「ディスレクシア(読字不全)」とは、発達障害*の一種である限局性学習症(SLD)の特性の1つで、知的な遅れや視覚障害がないものの、読字分野に困難が生じる状態を指します。学齢期から症状が顕著になるものの、適切な診断がされず大人になってから初めてディスレクシアだとわかるケースも珍しくありません。
この記事では、ディスレクシアの特徴や具体的な症状、診断方法を解説します。あわせてディスレクシアの方が利用できる相談先・支援機関も紹介するので、ディスレクシアでお悩みの方はぜひ参考にしてください。
ディスレクシア(読字不全)とは
「ディスレクシア(読字不全)」とは、限局性学習症(SLD)の1つです。SLDは発達障害の一種で、知的な遅れや視覚・聴覚の障害が伴わず、会話能力も問題がないにも関わらず、読み書きや計算といった特定分野の学習に大きな困難が生じている状態のことです。
ディスレクシアは知的な遅れや視覚障害がないものの、字をすらすら読むことができない、正確な読み方がわからない、読めたとしても内容を理解できないなど、読字分野に困難がある状態を指します。SLDの中でも特に多い症状で、同じくSLDの1つで文字を書くことが困難な「ディスグラフィア(書字表出不全)」を併存しているケースがほとんどです。
ディスレクシア(読字不全)の特徴と症状
ディスレクシアの方は、文字がまったく読めないわけでなく、読字に非常に時間がかかる点が特徴です。ディスレクシアの主な症状は以下の2種類に分けられます。
- 文字の読み方の認識への困難さ(音韻処理の不全)
- 文字の形の認識への困難さ(視覚情報処理の不全)
ディスレクシアの方は、音の聞き分けや文字と音を結びつけて理解することが難しいといわれています。そのため、単語のまとまりを理解する、文字を音に変換して読むといったことが困難な傾向にあります。
また、視覚認知機能や眼球運動にかたよりがあるため、文字を一字ずつ拾って読んでしまう(逐次読み)、逆さ読みをしてしまう、語句や行を抜かして読んでしまうといった傾向もあります。
これらの症状から、ディスレクシアの方は本などの長い文章を読むとすぐに疲労してしまうケースも多いです。
大人になってからディスレクシア(読字不全)になることはある?
ディスレクシアを含む発達障害は、生まれつきの脳の特性が原因といわれています。先天的なもののため、大人になってから後発的に発症するといったことはありません。
ディスレクシアは学齢期に気付くことが多いものの、知的な遅れがなく見た目でも分かりづらいことから、単なる学業不振で片付けられてしまうケースも少なくありません。そのため大人になるまで症状に苦しみながらも何とか過ごし、社会に出てから特性が原因で仕事に支障が出て、初めて診断を受ける方もいます。
もし後天的に読字分野に困難が出た場合は、発達障害ではなく視覚機能の問題や失読症などが原因である可能性が高いといわれています。後天的にディスレクシアの症状があらわれた際は、それぞれ専門の医療機関を受診しましょう。
読み書きに影響するその他の神経発達症(発達障害)
ディスレクシアを含むSLD(限局性学習症)以外に読み書きに影響する神経発達症(発達障害)として、「 ASD(自閉スペクトラム症)」や「ADHD(注意欠如多動症)」、「DCD(発達性協調運動症)」があります。
ASDの特性は、文字認識には直接影響しないという説が主流です。しかしASDの方は、社会的な情報への知識が必要となる文章の場合、知識や概念の理解が難しいことから読解力が低下する傾向にあります。また、ASDの方はDCDを併存するケースが多いです。
ADHDの特性は、必ずしも読み書きに影響するわけではありません。しかし、ADHDの特性である「不注意」が誤字脱字や読み飛ばしの原因になることもあるようです。また、ADHDとSLDが併存するケースは多いといわれています。
DCDは運動機能のコントロールが難しいため、手書き作業(筆記)に困難が生じます。DCDの場合、書くという動作に影響が出るものの、知識や文章の構成への理解力には問題がありません。
ディスレクシア(読字不全)はどこで診断できる?
