人によく「話が長い」と言われる、気をつけていても話が長くなってしまうなど、話し方に悩みを抱えている方は少なくありません。実は話が長くなる背景に発達障害*が潜んでいる場合もあるため、精神疾患や特性についての知識をつけておくと役立ちます。
この記事では、発達障害の概要と話が長くなってしまう理由や対処法などについて解説します。発達障害の方が利用できる支援機関も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
話が長いのは発達障害が原因?
コミュニケーションが苦手で話が長くなってしまう人は一定数いますが、中には発達障害の特性が原因となっている場合があります。
例えば、言語理解の低さや表現力の乏しさ、相手の状況を読みながら話すのが難しいといった特性などが挙げられます。また、ADHDの衝動性により思いついたことを何でも言いたくなり、話がまとまらないといったケースもあるでしょう。
ここからは、話が長くなりやすい特性のある発達障害の代表例として、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)について解説します。
ASD(自閉スペクトラム症/アスペルガー症候群)とは
ASD(自閉スペクトラム症)とは、コミュニケーションが苦手、独特なこだわりがある、感覚過敏または鈍麻といった特性が見られる発達障害の一種です。ASDとひと口にいってもその特性はさまざまで、知的障害を伴わない自閉症を指す「アスペルガー症候群」も現在はASDに診断名が統合されています。
独自のこだわりがあり、コミュニケーションを取ることが苦手であることから、ASDの方は社会で適切に振る舞えない場合も多いです。具体的には、人との会話がうまくかみ合わない、他人の話に関心が持てない、自己流で物事を進めたがるといった姿が見られます。
ADHD(注意欠如多動症)とは
ADHD(注意欠如多動症)は、不注意や多動性、衝動性などの特性がある発達障害です。特性の出方に応じて、大きく「不注意優勢型」「多動・衝動優位型」「混合型」のタイプが見られます。
不注意優勢型には、うっかりミスが多い、物をなくしやすい、周囲が気になって集中できないといった注意散漫な特徴がよく見られます。一方、多動・衝動優位型の場合は、1つの作業を長時間続けられない、落ち着きがない、後先考えずに行動するといった衝動的な特性が目立つのが特徴です。
この両者の特徴を兼ね備えている場合は混合型に該当します。
ASDの方が話が長くなる理由
ASDの方が話が長くなる理由としては中枢性統合、すなわち物事を全体として把握して状況を理解する能力が弱いことがまず挙げられます。他人の顔色や受け答えなどから状況や空気を読むのが苦手で、適切なタイミングで話を切り上げられないために、「話が長い」という印象を与える場合があるでしょう。
また、人の気持ちを汲み取り理解する心の理論が欠如することによって、相手の気持ちが理解しづらいことも理由の1つです。ASDの方は相手の立場に立って物事を考えるのが困難であるため、配慮に欠けてしまい必要以上に長く話してしまうことがあります。
その他、独自のこだわりや表現の乏しさによって考えていることを柔軟に言語化できず、話が長くなってしまう側面もあるでしょう。
ADHDの方が話が長くなる理由
ADHDの方の話が長くなる理由としてまず挙げられるのは、ワーキングメモリが低いことです。自分が話した内容を覚えていられず、まとまりのない話を長く続けてしまう傾向があります。
また、ADHDの特性による脳内多動も話が長くなる理由の1つです。思考が脳内で目まぐるしく変化し、衝動性も相まって話しているうちに別の話したいことを思いついて話したくなるため、次々と話題が変わって話が長くなりがちです。
他にも意見や感情を言語化するのが苦手という特徴が、長い話の原因になっている場合もあります。脳内多動により自分の意見がまとまらないことで、簡潔に自分の意見や感情を伝えられないこともあるでしょう。
話が長くならないための対処法
ASDやADHDの方は特性によって話が長くなってしまうことがあります。話が長いと対人関係や仕事の業務などに支障が出てしまう場合もあるため、話し方のコツや対処法を身につけておくと安心です。
ここからは、長い話を避けて簡潔に情報を伝えるための3つのポイントを紹介します。
キーワードを用いて簡潔に伝える
話が長くならないようにするためには、簡潔に伝える意識を持つことが重要です。話すときは結論から先に伝えるよう、ハッシュタグのようにキーワードを決めて話す方法を試してみるとよいでしょう。
伝えたい事柄から重要なキーワードを抽出しておけば、話が脱線しにくくなり、まとまりが生まれやすくなります。
