「仕事を教えてもらってもすぐに忘れてしまう」「同じようなミスを繰り返してしまう」など、仕事がなかなか覚えられないことに悩んでいる方もいるでしょう。仕事を覚えられないと自身の評価が下がるほか、上司に叱責される、自己肯定感が下がるなど心身の負担にもつながりかねません。
いくら努力をしても業務に支障が出るほど仕事が覚えられない場合、その原因に発達障害*が隠れている可能性があります。この記事では、仕事が覚えられない原因や発達障害の特性に応じた対処法などを解説します。働きやすさを改善するためのポイントも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
仕事が覚えられないのは発達障害が原因?
「仕事が覚えられない」と一言でいっても、原因はさまざまです。そもそも本人にやる気がない場合や、仕事を教える側の上司に問題があるケースも少なくありません。
しかし本人に仕事を覚えたいという意志があり、何度か仕事を変えているにも関わらず業務に支障が出てしまうほど毎回仕事が覚えられない場合、発達障害の特性が影響している可能性があります。
発達障害で仕事が覚えられない理由
発達障害の方の場合、生まれつきの脳機能のかたよりにより、さまざまな特性が見られます。特性が仕事に対して良い方向に作用する場合もあれば、仕事が覚えられないといったようにマイナスに作用してしまうこともあるでしょう。
大人の発達障害として主に挙げられるのは以下の3つです。
- ASD(自閉スペクトラム症)
- ADHD(注意欠如多動症)
- SLD(限局性学習症)
それぞれの特徴については以下で詳しく説明しているので、併せて参照ください。
大人の発達障害(神経発達症)とは?種類と症状、診断方法や相談先を解説
ここからは、発達障害の方が仕事を覚えられない理由を、特性の例を交えて説明していきます。
覚えてもうっかり忘れてしまう
仕事を教えてもらってもうっかり忘れてしまうという方は、ADHDの特性が関係しているかもしれません。ADHDの方は、うっかりの度合いが大きく、頻度も高い傾向があります。
これは、作業や情報を一時的に記憶するための能力であるワーキングメモリが弱いという特性が影響して起こります。
こだわりが強く自己流で進めてしまう
ASDの特徴の1つにこだわりの強さがあります。こだわりが強い方の場合、仕事を覚えられないのではなく、自分のルーティンやルールに従って仕事を進めてしまうケースが多いです。そのため、こだわりの薄い分野は疎かになってしまったり、業務の手順などが誤っていると指摘を受けても指示に従わなかったりするなど、業務に支障が出てしまう場合があります。
説明など違った解釈をしてしまう
上司などから業務に関する説明を受けた際に、異なった解釈をしてしまうのはASDの特徴が影響しています。ASDの方は全体を把握する能力である中枢性統合が弱い傾向があり、指示の理解や意図を読み取ることが苦手です。
また、心の理論の欠如により、相手の表情やしぐさから真意を読み取ることが困難なため、曖昧な指示を出されて場合に違った解釈をしてしまうことも多く見られます。こうした解釈違いが原因で、同僚や上司に「仕事が覚えられない」と評価されてしまうケースも少なくありません。
同時にいくつも覚えられない
複数の作業を一緒に行うマルチタスクが苦手で、並行した作業をする際にミスが増えてしまう方がいます。これは先に挙げた中枢性統合や、順序立てた行動をとるために必要な実行機能の弱さ、処理速度の遅さなどの特性が影響しているためです。この特性はADHDの方に多く見られます。
マニュアルを読むのが難しい
複雑なマニュアルなどに沿って仕事を進める際になかなか仕事が覚えられない場合は、そもそも文字を読むことが困難であるケースがあります。これはSLDの特徴であるディスレクシアによるもので、文字を読めない以外に読めても内容がわからない、文章を読むと疲れてしまうなどの症状も見られます。
発達障害で仕事が覚えられないときの対処法
前述の通り、発達障害の影響で仕事が覚えられないといっても、理由は特性により異なります。ここからは、発達障害の特性に応じた対処法の一例を紹介します。
ASD(自閉スペクトラム症)の方の場合
ASDの方でこだわりや独自の解釈により指示からズレてしまい、仕事がスムーズに進められない場合は、正しい手順をメモに取り復唱しながら行うことを意識しましょう。メモを見て声を出すことで受信力も高まり、指示通りに仕事を進めやすくなります。
どうしても自己流のやり方で仕事を進めたい場合は、職場に自身の特性を相談し、作業手順の変更などの配慮を求めるのも1つの方法です。ただし、基本的には会社のやり方を踏襲し、自己判断で勝手に作業を進めてはいけないことに留意しましょう。
ADHD(注意欠如多動症)の方の場合
うっかりミスや抜け漏れが多い方の場合、まずは自分がどこでミスをしやすいのかを把握し、対策をとることが大切です。読み間違いが多い場合は文字を指でなぞって確認する、ミスの多い箇所のマニュアルを作成してチェックしながら作業するなど、工夫してみましょう。マニュアルの作成や作業の確認をする際は、上司にもチェックしてもらうと安心です。
マルチタスクが苦手な場合は、まずシングルタスクに落とし込み、締め切り順にこなしていくと確実です。その際、やるべきことを付箋などに書いて見えるところに貼っておくと、忘れずに管理しやすくなります。締め切りを覚えられない場合には、アラームやリマインド機能といったツールの活用がおすすめです。
SLD(限局性学習症)の方の場合
