障害のある方の中には、さまざまな理由から一人暮らしを検討している方もいるでしょう。しかし、まったく何の支援も受けずに一人暮らしをするのは、なかなか難しいのが現状です。
障害のある方が一人暮らしをするには、適切な支援サービスを受け、無理なく生活できる環境を整えることが大切です。今回は障害のある方の一人暮らしを支える、さまざまな障害者支援サービスを紹介します。ぜひ参考にしてください。
障害のある方でも一人暮らしはできる?
障害のある方が一人暮らしする場合、ご自身の障害の程度を把握し、一人暮らしが本当に可能であるか考える必要があります。
例えば身体に障害がある方の場合、住居にバリアフリー機能など障害の特性に合わせた設備が必要か、また精神障害のある方の場合は、症状の波はどれくらいか、その中で家事や服薬管理などを一人で行えるかといった点を考慮しなければいけません。一人暮らしは費用面ももちろんですが、日常生活に必要なことをすべて一人で行えるのかという冷静な判断が大切です。
仮にすべて一人で行うのが難しくても、各種支援サービスや支援制度を利用することで、一人暮らしが可能になる場合もあります。
一人暮らしをする際に頼れる障害者支援サービス
障害のある方が一人暮らしをする際に頼れる障害者支援サービスとして、以下が挙げられます。
- 自立訓練(生活訓練)
- 自立生活援助事業
- 日常生活自立支援事業
- 地域生活支援事業
- 居宅介護支援
それぞれの内容を確認すると共に、上記サービスの利用も視野に入れましょう。
自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)は、自立に向けた生活スキルやソーシャルスキルを習得するための支援サービスで、就労移行支援事業所などで受けられます。利用には「障害福祉サービス受給者証」が必要ですが、障害者手帳などはいらないため、いわゆる発達障害*のグレーゾーンの方でも利用が可能です。
自立訓練(生活訓練)では自炊や掃除、金銭管理といった一人暮らしに必要な生活スキルをはじめ、挨拶・会話、人との距離感の取り方といったソーシャルスキルも学べます。座学だけでなく実践的なプログラムも揃っているので、実際の一人暮らしを想定しながら必要なスキルを身につけたい方におすすめです。
Kaienでも自立訓練(生活訓練)を行っており、実践プロジェクトやカウンセリングを通して生活スキルやソーシャルスキルの習得をサポートしています。見学会や相談会も実施していますので、興味のある方はお気軽にご連絡ください。
自立生活援助事業
自立生活援助事業は、障害のある方の地域生活のサポートを目的とする支援サービスで、各自治体が運営しています。
自立生活援助事業は、定期的な訪問や相談対応を通して、支援員が障害のある方の衣食住や健康管理、生活に必要なさまざまな手続きのやり方などをアドバイスするものです。余暇活動の支援や周囲とのコミュニケーションのサポートも含まれます。
注意したいのは、このサポートに家事代行は含まれていないという点です。あくまで必要な助言や関係機関との調整などに留まるという点に留意しましょう。
日常生活自立支援事業
日常生活自立支援事業は、認知症高齢者や障害のある方など、判断能力が十分でない方々が安心して生活を送れるよう支援するサービスです。都道府県や各自治体の社会福祉協議会が実施しています。
具体的な支援内容は、公共料金の支払いなどの金銭管理サポート、訪問介護やデイサービスといった必要な福祉サービスにつなげる支援、年金や保険の通知書の内容確認や重要書類の保管サポートなどです。これらを支援員が定期的に訪問して行います。
自立生活援助事業と内容が似ているようにも思えますが、日常生活自立支援事業は認知症高齢者や知的・精神障害者を対象としています。十分な判断能力があるか否かが重要で、支援内容も行政手続きや福祉サービスの契約など、より細かいです。
地域生活支援事業
地域生活支援事業は、障害のある方や障害のある児童の地域生活をサポートするサービスです。各自治体が主体となり、支援内容は多岐にわたります。
例えば、障害のある方の公共交通機関の利用や送迎をサポートする移動支援や、手話通訳と要約筆記で聴覚や言語に障害のある方の意思疎通を助けるコミュニケーション支援、障害のある方が日中安心して活動できる場所を提供する日中活動支援などが挙げられます。
また、障害のある方やそのご家族からの相談を受けて適切なサポートにつなげる、生活上の課題解決を支援するといった内容もあります。具体的な支援内容は自治体によって異なるので、まずは窓口に問い合わせてみましょう。
居宅介護支援
居宅介護支援支援は、要介護認定を受けた方を対象に実施される支援サービスです。地域の居宅介護支援事業所や地域包括支援センターが主体となります。