こだわりが強い方は、考えていることをなるべく正確にすべて伝えたいと思いがちです。しかし、その結果として余計な表現や情報量が増え、かえって話がわかりにくくなることもしばしばです。
話すときはなるべく形容詞や副詞、接続詞などを交えず、主語述語で簡潔に話すことをおすすめします。
話したいことをメモなどにまとめておく
発言する前に、話したいことをメモなどにまとめておく方法も効果的です。話す前までは自分が何を話したいのかまとまっているつもりでも、いざ話しはじめると次々に言いたいことが思いついて、要点のわからない話になってしまう場合もあります。
伝えたい情報や重要なポイントを前もってメモにまとめておけば、要点がつかめて短く簡潔に話ができるはずです。特に仕事においては、効率的に時間を使うことが大切です。伝えたいことは事前に資料やメモにまとめ、インバスケットして優先順位を決めておくと無駄のない情報伝達ができるでしょう。
ソーシャルスキルを習得する
話し方も含め、対人関係やコミュニケーションを円滑にするために、ソーシャルスキルを習得することも有効な方法です。
ソーシャルスキルとは社会で生きていくために必要な能力のことです。トレーニングを通してソーシャルスキルを身につけることで、自分の感情をコントロールしたり、集団の中で適切に振る舞ったりできるようになります。
ソーシャルスキルを身につけるには、支援機関を頼るのがおすすめです。どのような支援機関が利用できるのかを知り、自分と相性のよい事業所を見つけて相談してみるとよいでしょう。
Kaienの就労移行支援
Kaienの就労移行支援では、専門家推奨の充実したカリキュラムが受けられます。障害の特性や心と体の管理、コミュニケーションなどの深い学びを通して、ソーシャルスキルが身につくのです。
また、ビジネススキルとしてインバスケットを実践するため、優先順位をつけて簡潔に話すうえでも役に立ちます。
職業訓練や自己理解講座を経てスキルを身につけたあとは、担当カウンセラーのサポートを受けながら仕事を探すことも可能です。Kaienは発達障害に理解のある企業200社以上と提携しており、他事業所にない独自求人も豊富にそろっています。
就職が決まってからは定着支援が受けられ、職場になじむためのサポートがあることも魅力の1つです。発達障害で就労に困難を感じている方は、ぜひKaienの就労移行支援の利用を検討してみてください。
Kaienの自立訓練(生活訓練)
Kaienでは、障害のある方が自立した生活を送れるようにサポートする自立訓練(生活訓練)も実施しています。Kaienの自立訓練(生活訓練)の目的は、じぶんを再定義し、みらいを再設計することです。
カリキュラムでは、ソーシャルスキルを身につけるための講座と、学んだことを実践するプロジェクトを用意しています。また、担当カウンセラーとの1対1のカウンセリングで、日々の振り返りや自分の強み探しも行います。
Kaienの自立訓練(生活訓練)は発達障害の方が多く利用しており、その割合はASDの方が66%、ADHDの方が26%です。どうしても話が長くなってしまう方や、コミュニケーションを上手に取りたいと思っている方は、Kaienの自立訓練(生活訓練)を利用してみてはいかがでしょうか。
話が長い人は特性に合わせた対処法を
発達障害の特性により話が長くなってしまう方は、特性に合わせた対処法を講じることが重要です。事前にメモを用意して簡潔に話すなど、自分なりの対策を実践するとよいでしょう。
また、社会生活を送るうえで必要なソーシャルスキルを身につける方法も効果的です。Kaienの就労移行支援や自立訓練(生活訓練)を利用し、専門スタッフのサポートを受けながら課題克服を目指してみましょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
「話が長くなる」ことは必ずしも発達障害を意味しませんが、発達障害特性のある方々にはしばしば見られる傾向です。理由は本稿にあるように様々で、発達障害があったとしても、それは「話が長くなる理由」の1つに過ぎません。自分なりに気づいておられる方も多いでしょうが、周囲からの指摘や反応を通じて気づくことも重要です。ソーシャルスキルとして謙虚に学ぶ姿勢も必要ですね。その場で何を求められているかを把握し、伝えるべきことを簡潔にまとめる力は、生まれ持った能力だと諦めている方もいるかもしれませんね。でも、実際には練習により向上させることができる「技術」的側面は多いのです。「技術」であれば、上手くなることが可能です。本記事にある対策は非常に有効ですから、自分ができそうな対策を取り入れて、実践してみましょう。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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