マニュアルなど文字を読んで仕事を進めるのが難しい場合は、読み上げ機能などを使って文字を読まずに仕事の内容を覚えるようにしましょう。文字は読めるけど時間がかかってしまう方には、色付きシートのリーディングルーラーがおすすめです。不要な光の波長を遮断して読み飛ばしなどが防げるので、読字力向上につながります。
集中して文章が読めない場合は、ホワイトノイズを流して集中力を高める方法も効果的です。
発達障害の方が仕事を覚えるためにできること
発達障害の方が仕事を覚えるためには、自分一人だけでなんとかしようとせずに、周囲に相談したり配慮を求めたりすることも大切です。特性に合わせた対策を講じることと併せて、以下の方法も試してみましょう。
- 医療機関を受診
- 自分の得意不得意を整理
- 会社の上司などに相談
- 働き方の見直し
- 支援機関の利用を検討
次項で詳しい内容について、それぞれ解説していきます。
医療機関を受診
仕事が覚えられない原因が発達障害にあるのか知るためにも、まずは医療機関を受診することをおすすめします。中には発達障害が原因でうつ病などの二次障害を発症している場合や、適応障害などで受診をしたら根本原因に発達障害が関係していたことがわかるなど、医療機関の受診により症状理解が深まるケースも少なくありません。
また、医師や心理士など専門知識を有する第三者からの客観的なアドバイスも参考になるため、仕事に関する悩みがある場合は相談してみると良いでしょう。
自分の得意不得意を整理
仕事をなかなか覚えられない場合は、苦手なことや不得意な分野を整理するだけでなく、自分の得意なことを知ることも打開策につながります。苦手なことがわかっていれば対策もとりやすく、職場にどんな配慮を求めたら良いか明確になります。また、得意分野を知ることで活かせる能力や適職が見えてくるため、将来設計にも役立つでしょう。
こうした得意不得意を整理するには、自己理解が欠かせません。紙に得意不得意を書き出す、家族や医師、カウンセラーなど第三者に意見をもらうなど、自己理解は客観的な視点を持つことも大切です。
会社の上司などに相談
自分の障害特性や仕事上の困りごとなどを、上司など会社の人に相談しておくのも1つの手段です。現在は障害の特性に関する困りごとがある方へ、事業者は合理的配慮の提供が義務化されています。「業務指示を口頭から書面にしてもらう」「ボイスレコーダーの使用許可をもらう」など、会社に無理のない範囲で具体的に配慮してほしいことや理由を伝えると、上司からの理解も得やすくなるでしょう。
働き方の見直し
現在の働き方に負担がある場合は、働き方の見直しを検討するのも良いかもしれません。職場で集中力が続かない場合は、リモートワークに切り替えられないか相談してみましょう。
障害者手帳を取得している方は、転職して障害者雇用として働くことも可能です。障害者雇用の場合は、障害のある方の採用を前提としているため、特性に対する配慮や理解を得やすいメリットもあります。
無理して働き続けると二次障害などのリスクも高まるため、自分に合う働き方にシフトすることも大切です。
支援機関の利用を検討
就労に関する悩みがある方や転職を迷っている方は、支援機関を頼るのも有効です。発達障害などの障害がある方向けに、転職や就職をサポートしてくれる福祉サービスはたくさんあります。いずれも専門のスタッフが対応してくれるので、一人で悩まずに次で挙げる支援機関を有効活用しましょう。
発達障害の方の仕事の悩みに寄り添う支援機関
発達障害の方が仕事に関する相談ができる主な支援機関には、以下のようなものがあります。
就労移行支援所
障害のある方の一般就労を目指してトータルサポートを行う。職業訓練や就活支援、定着支援などを通し、一貫した支援が受けられるのが特徴。
ハローワーク
障害の有無を問わず誰でも利用できるが、障害者雇用求人の紹介や障害に関する専門知識を有する職員が就職相談や就職支援を行ってくれる。
地域障害者職業センター
専門的な職業リハビリテーションを実施し、就職相談や職場復帰支援を実施。ハローワークとも密接に連携している。
障害者就業・生活支援センター
就職活動に関するサポートや職場実習のあっせんなどを行う。就職後の職場定着支援が手厚いのも特徴。
Kaienでも精神医学や発達心理学に基づいた就労支援を実施しています。就労移行支援では、100職種以上の職業訓練やスキルアップ講座などを通し、就労に必要なスキルを習得します。独自求人を含む求人の多さも特徴で、担当カウンセラーが二人三脚で行う手厚い就活支援や就職後の定着支援もKaienの強みです。
仕事が覚えられずに悩んでおり、一度将来を見直したい方や、働くことに自信が持てない方にはKaienの自立訓練(生活訓練)がおすすめです。障害特性や自身の得意不得意を見つめ直したり、生活リズムを整えたりするための実戦的なプログラムを通し、自立への一歩が踏み出せます。
いずれも無料で見学会や体験利用を行っておりますので、興味のある方はお気軽にご連絡ください。
発達障害があっても工夫次第で仕事は覚えられる
仕事が覚えられない原因はさまざまですが、何度も業務に支障が出るような失敗を繰り返してしまう場合は発達障害の特性が影響している可能性があります。しかし、医療機関の受診や自己理解を通して特性に合わせた対処法を行えば、業務内容を覚えて仕事をこなすことは十分可能です。
発達障害の方向けの支援機関を活用し、働き方などを工夫しながら仕事をしやすい環境を整えていきましょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます