資格はスキルアップや能力の証明などに役立ち、就職や転職の助けとなってくれる存在です。希望する職種に直結する資格なら、企業へのアピールポイントとしても活用できます。発達障害*などの障害がある場合、就活を少しでも有利に進めるために資格の取得を検討する方もいるかもしれません。
そこで本記事では、発達障害の方におすすめの資格を紹介し、取得のメリットや活用できる職種、資格の取得に利用できる支援制度について分かりやすく解説します。
発達障害の方が資格を取得するメリット
発達障害の方が資格を取得するメリットを整理すると、大きく以下の2つが挙げられます。
- 就職や転職に役立つ
- スキルアップやキャリアアップにつながる
資格の取得は就職や転職という短期的な目的に役立つだけではなく、スキルアップやキャリアアップといった、人生を通して役立つメリットも兼ね備えています。それぞれのメリットを深掘りしてみましょう。
就職や転職に役立つ
資格が就職や転職活動において重要だといわれる大きな理由は、実務に役立つ特定のスキルや知識があることを証明できるためです。たとえば、事務職や会計職を目指す場合、MOS(Microsoft Office Specialist)や日商簿記検定などが評価される傾向にあります。
さらに、資格取得の過程で学んだ内容を実務に活かせるので、即戦力として活躍できる可能性が高まります。仕事に慣れるまでの期間を短縮するためにも、資格の取得は有効です。
スキルアップやキャリアアップにつながる
資格取得の過程で得たスキルや知識は、自分の一生涯の財産になります。さらに、積み重ねてきた経験が成長を感じさせてくれるので、自分自身に対する自信を高める効果も見込めます。
また、簿記や語学関連といった幅広い分野で活用できる資格は、専門分野でのスキルアップだけでなく、異業種への転職や昇進にも役立つため、長期的なキャリアの選択肢を広げる手助けにもなるでしょう。
発達障害の方の就職や転職におすすめの資格
ここからは、発達障害の方におすすめの資格を6つ紹介します。今回は、基礎的な業務で役立つものや、幅広い分野で活用できる資格を選びました。
- MOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)
- 日商簿記検定
- タイピング技能検定
- ITパスポート
- 基本情報技術者試験
- TOEIC
それぞれ、取得するメリットや向いている職種などを見ていきましょう。
MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)
MOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)は、Microsoft Office製品に含まれるWord、Excel、PowerPointなどの実務スキルを証明する資格です。特に事務職や営業職において高く評価される傾向にあり、近年はリモートワークの普及やITリテラシーの重要度の高まりなどから、この資格の注目度が増しています。
また、試験の難易度は一般と上級(エキスパート)に分かれており、自分のレベルに合わせて挑戦可能です。目安となる学習時間はおおむね40~80時間といわれています。
日商簿記検定
日商簿記検定は、会計や経理業務に不可欠な会計の基礎や、企業の財務状況を把握する知識などを身につけることができる資格です。試験は簿記初級、3級~1級、原価計算初級まであり、就職で必要とされるのは3級または2級が一般的です。
経理職や総務職では、資格を持っていることが前提の求人も多いので、これらを目指す方は求人の傾向から目指すべき級を確認して、早めに勉強に取り掛かりましょう。近年では、IT会計の普及に伴い簿記の知識が求められる場面も増えています。
独学でも取得は可能ですが、3級と2級では難易度が大きく変わるため、2級を目指す方はスクールを選択肢に入れてもよいでしょう。学習時間の目安は、3級が100時間前後、2級が250時間前後といわれています。
タイピング技能検定
タイピング技能検定は、タイピング速度と正確性を証明する資格です。受験級は8級から特級まであり、初級者から上級者まで年齢を問わず幅広く挑戦可能です。最近では小中学生の受験が増えており、なかには小学生で1級に合格した例もあります。
タイピング技能はもはや必須の技術となっていますが、事務職やデータ入力業務などはタイピングに早さと正確性が求められるため、特級に近い級数を取得できればアピールポイントとして活かせるでしょう。学習期間の目安は個人のスキルによって差が大きいため一概には言えませんが、毎日20分程度ずつ練習して、実力が付いたタイミングで挑戦することをおすすめします。
ITパスポート
ITパスポート試験は、情報技術の基礎知識を幅広く学び、その理解度を証明する国家資格です。ITの基礎知識があることをアピールできるのはもちろん、ITツールの活用が進む昨今においては、取得によりキャリアアップやポジションの獲得にも効果が期待できます。
試験範囲は、情報セキュリティやネットワーク、システム開発などのIT分野に加え、経営戦略や法律関連といった企業活動に必要な知識まで、網羅的に含まれています。
難易度は初心者や非IT技術者向けに設定されており、これからIT分野に携わりたい方や、職場でのデジタルスキルを向上させたい方に最適です。学習時間の目安は100時間程度といわれています。
基本情報技術者試験
基本情報技術者試験は、情報技術の基礎知識を幅広く学べる試験で、ITエンジニアの登竜門ともいわれています。企業活動やマネジメントの基本知識も問われるため、業務効率化やプロジェクト管理に役立つスキルも身につけられます。
試験範囲は、コンピュータシステムやネットワーク、データベース、情報セキュリティ、アルゴリズム、プログラミングなど、IT業界で必要とされるスキルを網羅しています。受験資格は特に制限がなく、学習時間の目安は200時間前後といわれています。
TOEIC
TOEICは、リスニングとリーディングを中心に、英語コミュニケーション能力を評価する国際資格です。スコアに応じて語学力を可視化できるため、英語を活用する職場での採用や昇進に役立ちます。
試験は、リスニングセクション(約45分間・100問)とリーディングセクション(75分間・100問)の全200問で構成され、スコアは10点から990点の範囲で表示されます。学習時間の目安は、おおむね100点上昇させるために200~300時間が必要といわれています。
発達障害の方が資格を取得するときの注意点
まず最初に気を付ける点が、特定の条件に当てはまる場合に資格を取得できない「欠格条項」です。これは、資格保有者に求められる社会的責任や業務遂行能力を考慮したもので、薬剤師や医師などの資格は、一定の精神的な障害や身体的な制約がある場合、欠格条項に当てはまる場合があります。
そのため、資格取得を目指す際には、あらかじめ受験資格や欠格条項の確認が必要です。
また、働きながら資格の取得をする場合は、資格取得に気持ちが向きすぎることで仕事に影響が出ないように気を付けましょう。あくまで勤怠の安定を最優先に、可能な範囲で資格取得に取り組む姿勢が大切です。
発達障害の方の資格選びのポイント
発達障害の方が資格取得を目指す場合、まず以下の3点を前提に資格を選びましょう。
- 自分の特性に合うものを選ぶ
- 目的や将来像を意識する
- 需要のある資格か見極める
資格の取得は「できること」「やりたいこと」「求められること」の3つのバランスが大切です。どれか1つに偏っていると、どこかで無理が出る可能性があります。それぞれのポイントを詳しく見ていきましょう。
自分の特性に合うものを選ぶ
まずは「できること」から考えましょう。発達障害の方の場合、特性によって得意・不得意があるため資格内容が特性と合わない場合、難易度が大きく上がる可能性があります。逆に、特性との相性が良ければ、取得がスムーズに進むでしょう。
たとえばASD(自閉スペクトラム症)の方は、論理的思考や集中力を活かせる分野が適性に合う場合が多いなど、自分に合う資格選びが重要です。
大人の発達障害の種類や特徴については、以下の記事で詳細をまとめています。資格を選ぶ参考に、一度チェックしてみてください。
大人の発達障害(神経発達症)とは?種類と症状、診断方法や相談先を解説
目的や将来像を意識する
次に「やりたいこと」です。自分が理想とする働き方を具体的にイメージすることで、必要な資格が自然と見えてきます。また、「自分が目指す自分」をイメージすることも、行動の原動力になってくれるでしょう。
たとえば「事務職で安定的に働きたい」という目標がある場合は、MOSや日商簿記が選択肢となり、「国際的なキャリアを築きたい」という場合には、TOEICやITパスポートが選択肢になります。
需要のある資格か見極める
最後に「求められること」です。市場のニーズが高い資格を取得すれば、それだけチャンスが広がります。特に、転職やキャリアアップを考えている場合、企業が求めるスキルや資格をリサーチしてから資格を選びましょう。
たとえば、IT分野ではITパスポートや基本情報技術者試験の需要が高く、事務系では簿記やMOSが継続して求められる傾向にあります。ただ、資格の需要は時代や業界の変化によって変わるため、最新のトレンドや雇用市場の情報を定期的にチェックすることも大切です。
発達障害の方が利用できる資格取得支援制度
最後に、発達障害の方が資格を取得する際に利用できる支援制度を紹介します。
- 就労移行支援
- 障害者職業能力開発校
- 教育訓練給付金制度
これらは資格の取得をサポートしてくれるだけでなく、経済的な負担を軽減する効果も期待できます。それぞれの概要やメリット、有効な場面などを解説します。
就労移行支援
就労移行支援は、障害がある方が一般就労を目指すための障害福祉サービスです。全国の就労移行支援事業所に通所し、職業訓練や就活に関するアドバイスを受けることで、就労に必要なスキルや知識を習得していきます。
利用対象者は、18歳から65歳までの障害がある方で、サービス内容は、大きく職業訓練、就職活動支援、就職後の定着支援の3つから構成されています。
Kaienでも発達障害の方に特化した就労移行支援を行っており、資格取得のためのサポートも実施しています。カリキュラムにはパソコンの基礎的スキルの習得も含まれており、タイピングやMOS、ITパスポートなど、資格取得に向けた勉強もアシストしています。資格取得と就職支援を一体で受けられる、手厚い支援が特徴です。
障害者職業能力開発校
障害者職業能力開発校は、国や都道府県が設置・運営する、障害のある方が就職に必要な知識や技術を習得するための職業訓練施設です。情報処理や製造業、サービス業など多様な分野の訓練コースがあり、個々の障害特性に応じた指導や就職支援、職場定着サポートなどが受けられます。
入校の基本的な条件は、身体または精神に障害があることですが、詳細な要件や提供されるコース内容は各校で異なります。なお、訓練期間は通常1年間ですが、1年未満の短期コースが用意されている場合もあります。授業料は無料ですが、教材費や生活費は基本的に自己負担です。
教育訓練給付金制度
教育訓練給付制度は、能力開発やキャリア形成の支援のために、資格取得の学習費用を一部補助する制度です。雇用保険に加入している方が対象で、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給されます。対象となる講座は、簿記やIT系資格、語学資格など幅広く用意されています。
給付の対象となる教育訓練は、専門実践教育訓練、特定一般教育訓練、一般教育訓練の3種類に分類され、それぞれ支給率や上限額が異なります。
発達障害の方の資格取得は支援制度の活用を
資格取得は、スキルの取得やキャリアアップのチャンスを広げる大きな一歩です。しかし、発達障害がある場合は難易度が高いものも多いため、専門機関や支援制度を頼ることをおすすめします。
あなたの可能性をいち早く広げるためにも、効果的、効率的な資格取得方法を選択しましょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。