近年、障害者の就業機会は広がってきています。障害を持つ方が自分に合った働き方を見つけるには、まず働き方の選択肢を知ることが大切です。一般雇用・障害者雇用など複数の選択肢があるので、それぞれの特徴について理解しておきましょう。
この記事では、厚生労働省による障害者雇用の実態調査の結果や、障害を持つ方が利用できる雇用枠の種類、仕事に関する相談先などを紹介します。就職活動を検討している障害者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
障害者の仕事の実態を紹介
厚生労働省では、障害者雇用に関するデータを集計して公表しています。ここでは、「令和5年度障害者雇用実態調査」の結果をもとに、障害者の仕事の実態について詳しく見ていきましょう。
働いている人の数
従業員数5人以上の事業所に雇用されている障害者の数は、110万7,000人でした。前回の平成30年度(2018年度)調査では85万1,000人だったため、25万人以上増加していることがわかります。
障害の種類ごとに見ると、次のような結果になりました。
- 身体障害者:52万6,000人(42万3,000人)
- 知的障害者:27万5,000人(18万9,000人)
- 精神障害者:21万5,000人(20万人)
- 発達障害者*:9万1,000人(3万9,000人)
※()内の数値は、それぞれ前回の調査結果です。
いずれも、前回調査より数値が増えていることがわかります。
雇用形態・労働時間
働いている障害者のうち、次の割合の人が正社員として雇用されています。
- 身体障害者:59.3%
- 知的障害者:20.3%
- 精神障害者:32.7%
- 発達障害者:36.6%
労働時間については、それぞれ以下のような結果となりました。
障害の種類 | 週30時間以上 | 週20時間以上30時間未満 | 週10時間以上20時間未満 | 週10時間未満 |
身体障害者 | 75.1% | 15.6% | 7.2% | 1.2% |
知的障害者 | 64.2% | 29.6% | 3.2% | 2.1% |
精神障害者 | 56.2% | 29.3% | 8.4% | 2.7% |
発達障害者 | 60.7% | 30.0% | 4.8% | 3.9% |
職種
身体障害者で最も多い職種は、事務的職業(26.3%)でした。次いで多かったのは、生産工程の職業(15.0%)です。
知的障害者で最も多い職種はサービスの職業(23.2%)で、次いで多いのは運搬・清掃・包装等の職業(22.9%)でした。
精神障害者で最も多い職種は、事務的職業(29.2%)です。次いで多いのはサービスの職業(14.2%)でした。
発達障害者で最も多い職種はサービスの職業(27.1%)で、次いで多かったのは事務的職業(22.7%)です。
障害の種類に関わらず、事務的職業やサービスの職業に就いている人が多いことがわかります。
賃金
障害の種類ごとの平均賃金は、以下の通りです。
障害の種類 | 平均賃金 |
身体障害者 | 23万5,000円 |
知的障害者 | 13万7,000円 |
精神障害者 | 14万9,000円 |
発達障害者 | 13万円 |
勤続年数
障害の種類ごとの平均勤続年数は、以下の通りです。
障害の種類 | 平均勤続年数 |
身体障害者 | 12年2ヶ月 |
知的障害者 | 9年1ヶ月 |
精神障害者 | 5年3ヶ月 |
発達障害者 | 5年1ヶ月 |
計算の都合上、新たに雇用される障害者が多いほど、平均勤続年数は短くなります。また、採用後に身体障害や精神障害、発達障害が明らかになった人の勤続年数については、医師の診断もしくは障害者手帳の交付を起点として計算しています。
上記を踏まえると、実際には平均勤続年数よりも長く働いている人が多くいると考えられるでしょう。
障害者の方の働き方の選択肢とは?