支援内容は食事や入浴などの身体介護から、掃除や炊事といった家事援助、利用者の家族への相談支援など幅広いです。生活状況や希望をもとに訪問介護やデイサービス、ショートステイなどのケアプランの作成も含まれます。
ケアマネージャーが利用者の状態や状況に応じてケアプランを作成し、介護福祉士や居住介護職員初任者研修修了者、介護職員基礎研究修了者などがヘルパーとして支援を行います。
障害のある方が一人暮らしする際の相談先
支援サービスの他に、障害のある方が一人暮らしする際の相談先として、以下が挙げられます。
- 自治体の福祉担当窓口
- 基幹相談支援センター
- 特定相談支援事業所
- 一般相談支援事業所
それぞれの違いや、対応している相談内容を見ていきましょう。
自治体の福祉担当窓口
障害のある方の一人暮らしで困りごとが出てきた際は、まず自治体の福祉担当窓口に相談してみましょう。
自治体の福祉担当窓口では、障害のある方の暮らしや福祉サービスに関する一般的な相談に応じています。困りごとの相談先がわからないという場合は、悩みに合った適切な相談先を紹介してくれるので安心です。
各支援機関のハブ的な役割を担っているので、最初に行く相談先としておすすめできます。
基幹相談支援センター
基幹相談支援センターは、障害のある方が自立した生活を送れるよう、障害のあるご本人やそのご家族をサポートするなど、総合的な相談窓口を担う支援機関です。各自治体が運営し、相談支援事業所や居住サポート事業所と併設されている場合が多く見られます。
基幹相談支援センターでは、障害のある方の生活全般に関する困りごとへの相談支援、福祉サービスや医療サービスなど、必要な支援へつなげる地域移行・地域定着サポート、困難事例への対応などを行います。
特定相談支援事業所
特定相談支援事業所は、障害がある方やそのご家族の福祉サービスの利用をサポートする支援機関です。主に市町村から指定を受けた相談支援事業所が運営しており、相談支援センターとも呼ばれています。
特定相談支援事業所では、居宅介護やデイケアなど、障害のある方が必要とする福祉サービスの利用手続き支援や、障害のある方一人ひとりのニーズに合わせたサービス等利用計画の作成、支援計画が適切かどうかのモニタリングなどを行います。
一般相談支援事業所
障害のある方が、これまで暮らしていた病院や施設から出て地域生活を送る場合、さまざまな支援が必要となります。一般相談支援事業所は、障害のある方が地域で生活する上で必要な「地域移行支援」や「地域定着支援」を行う福祉サービスです。
地域移行支援は地域に出てくるまでの支援が主で、住まいの選定や地域の福祉サービスの利用手続きの支援などを行います。地域定着支援では、自立して地域で暮らし続けるための支援として、金銭管理や医療・福祉サービスの継続利用サポート、地域の人々との交流支援などを行います。
一人暮らしに必要な生活費はいくら?
総務省統計局の2023年の「家計調査報告(家計収支編)」によると、単身世帯の1ヶ月の消費支出(生活費)は16万7,620円でした。つまり一人暮らしには、1ヶ月約17万円の生活費が必要ということです。しかしこれはあくまでも全国平均なので、家賃や物価が高い都心部に住む場合、生活費は17万円よりも高くなると考えられます。
また厚生労働省の「平成30年度障害者雇用実態調査結果」によると、精神障害のある方の1ヶ月の平均給与は、約12万5,000円でした。また、その中で発達障害の方の1ヶ月の平均給与は12万7,000円でした。
一人暮らしに必要な生活費が1ヶ月あたり17万円だと考えると、障害者雇用の給与だけで生活費をまかなうのは厳しいのが現状です。障害のある方が一人暮らしをする場合、支援制度を活用して生活費の不足分を補うという方法もあります。
一人暮らしをする際に知っておきたいお金の支援制度
障害のある方が利用できるお金の支援制度として、以下が挙げられます。
- 障害年金
- 障害年金生活者給付金
- 特別障害給付金制度
- 生活保護制度
- 生活福祉資金貸付制度
- グループホーム(共同生活援助)
それぞれの制度内容や利用方法を見ていきましょう。
障害年金
障害年金とは障害のある方や病気、ケガなどで仕事や日常生活を著しく制限されている方を対象に支給される年金のことです。障害者手帳を持っていなくても、受給要件を満たしていればもらうことができます。
障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があり、障害の原因となる病気やケガで初めて病院を受診した際に加入していた年金の種類によって区別されます。初診日に国民年金に加入していたら「障害基礎年金」、厚生年金だったら「障害厚生年金」の支給対象となります。障害基礎年金は1~2級、障害厚生年金は1~3級まで等級があり、それぞれ受給金額が異なります。
障害年金の受給にはこれまでの保険料の納付状況や障害の状態などいくつかの要件があり、申請すれば誰でももらえるというわけではありません。また、申請から受給決定、実際の支給まではトータルで約5ヶ月ほどかかる点に注意が必要です。
障害年金生活者給付金
障害年金生活者給付金とは、障害基礎年金の受給者で年間所得が一定よりも低い方を対象に、生活支援を目的としてつくられた支援制度です。2ヶ月に1度、偶数月に障害基礎年金に上乗せするかたちで支給されます。
具体的には、前年度の年間所得が472万1,000円よりも低い場合が対象です。ただしこの金額は、扶養家族がいる場合、家族の人数×38万円分が増額されます。
給付額は障害等級によって異なり、1級は月額6,638円、2級は月額5,310円となっています(2024年時点)。給付額は物価の変動などによって毎年度改定されます。
特別障害給付金制度
特別障害給付金制度とは、国民年金に加入していなかったために、障害基礎年金などが受給できない方を対象とする救済制度です。受給には、厚生労働大臣の認定が必要となります。
特別障害給付金の支給額は、障害基礎年金1級相当に該当する場合は月額5万5,350円、2級相当に該当する場合は月額4万4,280円です(2024年度時点)。支給額は障害年金生活者給付金同様、物価の変動に伴って毎年度改定されます。
生活保護制度
生活保護制度とは、さまざまな理由で生活が困窮している方を対象とした支援制度です。世帯収入が国の定める「最低生活費」を下回っている場合に受給できますが、生活保護と障害年金を同時に受けることはできません。
最低生活費は居住地域や世帯人数によって異なりますが、おおむね11~13万円です。最低生活費は地域により基準額が異なり、地域は1級地から3級地まで6つの区分で分かれています。同じ県でも市区町村によって等級が異なるため、基準額を厚生労働省のホームページで確認しておきましょう。
生活福祉資金貸付制度
生活福祉資金貸付制度とは、障害のある方や低所得者、失業者など経済的に困難な状況にいる方を対象に、低利息または無利子で行っている貸付制度です。各自治体の社会福祉協議会が窓口となっています。
生活福祉資金貸付制度は、貸付の目的に応じて「総合支援資金」「福祉資金」「教育支援資金」「不動産担保型生活資金」の4種類に分けられます。貸付金額の上限や貸与期間は用途ごとに異なり、また条件も用途別に設定されています。
生活福祉資金貸付制度はあくまでも「貸与」で、給付ではありません。そのため必ず返済する必要があります。
グループホーム(共同生活援助)
グループホームとは、障害のある方が必要なサポートを受けながら共同生活を送る住まいのことです。これまで紹介した給付制度とは少々異なりますが、障害のある方の自立生活の1つの選択肢として有効です。
グループホームは、サービスの提供方法によって主に「介護サービス包括型」「外部サービス利用型」「日中活動サービス支援型」「サテライト型」の4種類に分かれます。
もっとも一人暮らしの状態に近いのが「サテライト型」で、サテライト型ではグループホームの近くの住居で一人で生活しながら、困った際に生活支援員からのサポートを受けることができます。2年間という利用期限がありますが、将来的に一人暮らしを考えている方にはおすすめのサービスです。
障害のある方が安定した収入を得るには
一人暮らしに必要な費用をまかなうには、安定した収入を得ることが必要です。しかし障害がある場合、就労に対する不安を抱える方も少なくありません。そんなときは、就労移行支援事業所の利用がおすすめです。
Kaienでは、障害のある方の一般企業への就職を目標に、就労移行支援を行っています。常時100種類以上の職種が体験できる実践的な職業訓練や、ビジネススキルやソーシャルスキルが習得できる50種類以上の講座、キャリア・プランニング支援など、障害のある方の一般就労を目指したさまざまなカリキュラムを用意しています。
またKaienと提携している200社以上の企業を中心に、障害に理解のある職場の求人を紹介しています。就職活動はKaienのスタッフと二人三脚で行うため、1人では不安な方も安心です。
Kaienを利用した方はさまざまな業界に就職し、3人に1人が月収20万円以上を達成しています。安定した収入を得たいと考えている方は、ぜひお気軽にお問合せください。
障害のある方の一人暮らしは支援サービスの活用を
障害のある方が一人暮らしをする際は、日常生活に必要なことがすべて一人で行えるか、よく考慮することが大切です。不安があるという方は、障害者支援サービスの活用を検討しましょう。障害者支援サービスにはさまざまな種類があり、支援内容も多岐にわたります。障害の特性や程度に合わせて適切なサポートを受ければ、一人暮らしの負担が大きく軽減されるでしょう。必要なサービスや金銭面の支援制度を活用して、ぜひ一人暮らしの一歩を踏み出してください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。