化、深刻化するケースも少なくありません。

発達障害が見逃されやすい理由の一つとしては、診断の手法が確立していないことが挙げられます。子どもの発達障害の診断方法がある程度確立されているのに対して、大人の発達障害に関しては、まだ診断方法が確立されていません。そのため、大人の場合は、発達障害と診断するのが難しく、見逃されやすいといえます。

もう一つの理由は、大人の場合は、うつ状態など、他の精神的な症状を併合しているケースが少なくないことです。そうした精神的な他の疾患の方が診断されやすく、背景にある発達障害については見落とされやすいといった点も挙げられます。

ひきこもりや発達障害に関する相談先

ひきこもりや発達障害について、どこに相談すればいいのか迷ことも多いでしょう。そこで以下ではひきこもりや発達障害について相談できる相談先について解説します。

ひきこもりに関する相談先

ひきこもりに関する相談先としては、次の3つがあります。順に見ていきましょう。

ひきこもり地域支援センター

ひきこもり地域支援センターとは、都道府県及び指定都市が主体となって運営するひきこもり専門の支援相談窓口です。ひきこもりの第一次相談窓口として全国の都道府県、指定都市に設置されており、ご本人だけでなくご家族の利用も可能です。

ひきこもり地域支援センターでは、社会福祉士や精神保健福祉士などの資格を持った専門家がコーディネーターとなり、相談に応じ必要な助言や情報提供を行ってくれます。また、同じ悩みを持つ人が集まる居場所の提供もしています。来所や電話による相談が可能です。

お近くのひきこもり地域支援センターは、下記厚生労働省のページやお住まいの自治体のホームページなどでも確認できます。

全国のひきこもり地域支援センター

子ども・若者総合相談センター

子ども・若者総合相談センターとは、ひきこもりや若年無職者、不登校など「子ども・若者であって、社会生活を円滑に営む上での困難を有するもの」を対象とした相談窓口です。

地方公共団体が主体となって運営し、医療・福祉・雇用などの関係機関と連携しながらサポートを行ってくれます。利用できる「子ども・若者」はおおむね39歳までとされています。

お近くの子ども・若者総合相談センターはこども家庭庁の下記ページやお住まいの自治体のホームページなどで確認可能です。

子ども・若者総合相談センター

地域の保健所や保健センター

ひきこもりについては、お住まいの地域の保健所や保健センターに相談をすることも可能です。

保健所や保健センターでは、ひきこもりの相談のほか、こころの健康、家庭内暴力など、さまざまな精神保健に関する相談に応じています。保健師、医師、精神保健福祉士といった専門家である相談員のサポートを受けられます。

また、場合によっては、相談員に家庭を訪問してもらい、相談に乗ってもらうことも可能です。

お近くの保健所は、下記厚生労働省のホームページやお住まいの自治体のホームページなどで確認できます。

保健所管轄区域案内

発達障害に関する相談先

次に、発達障害について相談できる相談先について紹介します。紹介するのは次の5ヶ所です。

医療機関

大人の発達障害については、精神科や心療内科といった医療機関で診断を受けます。

実際に精神科や心療内科での診断がきっかけで、自己理解や周りからの理解が深まり、改善につながるケースが多く見られます。まずは、自分が発達障害かどうか、正しく知るためにも、医療機関に相談するのがよいでしょう。

お近くの精神科や心療内科は、下記の厚生労働省のページなどで検索できます。

全国医療機関検索

発達障害者支援センター

発達障害者支援センターとは、都道府県や指定都市が運営する、発達障害者(発達障害児)への支援を総合的に行う専門機関です。都道府県知事などが指定した社会福祉法人やNPO法人などが運営している場合もあります。

発達障害者とその家族が、豊かな地域生活を送れるように、医療、福祉、労働などの関係機関と連携し、発達障害者当人と家族のさまざまな相談に対して指導や助言を行っています。

支援センターの支援内容や支援体制は、自治体の規模や地域性によって多少異なります。詳しい支援内容については、利用を検討している発達障害者支援センターに直接問い合わせるようにしましょう。

お近くの発達障害者支援センターは、下記のページなどで検索可能です。

発達障害者支援センター

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターとは、障害者が自立した日常生活や職業生活が送れるように支援する専門機関です。就業と生活の双方のお困りごとについて相談できます。

全国に設置されており、運営主体は、都道府県知事が指定した社会福祉法人、NPO法人、民間企業などです。

同センターは、医療、福祉、雇用といった地元の関係機関と連携してサポートを行っています。窓口で相談できるほか、相談員に家庭訪問や職場訪問をしてもらって相談することも可能です。

