ストレス社会と呼ばれる現代社会では、メンタル面の不調によって休職してしまう労働者が少なくありません。一方、休職から職場復帰をするため、リワークプログラムの利用を検討している人もいるのではないでしょうか。
この記事では、リワークプログラムの概要や種類を踏まえつつ、対象者と利用の流れや費用、実際の内容例やメリットについて解説します。また、リワークプログラムが向いている人の特徴も紹介するので、リワークプログラムに関心がある方はぜひご覧ください。
リワークプログラムとは?
リワークプログラムとは、うつ病・パニック障害・気分障害・統合失調症など、精神疾患が原因で休職している労働者の職場復帰をサポートするためのプログラムです。「職場復帰支援プログラム」や「復職支援プログラム」とも呼ばれていますが、すべて同義語になります。
プログラムの内容は実施機関によって異なりますが、下記のような職場復帰に向けたリハビリテーションやトレーニングが中心です。
- 実務に近いデスクワークや軽作業を体験し、基礎体力や業務遂行能力の向上を図る
- 集団レクリエーションに参加し、対人スキルの向上を図る
- 心理療法を受けて、精神疾患の再発を防ぐ
また、決まった日時に決まった施設へ通うことで、規則正しい生活リズムの確立を目指します。
参考:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
リワークプログラムは4種類に分けられる
リワークプログラムと一口にいっても多種多様ですが、実施機関によって大きく4種類に分類されます。
- 医療機関でのリワーク(医療リワーク)
主に精神科や心療内科が実施しています。精神疾患に伴う症状の安定や回復、再休職の予防を目的とする医学的リハビリテーションを受けられることが特徴です。
- 就労移行支援・自立訓練(生活訓練)のリワーク
福祉施設や民間機関に通所し、スキル習得や職場復帰後の定着に向けたサポートを受けます。休職者だけではなく、就職未経験者や離職者も利用することが可能です。また、障害のある方の自立をサポートする「自立訓練(生活訓練)」も利用できます。
- 障害者職業センターでのリワーク
各都道府県にある地域障害者職業センターが実施しています。休職者・雇用主・主治医の3者で調整した職場復帰プランをもとに、トレーニングやカウンセリングを行うことが特徴です。
- 職場でのリワーク
休職者が所属する企業内で行われるものです。企業が策定した「職場復帰支援プログラム」をもとに、独自の職場復帰訓練制度や外部サービスによる従業員支援プログラム(EAP)を実施しています。
自分に合ったプログラムを見つけるためにも、それぞれの特徴を押さえておきましょう。
リワークプログラムを受けられる対象者と利用の流れ
リワークプログラムは種類によって受けられる対象者が変わるので、それぞれ利用方法と対象者を併せて表にまとめました。
医療機関 | 就労移行支援事業所・自立訓練(生活訓練) | 障害者職業センター | 職場 | |
対象者 | 休職者 | 休職者離職者就職未経験者 | 休職者(公務員を除く) | 休職者 |
利用方法 | 主治医やかかりつけ医に相談し、利用先を選ぶ | 市区町村の窓口で「障害福祉サービス受給者証」を発行し、利用先を選ぶ | 地域障害者職業センターに問い合わせる | 所属している企業の担当部署に問い合わせる |
また、リワークプログラムの基本的な利用の流れは下記の通りです。
- 主治医から職場復帰の許可を得る
- 実施機関の窓口に問い合わせる
- 説明会に参加する
- 利用したいリワークプログラムに申し込む
- 主治医や担当者と相談し、支援内容やスケジュールを決める
- 利用先の施設に通所し、プログラムを受講する
- 職場復帰の調整を行う
- 職場復帰後、継続勤務に向けた支援を受ける
上記は一般的な利用方法の流れで、実施主体の種類や施設によって流れが異なる場合もあるため、事前に確認しておきましょう。
参考:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「職場復帰(リワーク)支援のご案内」
リワークプログラムを利用する際にかかる費用
リワークプログラムを利用する際にかかる費用は、実施主体によって変動します。
医療機関 | 就労移行支援事業所・自立訓練(生活訓練) | 障害者職業センター | 職場 | |
費用の有無 | 有料 | 有料 | 無料 | 無料 |
費用の目安 | 3割負担:1日2,000~3,000円1割負担:1日700~1,000円 | 生活保護受給世帯:0円市町村民税非課税世帯;0円市町村民税課税世帯(所得割16万円未満):9,300円上記以外:3万7,200円 | 0円 | 0円 |
