自分を否定されたり批判されたりすると、誰しもが嫌な気持ちになるでしょう。しかし、そうした気持ちが人一倍強く、仕事や生活にまで支障をきたしてしまう場合、病気や特性が影響している可能性があります。実は回避性パーソナリティ障害はこのような傾向があり、あなたの悩みもその特性が起因しているものかもしれません。
この記事では、回避性パーソナリティ障害の症状が仕事に与える影響や、向いている仕事の種類、働きやすい職場環境を探すポイントなどを解説します。
回避性パーソナリティ障害の症状が仕事に与える影響
回避性パーソナリティ障害とは、失敗することや他人からの拒絶、批判などを恐れるために、それらにつながる可能性がある行動を避ける特徴がある障害のことです。
批判や否定を恐れるあまり他者とのコミュニケーションを避けることが多く、仕事においては自分の意見を伝えることや会議に参加して発言することなど、自分の考えを表に出すことを苦手とする傾向があります。また、周囲からの批判や嫉妬を避けるために、責任のある役職への昇進を拒むケースも珍しくありません。
ちなみに、回避性パーソナリティ障害の原因はまだ明らかになっていませんが、一説によると、先天的な遺伝要因と後天的な環境要因の相互作用が影響しているといわれています。
回避性パーソナリティ障害の方に向いている仕事
回避性パーソナリティ障害の方が仕事を探す場合は、向いている仕事を探すというより「なるべく自分が苦手としていることを避ける」という視点から探すと、無理なく働き続けられる仕事を見つけられる可能性が高まります。
ここでは、回避性パーソナリティ障害の方が苦手とする傾向にある「コミュニケーション」や「イレギュラー」などを比較的回避しやすい仕事と業務内容を紹介していきます。
人との関わりが少ない業務
人とのコミュニケーション自体に不安や恐怖を感じる場合は、人との関わりが少なく、個人で作業することが多い仕事を選ぶとよいでしょう。
職種の例としては、プログラマーやウェブデザイナー、ライターなどがあります。ほかにもデータアナリストや研究者など、データに向き合う仕事も個人で仕事がしやすいです。
ただ、仕様の打ち合わせなどでは、どうしてもコミュニケーションが必要になります。その点に不安を感じる場合は対面は避け、メールやチャットツールなど文字でコミュニケーションを取る方法を活用するとよいでしょう。
ルーティンワーク
イレギュラーな業務や新しい環境が苦手な場合は、ルーティンワークがおすすめです。職業の例としては、工場でのライン作業や清掃員、図書館の司書などがあります。
毎回決まった手順で業務を進めるルーティンワークは、比較的他者とのコミュニケーションも少ない傾向にあります。仕事中に起こりうる出来事も予測しやすいでしょう。
また、仕事内容が人の変化に影響されにくいのも特徴の1つです。属人的な仕事が少ないので、従業員が変わった場合でも仕事に影響を及ぼすことが少なく、落ち着いて働くことができるでしょう。
マニュアルのある仕事
失敗に対して強い恐怖心のある方には、マニュアル完備の仕事だと安心できます。細かなマニュアルが整備された業務では、業務手順を確認しながら進めることができるので失敗のリスクも少ないでしょう。また、判断や決断を求められる場面が少ないので、心理的な負担も軽減されやすくなります。
職種の例としては、データ入力や事務などが挙げられます。最近はデジタルツールの導入と共に、仕事の脱属人化を図るためにマニュアルの整備を進める会社も増えているので、説明会や面接などで聞いてみるのもよいでしょう。
リモートワークやフレックス勤務
他者との関わりを極力避けるという点では、在宅勤務も向いています。リモートワークはオフィスで直接コミュニケーションを取る機会が減るため、他人の視線を気にせずマイペースに仕事を進められる働き方といえるでしょう。また、フレックス勤務は通勤ラッシュを避け、人の少ない時間帯の通勤ができるので、通勤中に人の視線や距離感などを気にすることも少なくなります。
リモートワークやフレックス勤務がしやすい職種には、IT関連やデジタルマーケティング関連の仕事、イラストレーターやグラフィックデザイナーといったクリエイティブ職などがあります。
回避性パーソナリティ障害の方の仕事選びのポイント
回避性パーソナリティ障害の方が仕事を選ぶ際のポイントとしては、失敗や批判につながる恐れがある要素をなるべく減らし、仕事中に感じるストレスを減らすことが大切です。以下に挙げるような基準を例に仕事を選んでみましょう。
- 会議やチーム作業が少ない
個人での作業が多く、会議や営業など対人関係を求められる場面が少ない - プレゼンテーションの機会がない
自分の意見を言う場や他者から注目されることが少ない - 異動や転勤がない
仕事の環境や業務内容の変化が少なく、慣れた環境で長く働きやすい - 実績の競争が少ない
成果や成績を他人と比較されることが少なく、プレッシャーを感じにくい
回避性パーソナリティ障害と発達障害の関係
回避性パーソナリティ障害の症状は、発達障害*の特性と似ていると言われており、見極めが難しい場合があります。しかし、両者はあくまで別の障害で、発達障害が先天性であるのに対して、回避性パーソナリティ障害は後天性であるという大きな違いがあります。
