ポイントは「少しずつ」。口頭指示の理解やマルチタスクが苦手なSさんが見つけた対策

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▪年齢:20代前半
▪診断名:ASD
▪仕事における苦手なこと:口頭での指示理解、マルチタスク
▪就職した職種:事務職(障害枠)


口頭での指示の理解やマルチタスクが苦手

―――幼い頃はどんなお子さんでしたか?

ミニカーやテレビゲームが好きで、ショッピングセンターなどに置いてあるゲームでもよく遊んでいました。今でも出かけた先にゲームが置いてあれば1回試しにプレイするほど、ゲーム全般が好きです。

興味のある物事に熱中しやすい一方で、さまざまなことに好奇心を持つ性格でもありました。

―――診断名と苦手なことを教えてください。

診断名はASDで、初めて診断を受けたのは大学生のころでした。

苦手なことは、口頭での指示や説明の理解です。一方的に長時間話をされると内容を把握するのが難しく、小学生の頃から周りの生徒よりも授業の内容を理解できていないと感じていました。

中でも、体育の授業は特に苦手でした。座学なら教科書を読んだりノートを取ったりしてカバーできますが、体育では口頭での指示しかありません。指示の理解に苦戦して授業についていけず、体育の先生との関係が悪くなってしまったこともありました。

またマルチタスクも苦手で、作業に慣れるまでに時間がかかってしまいます。医師の話では、頭の中に知識はあるものの実際に行動に移す際に困難があるということでした。

―――Kaienにつながる前はどんなことをしていましたか?

中学生の頃に親が入院したことをきっかけに医療の道に進みたいと思うようになり、高校卒業後は大学の看護学科に通っていました。しかし授業についていくのが難しく、徹夜で勉強をするなどの無理がたたって2年生の頃に体調を崩し、中途退学しました。

その後発達障害支援センターに行って職業訓練や就労移行支援を案内してもらい、手続きを進めました。手続きが完了するまでに数ヶ月かかったため、その期間は体調回復やメンタルケアに努めました。

また、授業の形式で知識を吸収するのは得意ではありませんが、自学自習は得意です。どのような道を目指したいかはまだ決まっていなかったものの、何か学びたかったので、簿記などの資格勉強も始めました。

Kaienでの訓練を経て苦手に対する対策を見つける

(Sさんお気に入りのカフェのパンケーキ)

―――Kaienで訓練を始めようと思ったきっかけを教えてください。

大学中退後は早く就職したい気持ちが強く、就労移行支援を受けようと決めました。見学に行ったのはKaienだけでしたが、スタッフとの相性の良さを感じたためKaienで訓練を始めることにしました。

―――訓練では主にどんなことをしましたか?

主に受けていた訓練は、企業の事務を想定した業務を1週間ごとに行う「週替り業務」です。入所した当初は個人での作業が多かったものの、2ヶ月目からは複数人で話し合ってPowerPointの資料を作成するグループワークも行いました。

メンバーの意見が一度で理解できないなど困難なこともありましたが、協力して最後まで業務に取り組めたため良い経験になりました。

ExcelやPowerPointなどのソフトは学生の頃にも少し使っていましたが、訓練を通して効率的な操作方法が身につき、今まで知らなかった使い方を知ることもできました。

―――訓練を通して学んだことはありますか?

訓練を通して、苦手に対する対策を2つ学びました。

1つ目は口頭の指示理解への対策で、指示がわからなければ「もう一度お願いします」と率直に伝えることです。訓練中も何度か繰り返し説明を聞けば少しずつ理解できるようになったため、素直にお願いすることが一番の対策だと感じました。

2つ目はマルチタスクへの対策で、最初からすべての業務を同時に行うのではなく一つひとつ取り組んでいくことです。まず1つの業務から始めて、ある程度慣れてきたらほかの業務にチャレンジすることを繰り返せば、最終的に複数の業務をこなせるようになると学びました。

―――訓練開始前に比べてご自身が変わったと思うことはありますか?

学生の頃は学歴へのこだわりがあり、「大学を卒業しなければならない」と考えていました。しかしKaienで講師やグループワークのメンバーなどさまざまな人と関わり、コミュニケーションを取って一緒に課題を達成するという成功体験を積めました。

資格取得の勉強をするなど、学校での勉強以外にも知識やスキルを磨く手段はあります。訓練を通して、自分にとって本当に必要なものは学歴ではないのではないかと考えが変わりました。

面接対策は徹底的な自己分析が鍵

―――訓練開始からどのくらいで就活を始めましたか?

入所してから3週間目ほどで企業説明会に参加し始め、2ヶ月後からは企業実習にも参加しました。選考を受けた会社の数は、合計で14社ほどです。

―――就活の軸は何でしたか?

経理関係の職種に絞って選考を受けていました。訓練や企業実習でも伝票入力などの正確性が高いとフィードバックをいただいていましたし、独学で簿記の勉強もしていたので、適正や資格を活かせる職に就きたいと考えました。

簿記の勉強には参考書や解説動画を活用し、2級まで取得しました。就職した職場が外資系ということもあり、現在はTOEICの勉強を頑張っています。

―――就活で苦労したことはありますか?

面接の対策に苦労しました。

面接の練習をしたり事前に参考書を読んだりして、どのような質問をされやすいのか予習をしていたものの、いざ本番になると、自分が本当に伝えたい内容を話せていないように感じました。

―――就活の際にしておいて良かった対策を教えてください。

自己分析が一番大切だと思います。深く自己分析すればするほど自分のことを案外わかっていなかったと気づき、面接で本当にアピールしたい部分を絞り込めました。

今振り返ると、面接を受け始めてすぐの頃は自分を取り繕っていたように思います。就活が後半に差し掛かる頃には自己分析が深まり、自分の伝えたいことを率直に話せるようになりました。

初めての職場でも「意外と順応できる」

(日帰り旅行やハイキングもSさんの趣味)

―――現在の職場での仕事内容を教えてください。

現在は外資系のIT企業で事務職に就いています。Excelを使用した伝票入力などが主な業務です。

入社してから4ヶ月経ち、仕事にも慣れてきました。就職した当初はフルタイムで働くことに対して大変なイメージもありましたが、意外と順応できるものだと感じています。

職場では、1つの業務が完了した後に作業内容を振り返って復習しています。その時間で業務を一つひとつ定着させられるため、マルチタスクが苦手な僕でも複数の業務をこなしやすい環境です。

―――今後の目標や挑戦したいことはありますか?

職場においては、リーダーポジションの仕事をやってみたいです。

現在の職場には複数の拠点があり、拠点ごとにリーダーが伝票を管理しています。自分も指示を受けて業務をこなすだけでなく、拠点の業務の管理や指示出しなど、より責任ある仕事を任されるようになりたいと思います。

また、プライベートでは英語の勉強に力を入れており、まずはTOEIC700点、それから「全国通訳案内士」という海外からの観光客に日本の観光名所を案内する資格の取得を目標としています。

現在のTOEIC最高得点が695点なので、来年には全国通訳案内士試験に挑戦したいと思っています。

付録  ~Sさんのこと~

(「出かけた先でたまたま入ったカフェが大当たりでした」とSさん)

最近、読書を始めました。心理学の本をよく読んでおり、仕事でもプライベートでも人との接し方にプラスに働くといいなと思っています。

休日は外に出かけることもあれば、家で資格の勉強をしたり、アニメや動画を視聴して過ごしたりすることもあります。9月に受けたTOEICの結果が過去最高得点だったので、勉強の成果がしっかり出て嬉しい気持ちになりました。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

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