スケジュール管理が思うようにできない場合、原因に発達障害*の一種であるADHD(注意欠如多動症)の特性が関係している可能性があります。困りごとを解消するためには、まず原因を理解することが大切です。発達障害の特性についての理解を深めたうえで、スケジュール管理ができない悩みにアプローチしてみてください。
この記事では、発達障害の方がスケジュール管理ができない理由やADHDの特徴、ADHDの方のスケジュール管理のポイントなどを紹介します。ADHDの方が利用できる支援機関についても解説しているので、ぜひ参考にしてください。
スケジュール管理ができないのは発達障害が原因?
スケジュールや時間を管理するのが苦手な方は、発達障害とは関係なく一定数います。しかし、仕事に支障をきたすレベルでスケジュールを管理できない場合、発達障害の特性が関係している可能性があるでしょう。
発達障害の中でも、ADHD(注意欠如多動症)にはスケジュール管理を苦手とする特性があります。約束の時間に遅れる、納期に間に合わない、タスクの整理が苦手といった困りごとを抱えているADHDの方も少なくありません。
ADHD(注意欠如多動症)の特徴
ADHDは「不注意優勢型」「多動・衝動優位型」「混合型」の3タイプに特徴を分類すると分かりやすいでしょう。ただし、タイプ分けはあくまでも便宜上のものであり、医学的な定義ではない点に注意が必要です。3タイプの特徴を知り、ADHDに関する理解を深めていきましょう。
ADHDの不注意優勢型は、うっかりミスをしやすいタイプです。このタイプの方は、忘れ物や落とし物、約束の失念などが多い傾向にあります。また、物事に長時間集中したり、タスクを整理して効率的にこなしたりすることも苦手としています。
多動・衝動優位型は、落ち着きのなさや衝動的な言動が目立つタイプです。先述の不注意優勢型と多動・衝動優位型の特徴を併せ持つ場合は、混合型に当てはまります。
ADHDの方がスケジュール・タスク管理が困難な理由
スケジュールやタスクを管理するのが難しい場合、仕事上でも支障をきたすことになります。ADHDの方がスケジュールを立てて効率よく仕事をこなしにくい背景には、どのような理由があるのでしょうか。
ここからは、ADHDの方がスケジュールやタスク管理を苦手とする理由を説明していきます。
優先順位付けやマルチタスクが苦手
発達障害の方は、中枢性統合や実行機能の弱さが特性としてあらわれる場合があります。
中枢性統合とは物事の全体を俯瞰する能力のことで、この能力が弱いと複数の仕事や予定を同時に把握することが難しくなります。計画を立てて行動する実行機能の弱さも、マルチタスクが苦手な要因の一つです。
また、単純にタスクの処理速度が遅く、複数の仕事をこなすときにどうしても時間がかかる、効率が悪くなるという場合もあります。
1つのことに集中できない
ADHDの方がスケジュール管理を苦手とすることには、集中力が続かない特性も関係しています。ADHDには、注意がほかのことに向いてしまう、集中力を持続するのが難しいといった特徴があります。
仕事に集中できなければ、一つひとつのタスクにどうしても時間がかかってしまうでしょう。その結果、スケジュール通りに仕事が進まないことがあるのです。
うっかりミスや抜け漏れが多い
ADHDの不注意優勢型の方は、うっかりミスや抜け漏れが多い傾向にあります。また、ほかのことに気を取られて、こなさなくてはならないタスクやスケジュールを忘れてしまいがちです。
うっかりミスや抜け漏れの影響で仕事の進みが遅くなったり、そもそもスケジュール自体を忘れてしまったりすることもあるでしょう。その結果、納期に間に合わないなどの失敗につながるケースも珍しくありません。
思いついたら即行動してしまう
ADHDの衝動性によって、思いつきで行動してしまうこともスケジュール管理が苦手な理由の一つです。ADHDの方には、決められたスケジュールがあっても、何かほかにやりたいことがあるとそちらを優先してしまうといった行動がよく見られます。
このように、本来のスケジュールから逸脱してしまい、計画的に物事を進められなくなる場合があります。
過集中により切り替えが難しい
ADHDの方は、注意散漫とは逆に過集中を起こす場合もあります。寝る前に過集中が起こると睡眠不足になり、遅刻など時間を守れなくなることにもつながるでしょう。また、行動の切り替えが苦手で、二度寝などをしてしまう場合もあります。
過集中によって一つの業務に熱中してしまうことも、スケジュール管理に影響します。特定のタスクに時間をかけすぎた結果、ほかのタスクがおろそかになり、スケジュールどおりに仕事が進まなくなることも少なくありません。
ADHDの方のスケジュール管理のポイント
マルチタスクが苦手、一つのことに集中できないといったADHDの特性は、スケジュール管理ができない原因となります。ADHDの特性をカバーする方法を知ることで、スケジュール管理に関する悩みは今よりも軽くなるでしょう。
ここからは、ADHDの方がスケジュール管理を上手にこなすコツや対策方法を紹介します。
マルチタスクからシングルタスクへ
複数の業務を同時にこなさなくてはならない場合、ADHDの方は手当たり次第に手をつけて混乱してしまいがちです。マルチタスクが苦手な場合は、タスクを細かく分解してシングルタスクに落とし込むことをおすすめします。
単純な作業の積み重ねなら、マルチタスクが苦手でも一つひとつこなしていくことができます。分解したタスクに締め切り日を設け、計画的にこなしていくとスケジュール管理能力も向上するでしょう。
スケジュールを共有する
スケジュール管理が苦手な場合、仕事のスケジュールを上司や同僚と共有する方法も有効です。
タスクを忘れやすくうっかりミスが多い方は、自分一人でスケジュールを管理すると抜け漏れが出てしまう場合もあります。上司や同僚に相談し、スケジュールの進捗状況を確かめてもらうとよいでしょう。定期的に他人のチェックが入ることで、予定通りに仕事を進めやすくなります。
