仕事でミスが続いたり、忘れ物が多かったり、何気ない日常の中にも自分は発達障害*ではないかと不安に思う瞬間はあるものです。最近はADHD(注意欠如多動症)がメディアなどで取り上げられる機会も増え、症状が自分に当てはまるかもしれないとネットなどで簡易診断を試してみた方もいるのではないでしょうか。
しかし、本当にADHDかどうかは診断テストでは分かりません。そもそもADHDの診断テストなるものはなく、医療機関で問診や検査などを経て総合的に判断して初めて診断がくだされます。そこでこの記事では、自分がADHDかどうか知るための正しい方法や、ADHDと診断された場合の対応などを解説します。
ADHD(注意欠如多動症)とは
ADHD(注意欠如多動症)の特性は子どもと大人で差異があります。子どもの場合は「衝動的に話し出す」「じっと座っていられず動き回る」といった多動や衝動性のある言動がよく見られますが、大人の場合は「小さなミスが多い」「物忘れを繰り返す」といった不注意に関する特徴がよく見られるようになります。
またADHDは、大人になって就職などを機に発覚するケースも少なくありません。これは、自分の役割が明確で、失敗が他者の損失につながる場面の少ない子ども時代に比べて、大人になると自立性が求められ、失敗が他者の損失に影響するといった社会的役割の変化などにより、困りごとや生きづらさが浮き彫りになることが一因です。
大人のADHDの特徴
大人のADHDは、大きく以下の3タイプが見られます。
- 不注意優勢型:うっかりミスが多く、集中力の長時間維持が難しい
- 多動・衝動優位型:1つの行動に集中するのが苦手で、感情のコントロールが効きにくい
- 混合型:「不注意優勢型」と「多動・衝動優位型」両方の特徴がある
上記はあくまでよく見られる特徴例です。上記以外にも「不注意優勢型」は整理整頓が苦手な場合や物事を順序だてて考えるのが苦手な場合もありますし、「多動・衝動優位型」では落ち着かない気持ちが行動に出てしまったり、衝動的な言動をしてしまったりといったケースもあります。
Web上ではどちらの特徴に当てはまるかチェックするセルフテストがありますが、あくまで参考程度にしかならないため、正確な診断は医療機関で行いましょう。
ADHDはどこで診断できる?
ADHDの診断は精神科または心療内科で行っています。ただ、すべての精神科・心療内科が対応しているわけではないので、あらかじめ診断可能かどうか確認しておきましょう。
また、よくADHD診断テストを掲載しているWebサイトがありますが、それらの結果を鵜吞みにするのはやめましょう。そもそもADHDを診断できるテストは存在しません。医療機関でも、こうした診断テストや検査の結果だけで診断することはなく、検査はあくまで診断の補助的な材料です。
ちなみに、検査方法の例として「CAARS(Conners’ Adult ADHD Rating Scales)」や「ADHD-RS」があります。CAARSは18歳以上が対象の、自記式と観察者評価式からADHDに関する症状の度合いを把握するものです。一方、ADHD-RSは18歳以下を対象に、症状の出かたなどを18項目4段階で評価するために行います。
ADHDの診断基準
ADHDの診断は、アメリカ精神医学会によるDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル/最新版はDSM-5-TR)を参照しています。診断基準は主に「不注意傾向」と「多動性/衝動性傾向」の2つです。それぞれ例示された項目に当てはまるかチェックし、両者とも5つ以上当てはまる状態が6ヶ月以上続いている場合は、ADHDの傾向があると考えられます。
不注意傾向の例
- 細かい注意を払うことができない
- 不注意から失敗することがよくある
- 注意を持続しつづけることが難しい
多動性/衝動性傾向の例
- そわそわと手足を動かしたり座っていても、もじもじ動いてしまう
- 着席しつづけるのが難しく離席してしまう
- じっとしていられないような気分になる
ここで紹介したのはあくまで一例です。さらに詳しい項目や診断基準は以下で解説しているので参照ください。
大人のADHD(注意欠如多動症)は治療で改善可能?原因や困りごとへの対処法を解説
ADHDのセルフチェックリスト
自分にADHDの傾向があるか知るためには、セルフチェックリストが便利です。診断は医師にしかできませんが、行動ベースで傾向をチェックする程度なら、自己診断のチェックリストでも可能です。以下に当てはまる傾向があるかチェックしてみてください。
【セルフチェック項目の例】
- 騒音や雑音があると、すぐに注意散漫になる
- 周りが気になって目の前の仕事に集中できない
- 課題を遂行できず、途中で投げ出してしまう
- 予定や計画を立てるのが苦手
- つい衝動買いをしてしまう
- 鍵や財布などをしばしば紛失する
- 仕事や生活で忘れ物が多い
これらはあくまで傾向を列挙したものですが、当てはまる項目が多い場合はADHDの可能性があるので、医療機関の受診や専門窓口への相談を検討してみましょう。
ADHDと診断されたらどうする?
ADHDと診断されたら、驚いたり不安に思ったりしてしまう方も多いのではないでしょうか。だからこそ、冷静に対応するためにその後の対応方法を知っておくことが大切です。
ここでは主な対応方法として以下の4つを紹介します。
- 薬の服用など治療を継続
- 障害者手帳の取得を検討
- 職場環境や働き方の見直し
- 支援機関を活用
それぞれ具体的な内容をチェックしていきましょう。
薬の服用など治療を継続
現時点ではADHDを完治させることはできませんが、継続的に薬を服用することで特性の一部を緩和または改善することは可能です。例えば治療薬によりドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質のバランスを調整し、症状の発生を抑えます。
ADHDの治療に用いられる薬には、以下のような種類があります。
- コンサータ
- ストラテラ
- インチュニブ
- ビバンセ
また、継続的な薬の服用と並行して、行動療法や環境調整、心理療法も行っていきます。
以下の記事では、より具体的な治療薬や治療方法の情報を紹介していますので、チェックしてみてください。
大人のADHD(注意欠如多動症)は治療で改善可能?原因や困りごとへの対処法を解説
障害者手帳の取得を検討
障害者手帳には「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3種類があり、発達障害の場合は「精神障害者保健福祉手帳」、知的の遅れを伴う場合は「療育手帳」の対象となります。ちなみに、発達障害専用の障害者手帳はありません。
障害者手帳を取得すると、障害者雇用求人への応募や公共料金・公共交通機関の割引、税金の減免などのサービスを受けられるようになります。また、条件に当てはまれば障害者年金を受給できる場合もあります。
以下の記事では、受けられる支援や取得方法などをより詳しく解説しています。
障害者手帳とは?取得する6つのメリットや申請方法、受けられる支援などを解説
職場環境や働き方の見直し
ADHDの治療や障害理解と並行して進めたいのが、職場環境や働き方の見直しです。障害がある場合、職場に合理的配慮を要請することができ、障害者手帳を持っている場合は障害者雇用に応募することもできます。
合理的配慮とは、障害のある方の社会的な障壁を除去する概念のことです。適度な休憩や間仕切りの設置など、負担が過重でなく可能な範囲内であれば合理的な対応を要求できます。これらは障害者雇用だけでなく、一般雇用においても同様の権利を有します。
また、障害者雇用は障害を前提にしているので、働き始める前に環境や働き方のすり合わせがしやすく、負担が大きい仕事を避けることも可能です。
支援機関を活用
発達障害がある方の仕事や生活での困りごとをサポートしてくれる支援機関も、積極的に活用しましょう。支援機関の例として以下のようなものがあります。
- 就労移行支援:一般企業への就職を目指すために、知識や技術の習得や求人の提供などを行う。
- 自立訓練(生活訓練):自立した生活を送れるように、障害理解や体調管理、ソーシャルスキルの習得といった生活に必要な訓練を行う。
- 障害者就業・生活支援センター:主に地域の方を対象に、就業面と生活面の一体的な相談支援を行う。
- ハローワーク:障害者雇用の取り扱いや専門知識を持つ職員による相談などを実施。
Kaienの就労移行支援
Kaienの就労移行支援では、発達障害に特化したさまざまな専門家推奨プログラムを受けながら、あなたの適職を探すことができます。
実践的な職業訓練は経理・人事・データ分析・伝統工芸・軽作業など100職種以上、就職実績は過去10年で2,000人以上と多く、就職率は86%、1年後の離職率は9%、月給は3人に1人が20万円以上と高水準です。求人はコンサルやサービス、IT・ハイテク、金融・保険、マスコミ・広告など独自求人も含め多様に取り扱っています。