また、発達障害の二次障害として回避性パーソナリティ障害を発症するケースがあります。回避性パーソナリティ障害は、幼少期の褒められた経験の少なさや他者からの否定などにより後天的に発症することがあり、その根本に発達障害による困難や生きづらさが隠れている場合があります。
ちなみに近年では、前述のように回避性パーソナリティ障害が二次障害である場合や、回避性パーソナリティ障害が原因で他の精神障害を発症し、そちらの症状が前面に出る場合もあり、回避性パーソナリティ障害と診断される例は減少傾向にあります。
回避性パーソナリティ障害の方が無理なく働くコツ
回避性パーソナリティ障害の方が無理なく働くには、就労環境という外的要因を整えるほかにも、可能な範囲で治療や自己理解、働き方の見直しといった対応をしていく必要があります。ここでは、主な対処法や意識したいポイントなど、働き方のコツを5つ紹介します。
治療を継続する
回避性パーソナリティ障害の治療をしている場合、一時的に症状が改善したとしても、自己判断で治療をやめると症状が悪化する恐れがあるので危険です。状態が良くなったとしても、今後については必ず主治医に相談しながら対応を決めましょう。
なお、回避性パーソナリティ障害の治療法は、人との対話や訓練などを介して認知や行動に変化をもたらす精神療法が基本です。精神療法は主に以下の4つの治療目標に沿って行われます。
- 苦痛の緩和
- 起きている問題の原因が自分にあると自己理解できる
- 社会的不適応と思われる行動を減らす
- パーソナリティ特性を是正する
自己理解を深める
障害の特性や自分が苦手とすること、快適に過ごせる環境など、自己理解を深めることも大切です。理解を進めていく順序としては、まず障害の特性を知ったうえで、次に個人の特性理解を進めていきます。
自分の特性を理解する主な方法として、自身の特徴をアウトプットする方法があります。自分が回避しがちな状況やストレスに感じること、逆にコミュニケーションの中でもストレスに感じないことなどを書き出していき、自分の傾向を理解していきます。
その他にも、第三者の意見を参考にするために医師や専門機関に相談するといった方法もあります。
職場に合理的配慮を求める
合理的配慮とは、事業主が障害がある方に対して、能力を有効に発揮するために講ずるべき配慮や気遣いのことです。精神疾患や障害のある方に対する合理的配慮としては、出退勤時刻や休憩の頻度などに対する配慮や、可能な範囲における業務内容や就業環境の調整などがあります。
回避性パーソナリティ障害の方が求められる可能性がある配慮の具体例としては、コミュニケーションにチャットツールを使用する、会議やグループワークの機会を減らす、リモートワークやフレックス通勤を認めてもらうなどが考えられます。
障害者雇用を検討する
障害者雇用とは、一般雇用とは別に障害がある方を対象に雇用を行うことです。障害者の雇用の促進等に関する法律に基づいて、一定規模以上の企業は、障害がある方を一定割合以上雇用することが義務付けられています。
障害者雇用のメリットは、障害があることを前提にした就労が可能なことです。あらかじめ業務内容や就労環境、合理的配慮のすり合わせがしやすいので、障害に対する不安や負担を軽減した働き方が叶いやすくなります。
支援機関に相談
障害への対応や自分に合った仕事探しは1人で行おうとせず、専門家から就労や日常生活、障害理解などに対するアドバイスをもらえる支援機関を頼りながら進めることをおすすめします。
支援機関では、相談やカウンセリングだけでなく、専門的なプログラムや職業訓練なども利用可能です。例えば、障害がある方の一般就労を支援する「就労移行支援事業所」では、多くの場合、自己負担額なしで職業訓練やスキルアップ講座の受講、就職支援などが受けられます。
では、実際に利用できる支援機関にはどのような種類があるのか、次項で詳しく見ていきましょう。
回避性パーソナリティ障害の方が利用できる支援機関
回避性パーソナリティ障害の方が利用できる支援機関には、以下のようなものがあります。
- 就労移行支援事業所
障害がある方の一般就労を目標とし、障害理解やスキルアップなどを行うとともに、職業訓練や就活支援、就職後の定着支援など、就労に対する総合的なサポートを行う。 - 地域障害者職業センター
専門的な職業リハビリテーションを提供する。 - 障害者就業・生活支援センター
職業生活における自立を目指すサポートを実施。 - ハローワーク
障害者雇用の求人の提供や、専門知識を持った職員による相談などを行う。
Kaienでも就労移行支援を行っており、過去10年間で約2,000人の就職を達成した実績があります。就職率86%、月給は3人に1人が20万円以上と高い水準にあり、最長3年半という長い職場定着支援を受けられるのも特徴です。
Kaienでは無料で見学会や体験利用を実施していますので、お気軽にご連絡ください。
向いている仕事探しは支援機関を頼ろう
回避性パーソナリティ障害は、苦手とすることを回避するという特性上、向いている仕事を探すためには自己理解から始める必要があります。自身の障害特性を見つめ直し、適職を見つけるためにも、支援機関を有効活用しましょう。自分に合う支援機関を選び、無理なく働ける仕事や職場探しに役立ててください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます