近年では著名人の適応障害が報道される機会も増えており、適応障害という言葉を知っている方も多いのではないでしょうか。適応障害を発症した場合は、ストレス要因から離れて休養することが重要です。
本記事では適応障害の症状や治療方法、回復期の特徴と回復のプロセス、就職・復職を目指す際のポイントなどを解説します。適応障害の方が利用できる支援機関についても紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
適応障害とは?
適応障害は環境によるストレスが原因で、心身に不調が出て、日常生活や社会生活に支障をきたすものです。ストレス要因の代表例としては以下が挙げられます。
- 職場の人間関係が悪い
- 長時間労働
- 失業や転勤など仕事上の大きな変化
- 出産、離婚など日常生活の大きな変化
こうしたストレス要因によって、心身に次のような症状が現れる場合があります。
- 抑うつ気分:気分の落ち込み、意欲低下、涙もろさ
- 不安症状:動悸、焦燥感、神経過敏、怒り
- 身体症状:頭痛、倦怠感、腹痛、不眠
適応障害はうつ病と似ていますが、ストレス要因が明確な点が特徴です。アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)では、適応障害はストレス因子の発生から3ヶ月以内に発症し、ストレス因子が解消された後、6ヶ月以内に改善されると定義されています。
適応障害の治療とは?どのように回復する?
適応障害の治療法は、休養とストレス因子になっている環境の改善が基本となります。休暇や休職によって、ストレス源から一時的に距離を置き、心身を十分に休ませることが大切です。また、配置転換や転職などで環境を変えることで、適応障害の症状が和らぐ場合も少なくありません。
症状によっては、抗うつ薬や抗不安薬などが処方され、カウンセリング(心理療法)も行われます。ただし、適応障害の場合、外部環境が主な原因であるため、治療においては環境を変えることが重要です。
適応障害の回復期とは?
適応障害からの回復は、大きく分けて次の3つの過程をたどることが一般的です。
- 急性期:適応障害の症状が強く表れており、ストレス因子からいったん離れることを優先する段階
- 回復期:徐々に心身が安定し、体調を整えることが優先される段階
- 調整期:生活リズムを整え、社会復帰に備える段階
適応障害の回復期は、通常、ストレス因子からいったん離れたことで症状が落ち着いたタイミングで訪れます。一般的な病気の回復過程における、自宅静養中の段階といえるでしょう。
適応障害の回復までの過程
ここからは、先に紹介した急性期、回復期、調整期でどのような症状があるのか、また症状を回復させるためにどのような過ごし方をしたら良いのか解説します。
ただし、この3つの時期は明確に区別できるとは限らず、自己判断がむずかしい場合も少なくありません。必要に応じて、医療機関や専門知識を持ったスタッフがいる支援機関に相談することをおすすめします。
急性期の特徴
急性期は、強いストレス反応により心身が著しく弱っている段階です。心と体のエネルギーレベルが極端に低下しているため、十分な休養が必要です。慢性的な疲労や無気力、起床困難などのため、自分の意志とは無関係に休養せざるを得ない場合もあるでしょう。
症状が強い場合は、医師の診察を受け、回復に必要なサポートを得ることが推奨されます。診断の結果として、必要であれば休職を含む休養が勧められる場合もあります。
急性期に適した過ごし方としては、まずストレス源から離れることが肝心です。この際、会社との連絡や、SNSやニュースなど外部情報を最小限にするのも良い方法です。このように心身の安全性を確保したうえで、何もしない時間や好きなことをする時間を設けて、心身の休養を図ります。
回復期の特徴
回復期は、心身が安定し始め、少しずつ活動を再開できる段階です。回復期では、ストレッチや散歩など、軽い運動から始めるのが、体力を取り戻していくのに効果的です。しかし、疲れやすい状態ですので、翌日に疲労を残さない活動量を目安にするとよいでしょう。
メンタル面では、趣味やリラックスできる活動を中心に、ポジティブな気持ちで日々を過ごすことがポイントです。例えば、好きな音楽を聴く、好きな本をゆったりと読む、など自分に合った方法をみつけていきましょう。
調整期・復職準備期の特徴
調整期・復職準備期は、適応障害からの回復を定着させ、生活リズムを整える段階です。この段階で、再発を防止するための生活習慣や対処法を身につけ、復職に向けた準備を進めます。
具体的には、規則正しい睡眠や、栄養バランスの良い食事、適度な運動を日常に取り入れ、社会復帰の準備を進めます。復職先に対して業務内容や業務時間などのストレス因子の改善を依頼するのも、適応障害の再発リスクを下げる方法として有効です。
また、ストレスに対する考え方を柔軟にすることで、ネガティブ思考を避ける練習も並行して行います。例えば、過度な自己批判を減らしたり、価値観にそぐわない会社の方針に無理に合わせることをやめたりすると、ストレス耐性が高まる場合があります。
適応障害から就職・復職を目指す際のポイント
ここからは、適応障害から復職を目指す際のポイントについて解説します。
ストレスへの原因や対処法を探る
適応障害の大きな特徴は、明確なストレス要因があることです。離職や治療で状態が回復しても、同じストレスに再び直面すれば再発リスクが高まります。だからこそ、自身のストレス要因の理解は、適切なストレス対処法を見つけ、長期的な回復につなげるためにとても大切です。
自己分析の方法としては、自分がどのような状況でストレスを感じたか振り返り、紙に書き出して整理する方法が効果的です。これにより、自分が特に負担を感じやすい状況や、自分の性格や特性がストレスとどう関係しているのかをみつけやすくなるでしょう。
生活リズムを整える
生活リズムを整えることは、心身の健康を維持し、適応障害から回復するために欠かせません。就職・復職後に健康な状態を維持し、再発のリスクを低くするためには、生活リズムが整っていることが、まずクリアすべき条件です。
生活リズムを整える基本的な取り組みとして、以下が挙げられます。
- 毎朝同じ時間に起床する
- 適度な運動を取り入れる
- 食事の時間を決める
こうした準備を自力でするのが困難な場合は、医師や臨床心理士、精神保健福祉士などの専門家からサポートやアドバイスを受けるとよいでしょう。
また、福祉サービスの一つである自立訓練(生活訓練)を利用する方法もあります。自立訓練(生活訓練)では、障害をお持ちの方のために、睡眠や食事の管理、運動習慣の形成など、日常生活に必要なスキルを身につけるカリキュラムやサポートが提供されています。
リワークや就労移行支援を利用する
心身がある程度回復し、職場復帰や就職を視野に入れ始めた段階の人が就職・復職するために効果的な方法が、リワークや就労移行支援の利用です。一人での復職・就職活動は心身に負担がかかりやすいため、サポートを受けることも検討してみるとよいでしょう。
リワークとは、職場復帰支援とも呼ばれ、主に精神疾患で休職した方の復職を目指す支援です。公的なものとしては地域障害者職業センターが提供する「職リハリワーク」があります。また、民間企業からもリワークプログラムが提供されています。
また、就労移行支援は適応障害や発達障害*などの障害をお持ちの方が、一般就労を目指す際に利用できる福祉サービスです。ITスキルやオフィスワークなど、実務に役立つスキルを身につける職業訓練が提供されています。また、適職をみつけるためのカウンセリングや求人紹介、面接対策といった総合的な就活サポート、さらには就職後の定着支援を実施しています。
適応障害の回復期は無理せずゆっくり進めよう
適応障害は職場の人間関係や配置転換など、大きな環境変化によって誰にでも起こり得る病気です。心身に不調が現れた場合には、無理せず休養をとり、医療機関に相談することをおすすめします。
Kaienでは、リワークとして活用できる自立訓練(生活訓練)を提供しています。適応障害に関する専門的な知識を持つスタッフのサポートのもと、自己理解や生活リズムの改善など、できることから徐々に始められます。
また、適応障害によって離職し、再就職を目指している方は、障害をお持ちの方を対象にしたKaienの就労移行支援がおすすめです。Kaienは適応障害や発達障害、不安障害などの精神障害や知的障害を持つ方への支援に強みを持っています。特性に合った適職探しや苦手分野の対処方法を学ぶカリキュラムなどを通じて、適応障害の再発リスクが低い就職を支援します。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。