識字障害とは?原因や困りごと、対処法を解説

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識字障害とは字や文字の読み書きに困難があり、生活や仕事のうえでさまざまな困りごとがある状態を指します。また、識字障害は発達障害*の一種である限局性学習症(SLD)に分類されるもので、生まれつきの脳機能のかたよりが原因です。

この記事では識字障害の特徴や原因、困りごとや対処法、利用できる支援機関などについて紹介するので、ぜひ参考にしてください。

識字障害とは

識字障害は、発達障害の一種である 「限局性学習症(SLD)」に分類される特徴を指します。識字障害の方は文章をスムーズに読み進められない、読めても内容が頭に入らない、正しい読み方がわからないなど字を読むことに困難があり、それに起因して字を書くことも苦手です。

なお、識字障害は知的発達症(知的障害)や全体的な発達の遅れは見られず、知力が高い方も少なくないと言われています。

限局性学習症(SLD)の特徴

SLDの特徴としてディスレクシア(読字不全)やディスグラフィア(書字表出不全)、ディスカリキュリア(算数不全)が挙げられます。

ディスレクシアは読字分野に困難がある状態で、SLDの中でもっとも多いと言われています。ディスレクシアの主な症状は次の通りです。

  • 字がすらすら読めない
  • 正確な読み方がわからない
  • 読めたとしても内容が理解できない

ディスグラフィアは文字を書くことに困難がある状態です。文字を正しく読めていないと正しく書けないため、ディスレクシアとの併存が多いとされています。ディスグラフィアの主な症状は次の通りです。

  • 鏡文字を書く
  • 似ている字(「ね」と「ぬ」など)や似た発音の字(「を」と「お」など)を間違えやすい
  • 小さな字(「っ」「ゃ」「ょ」など)を間違えて書く

ディスカリキュリアは算数・数学の学習に困難がある状態で、算数障害とも呼ばれます。主な症状は次の通りです。

  • 簡単な数字や計算記号を理解できない
  • 数の大小や繰り上げ・繰り下げなどがわからない
  • 筆算をすると桁がバラバラになる
  • 図形やグラフ、文章問題などが苦手

識字障害の原因

読み書きの困難が発達障害(限局性学習症)の特性である場合、先天性な脳機能のかたよりが原因と考えられています。また、限局性学習症以外の発達障害が併存している場合は、その特性が影響しているケースもあります。

  • ASD(自閉スペクトラム症)

コミュニケーションの困難さやこだわりの強さなどが特徴。社会的な情報の知識や概念の理解が難しく、文字認識や単語の知識に影響する場合がある。

  • ADHD(注意欠如多動症)

不注意傾向や集中の続かなさ、多動性、衝動的な言動などが特徴。不注意特性により誤字脱字に気づかなかったり、読み飛ばしをしたりすることがある。

  • DCD(発達性協調運動症)

運動機能のコントロールが難しく、身のこなしのぎこちなさや手先の不器用さなどが特徴。筆記に影響が生じやすく、字の汚さや枠内に字を収められないなどの困難が見られる。

これらの発達障害以外に、視覚系の機能障害も原因として考えられます。1つは視機能の障害で、目の近くで何らかの機能障害が生じて文字が見えない、ぼやけて見えるなどの症状が出ます。もう1つは目から情報が入るところは問題ないものの、脳の中の視覚情報の認識部分で何らかの問題がある視覚認知機能障害です。いずれも文字の見え方に影響を及ぼすため、識字の困難につながります。

識字障害の診断方法

識字障害は限局性学習症の特徴の1つであるため、識字障害という診断名は存在しません。識字障害の特徴に当てはまる方が診断を受ける際には、限局性学習症と診断されることが多いでしょう。限局性学習症は発達障害の一種であるため、診断は精神科や心療内科で行われますが、限局性学習症に詳しく、診断が可能な専門医や医療機関は現状あまり多くはありません。

限局性学習症の詳しい診断基準や検査方法については、次の記事を参照ください。

大人の学習障害/限局性学習症(LD/SLD)とは?特徴や診断方法、対処法を解説

識字障害の方の困りごと

識字障害の方が生活・仕事の上で抱える困りごとは、主に「読むこと」と「書くこと」に分かれます。読むことに関する主な困りごとは次の通りです。

  • 文章を読むのに時間がかかる(すらすら読めない)
  • 資料やマニュアルなどを読んでも内容が頭に入らない
  • 漢字が読めない
  • 読み間違いが多い
  • 読み飛ばしたり文末を変えて読んだりするなど不正確な読み方をする
  • 読む作業を長時間続けると疲労が激しい(易疲労性)

また、書くことに関する主な困りごとは次の通りです。

  • 手書きの字が汚くて読めないと言われる
  • 文字を書くのに時間がかかる
  • 話を聞きながらメモを取れない
  • 誤字・脱字が多い
  • 文法の誤りが多い(「て・に・を・は」の誤用など)
  • 意味が伝わりにくい文(主語と述語の不一致など)を書く
  • 長い文章が書けない

このような困りごとに対する対処法について、次で紹介します。

識字障害の仕事での対処法

識字障害の方は読み書きの困難から仕事に影響を及ぼすことも多くあります。自分が苦手な作業や内容に応じた対処法を知り、改善につなげましょう。主な対処法は次の通りです。

  • 図や写真などを活用する
  • タブレットなどの機器を使う
  • 合理的配慮を求める
  • 働き方の見直し

それぞれの対処法について、以下で詳しく見ていきましょう。

図や写真などを活用する

識字障害の方はマニュアルなど長い文章を読んで内容を理解するのが難しいため、図や写真を入れたマニュアルを作成してもらうとよいでしょう。あるいは、長い文章を読む時はカラーバーや定規などを当てて今読んでいるところをわかりやすくすると、読みやすくなる場合もあります。可能であれば、マニュアルの要点を理解している人にマーカーを引いてもらうのもおすすめです。

タブレットなどの機器を使う

タブレットやスマートフォンなら読み上げアプリやフォントの拡大などが可能なため、読みにくさの改善に活用できます。また、手書きでメモを取るのが苦手な方は、タブレットやスマートフォンに音声入力したり、指示内容などを撮影したりするのもよいでしょう。加えて、読み書きに時間がかかることへのサポートとして、指示は事前にメモやメールでしてもらうようにすれば、自分のペースで作業することもできます。

合理的配慮を求める

識字障害の方は、働きやすくするための合理的配慮を同僚や上司に求めることができます。例えば、次のような対応をお願いしてみましょう。

  • 作業の指示をメールや書類でなく、口頭でしてもらう
  • 書類のフォーマットを読みやすくしてもらう(文字サイズや行間を大きくするなど)
  • 書類の拡大コピーをさせてもらう
  • 拡大鏡やボイスレコーダー、読み上げソフトなどの補助機器の使用を許可してもらう
  • メモを取る代わりに写真を撮らせてもらう
  • 苦手な業務を免除してもらい、得意を生かせる業務を任せてもらう

働き方の見直し

上記のような合理的配慮への対応が難しい環境もあるため、自分や周りの努力にかかわらず、今の職場がどうしても合わないというケースも考えられます。その場合は転職も視野に入れて、働き方や自分の働きやすい環境を見直してみることも大切です。

働き方や雇用形態には一般就労や障害者雇用のほかに、福祉的就労や就労移行支援、リモートワークなど、さまざまな選択肢があります。働き方を変えることは、苦手なことにマイペースで取り組めたり、特性への配慮や支援を受けやすくなったりするなど、メリットも多くあります。

識字障害の方が利用できる主な相談先・支援機関については、次で紹介します。

識字障害に関する相談先・支援機関

識字障害専門の支援機関はありませんが、発達障害(限局性学習症)の方が利用できる相談先や支援機関は次のように複数あります。

  • 発達障害者支援センター

専門家が特性に応じた支援プログラムを提供し、労働関係機関や職場、学校などと連携して発達障害の学習や就労を支援する機関。

  • 就労移行支援事業所

一般就業を目指す障害のある方を対象に職業訓練や就活支援、定着支援などを行う。

発達障害の方に特化したKaienの就労移行支援では、100種類を超える職業体験やプログラミング・デザインのスキルを習得できる専門コースも提供しています。また、困りごとへの対処法を学べるライフスキル講座やソーシャルスキル講座、手厚い就活支援と定着支援もKaienの強みです。

  • 自立訓練(生活訓練)

障害のある方が自立した生活を送るための訓練を行う場です。Kaienの自立訓練(生活訓練)は、数千人をサポートした実績とデータに基づき、実践的なプログラムを実施しています。

識字障害の特徴に合わせた対策を

識字障害は字や文章の読み書きに困難があることが特徴で、発達障害の一種である限局性学習症(SLD)に分類されます。識字障害による困りごとには特徴ごとの対処法があるので、本記事を参考にぜひ試してみてください。また、1人で悩まずに支援機関に相談することも大切です。

Kaienでは無料の見学会や体験利用を随時実施しています。興味のある方はお気軽にご相談ください。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

監修者コメント

限局性学習障害は、読み・書き・そろばんのうち、どれかひとつが障害されるものです。知的障害ではないため、上記のひとつに困難があってもその他の精神機能に問題はありません。限局性学習障害で最も多いのは読字障害で、日本では小中学生で4-5%ほどいると考えられています*1。

読字障害は英語でdyslexiaと呼ばれ、海外では認知度が高まっています。著名人として、ハリウッドスターのトム・クルーズ、キアヌ・リーヴス、映画監督のスティーヴン・スピルバーグ、ヴァージングループ会長のリチャード・ブランソン、イギリスのベアトリス王女などがいます。

いずれの方もインタビュー記事を読むと、小学校低学年くらいのときに周囲ができることについていけず、大変苦労したと述べています。特にスピルバーグ監督は幼少期に読字障害が米国でも一般的に知られていなかったため、診断されたのは60歳のときだったそうです*2。

上記の方々の活躍を考えると、読字障害を持つすべての人が社会的に大きな困難を伴うわけでないことが分かります。読字障害と同様に発達障害など他の精神障害を持っていたとしても、それがいつも人生の大きな足かせになるわけではありません。「スペクトラム」は正常・異常の境界がはっきりしていない多様なものを意味しており、精神障害の理解を深めるのに重要なキーワードです。病名が単なるレッテル貼りや決めつけにならないよう、私たちは慎重になる必要があります。

*1: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-004.html

*2:https://www.harpersbazaar.com/jp/celebrity/celebrity-buzz/g34708734/dyslexia-celebrity-201125-hns/?slide=9

監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。