障害を持つ人の働き方として、「一般就労」と「福祉的就労」の大きく2つの選択肢があります。一般就労は一般企業に就職することで、「一般雇用」と「障害者雇用」に分かれます。
一方、福祉的就労は一般企業への就職が難しい人を対象とした制度で、それぞれの症状や特性に応じた支援を受けながら働けるのが特徴です。福祉的就労では、「就労継続支援A型」と「就労継続支援B型」の2種類があります。
このように、障害を持つ人の働き方にはさまざまな選択肢があるため、自分に合ったものを選ぶことが大切です。以下で、それぞれの働き方について詳しく見ていきましょう。
一般就労
一般就労は、企業と雇用契約を結んで働くことです。障害を持つ人が一般就労で働く場合、一般雇用と障害者雇用という2つの選択肢があります。それぞれの特徴やメリットを以下で紹介するので、一般企業への就職を希望する人は参考にしてください。
一般雇用
一般雇用は障害の有無に関わらず、すべての人を対象とした雇用枠です。経歴や資格など求人ごとの募集要件を満たしていれば、誰でも応募することができます。
一般雇用のメリットは、求人の種類や数の多さです。さまざまな職種の求人があるため、自分の興味や適性に合う仕事を見つけられる可能性が高いでしょう。スキルや特性を活かせる仕事に就ければ、どんどんキャリアアップしていくことも可能です。
また、障害のない人と同じ雇用条件のため、障害者雇用と比較して給料が高く設定されているケースが多いというメリットもあります。そのため、収入を重視する人にも一般雇用はおすすめです。
障害者雇用
障害者雇用は、障害者手帳を持つ人を対象とした雇用枠です。身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳のいずれかを持っていれば、障害者雇用の求人に応募することができます。
障害者雇用は、障害について職場に伝えたうえで働けるため、理解や配慮を得やすいのが特徴です。「勤務日と通院日が重なることがある」「満員電車が苦手で通勤時間をずらしたい」といった場合でも、職場と相談しながら柔軟に働き方を調整できます。
「電話対応が苦手」「大きな音が苦手」といった特性がある人も、特性に応じて業務内容や働く場所の配慮が受けられるでしょう。このように、働くうえでの負担を軽減できるのが、障害者雇用を利用する大きなメリットです。
福祉的就労
福祉的就労とは、一般企業での就職が難しい人を対象とした、福祉サービスを受けながら働ける制度です。福祉的就労には「就労継続支援A型」と「就労継続支援B型」があり、障害の程度や個々の特性に応じてどちらかを選びます。
以下で、就労継続支援A型・B型の特徴について詳しく見ていきましょう。
就労継続支援A型
就労継続支援A型は、「一般就労は難しいものの、適切な支援があれば雇用契約を結んで働ける」という人を対象とする制度です。就労継続支援A型事業所と雇用契約を結んで働くため、その地域の最低賃金以上の給料が支払われるというメリットがあります。
仕事内容は事業所によって異なりますが、おもな仕事として次のようなものが挙げられます。
- パンやお菓子の製造
- データ入力
- 飲食店のホール
- Webデザイン
- 清掃業務 など
就職活動のサポートを行っている事業所もあり、給与をもらいながら一般就労を目指すための訓練やサポートが受けられるのもメリットです。
就労継続支援A型については、以下の記事で詳しく紹介しています。就労継続支援A型の利用を考えている人は、こちらもぜひチェックしてみてください。
「就労継続支援A型はどんな人に向いている?対象者や利用料、仕事内容を解説」
就労継続支援B型
就労継続支援B型は、障害によって一般就労が難しい人に働く機会を提供するための制度です。就労継続支援B型事業所に通い、サポートを受けながら仕事に取り組みます。
A型と違い、事業所と雇用契約は結びません。そのため、給与ではなく工賃が支払われます。最低賃金は保証されないためA型と比べると収入は少ない傾向にありますが、働く日数や勤務時間などを柔軟に決められるのがメリットです。
仕事内容は事業所によって異なりますが、おもな仕事として次のようなものが挙げられます。
- 簡単なパソコン作業
- 製品の発送作業
- 農作業
- 清掃業務
- 飲食店での調理 など
雇用契約を結んで働くのが難しい人を対象とした福祉サービスのため、A型よりも比較的簡単な仕事が多いのが特徴です。
就労継続支援B型については以下の記事で詳しく紹介しているので、利用を考えている人はこちらもぜひチェックしてみてください。
障害者の方の仕事に関する相談先や利用できるサービス
