大人のASD(自閉スペクトラム症)とは?症状や特徴、診断基準を解説

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仕事や人間関係などに困りごとや支障が出ているとき、「自分はASD(自閉スペクトラム症)かもしれない」と悩む方もいるかもしれません。発達障害*の一種であるASDにはいくつかの特性があり、仕事上の困りごとにつながる場合もあります。ASDの可能性がある場合、正式に診断を受けたうえで然るべき対策を講じることが大切です。

この記事では、ASDの特徴や症状、診断方法などを解説します。特性への対処法についても紹介しているので、困りごとのある方は参考にしてみてください。

大人のASD(自閉スペクトラム症)とは

大人のASDとは、大人になってからASDの特性に気づき、診断を受けた方を指します。コミュニケーションが苦手、独特のこだわりがあるといった特徴があり、仕事や日常生活に支障をきたすこともしばしばです。

ASDなどの発達障害は生まれつきの脳機能のかたよりが原因であり、後天的に発症することはありません。しかし、大人になって就職などにより環境が変化したことでASDの特徴が目立つようになり、自身の特性に気づく場合があります。

ちなみに、以前は自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害といった診断名が使用されていましたが、診断基準として参照されるアメリカ精神医学会が2013年刊行した「DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)」より、すべてASD(自閉スペクトラム症)に統合されました。

ASD(自閉スペクトラム症)の特徴と症状

「自分はASDかもしれない」と感じている方は、ASDの特徴や症状を知ることで自己理解が深まり、対策を講じられるようになるかもしれません。

ここからは、ASDの主な特徴と症状について6つの項目に分けて解説します。

社会的な関係やふるまいが困難

ASDの方は、周囲の人と関わるうえで適切な振る舞いができず、社会的な関係を構築するのが困難な傾向にあります。心の理論の欠如により相手の感情を察して理解するのが難しいために、「空気を読めない人」だと思われてしまう場合があるのです。

またASDの方は独自のルールに執着する傾向があり、社会での常識やルールに則らず、失礼な振る舞いをしてしまうことも少なくありません。ただしこれは裏を返せば、周囲に惑わされずに行動できる、やり遂げられるといった長所であるともいえます。

コミュニケーションが難しい

相手が言っていることをなかなか理解できない、また自分が伝えたいことを上手に表現できず、コミュニケーションに支障をきたすこともASDの特徴の1つです。

ASDの方は興味関心の範囲が狭い傾向にあり、相手が話していることに興味を持てない場合があります。また、相手が興味を持っていないことをいつまでも話し続ける、表情や雰囲気を察せないなど、非言語コミュニケーションも苦手なため円滑にコミュニケーションが取れない場合もあります。

また、言葉を額面通りに受け取ってしまいがちなので、例え話や冗談などが通じづらいこともASDの方にはよく見られます。

こだわりが強い

自分が心地よいと感じる行動パターンに固執するなど、こだわりが強いこともASDの特徴です。自分が一度決めたルールは守らなければならないと考え、予想外の事態が起こると不快に感じたり、パニックになったりすることがあります。

特に積極奇異型タイプのASD方は他者との積極的な関わりを好みますが、マイルールや独自のこだわりを押し付けてしまいがちです。こうした姿が自己中心的に見られてしまったり、相手と適切な距離感で接せられなかったりすることにより、トラブルに発展するケースも少なくありません。

またASDのこだわりの強さが、他人の不正や例外を認めない過剰な正義感となってあらわれ、いざこざを引き起こすケースもあります。

感覚過敏または鈍い

感覚過敏または感覚鈍麻もASDの方によく見られます。感覚過敏は通常よりも光や音、においなどの外部刺激に敏感な状態のことで、日常生活において一般的には気にならない程度の刺激でも、ASDの方には刺激が強すぎる場合があります。大きな音などがパニックの引き金となることもあるので注意が必要です。

一方、感覚鈍麻は感覚過敏とは逆に痛みや温度変化などに鈍感で、危険な状況に自分で気づけないケースがあります。骨折したのに気づかなかったり、熱中症になったりすることもあるため、周囲の配慮が求められます。

