子どもの頃は気にならなかったのに、大人になって就職などで環境が変わってから発達障害*(神経発達症)を疑うトラブルや困りごとに直面した経験はありませんか?
発達障害(神経発達症)が原因なのか気がかりではあるものの、そもそも症状や診断方法を知らなければどう対処すればよいかも分からないですよね。
そのためにはまず、発達障害(神経発達症)の基礎知識を知ることが先決です。この記事では、「大人の発達障害」とは何なのか、発達障害(神経発達症)の種類と症状や気になるサイン、診断方法などを分かりやすく解説します。困りごとを相談できる相談先や支援先も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
発達障害(神経発達症)とは
発達障害(神経発達症)とは精神疾患の1つで、先天的な脳機能のかたよりが要因となって起こる疾患です。生まれつきの特性であるため、環境や本人の行動、親のしつけなどによる後天的な発症はありません。
発達障害(神経発達症)の中には、ASD(自閉スペクトラム)、ADHD(注意欠如多動症)、SLD/LD(限局性学習症/学習障害)など複数の特性が含まれ、これらが併存することもあります。
なお、「発達障害」という名称は以前使われていたもので、発達障害の診断基準として主に参照されるDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)が2022年に「DSM-5-TR」に改訂されて以降は「神経発達症」が使われています。なお、神経発達症は厳密には発達障害よりも広い範囲を指すものですが、ここではこれらを併記しています。
大人の発達障害(神経発達症)の特徴
発達障害(神経発達症)の特性は一般的に乳幼児から幼児期にかけて見られ始めますが、特性の度合いによっては子どもの頃は目立たず大人になってから顕著になる場合もあります。
大人になると就職や子育て、近所づきあいなど、子どもの頃にはなかった社会的役割を担うようになり、求められる能力も高くなります。その結果、それまで見過ごされていた特性に気付くケースがあるのです。他にも学校といったルールや役割が決められた中では、特性が目立ちにくい場合もあります。
また、発達障害(神経発達症)の特性によるストレスや生きづらさから精神疾患を発症する「二次障害」がきっかけとなり、その根本に発達障害(神経発達症)があることに気付くケースも珍しくありません。
以下の記事では、発達障害(神経発達症)の二次障害の種類や症状などについて詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
主な発達障害(神経発達症)の種類
発達障害(神経発達症)の種類は主に以下の3つがあります。
- ASD(自閉スペクトラム症)
- ADHD(注意欠如多動症)
- SLD/LD(限局性学習症/学習障害)
これらの他にも、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症、知的発達症、コミュニケーション症群、知的発達症が含まれます。
ASD(自閉スペクトラム症)
ASD(自閉スペクトラム症)の方は気持ちを想像したり伝えたりすることが苦手で、コミュニケーションに困難を伴うことが多いです。また、興味や関心の対象が限定的で独特のこだわりがあったり、光や音に過剰に反応してしまう感覚過敏、またはその逆の感覚鈍麻が見られることもあります。
ASDは過去に「自閉症」や「アスペルガー症候群」などと診断名が細分化されていましたが、後述する診断基準の改訂に伴い現在は自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などを含む発達障害を総称してASD(自閉スペクトラム症)と呼んでいます。
ASDの方によく見られる主な特徴は以下のとおりです。
- グループでの業務・活動が困難
- やり取りがうまくかみ合わない
- 自己流で物事を進めたがる
- 大きな音や強いにおいなどが苦手
以下の記事ではASDの困りごとや対処方法なども詳細に解説しています。併せてご覧ください。
大人のASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)
ADHD(注意欠如多動症)
ADHD(注意欠如多動症)は特性によって以下の3つのタイプが見られます。
- 不注意優勢型
注意散漫でミスをしやすい。頻繁な忘れ物や失くし物、集中力が持続しないなどの特徴が見られる。 - 多動・衝動優位型
落ち着きがない、後先考えず行動・発言する、1つのことに集中して取り組むのが苦手などの特徴が見られる。 - 混合型