障害者の方が仕事探しをする際、不安なことや困りごとに直面するケースもあるでしょう。このような場合には、次のような相談先やサービスが利用できます。
- ハローワーク
- 障害者就業・生活支援センター
- 地域障害者職業センター
- 就労移行支援
- 自立訓練(生活訓練)
それぞれの相談先とサービスについて、以下で詳しく見ていきましょう。
ハローワーク
全国のハローワークには、障害を持つ人のための相談窓口が設置されています。障害者の就職について知見のあるスタッフが在籍していて、障害特性やそれぞれの事情に応じてきめ細やかな支援が受けられます。
ハローワークは障害者の雇用に関して企業への支援を実施していて、実際に働く企業での事前実習などの調整も可能です。また、条件に合う求人を出してもらうよう事業主への働きかけを行っているので、希望の仕事がなかなか見つからないという人もハローワークに一度相談してみましょう。
さらに、後述する障害者就業・生活支援センターや地域障害者支援センターとも連携しており、それぞれに最適な支援制度を案内してもらえるのもメリットです。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障害を持つ人が仕事を見つけ、安定した生活を送れるようにサポートする機関です。利用者には就業支援担当と生活支援担当がそれぞれ付き、一体的な相談・支援を実施しています。
就業面では、就職に向けた相談や職業訓練、求人情報の提供などを行い、生活面では日常生活や地域生活を円滑に送るための助言などを行います。
就職に関することだけでなく、日常生活についても相談したい場合には、障害者就業・生活支援センターの利用を検討してみてください。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、ハローワークなどの支援機関と連携しながら障害を持つ人への職業リハビリテーションを提供している機関です。一人ひとりの希望に応じて、職業評価や職業訓練などを行います。
地域障害者職業センターの特徴は、障害者を雇用する事業主への支援も実施している点です。例えば、職場にジョブコーチを派遣し、障害者と事業主の間に立って専門的なサポートを行っています。
このように就職後の定着支援にも力を入れているため、就職後に困ったことがあっても相談しやすいのがメリットです。
就労移行支援
就労移行支援は、一般企業への就職を目指す障害者の方が利用できる福祉サービスです。就労移行支援事業所に通い、職業訓練や就職活動のサポートを受けることができます。
職業訓練では、一人ひとりの特性や希望に合わせた個別支援計画を作成し、プログラムに取り組みます。就職活動の支援では特性に合った求人選びや面接時のフォローが受けられ、就職後も支援スタッフが職場を訪問して相談に応じます。
就労移行支援事業所によってプログラムが異なるため、利用前に各事業所が実施しているプログラムの内容を確認してみましょう。例えばIT業界に興味があるなら、プログラミングやWebデザインに特化した事業所を選ぶとよいでしょう。
就労移行支援では、障害者雇用だけでなく一般雇用での就職も目指せます。どちらの雇用枠が合っているのかも相談できるため、一般企業への就職を目指す人は就労移行支援の利用を検討してみてください。
自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)は、障害を持つ人が日常生活に必要なスキルを身につけ、自立した生活を送れるよう支援する制度です。食事や身だしなみ、家事や金銭管理など、日常生活を営むために必要なスキルの習得が目指せます。
「就職活動を始める前に、生活リズムを整えたい」といった場合には、自立訓練(生活訓練)の利用がおすすめです。自立訓練(生活訓練)を修了した後に、一般就労や福祉的就労、就労移行支援に進むこともできます。
仕事探しは就労支援をうまく活用しよう
厚生労働省の調査によると、障害を持ちながら働いている人の数は増加しています。一般雇用や障害者雇用、福祉的就労など選択肢は複数あるため、障害の程度や特性、現在の体調などを踏まえて自分に合った働き方を選ぶことが大切です。
障害を持つ方の仕事探しでは、就労支援をうまく活用しましょう。就労移行支援や自立訓練(生活訓練)では、一人ひとりに合った支援計画にもとづいて最適なサポートが受けられます。
就労支援の利用を検討している方は、ぜひKaienにご相談ください。Kaienでは発達障害の強みを活かした就労移行支援・自立訓練(生活訓練)を実施していて、高い就職率や定着率を実現しています。見学・個別相談会も実施しているので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます