適応障害で休職していて「復職したくない」と感じている人のなかには、「復職したくない自分は、なんて怠惰なんだ」と自己嫌悪に陥ってしまっている人もいるかもしれません。しかし、復職したくない・復職が不安だと感じるのは無理もありません。
この記事では、休職中の過ごし方と復職以外の選択肢を解説します。復職する際に利用できるサポートもご紹介しますので、適応障害で休職中の人は参考にしてみてください。
適応障害で復職したくないと感じるのは自然なこと
適応障害で休職中の人のなかには、復職に不安を感じている・復職したくないと感じている人もいるでしょう。
しかし、復職したくないと感じるのは無理もありません。
そもそも適応障害とは、日常生活の中でストレスにさらされると起こる急性のストレス障害をいいます。日常生活の中の出来事にうまく対処できないことが続いて、徐々に心身にさまざまな不調が現れ、支障をきたすようになった状態です。
現れる不調は、不安感や気分の落ち込み、不眠、頭痛など、人それぞれです。これらの症状は適応障害を発症していなくても現れるものですが、適応障害の場合より強い症状が現れます。
ストレスの原因から距離を取れば、徐々にこれらの不調は和らいでいきますが、人によっては抗うつ薬や抗不安薬といった薬を使用したほうが良いケースもあります。
適応障害の場合、ストレスの原因から距離を置いて症状が落ち着いても、再びストレスの原因との距離が近くなると再発するおそれがあります。適応障害になった原因が解決していないところに復職すれば、当然再発しやすくなるので、不安を感じるのも無理はありません。
適応障害で復職したくないと感じる理由4選
復職したくないと感じるのは、必ず理由があるはずです。復職したくない理由は十人十色ですが、まずは復職したくないという気持ちを受け入れてから、なぜ復職したくないのか考えてみましょう。
ここからは、適応障害で復職したくないと感じる理由を4つ紹介します。
仕事ができるか自信がない
適応障害を発症した人のなかには、休職前と同じように仕事ができる自信がない人もいるでしょう。
自分の限界を超える量の仕事を任されて、それが原因で適応障害を発症してしまった人なら「また大量の仕事を抱え込んだら、再発してしまいそうだ」と不安を感じるのも無理はありません。
適応障害になりやすい人は、多くの場合、まじめで責任感が強く、人から頼まれると断れないタイプです。そのため、負担の重い仕事を振られても、無理をしてひとりで背負い込んでしまう人もいるでしょう。
「休職前と同じように仕事ができる自信がないから、復職したくない」という気持ちの裏には、職場の人をがっかりさせたくない・仕事ができない人間だと思われたくないという気持ちもあるかもしれません。
職場で同僚や上司からの目線が心配
職場の同僚や上司からの目線が心配で復職したくない人もいるでしょう。
休職の理由はさまざまですが、メンタルの不調で休職した場合は特に周囲の視線や評価が気になるものです。
相手が腫れ物に触るように接してきたり、自分自身が「また迷惑をかけてしまうのではないか」と不安になってしまったりすることもあるでしょう。さらに職場には、適応障害に理解がない人もいるかもしれません。
同僚や上司と良い関係が築けないと、適応障害の症状が再発するリスクが高まります。復職が不安な場合は、上司に相談しやすい環境が整っているか・産業医やカウンセラーに相談できるかなど、安心して働ける仕組みが整っているかを客観的にチェックしてみましょう。
症状が再発しないか不安
復職しても、症状が再発しないか不安と感じる人は多いかもしれません。適応障害は、人間関係や仕事など日常生活のストレスによって引き起こされるストレス障害です。
職場の環境が変わっていない場合、また同じトラブルが起きて、適応障害が再発・悪化する可能性は少なくありません。
症状の再発が不安な場合は、まず主治医に相談してみましょう。環境を調整して、できるだけストレスの原因から距離を取るのが適応障害の症状の再発防止に効果的と考えられています。しかし、病院で内服薬の相談や治療方針の変更を希望したり、リワークプログラムなどを通してストレス管理方法を学んだりするのも再発防止につながります。
今、不安感や気分の落ち込みなどの症状が落ち着いていても、強いストレスにさらされると症状が再発しやすいのが適応障害です。症状の再発・悪化を防ぐには、医療との連携が欠かせません。
復職に際して症状の再発や悪化に不安を感じているなら、病院を受診する際に素直な気持ちを医師に相談してみましょう。
生活リズムに適応できず体調を崩さないか不安
休職中と在職中の生活リズムが大きく異なる人の場合、生活リズムが急に大きく変わって体調を崩さないか不安になっている人もいます。不眠や生活リズムの崩れなどにより夜型の生活をしていたのに、復職1日目から早朝出勤するとなれば、体にも心にも大きな負担がかかるでしょう。
特に、昼夜が逆転してしまったり、睡眠時間が極端に長くなったりしている場合は、復職した後の生活リズムに適応できるか心配になるでしょう。しかし、休職中は心と体を休めるのが最優先です。在職中と同じ生活リズムでは、心と体が回復しないケースもあります。
復職後の生活リズムに適応できるか不安な人は、まずは時短勤務や勤務時間の調整などの配慮が受けられないか職場へ相談してみるとよいでしょう。
適応障害で休職している時におすすめの過ごし方
ここからは、適応障害で休職しているときにおすすめの過ごし方を解説します。休職後しばらくは、不安感や気分の落ち込み、体の不調が強く、1日1日を終えるだけで精一杯という人もいるでしょう。
適応障害で休職中の際は、心と体を回復させるために下記の過ごし方を心がけてみてください。
- 自分の心身のケアを優先する
- 調子が悪い時は早めに休息を取る
- 病院の医師の指示通りに過ごす
- 早くから復職のことを考えすぎない
それぞれ解説していきます。
自分の心身のケアを優先する
適応障害で休職したら、まずは自分の心身のケアを優先しましょう。「早く復職しなければ」という焦りもあるかもしれませんが、心と体を回復させるのが先決です。
- ストレスからくる不眠でぐっすり眠れていなかった場合、起床時間を決めずに眠りたいだけ眠る
- 忙しくて出かけられていなかった場合、気晴らしに少し遠くに出かけてみる
- 仕事のことが頭から離れない場合、没頭できる趣味を探してみる
など、仕事について考えるのは止めて、自分の心と体を最優先に考えるようにしましょう。自分の心と体が何を欲しているのかじっくり見つめ直すのが大切です。
休職してしばらくは、仕事から離れたからこそ「復職できるだろうか」「治るのだろうか」という不安を感じたり、休職した自分を責める気持ちを感じたりするかもしれません。
気分が晴れないときは、軽く体を動かすのも気晴らしに効果的です。
調子が悪い時は早めに休息を取る
適応障害に限らず、メンタルの不調には波があります。調子が良いときもあれば、調子が悪いときもあります。調子が悪いときは、早めに休息を取りましょう。
調子が悪くなるサインには次のようなものがあります。
- 特定の事柄が頭から離れない
- 眠れない
- わけもなく不安になったり泣きたくなったりする
- 気持ちがそわそわして落ち着かない
- 食欲がわかない
- 早く復職しなければと焦る
- 自己嫌悪に陥る
- 自分を責めてしまう
職場の人から連絡が来たり、ストレスとなる出来事に触れたりするなど、調子が悪くなるきっかけがある場合もありますが、そうでない場合もあります。
適応障害の症状には波があるため、数時間前までは調子が良かったのに急に不安な気持ちになったり、ある事柄が頭から離れなくなったりして体調が一変してしまう日もあります。
調子が悪くなりそうだな、と感じたら早めに休息を取ると症状の悪化を防ぎやすくなるでしょう。
ひとりで落ち着ける場所で過ごしたり、医師から頓服薬が処方されているなら服用したりすると、気持ちが落ち着く場合もあります。
病院の医師の指示通りに過ごす
適応障害と診断を受けた場合、医師から普段の過ごし方のポイントを教えてもらえるケースもあります。
「家でゆっくり過ごしてください」
「家族と過ごすようにしてください」
「薬を指示通りに飲んでください」
上記のような指示を受けたら、その指示通りに過ごしましょう。医師の指示を守って過ごすことが、心と体のケアにもつながります。
もし生活するうえでの不安や困り事があれば、素直に医師に相談しましょう。受診の際に話を切り出すのが難しい場合は、相談したい事柄をメモなどに箇条書きで書き出していくとスムーズに相談できます。
早くから復職のことを考えすぎない
休職してすぐに復職を考えすぎないようにするのも大切です。「早く復職しなければ」と考えると気持ちに焦りが生まれ、症状が悪化する場合もあります。
復職を考え始めるのは、症状が落ち着いて、医師から復職の許可が下りてからでも遅くはありません。
真面目で責任感が強い人ほど「いつまでも休職しているわけにはいかない」と考え、早く適応障害を治そうと頑張り過ぎてしまいます。しかし、適応障害の症状が出ている時というのは、心も体も限界に達してしまい、悲鳴を上げている状態です。
復職について考えないようにするのは難しいかもしれませんが、休職している自分を責めずに、まずはゆっくり過ごして心と体の回復を優先しましょう。
適応障害での休職から復職するおすすめのタイミングとは?