上記2つの特徴を併せ持つ。
なお大人のADHDは、衝動買いや忘れ物、ケアレスミスの多発、仕事や家事などの優先順位付けが苦手など、不注意優勢型の特徴がよく見られます。一方で子どもの頃は多動・衝動優位型の特徴が見られることが多いです。
以下の記事では、ADHDの治療法や対処方法などを詳しく説明しています。併せてご覧ください。
大人のADHD(注意欠如多動症)は治療で改善可能?原因や困りごとへの対処法を解説
SLD/LD(限局性学習症/学習障害)
SLD/LD(限局性学習症/学習障害)がある方は、基本的な知的発達に遅れはないものの、読み・書き・計算といった特定分野の能力に困難さが伴います。なお、DSM-5-TRから診断名がLD(学習障害)からSLD(限局性学習症)に変更されました。
SLD/LD(限局性学習症/学習障害)の主な特性は以下の通りです。
- ディスレクシア(読字不全/読字障害)
- ディスグラフィア(書字表出不全/書字表出障害)
- ディスカリキュリア(算数不全/算数障害)
これらの特性は、一時的な記憶や感覚のかたよりなど認知能力が原因となることが多いです。また、ディスレクシアがある場合は、ディスグラフィアを伴うケースがほとんどです。
以下の記事では、SLD/LDの特徴や職場での困りごと、対処法などを解説しています。併せてご覧ください。
大人の学習障害/限局性学習症(LD/SLD)とは?特徴や診断方法、対処法を解説
発達障害(神経発達症)のサイン
ここでは、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、SLD/LD(限局性学習症/学習障害)によく見られる傾向(サイン)を子どもと大人に分けて紹介します。
ただし、特性のあらわれ方には個人差があるので、あくまで目安として参照してください。
なお、子どもの頃の特徴は、家族や友人などに自分が子どものときの様子を聞くと確認しやすいでしょう。
ASD(自閉スペクトラム症)の症状とサイン
ASD(自閉スペクトラム症)の特徴は、子どもの頃は行動や身体的特徴に出やすい一方で、大人になるとコミュニケーション面に出やすい傾向があります。また、感覚過敏は個人差が大きく、ほとんど見られないケースもあります。
大人のASDの傾向
- チームでの業務・活動が苦手
- 会話がうまくかみ合わない
- 伝えたいことを言葉にまとめることが難しい
- 人の話に関心を持てない
- 自己流で物事を進めたがる
子どものASDの傾向
- 目を合わせない
- 笑い返さない
- 表情が乏しい
- 他の子に関心を示さない
- 言葉の発達に遅れがある
- こだわりが強い
ADHD(注意欠如多動症)の症状とサイン
ADHD(注意欠如多動症)の特徴は、子どもと大人の両方とも行動に出やすい傾向があります。大人になると直接的な行動は目立たなくなってきますが、仕事に対する集中力や注意力といった部分で目につきやすくなるケースが少なくありません。
大人のADHDの傾向
- その場に適した注意の配分が難しい
- 1つのことに集中し続けるのが困難
- うっかりミスや抜け漏れが多い
- 順序立てて業務を進めることが難しい
- ソワソワと手足を動かしてしまう
子どものADHDの傾向
- 落ち着きがない
- じっと座っていられない
- 授業中に席を離れる
- しゃべりすぎる
- 順番を待てない
SLD/LD(限局性学習症/学習障害)の症状とサイン
SLD/LD(限局性学習症/学習障害)がある場合は、読み・書き・計算の作業が実年齢で期待されるレベルよりも低くなるのが特徴です。困難は大人になっても継続するので、仕事や日常生活で支障が生じることがあります。
大人のSLD/LDの傾向
- 文字や文章を正しく読むのに時間がかかる
- 文章の意味の理解が難しい
- 発音が正確ではない
- 誤字脱字が多い
- 数の概念や数値、計算の理解が困難
子どものSLD/LDの傾向
- 文章をとぎれとぎれに読む「逐次読み」が見られる
- 単語や文節の途中で区切って読む
- 特殊音節の書き間違えや抜かし
- 同じ音の書字誤り
- 形態的に類似した文字の書字誤り
- 簡単な計算ができない
発達障害(神経発達症)の診断方法
発達障害を診断してもらうには、発達障害の診察をしている精神科または心療内科を受診しましょう。発達障害の診断は一般的にDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル/最新版はDSM-5-TR)を参照して行われます。
医療機関を探すときは、市区町村または都道府県の福祉部署が作成した医療機関のリストを参照するとスムーズです。リストがない場合でも、担当部署に相談すれば教えてもらえるでしょう。