ToDoリストを活用する
ToDoリストとは、やるべきことを書き出したリストのことです。期日までにこなさなくてはならない仕事をすべて書き出しておけば、忘れてしまう心配はありません。なるべく仕事を細かく分解してリストを作成し、目につくところに貼っておくとよいでしょう。
また、常にリストを確認して終わった作業については線を引き、次に取り組む仕事が明確にわかるようにしておきます。
予定や締め切りを可視化する
提出物などをうっかり忘れてしまうことの多い方は、予定や締め切りを可視化することで失敗を防ぎやすくなります。ふせんや手首などに巻いて利用できるウェアラブルメモなどを活用し、予定や締め切りを可視化して期日を把握しておきましょう。
なお予定や締め切りだけでなく、指示内容などもメモしておく習慣をつけるのがおすすめです。指示を受けたときは覚えられると感じても、時間が経つと忘れてしまう場合があるため、些細なことでもメモを取り、見えるところに貼っておくよう心がけましょう。
アラームやリマインド機能を使う
朝寝坊してしまう、重要な仕事の予定や締め切りを忘れてしまうといった困りごとがある方は、アラームやリマインド機能の活用がおすすめです。
アラーム機能を利用してもなかなか起きられない場合は、手が届かないところに目覚まし時計を置く、光で起こしてくれる目覚まし時計を使うといった方法も試してみてください。仕事の予定や締め切りについては、スマートフォンやパソコンのリマインド機能を使うことでも思い出しやすくなります。
臨機応変に対応できるようバッファーを持つ
バッファー、つまり余裕を持って仕事に取り組むことも大切なポイントです。予定をパンパンに入れてしまうと、予定外の仕事を任せられたときに対応できなくなり、パニックを起こす可能性があります。
企業に勤めていると、突発的な仕事が生じることは珍しくありません。あらかじめゆとりを持ってスケジュールを組んでおけば、予定外の仕事にも臨機応変に対応できるでしょう。
合理的配慮を求める
ADHDの方には障害者雇用、一般雇用を問わず職場で合理的配慮を求める権利があります。
合理的配慮とは、障害のある方の人権を守るために、社会生活における障壁を取り除くよう努めることです。障害者差別解消法によって、障害のある方に合理的配慮を提供することがすべての事業者に義務付けられています。
特性によって難しい仕事を無理にこなしていると、過度なストレスや疲労につながります。適度な休憩や仕切りの設置など職場に合理的配慮を求め、苦手な仕事は無理をせず人に任せることも大切です。
スケジュール管理のスキルを習得する
優先順位付けやスケジュール管理のスキルを習得するために、支援機関に頼る方法もあります。障害のある方をサポートする機関では、就労移行支援や自立訓練(生活訓練)などのサービスを提供しています。
これらの福祉サービスを通してスケジュール管理のスキルを習得すれば、働きやすさは今よりも向上するはずです。将来の選択肢が広がり、新たな一歩を踏み出すことにもつながるでしょう。
ADHDによりスケジュール管理にお悩みの方へ
ADHDの特性によってスケジュール管理ができずに悩んでいる方は、Kaienの就労移行支援や自立訓練(生活訓練)をご活用ください。
Kaienの就労移行支援では、100種類以上の職業訓練や優先順位付けや予定管理などのビジネススキル、ソーシャルスキルが身につく講座を通して、障害のある方の一般企業への就業をサポートしています。障害に理解のある企業を中心とした独自求人も豊富に扱っているため、働きたいと感じる企業がきっと見つかるはずです。
自立訓練(生活訓練)では、自身の障害特性への理解を深めながら将来のあり方を考えていきます。担当スタッフとのカウンセリングで悩みを相談しながら、自身の強みを見つけてみてはいかがでしょうか。
発達障害の特性に合わせた対処法を
スケジュール管理ができない背景に発達障害がある場合、特性に合わせた対処法を講じることが重要です。
やるべき仕事をToDoリストに書き出す、リマインド機能を使うといった方法で、特性をカバーする工夫を取り入れてみてください。また、職場に合理的配慮を求めて働きやすい環境にするのも効果的な方法です。
ADHDの方は、Kaienの就労移行支援や自立訓練(生活訓練)を利用できます。これらの福祉サービスを有効活用し、スケジュール管理の苦手さを克服していきましょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
ADHDの当事者でいくつもの当事者本の著者でもある借金玉氏は、スケジュール管理など「当たり前ができない」方々に福音をもたらしています。借金玉氏は、ADHDはそもそも認知様式が「普通の人」とは異なるため、「普通の人を超えた戦略」が必要になります*1。
ADHDの方は日時的なスケジュール管理で苦労する反面、普通の人を超えた戦略をいつも練っているため、新しい領域を広げることに強みを持つ方も多くいます。トム・ハートマンは普通の人は農耕民族(ファーマー)であるのに対し、ADHDのある人は狩猟民族(ハンター)であると例えています*2。
とはいえ、多くのADHD者は自信と自己否定の間を揺れ動いていらっしゃるのではないでしょうか。主治医やスタッフと話しながら、一歩ずつ進んで参りましょう。
*1 借金玉、『発達障害サバイバルガイド 「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』、ダイヤモンド社
*2 トム・ハートマン、片山奈緒美(訳)、『ADD/ADHDという才能』、ヴォイス
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。