また、障害を理解して対策が立てられる、社会スキル・自己理解講座が50種類以上あるので、自己理解が同時に進められる点も見逃せません。
利用料は世帯収入によって無料~月額最大3万7,200円で算出されますが、自己負担額0円のケースが多いです。通所だけでなく、オンラインでも利用できます。オンライン個別相談も可能なので、まずは気軽にご連絡ください。
Kaienの自立訓練(生活訓練)
Kaienの自立訓練(生活訓練)は、講座・実践プロジェクト・カウンセリングの3本立てで自分を見つめ直し、将来を再設計する場です。いきなり就職は難しい、まだ働く自信がないという方にはこちらがおすすめです。
具体的には、生活スキルやコミュニケーションスキルといった自立生活への訓練をベースに、障害の特性理解やこれからの進路選択などに取り組んでいきます。これらを着実にこなし、自分の基礎となる自信に繋げていきます。
なお、修了者の平均利用期間は9.5ヶ月と長めなので、ゆっくり取り組めます。訓練終了後の進路は就労移行支援が52%、就労継続A型・B型他が18%であるほか、一般就職や進学を選ぶ方もいます。
利用料は就労移行支援と同じく多くの人が自己負担0円で利用可能です。現状を変えたいという気持ちがあるなら、難しく考えすぎずお気軽にご相談ください。
ADHDと診断されたら適切な支援と対処法を
自分がADHDか知りたい場合は、簡易な診断テストを鵜呑みにせず必ず医療機関で診断してもらいましょう。精神科か心療内科を受診し、ADHDの診断が出た場合は、適切な対応をとることが大切です。
必要であれば職場環境や仕事内容の見直しや変更も検討しましょう。Kaienの就労移行支援ではADHDの方向けの求人も取り扱っているので、お気軽にご相談ください。
自分に合った環境で働ければ活躍の機会は増えますし、今よりストレスが少ない日々を過ごせるはずです。不安に思ったらまず一歩、可能な範囲で歩みを進めてみましょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
ADHDは幼少期(DSM-5では12歳まで)に注意欠如や多動の症状を複数の場面(家庭・学校・友人とのグループなど)で認めることができれば、診断することができます。必ずしも心理検査が必要なわけではありませんが、幼少期からの客観的な情報を持っている方は少ないため、現病歴に心理検査を組み合わせた診断を良く行います。
その際に行う検査としては、以下のようなものがあります。
・ASRS
・WAIS-IV (児童ではWISC-V)
・CAARS
略語の説明は割愛しますが、ASRSはスクリーニング検査として患者さんに記入していただくものです。あくまでADHDの可能性が高めか、低めかを見るものですので、診断精度はそれほど高くはありません。
WAIS(WISC)はIQ検査ですが、主に言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度を測定します。ADHDに特異的な検査ではありませんし、対人関係能力を直接測れるわけではありませんが、ASDとの鑑別や合併の確認に良く用いられます。
CAARSはADHDに特異的な検査で患者さんに質問の答えをマークシートにマークしてもらいます。ADHDの妥当性や不注意型、多動性・衝動性型、あるいはその両方かを識別することができます。
これらの検査を全て行うわけではなく、患者さんの症状やニーズに合わせて適宜組み合わせて最終的に診断します。以上、参考になれば幸いです。
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。
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