空気を読みすぎる過剰適応

ASDの傾向はあるものの、すべての診断基準には当てはまらないグレーゾーンの方は、過剰適応を起こしやすいと言われています。過剰適応とは、周囲の人に合わせようと過剰に気を配って意見や考えを合わせようとするため、強い疲労感やストレスを抱えている状態です。

過剰適応は車のフロントガラスで例えるとわかりやすいです。ASDの方はフロントガラスが塗りつぶされており、前が完全に見えない状態で運転しています。

一方、グレーゾーンの方は曇りガラスになっていて、何となく前が見えるので一生懸命見ようとします。その結果、運転時間が長引くにつれて疲労の度合いが増していくのです。ストレスや疲労がたまると、後述する二次障害につながるリスクも高まるため注意が必要です。

微細粗大の不器用さ

ASDの方はDCD(発達性強調運動症)を併発している場合があります。運動は立つ、座るなど身体を大きく使った生活に必要な動作の粗大運動と字を書く、箸を使うなど手指を使った動作の微細運動に分けられます。DCDはこれらの不器用さを特徴とする発達障害(神経発達症)の一種です。別々の部位を強調させて動かす、新しい動きを学習するといった脳の機能の発達にかたよりがあり、運動の不器用さがあらわれてきます。

ASD(自閉スペクトラム症)の原因

ASDを含む発達障害の特性は、生来の脳機能的な偏りからくるもので、環境や親のしつけによって後天的に加わったものではないとされています。特性自体は「治す」という治療対象ではありません。

また、ASDの特性は見られるものの、診断基準を満たさない状態であるグレーゾーンの方も多くいます。グレーゾーンの方はASD的な傾向が薄いことから、特性を持ちながら周囲に適応することに大きな労力を費やしているケースも少なくありません。

発達障害のグレーゾーンについては、以下の記事で詳しく解説しているので参照ください。

発達障害グレーゾーンとは?特徴や困りごと、対策についても解説

発達障害の特性による生きづらさから、うつ病や不安症といった精神疾患を併発(二次障害)する場合があります。グレーゾーンの方は特に、二次障害の症状で受診したら発達障害が発覚したというケースも珍しくありません。

発達障害の二次障害については、以下記事で解説しているので参照ください。

発達障害の二次障害とは?症状と種類、予防法や支援機関を解説

ASD(自閉スペクトラム症)の診断方法

ASDをはじめとした発達障害の診断は、医療機関(精神科・心療内科)で受けられます。個人差はありますが、診断を受けるためには週1回から月1回程度の通院が必要です。問診や心理検査(スクリーニングテスト)、知能検査などの結果をもとに総合的に判断され診断が下されます。

なお発達障害を診断できる病院は多くないため、発達障害者支援センターや自治体の障害福祉課窓口などで情報を集めるとよいでしょう。

ASD(自閉スペクトラム症)の診断基準

ASDの診断基準は、アメリカ精神医学会が発行した「DSM/最新版はDSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)」が多く参照されます。

ASDのDSM-5-TRにおける診断基準を以下にまとめました。

  • さまざまな場面での社会的コミュニケーションと社会関係において、「通常の会話のやり取りができない」「表情による感情表現が困難」「状況にふさわしく行動できない」などの特徴が見られる
  • 反復的な動きや話し方が見られ、ルーチンへの頑ななこだわりや異常な関心、感覚過敏または鈍麻などがある
  • 上記の症状が初期の発達段階で見られる
  • 上記の症状で日常生活や社会生活に支障をきたしている
  • 上記の症状について、知的障害や全体的な発達の遅れでは説明ができない

またASDの診断では、知的障害や言語障害の有無、ADHD(注意欠如多動症)やSLD/LD(限局性学習症/学習障害)の併存確認も重要視されています。

診断基準や診断方法については、下記で詳しく解説しているので参照ください。

大人のASD(自閉スペクトラム症)は治療で改善する?原因や症状、対処法を解説

ASD(自閉スペクトラム症)の特性への対処法

こだわりの強さやコミュニケーションの難しさといったASDの特性は、生活の幅広い場面に影響をおよぼします。

生まれつきの特性をなくすことはできないため、ASDの方は困りごとを解決するための工夫が求められます。特性への対処法を身につけ、生きづらさを今よりも軽減できるよう働きかけることが大切です。