適応障害の程度や症状は個人差があり回復にかかる時間も一人ひとり異なるため、適応障害での休職から復職するタイミングは人それぞれです。
一般的に適応障害は、ストレスとなる物事から上手に距離が取れれば6ヶ月以内に症状が落ち着いてくるといわれていますが、あくまでも目安です。
長期間にわたって強いストレスにさらされていた人の場合、回復までに6ヶ月以上の時間がかかるケースもあります。
復職のタイミングについては、医師や家族と相談しながら決めるようにしましょう。
適応障害での休職から復職したくない場合の選択肢
適応障害で休職していて復職したくない場合には、次のような選択肢があります。
- 休職期間を延長する
- 退職する
適応障害で休職している場合、一般的には数ヶ月以内に復職できるとされています。しかし、しばらく療養しても症状が改善しなかったり、ストレスの原因が無くなっても生きづらさを感じていたりする場合は、適応障害以外の理由が隠れているかもしれません。
場合によっては医療以外のアプローチが効果的な場合もあるため、まずは医療も含めて家族、職場と相談し、対策を考えましょう。
下記の記事では、適応障害で退職する際の流れを解説しています。復職せずに退職を考えている人は、併せてご覧ください。
適応障害で退職する流れとは?後悔しない方法や退職後に受けられる支援制度を紹介
適応障害での休職から復職する際に利用できる制度やサポート
最後に、適応障害での休職から復職する際に利用できる制度やサポートをご紹介します。復職のハードルが高いと感じている人は、これらの制度やサポートを利用すると、心と体への負担を減らしながら復職できる場合があります。
復職に不安を感じている人は、参考にしてみてください。
リワークプログラム(職場復帰支援プログラム)の利用
リワークプログラムとは「職場復帰支援プログラム」とも呼ばれるもので、職場復帰に向けたリハビリテーションを行うプログラムです。リワークプログラムは、医療機関や就労移行支援事業所、地域の障害者職業センターで受けられます。
リワークプログラムでは、決まった時間に施設に通って会社に通う訓練をしたり、仕事に近い内容の作業を行なったりするほか、適応障害について学んだり認知行動療法などを受けたりします。
認知行動療法とは物事の捉え方や考え方のクセを和らげて、気持ちを楽にする精神療法のひとつです。
他にもリワークプログラムの初期に、参加者の交流を深めるためのレクリエーションやゲームが行なう施設もあります。さらにプログラムでは、休職前と同じ状況になったときに再び適応障害を発症しないための対処法も学びます。
参考:国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター「認知行動療法(CBT)とは」
自立訓練(生活訓練)サービスの利用
自立訓練(生活訓練)サービスは、生活リズムや生活習慣を見直し、日常生活を不自由なく送るための訓練を行うサービスです。
Kaienでは「じぶんを再定義し、みらいを再設計する場」として自立訓練(生活訓練)サービスを提供しています。
Kaienの自立訓練(生活訓練)サービスは、4つのプログラムから成っています。
障害の理解
発達障害や精神障害・知的障害などへの理解を深め、自分自身の得意・不得意を見つめ直し、周囲に伝える方法を学びます
自立生活
ひとり暮らしでも、朝起きてから夜寝るまで安定した生活を送れるスキルを身に付けます
進路の選択
自分の将来を再設計するために今考えられる選択肢を知り、判断する方法を学びます
集団生活
地域や職場で遭遇するさまざまな場面を想定し、他の人たちと共に暮らすにあたって大切なことを学びます