生活支援については、健康管理や金銭管理、日常生活における自己管理についての助言など

が受けられます。就労支援については、就職に向けた準備支援、障害者の特性や能力に合った職務の選定、 就職活動の支援などをしてもらえます。

お近くの障害者就業・生活支援センターは下記、厚生労働省のホームページなどで確認できます。

障害者就業・生活支援センターについて

地域障害者職業センター

地域障害者職業センターとは、障害者に対する専門的な職業リハビリテーションサービスを行っている機関です。国の独立法人が運営しており、全国に設置されています。

障害者職業カウンセラーなどの専門家が相談に応じ、ハローワークや障害者就業・生活支援センターとの連携のもと、障害者の就労、職場復帰に向けて支援します。

障害者就業・生活支援センターとの違いとしては、地域障害者職業センターは障害に対する専門的な支援を目的としている点です。一方の障害者就業・生活支援センターは、就労と生活とを一体として継続的に地域で支援することを目的としています。

地域障害者職業センターは県内に1ヶ所しかないこともあり、地域に密着して展開している障害者就業・生活支援センターよりも数が少ない点でも異なるといえるでしょう。

お近くの地域障害者職業センターは下記のホームページなどで確認できます。

地域障害者職業センター

就労移行支援事業所

就労移行支援事業所とは、一般企業などへの就労を希望する障害者に対し、就労支援を行う事業所です。

就労移行支援とは、「障害者総合支援法」に基づく障害福祉サービスの一つです。就労移行支援事業所では、就職に必要な知識やスキルを向上させるためのサポートを受けることができます。

就労移行支援事業所は、インターネットで検索するほか、自治体やハローワーク、障害者就業・生活支援センターで教えてもらうことが可能です。かかりつけの医療機関がある場合は医療機関で教えてもらえることもあります。

自立訓練(生活訓練)

また、障害福祉サービスとしては、「自立訓練(生活訓練)」といった支援サービスもあります。就労移行支援は一般企業などへの就職を目的とした支援ですが、自立訓練(生活訓練)は、自立した生活を送ることを目的とした支援です。自立訓練(生活訓練)は、就労の前に、まずは生活基礎力を高めたいといった場合の利用に向いています。

発達障害への理解がひきこもり脱出のきっかけになる場合もある

近年では、ひきこもりと発達障害との関連性が指摘されています。発達障害の二次障害としてひきこもりを起こしている可能性や、ひきこもりで発達障害を見落としている可能性が考えられます。

発達障害への理解がひきこもり脱出のきっかけになる場合も多いため、発達障害かもしれないと思われる場合には、医療機関や発達障害者支援センターなどに相談してみましょう。

もし、大人の発達障害で、日常生活や職業生活についてお悩みの場合には、Kaienへご相談ください。

Kaienでは豊富な支援実績をもとに、あなたにあった就労移行支援プログラムや自立訓練(生活訓練)プログラムの提供が可能です。見学・個別相談会を実施しているので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます

監修者コメント

ひきこもりに相当する英語はなく、英語の辞典(英英辞典)でも”hikikomori”と紹介されていることをご存知の方もいらっしゃるかと思います。

精神科医の斎藤環氏が主張されている通り、ひきこもりは病名ではなく、さまざまな原因の結果引き起こされる「状態像」です。この原因として本コラムに書かれているように発達障害のこともあれば、統合失調症やうつ病のこともあります。このため、原因となる疾患の診断が必要ですが、ご本人に来院していただくことは(当然ながら)容易ではなく、医師が訪問診療の形で出向いて診察させていただくことがあります。

ちなみに、ひきこもりは日本特有のものではなく、フランスでも数は少ないものの社会問題になっています。フランスでのひきこもり調査については、名古屋大准教授の古橋忠晃医師の活動が有名ですが、古橋氏のコメントでは「フランスではひきこもりが生き方なのか、病気なのかと言う問いが強い」とのことでした。これはフランス精神医学が、ひきこもりを単純に疾患として片付ける文化ではないことを意味しています。

この問いに対して、私見になりますが、フランスの社会学者エマニュエル・トッド氏の家族構造論を援用すると分かりやすくなると思います。つまり、フランスは西洋社会の中でイギリス・アメリカ(アングロサクソン)と比べて親との繋がりが比較的強く、成人しても親と同居しているケースがそれなりにあるということです。反対にアングロサクソンでは子どもは高校を卒業すると、基本的に一人で生活を始めます。

この違いは親からの相続体系の違いにも現れていて、アングロサクソン系ではすべての子どもが親の相続を受ける訳ではないの(ロックスターであるスティングの息子は、父から一銭も相続を受けていないのは有名な話です)に対し、フランス圏ではすべての子どもが均等に相続を受け取るのです。親の子どもへの許容と財産の移行がひきこもりを可能にしていると考えると、ひきこもりはミクロな社会構造であり、親子の病理でもあるという言い方ができるのではないでしょうか。

一方、日本はフランスとも異なり、長男が親の相続を多く受け取る文化で、子どもが結婚しても同居を許容します。これが独特のひきこもり文化を作っていると言っても良いでしょう。ちなみに、ロシアや中国はトッド氏の言を借りると、完全な家父長制ですべての子どもが結婚しても父の周囲に住み着いて共同体を作るそうです。どなたかロシア、中国、そして韓国圏のひきこもり事情についてご存じでしたら、お教えください。

監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。


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