ちなみに、障害者手帳の審査を始めとする行政手続きには、WHO(世界保健機関)が定めたICD(国際疾病分類/最新版はICD-11)という診断基準が用いられます。診断書の基準と異なりますが、両者の診断基準は大きな差異がないよう調整されているので、心配はありません。
以下で発達障害の種類別に、診断基準の一例を紹介します。
ASD(自閉スペクトラム症)の診断基準
DSM-5-TRにおけるASD(自閉スペクトラム症)の診断基準は、以下の特徴が満たされていることが条件です。
- 複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥がある
- 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上ある
- 発達早期から1、2の症状が存在している
- 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されている
- これらの障害が、知的能力障害(知的障害)や全般性発達遅延ではうまく説明されない
なお「1」の項目には「相互の対人的・情緒的関係の欠落」や「人間関係の発展や維持、理解」など複数の項目が含まれており、それらすべての項目に該当することが必要です。
ADHD(注意欠如多動症)の診断基準
ADHD(注意欠如多動症)の診断基準には不注意傾向と多動性・衝動性傾向の2種類があります。ここではそれぞれの一部を紹介します。
不注意傾向の診断基準(以下をはじめとした状態が5つ以上当てはまり6ヶ月以上継続)
- 細かい注意を払うことができない
- 不注意から失敗することがよくある
- 注意を持続しつづけることが難しい
- 話しかけられても聞いていないように見える
多動性・衝動性傾向の診断基準(以下をはじめとした状態が5つ以上当てはまり6ヶ月以上継続)
- ソワソワと手足を動かしたり、座っていてもモジモジ動く
- 着席しつづけるのが難しく離席してしまう
- じっとしていられないような気分になる
- 静かに遊びや余暇活動に取り組むことが難しい
SLD/LD(限局性学習症/学習障害)の診断基準
SLD/LD(限局性学習症/学習障害)の診断基準は、①の項目の特徴が1つ以上当てはまり、6ヶ月以上持続していることが条件です。ここではそれぞれの診断基準の一部を紹介します。
①
- 読むのが遅いまたは不正確
- 読んで意味を理解することが難しい
- 文字を書くことが難しく、よく間違える
- 文法や句読点を複数間違える
- 数の概念、数値、計算を学ぶことが難しい
- 数を使って推論することが難しい
②学業的な能力が年齢相応ではなく、学業や職遂行に差しさわりがある
③学習困難が、知的能力障害や視力・聴力、他の精神疾患などでは説明できない
ただし「読み」に障害がある場合は、集中力が続きにくいADHDに起因している可能性もあります。
発達障害(神経発達症)のグレーゾーンとは
発達障害(神経発達症)のグレーゾーンとは、発達障害(神経発達症)の特徴は見られるものの、診断を出せる条件を満たしていない状態であり、診断名ではありません。診断こそ出ないものの、症状や特性が軽いとは限らず、実際に困難に直面していると診断名が付かないことで余計に悩んでしまう恐れもあります。
診断がつかない要因として、発達障害(神経発達症)には診断のための明確な数値基準がないことや、特性の出方が受診時の体調や環境等で変動することなどが挙げられます。
グレーゾーンと言われて対応に悩む場合は、後述する発達障害者支援センターのような発達障害(神経発達症)の専門機関に相談してみましょう。自分がどう行動すればよいのか、対処法となるヒントをもらえるはずです。
発達障害(神経発達症)の方が利用できる支援機関や相談先
発達障害(神経発達症)の特性による困りごとに対処するには、一人で悩まず支援機関の利用がおすすめです。ここでは主な支援機関と受けられるサービスを紹介します。
- 就労移行支援
一般就労を目指す65歳未満の障害がある方を対象に、知識や技術、障害理解などの習得支援や就活支援などを行う - 自立訓練(生活訓練)
障害のある方が自立した生活を送るためのスキル獲得や、障害理解などのプログラムを提供 - 発達障害者支援センター
発達障害(神経発達症)がある方向けの総合的な支援を行う。各都道府県に設置されている - ハローワーク
障害者雇用の求人紹介に加えて、就職面接会の実施や採用面接への同行なども行う - 当事者会・自助グループ
発達障害(神経発達症)の方が集まって、差別や偏見をなくすための社会活動を行う
なかでも就労移行支援はスキルアップや障害理解と就活支援が一体となっているので、特性による困りごとがある方の心強い味方になってくれます。また、障害や特性との付き合い方をしっかり学びたい方は、自立訓練(生活訓練)で基礎固めをしてもよいでしょう。
以下の記事では各支援機関について、より詳しく解説しています。併せてご覧ください。
大人の発達障害の専門相談窓口はある?無料で利用できる支援先を紹介
Kaienの就労移行支援
Kaienの就労移行支援には、自身の障害と共に新たな働き方を探すためのプログラムが数多く揃っています。
- 職業訓練:実践的な職業訓練が100種類以上
- スキル向上:社会スキル・自己理解講座が50種類以上
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就職実績は過去10年間で約2,000人、就職率は86%、就職1年後の離職率は9%と全国トップレベル。月給は3人に1人が20万円以上です。
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利用料は世帯収入に応じて無料~月額最大3万7,200円で算出されますが、多くの場合、自己負担額0円で利用可能です。通所だけでなくオンラインでも利用可能なので、まずはお気軽にお問い合わせください。
Kaienの自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)は、自身の障害との付き合い方を学び、健やかで自立した生活を送れるようになるための場です。Kaienでは以下の4つをテーマに、さまざまなプログラムを提供しています。
- 障害を理解しよう:自身の特性を理解し、周囲への配慮の求め方を学ぶ
- 自立生活をしよう:一人暮らしを目標に生活スキルや知識を学ぶ
- 進路を選択しよう:将来の再設計のために選択肢や判断方法を学ぶ
- みんなと暮らそう:地域や職場を想定したコミュニケーション方法を学ぶ
なお、修了者の進路は就労移行支援が52%、就労継続A型・B型他が18%で、一般就職やバイト、進学などを選ぶ方もいます。平均利用期間は9.5ヶ月と長いので、自分のペースでこれからのプランが考えられるのも魅力です。
発達障害(神経発達症)の特性が見られたら専門機関へ相談を
発達障害(神経発達症)は生まれつきのものですが、発達障害(神経発達症)に気付くタイミングには個人差があります。大人になってから判明することも珍しくないので、この記事を読んで当てはまりそうな特徴がある場合は一度、医療機関を受診してみてはいかがでしょうか。
発達障害(神経発達症)は徐々に理解が進んできており、支援機関も増えてきています。Kaienでも就労移行支援と自立訓練(生活訓練)で支援をしていますので、まずはお気軽に無料説明会や体験利用をお試しください。あなたに寄り添いながら、輝ける場所を一緒に探していきます。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
「発達障害」の特性による社会適応の問題は記事にある通り多岐に及んでいる一方で、何が適応不全に繋がっているかは本当に様々です。記事中にある、ASD/ADHD/LDなどの特徴を見て、これもあれも自分に当てはまる、と感じる方はいるのではないでしょうか。医学的には当てはまる部分がある=診断、というわけではありません。例えば米国診断基準DSM-5のASDの項目には「症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている」があり、問題を引き起こしていないのに診断することはしません。それに、いくつか当てはまるという程度であれば殆ど誰もが診断されてしまいます。そういう意味でも、「発達障害」を疑った場合、また何か特性的なものが自分や家族の社会適応に影響していると考えたときには自己診断せず、医師と相談してみましょう。すでにうつ病や、不安症、双極症という診断名がある方も、発達障害特性がわかることで、より良く社会適応が進む可能性があります。今は私が医師になった20年前とは違い、Kaienさんをはじめ支援機関も沢山あり、生活や就業に関して相談できる場所も必ずあります。尚、仮に発達障害が診断されても、支援が途中で不要になることがあります。「診断」が必ずしも一生固定されるわけではないのです。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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