ここからはASDの特性への対処法として有効な、2つの対処法を紹介します。

薬の服用による対処法

ASDの特性によるイライラや不機嫌、過剰なこだわりに関しては、抗精神薬などを服用することで軽減される場合があります。こうした特性が自傷行為や他者への攻撃に発展する恐れがありますが、投薬によってある程度コントロールできることが知られています。

その他、ASDの二次障害としてうつ病や不安症を併発した場合、薬物治療が効果を発揮します。

仕事に関する対処法

ASDの方が働きやすさを向上させるためには、ソーシャルスキルの習得が有効です。他人の感情を理解したり、自分の感情をコントロールしたりする能力を身につけることで、社会生活が今より円滑に送れるようになるでしょう。

ソーシャルスキルを習得する際は、支援機関を活用するのがおすすめです。ASDの方が利用できる支援機関としては、発達障害者支援センターや地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどが挙げられます。

また、就労移行支援や自立訓練(生活訓練)といった福祉サービスを利用して、将来の可能性を広げるのもよいでしょう。

Kaienの就労移行支援

Kaienでは、過去10年で約2,000人の就職実績がある就労移行支援サービスを提供しています。専門家推奨の充実したプログラムを用意しており、講座を通してビジネススキルやソーシャルスキルを学ぶことが可能です。

キャリア・プランニングやパソコンスキルの習得、実践的な職業訓練など、一般就労を目指したカリキュラム設計となっています。

豊富な独自求人や担当スタッフによる一対一の就活サポート、就職後の定着支援もKaienならではの強みです。一般企業での就業を目指すASDの方は、Kaienの就労移行支援をぜひご活用ください。

Kaienの自立訓練(生活訓練)

自立訓練(生活訓練)とは、発達障害などの障害がある方が自立して生活できるように、知識やスキルの習得をサポートする福祉サービスのことです。Kaienでは、自分を見つめ直して将来を再設計するための実践的なプログラムを用意しています。

主なプログラムの内容は、障害特性を理解するための講座や自立生活の実践、スタッフとの1対1のカウンセリングなどです。

Kaienの自立訓練(生活訓練)は、10代~30代のASDの方が多く利用しています。自立して暮らすための基礎やソーシャルスキルを身につけたいと考えている方は、ぜひKaienの自立訓練(生活訓練)の利用をご検討ください。

ASD(自閉スペクトラム症)かもと思ったら適切な対処と支援を

ASDは生まれつきの発達障害の特性ですが、大人になってから発覚するケースも珍しくありません。ASDの特徴や症状が自分に当てはまる場合は、医療機関で正式に診断を受けることをおすすめします。

ASDの特性への対処法としては、薬物治療や就労移行支援などの福祉サービスを利用する方法が挙げられます。Kaienでは無料の相談会や見学会を随時行っているので、興味がある方はお気軽にお問い合わせください。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

監修者コメント

大人のADHD(注意欠如多動症)と同じように、大人のASDも良く話題にのぼるようになりました。診断数も、日本のみならず、先進諸国ではどこでも20年前と比べて格段に増えています。その理由は様々言われていて、何が絶対的な理由とは言えないのですが、診断基準も浸透し、特性のある方に気づきやすくなったことは1つあるでしょう。それに加えて、サービス業中心の職務が増えてきたことで、ASDの方が抱えるコミュニケーションの苦手さが障害として捉えられる機会も増加したということもあるでしょう。

ただ、ASDの特性があることと、診断すること/されること、は別問題であったりもします。診断基準でも社会的、職業的に意味のある障害を引き起こしているときに診断するとなっています。その人が持っている特性も人ぞれぞれで決まってはおらず、同じASDという診断名があったとしても持っている特性に違いはありますし、まして性格は別物ですからASDという診断名は一個人の人となりを示すほんの一端に過ぎないということは肝に銘じておきたいところです。ともあれ、ご自分の、もしくはご家族のASD特性が、何かしらの「生きづらさ」に繋がっている場合、医療機関のみならず様々な支援機関もありますから、頼って欲しいところです。ASDという「診断名」はそういった支援を受けるために必要な「道具」でもあるのです。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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