Kaienの自立訓練(生活訓練)サービスを受講した方からは
「生活リズムが改善された」
「将来のビジョンが描けた」
「感情のコントロール方法がわかった」
といった声が寄せられています。
サービスの詳細は、以下のリンクからご覧ください。
自立訓練(生活訓練)とは?就労移行支援との違いや併用についても解説
就労移行支援の利用
就労移行支援は、企業への一般就労を目指して作業や実習、適性に合った職場探し、職場定着支援(就労後、その職場で働き続けられるようにするための支援)などを行うサービスです。
施設に通って就労移行支援を受けると、次のようなメリットが得られます。
規則正しい生活習慣が身につく
施設に通って訓練や就職活動を行うので、メリハリのある生活が身につきます
一般就労で働けるアピールになる
就労移行支援施設に通うと、毎日出社して働ける自信が身につきます。就職する際も、通勤・勤務に支障がないとアピールできます
就労後もサポートが受けられる
就労した後も、一定期間、働き続けるためのサポートが受けられます。環境が変わって新しい課題が出てきた際に、専門知識を持った人に相談できます
就労移行支援は、次の条件に当てはまる人が利用できます。
- 一般就労等を希望する18歳以上65歳未満の人
- 精神障害や発達障害、知的障害などの障害がある人 など
詳しい条件は施設ごとに異なるので、利用を希望する施設に問い合わせてみましょう。
適応障害での休職から復職するには専門家のサポートを活用しよう
適応障害で休職した場合、復職したくないと思うのは当たり前です。まずはゆっくり過ごして、心と体の回復に努めましょう。
症状が落ち着いてきて復職する意欲が出てきたら、自分ひとりで何とかしようとせず、専門家のサポートを受けてみませんか?
復職にあたってはリワークプログラムや、自立(生活訓練)サービス、就労移行支援などが利用できます。
Kaienでは、「じぶんを再定義し、みらいを再設計する場」として自立訓練(生活訓練)サービスを提供していますので、興味を持たれた方はお気軽にお問い合わせください。
監修者コメント
適応障害は、最新の新しい診断基準(DSM-5-TR)の訳では「適応反応症」と記されるようにもなりました。診断としての特徴は、症状(抑うつ気分、不安、不眠、心身疲労など)の原因としての明らかなストレスが特定できることです。症状に違いが無いことがあるとはいえ、うつ病では必ずしも何が原因とは言えないことが違いの1つです。従って、治療も、ストレスから離れることが大事になるため、休職そのものが大きな治療的意義を持っています。ストレスから離れられない状況では回復も不十分にしかならず、薬物治療もありますが、あくまでも対症的な一時しのぎと言えるでしょう。ただ、ストレスによる反応だから、原因は職場環境だけかといえば、そこは必ずしもそうではなく、仕事への適性や、ストレスへの対処能力、職場以外の環境といった本人側の要素も影響していることが多くあります。ストレス反応は、環境と個人の特性との相互作用から起きてくるのです。復職への不安がある場合、本記事にあるような自立訓練サービスや就労移行支援を受けることで、自分側の対処手段の獲得や能力向上に繋がることもあるでしょう。回復には病院受診だけでは解決しないこともあり、使える手段は何でも検討しながら自分にとって良い環境、仕事や家庭生活の持続可能性を探って行くのをお勧めします。もちろん、理不尽で過酷な労働条件(セクハラやパワハラを含む)が原因の場合もありますが、その場合は労災の対象ですので、労災への対応はまた別に考える必要がありますね。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。