医療機関でのリワークは医療費がかかりますが、保険診療の一種に含まれるため、健康保険で3割負担に抑えられます。自立支援医療制度を適用すれば、1割負担になります。
就労移行支援事業所でのリワークも有料ですが、9割は行政側が負担してくれるため、利用者は1割負担です。ただし、世帯収入によって負担上限月額が決まっており、無料で利用できるケースもあります。
障害者職業センターでのリワークは無料です。ただし、交通費や昼食費は自己負担となります。
職場でのリワークは企業側が費用を負担してくれるため、基本的に無料で利用可能です。
参考:NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター「リワークデイケアについて」
参考:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「リワーク支援の利用に関するQ&A」
リワークプログラムの実際の内容例
リワークで実際に行われているプログラムの例としては、以下のような内容が挙げられます。
- 認知行動療法
- ソーシャルスキルトレーニング(SST)
- グループワーク・レクリエーション
- キャリアデザイン
- オフィスワーク・オフィストレーニング
リワークプログラムの利用を検討している場合、事前に目的や効果などを把握しておくことも大切です。
認知行動療法
認知行動療法とは、人間の物事に対するとらえ方(認知)に働きかけることで、メンタルヘルスを整える心理療法(精神療法)の一種です。「認知療法」や「CBT(Cognitive Behavioral Therapy)」とも呼ばれています。
日頃から強いストレスを受けている人や精神疾患を抱えている人は、悲観的な思考や感情を持ってしまいやすいです。すると物事を極端なとらえ方(歪んだ認知)で見るようになり、状況に即さない判断や行動が増えてしまう可能性もあります。
このような歪んだ認知を患者とともに確認し、改善へと導くことが認知行動療法の目的です。医師は患者が現実的かつ柔軟なとらえ方を選択し、患者自身が持つ本来の力を発揮できるよう、カウンセリングやグループセッションによって不安や動揺の解消を図ります。
認知行動療法は多くの精神疾患に対する治療効果が認められており、医学研究でも有効性が立証されてきています。
参考:NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター「心理検査・各種心理療法(認知行動療法)」
参考:国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター「認知行動療法(CBT)とは」
ソーシャルスキルトレーニング(SST)
ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは、自分の意思の伝え方や他人との接し方など、社会生活に欠かせないスキルを習得するための訓練です。「社会生活技能訓練」とも呼ばれています。
一般的にソーシャルスキルトレーニングは、少人数(5~8人程度)のグループを作って実施します。社会生活において人とかかわるシーンを想定しつつ、ロールプレイやゲームの形式でコミュニケーションの実践練習をしたり、グループ内のメンバーと協力して作業に取り組んだりするといった内容です。
また、精神疾患の再発を防ぐため、症状への対処方法や薬の知識を学ぶ心理教育プログラムを実施するケースもあります。
参考:国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域精神保健・法制度研究部 こころとくらし「社会生活技能訓練 (SST)」
参考:厚生労働省 こころの耳「ソーシャル・スキル・トレーニング」
グループワーク・レクリエーション
グループワーク・レクリエーションでは、グループ内のメンバーと協力しながらゲームやトレーニングを実践し、職場復帰に必要なスキルを養っていきます。
一見、ソーシャルスキルトレーニングと似ていますが、グループワーク・レクリエーションは対人関係のスキル向上だけではなく、基礎体力の向上やリフレッシュなども目的に活動できます。
キャリアデザイン
キャリアデザインとは、自分らしいライフスタイルを実現するため、仕事を通じて将来の目標やビジョンを設計したうえで、その過程で必要なプロセスを明確化することです。
リワークプログラムを利用する場合、第一の目標は職場復帰なので、職場復帰に向けて自分を見つめ直す必要があります。
- 自分の強み・弱みは何なのか?
- どのような仕事ができるのか?
- いつまでに職場復帰を果たしたいのか?
- 1年後に自分はどうなりたいのか?
このように近い未来の生き方や働き方も見据えて考えると、自分のやりたいこと・やるべきことが見えてくるため、これらをリワークのスタッフと一緒に考えていきます。
オフィスワーク・オフィストレーニング
オフィスワーク・オフィストレーニングとは、職場復帰後の実務と同じような作業内容・環境で行う訓練のことです。主に下記のようなデスクワークや軽作業がメインとなっています。
- パソコンのワープロソフトを使った文書作成・修正
- パソコンの表計算ソフトを使ったデータ入力・集計
- 帳簿の作成
- 書類のコピー・ファイリング
- 郵便物の仕分け・発送
これらの作業を通じて、業務遂行に必要な集中力や忍耐力を養うことが目的です。スキルアップはもちろん、資格取得に必要な知識も学べます。
また、決まった日時に決まった施設への通所を継続することは、通勤のトレーニングにもなります。作業に取り組む過程で他人とかかわる機会も多いため、コミュニケーション能力の向上を図ることも可能です。
リワークプログラムを受けるメリットと期待できる効果
リワークプログラムを受けることで、利用者は以下のようなメリットや効果が期待できます。
- 専門家によって個々に合わせた支援プランを立ててアドバイスしてもらえる
- メンタル不調になった原因を見つけられる
- 自分の心との付き合い方がわかる
単に職場復帰を果たせるだけではなく、親身にアドバイスしてもらいながら今後の心の不調との付き合い方も教えてもらえる点も魅力です。
専門家によって個々に合わせた支援プランを立ててアドバイスしてもらえる
医師・心理療法士・ソーシャルワーカー・キャリアコンサルタントなど、リワークプログラムには各分野の専門家が数多く携わっています。
プログラムを受講した場合、専門家によって個々の状況や特性に合わせた支援プランを立ててもらいながら、職場復帰に役立つ有益なアドバイスを受けられることが大きなメリットです。
自分が向き合うべき課題や達成すべき目標などを確認できるので、一人で取り組むよりスムーズに復職しやすくなるでしょう。また、就業面だけではなく、健康面や生活面についても相談できるため、一人で悩みや不安を抱えずに済みます。
参考:NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター「リワークデイケアについて」
メンタル不調になった原因を見つけられる
リワークプログラムを利用すると、ただ職場復帰を目指すだけではなく、メンタル面の不調を引き起こした原因を見つけるのも可能です。
たとえば、認知行動療法やストレスへの対処方法を学ぶプログラムを受けることで、不調がどのように生じたのか、どのような原因があったのかを理解できるようになります。
また、医師やカウンセラーとの面談を通じて、専門家の意見をもとに自分の状況を振り返ることができます。こうしたサポートを受けることで、「どのようなきっかけで不調が始まったのか」「不調に気づくまでにどのくらいの時間がかかったのか」が明らかになっていくでしょう。
不調の原因をしっかりと把握できれば、利用者自身が今後の対処法を具体的に考えやすくなります。それにより、復職準備がスムーズに進み再発防止にも役立つため、安定した職場復帰が期待できるでしょう。
参考:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
自分の心との付き合い方がわかる
リワークプログラムを通じて、自分の心との付き合い方がわかることもメリットの1つです。認知行動療法やカウンセリングといった心理面のサポートを受けることで、利用者は内面にある人生の価値観やネガティブな感情と向き合えるようになります。
自分の心との付き合い方を理解すれば、復職後に仕事を続けやすくなるだけではなく、何度もメンタル不調が現れて休職を繰り返したり、離職に至ったりすることを減らせる可能性もあります。
特に精神疾患の症状の再発を防ぐのは、仕事を継続するために重要です。リワークプログラムによって自分の心との付き合い方を知るのは長期的に大きなメリットとなるでしょう。
リワークプログラムはどんな人におすすめ?向いている人を解説
リワークプログラムの内容や性質を考慮すると、以下のような人に向いています。
- 同じ職場で働き続けたい
- 心の調子をコントロールする方法を知りたい
- 仕事で重要な知識やスキルを身につけたい
前述のメリットを踏まえつつ、おすすめの理由をそれぞれ解説していきます。
同じ職場で働き続けたい
休職や離職を繰り返している状況にあるものの、実際のところ「同じ職場で働き続けたい」「現状を変えたい」と考えている人には、リワークプログラムはおすすめの選択肢です。
リワークプログラムが目指す職場復帰は、ただ単に職場へ戻って勤務を再開することではありません。休職や離職の根本原因である精神疾患の再発を防ぎつつ、安定したコンディションのまま勤務を継続することが目的です。
また、リワークプログラムは職場復帰を果たしたら終了ではなく、復職後も定期面談や健診といったフォローを受けられるため、ブランクのある人やメンタルヘルスに不安を抱えている人でも安心です。
心の調子をコントロールする方法を知りたい
メンタル面の不調に悩む方の中には、「心の調子を自分でコントロールする方法を知りたい」「ストレスの対処法を学びたい」と考える人もいるでしょう。リワークプログラムでは、セルフケアの方法を専門家から学び、自分自身で心の状態を整える力を身につけられます。
職場復帰後にメンタル不調を再発させないためには、リワークプログラムを通じて学んだストレス対処法を実践するのが重要です。適切なストレス対処法を実践すると、仕事中に気分が不安定になったり体調が悪化したりすることを防いで、安定して働き続けやすくなるでしょう。
仕事で重要な知識やスキルを身につけたい
リワークプログラムでは、実務を想定したトレーニングも行われています。休職によって自信をなくしてしまったスキルについても学べるため、職場復帰のために仕事への自信をつけたい、休職のブランクを解消したいと考えている人にもおすすめです。
例えば、パソコンを使った作業や書類整理のトレーニングに取り組めば、基本的なデスクワークの知識が身につきます。基礎体力・集中力・忍耐力・コミュニケーション能力など、どの仕事でも役立つ汎用的な能力が向上することもポイントです。
就労移行支援や自立訓練(生活訓練)でのリワークをご検討中の方はKaienにご相談ください
リワークプログラムとは、うつ病やパニック障害などの精神疾患で休職している人の職場復帰を支援するプログラムです。実施機関や施設によって種類が分かれているので、種類ごとの特徴や自分の状況を踏まえつつ、最適な選択肢を選ぶ必要があります。
Kaienでは、精神疾患に対して理解ある企業200社以上と連携しているため、弊社ならではの求人紹介が可能です。就労移行支援サービスも充実しているので、気になる人は見学・個別相談会まで一度お越しください。
また、自立訓練(生活訓練)でもリワークを受けている人が多いため、そちらも要チェックです。
監修者コメント
リワークプログラム発祥の地は何と日本です。1997年に「職場復帰援助プログラム」の名で始まりました。リワークプログラムの特徴は、集団への心理教育(psychoeducation)を応用して、うつ病で休職した患者さんの復職を目指すところにあります*1。ここでいう心理教育とは、患者さんが自身の問題をよく理解し、対処ができるようにすることを目指す、いわば養生のコツを教えることを意味します。
日本のリワークプログラムが心理教育中心であるのは、職場復帰の際に同じ会社の同じ部署に戻ることを推奨されていることが挙げられます。休職者の得意分野と部署のニーズのミスマッチがあったために休職した、という考えはあまりなく、休職者がもとの部署で求められる業務をこなすことができるように努めることが求められます。
皮肉な見方をすれば、日本の終身雇用社会で会社の一員として社員が振舞うべき作法を学ぶ場がリワークプログラム、ということもできます。このため、個人が自分のスキルを活かして転職を繰り返すことを良しとする国では、日本型リワークプログラムの普及は見られません。
例としてイングランド銀行のReturn to Work Programmeを見ると、かつて金融業界に勤務した人が子育てや異業種での経験を数年経た後、再び金融業界で働きたいという場合に、12か月の給与付トレーニングを経て再び勤務するというものがありました*2。同じ金融業界に戻っても勤務する銀行・会社が異なったりするところが、日本のリワークプログラムと大きく異なると言えます。
また、障害者の再就労をメインにしている訳ではなく(英国政府にDisability Confident Schemeというあらゆる障害者を対象としたシステムがあるようですが*3)、あらゆる人のライフスタイルに合わせたプログラムになっています。
このように見てみると、リワークプログラムは日本の会社文化に親和性の高いものであることが分かります。今後、日本でも働き方が多様化して、個人がキャリアを形成する志向が強くなった際にリワークプログラムがどう変容するか、期待を含めてウオッチしたいと思います。
*1: Arima H, et al., Resilience building for mood disorders: Theoretical introduction and the achievements of the Re-Work program in Japan, Asian Journal of Psychiatry, Volume 58, 2021 (https://doi.org/10.1016/j.ajp.2021.102580.)
*2: https://www.bankofengland.co.uk/careers/career-returner
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。