ディスレクシアの診断は、精神科や心療内科などの医療機関で受けることができます。しかし、成人期のディスレクシアの診断で使える検査は限られており、また適切な診断が可能な医療機関も少ないことから、大人になってからディスレクシア(限局性学習症)の診断を受けるのは難しいというのが現状です。
もし診断を受ける場合は、精神科や心療内科の中でも、言語聴覚士など読み書きに知見のあるスタッフがいる医療機関を探すと良いでしょう。
ディスレクシア(読字不全)の診断・検査方法
ディスレクシアの診断は、問診の内容や検査結果を総合して行われます。ディスレクシアの検査では、成人期を対象とした読字・書字の速さ・正確さを測る「RaWF(ラーフ)」や、SLDの方の読み書き支援のニーズを尺度化する「RaWSN(ロースン)」などの検査が用いられます。また「WAIS-Ⅳ」など、成人用のウェクスラー式知能検査で知的な遅れがないことも同時に確認します。問診では、これまでの生育歴や既往歴も重要な診断指標となるため、聞き取りなどを行います。
ただし前述したように、成人を対象としたディスレクシアの検査方法は少ないため、大人の診断であっても、学齢期の子どもを対象とした読字・書字能力検査(STRAW-R)を実施することもあります。この検査で、平均的な子どもに比べて読字分野に困難が認められた場合、機能障害があるとして診断の参考にするケースも見られます。
ディスレクシア(読字不全)の診断基準
ディスレクシアの診断には、アメリカ精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM/最新版はDSM-5-TR)」や、WHO(世界保健機関)の「国際疾病分類(ICD/最新版はICD-11)」の診断基準が用いられます。医療機関では、DSM-5-TRを参照するケースが多いようです。
DSM-5-TRでは、SLDの診断基準が以下のように定められています。
- 少なくとも6ヶ月以上、以下のいずれかの症状が存在し、適切な介入を行っても改善されない
- 読字の不正確さ、またはゆっくりとした努力を要する読字
- 読解の困難
- 書字の表現の困難
- スペリング
- 数学的推論の困難
- 学習困難が、知的能力障害や視力・聴力、他の精神疾患などでは説明できない
ディスレクシアの症状は、上記の「読字の不正確さ、またはゆっくりとした努力を要する読字」「読解の困難」に当てはまります。
ディスレクシア(読字不全)の相談・支援先
ディスレクシアを専門に扱う支援先はないものの、SLDを含む発達障害の方をサポートする相談先や支援機関は複数あります。主な支援機関は以下の通りです。
- 発達障害者支援センター
- 障害者就業・生活支援センター
- 精神保健福祉センター
- 就労移行支援事業所
- ハローワーク
日常生活や就職など、相談内容にあわせて利用してみましょう。
ディスレクシア(読字不全)の相談先
発達障害の支援機関の1つである「発達障害者支援センター」は、ディスレクシアを含む発達障害の方とそのご家族をサポートする公的機関です。専門家がディスレクシアの方の特性に合わせた個別の支援プログラムを提供するほか、職場や労働関係機関と連携し、ディスレクシアの方が働きやすい環境づくりを行います。
精神保健福祉センターは、発達障害や精神疾患のある方やそのご家族に対して、治療に関する相談やサポートを行う支援機関です。各都道府県および指定都市に設置されていて、専門家によるカウンセリングやリハビリテーションプログラムを受けることができます。
もし就労に不安がある場合は、後述する障害者就業・生活支援センターや就労移行支援事業所を利用するのがおすすめです。
就労に関する支援機関
ディスレクシアの方が利用できる就労に関する支援機関には、ハローワークや障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所などがあります。
障害者就業・生活支援センターと就労移行支援事業所は、どちらも障害のある方が自立した社会生活を送れるよう、就労と生活の両面からサポートする支援機関です。
発達障害に特化した就労移行支援事業所であるKaienでは、ディスレクシアの方がご自分に合った適職を見つけられるよう、常時100種類以上の実践的な職業体験を行っています。同時に、特性からくる日常生活や仕事場における困難への対処方法も学んでいきます。
就活支援では、ディスレクシアをはじめ発達障害に理解のある提携企業の求人を中心に、特性があっても無理なく働ける就職先を、Kaienのスタッフと一緒に探していきます。一般就労を目指すディスレクシアの方は、ぜひお気軽にご連絡ください。
ディスレクシア(読字不全)は早めに専門機関へ相談を
ディスレクシアは発達障害の限局性学習症の一種で、生まれつきの脳の特性により読字分野に困難のある状態を指します。ディスレクシアは日本においてまだ認知度が低く、適切な診断が可能な医療機関も少ないのが現状です。しかし、早めに専門機関へ相談することで、特性に合った対処法がわかり、日常生活や仕事場での困難が軽減される可能性があります。
Kaienでは、ディスレクシアの方の日常生活や就労のサポートを行っています。随時無料で見学会や体験利用を実施しておりますので、ディスレクシアの症状で悩んでいる方は、ぜひお気軽にご連絡ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます