訓練で身につけた自己分析や、取得した資格が自信に!仕事を続けて、フルタイムを目指す

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▪年齢:20代半ば
▪診断名:自閉症スペクトラム
▪仕事における苦手なこと
:突発的な出来事への対応、マルチタスク
▪就職先:事務職(障害枠)


人間関係で感じた周りとの小さなズレ

―――幼い頃はどんなお子さんでしたか?

頑固だったと言われます。こだわりも強く、思い通りにならないとふくれっ面になっていたようです。例えば、レストランを決める際に「ここ以外は嫌だ」と強くわがままを言っていました。

また、興味の範囲が広く、キャラクターや場所、料理などさまざまな好きなものにこだわっていました。

―――周囲と自分が違うと感じたことはありますか?

幼少期の頃はまったく自覚がありませんでした。今考えると、その頃から学校外の個別教室に通っていたため、人とは違う点があったのだと理解しています。

学力面では問題はありませんでしたが、友達付き合いや発言で少し浮きがちだったと思います。会話が噛み合わなかったり、人と感じ方が違ったりなど、少し周りとズレていました。

―――診断名と特性を教えてください。

診断名は、自閉症スペクトラムです。突発的な出来事に動揺しやすく、とても弱い特性があります。楽しみにしていたスケジュールが急遽変更になったり、他人の都合で自分に影響を与えられたりすると、気分が良くありません。

私は基本的に、決めたことが決まった通りに動くことが好きな人間です。そのため、不測の事態に対応することを強いられると、不愉快になります。実際に声を荒げたこともあります。

また、スピード感が求められるマルチタスクが苦手です。逆に1つのことに集中して取り組むことはできるので、一つひとつ着実に進めるという方法が自分には合っています。

―――Kaienにつながる前は何をされていましたか?

CG(コンピュータ・グラフィックス)を学びたくて専門学校に入りましたが、課題の量に付いていくことができず中退しました。1ヶ月療養し、その後スーパーの青果で4年間アルバイトをしました。環境が良かったので不愉快に思うこともなく、社員さんやパートさんにも恵まれたのだと感じていました。

仕事のやりがいや自分なりの貢献の仕方を知れた

―――Kaienで訓練をはじめようと思ったきっかけを教えてください。

スーパーのアルバイトでは、昇給や正社員登用などのキャリアアップが望めないとわかったことがきっかけです。就労日数や時間を増やしたいという要望も通りませんでした。

「今後の人生でアルバイトをしているだけでいいのか」と考えていた矢先、両親がKaienを勧めてくれました。両立は困難だったため、アルバイトは辞めてKaienに集中することにしたのです。

また、自分の適性能力に合った環境を探すために、それ相応のスキルを身につけたいと思いました。それがKaienに入った一因です。

―――職業訓練ではどんなことをしていましたか?

週替(しゅうがわり)コースに10ヵ月ほど所属していました。データ入力や、グループワークなど、実務を想定した訓練が行えます。中には、営業を想定した訓練や、セミナーを立案・設営してみるプログラムもありました。様々な職種を想定したデモンストレーションを行える良い機会だったと考えています。

―――週替のプログラムで特に印象に残っていることを教えてください。

営業ゲームが印象に残っています。実際の営業を想定して、それぞれの企業の購買担当と営業担当に分かれてロールプレイを行いました。利益を出せるように、メールでの宣伝や取引を行い、動いたお金を計算しました。

これまで2回行って1位にはなれませんでしたが、チームの中では満足できる働きができたと思っています。

―――週替の業務ではリーダーの経験をされたと伺っています。上手くいったことや難しかったことは何かありますか?

リーダーと言っても、リーダーシップを発揮するタイプではありません。それぞれの意思疎通やフォロー、進捗管理を行っていました。その上で、まとめ役としての仕事はきちんとできたと思います。メンバーの成果が集まって、営業ゲームの時のような大きな仕事をこなせた時は楽しかったです。

難しかったことは、統括が得意ではないため連携がしっかり取れず、スタンドプレーになってしまったことです。また、チームメンバーの仕事の進捗を把握できていない場面もありました。

視野がそこまで広くないので、リーダー業務が得意ではないと思っていますが、自分なりにできることはやれたと思います。

訓練を通して身につけた自己分析や、取得した資格が自信に

(Tさんの好きなお店の「船盛り海鮮丼」)

―――訓練を通して学んだこと、今後の役に立つスキルを教えてください。

全部で3つあります。1つ目は自己分析です。自分の特性や欠点、得意なことなど、自分なりに把握することができました。働く上では人と協力することや、効率をよくするために人を頼ることが必要ですが、自分が力になれること、逆に人に任せた方がいいことのラインが理解できたと思います。

2つ目は「マイクロソフト オフィス スペシャリスト(MOS)」の資格を取得したことです。エキスパート資格を取ったことで、パソコンを人並みに扱えて、Excelは仕事ができるレベルになれたと自信になりました。

3つ目はさまざまな訓練を行う中で、学んだことをノートに書いたことで「やるべきことをやれた」という自信がついたことです。自分の強みを新たに知ったり、伸ばしたりするのに有効な方法だと思います。

また、仕事のデモンストレーションを行うことによって、苦手意識を減らすこともできました。社会人としての立ち振る舞いや、就活で求められること、責任やキャリアプランの立て方なども理解できました。

―――苦手なことには、どのように向き合ってきましたか?

ほどほどに逃げさせていただきました(笑)わからないことがあったときに意地を張ると大抵失敗するので、分からないことは人に聞いて頼っています。

ただ、自分がやるべきことに関しては、確実に終わらせることを意識して取り組んでいます。

―――訓練を通して自分が変わったと思ったことを教えてください。

自己分析を通して、どこまでが自分の障害で、どこからが培ってきた性格なのか、論理的に把握できました。また、昔よりは自分の感情に折り合いがつけられるようになりました。

他人を気遣ったり、視野を広げたりすることもできるようになったと思います。不測の事態に極端な反応をしたり、嫌なことがあったときに露骨に不快感を出したりすることも減りました。

その上で資格を取ったり、内定のための努力を続けたりしたことで、自信を積み上げることができました。

この機会を無駄にはしない。いずれはフルタイムから正社員に

―――どういった業種・業界を目指しましたか?

事務職を目指していました。業界よりもその会社の環境や行動指針、自分の能力を活かせる環境かどうかを重視していました。

―――就活で苦労したことを教えてください。

全部で10社くらいの会社を受けたのですが、書類選考で落とされ続けたことが一番辛かったです。面接の訓練を何度も受けていたため、面接に進むことすらできないことが、精神的に応えました。

また、その会社が何を求めているのか、初めのうちはあまり把握できませんでした。就活を進めていくうちに、「合う」「合わない」の判断はできるようになりましたが、1人ではできなかったと思います。

―――面接に対する苦手意識はありましたか?

たくさん訓練を受けたので、面接への苦手意識は減りましたが、とても緊張します。間違った伝わり方をしないか考えすぎて、話し方が硬直したり言葉遣いを間違ったりしてしまうこともありました。

対策として、面接を想定した台本の通りに読むのではなく、要点を踏まえてアドリブを混ぜて話すことを意識しました。台本通りに読むと、棒読みになってしまいます。面接もコミュニケーションのやり取りなので、相手が自分をどう思うのかを意識して話すことが必要だと学びました。

―――就活を終えて新しい環境に進む、今の率直な気持ちを教えてください。

環境に適応できるか不安です。最初は試用期間として1日5〜6時間働いて、可能であれば就労時間を延ばすことになります。

「ここがいい」と思って決めた職場なので、この機会を無駄にしたくありません。どうしても合わない場合は離れますが、磨いてきた能力を活かしたいです。

また、無職の期間が長かったので、家族に心配をかけなくていいのは良かったです。両親も若くはないので、安定して働くことで楽をさせてあげたいと思っています。

―――今後の目標や展望を教えてください。

今回就職した場所で仕事を続けて、いずれはフルタイムで働けるようになりたいです。さらに、求人に正社員登用のことも書かれていたので、正社員になれるように努力していきたいです。

また、そろそろ健康に気をつけた方がいい年齢になってくるので、適度な運動・栄養・睡眠を心がけたいと考えています。

高校時代の友達と再会したときに、胸を張れる自分でいられるように、自分磨きを続けていきたいです。

付録 〜Tさんのこと〜

(「うちの犬の写真です」とご紹介いただきました)

犬を飼っていて、時間があるときは撫でたり、じゃれたりしています。

また、文章を書いたり絵を描いたり等、ささやかな創作活動もしています。作業をしているとあっという間に時間が過ぎることもあり、自分にとってのストレス解消方法です。作ったものが形になると達成感もあるし、楽しさも感じられます。

また、自堕落で自己管理が甘くなるとストレスが蓄積するため、現在は週6で運動することが習慣になっています。

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