「自分の特性を認めてもらえる職場を探す」Kさんが気付いた、自分らしく働く道

HOME大人の発達障害Q&A利用者体験談「自分の特性を認めてもらえる職場を探す」Kさんが気付いた、自分らしく働く道
▪年齢:40代後半
▪診断名:ADHD、ASD
▪特性・苦手なこと:物をよく無くす、空気を読むのが苦手、協調性はあまりない、冗談を真に受けてしまう
▪現在の職種:軽作業


不眠の相談とともに、発達障害*の検査も

―――幼い頃はどんなお子さんでしたか?

ぼーっとしている子どもでした。特に運動やルールの理解が不得手で、他の子に遊びに混ぜてもらえなかったり、自分から輪に入らないようにしたりしていたのを覚えています。本が好きだったこともあり、読書をして過ごしていました。

また、特定のシーンでこだわりが強く出ることもありました。例えば、習字や絵の授業では「こうしたい」という自分なりの考えを持っていたので、先生から「こうした方がいいよ」と言われるととても腹が立ったのです。しかし、その気持ちをうまく伝えることが難しかったので、混乱することが度々ありました。

私は発達障害の特性がある子どもだったと思いますが、当時は発達障害の認知が社会的にまだまだ進んでいませんでした。そのため、わりと抑圧的な家庭で育ってきたと思います。母からは、「変な子だと思われたら恥をかくからちゃんとしなさいよ」とよく言われていました。

―――Kaienにつながる前はどのようなお仕事をされていましたか?

若い頃は漫画家を目指しており、ライトノベルを出したこともあります。その他にも、アートグッズを扱うお店で働いたり、漫画家のアシスタントをしたりと、主にクリエイティブ系の仕事をしていました。

結婚してからは妻のライターの仕事を手伝っていたのですが、離婚を機に警備の仕事に就きました。

―――発達障害に気付いたきっかけを教えてください。

うつやパニック障害になったときに、インターネットでそれらについて調べるようになったのがきっかけです。発達障害の当事者や専門家の動画を何となく見ている中で、「ADHAやASDの特徴に当てはまっているな」と思うようになりました。

また、発達障害に関する本を読んだことがあり、以前から発達障害の知識は何となく持っていたのです。ただ、病院に通う勇気を持てずにいました。

メンタルクリニックを受診したのは、勤務時間が不規則な警備員の仕事をしているうちに、眠れなくなってしまったことがきっかけです。そこで発達障害のことも調べてみようという話になり、初めて検査を受けました。

―――診断名と苦手なことを教えてください。

診断名はADHDとASDで、診断を受けたのは40代半ばです。WAIS(ウェイス)検査では処理速度が82と、平均より遅いことも分かりました。

昔から苦手なことは、圧力をかけて他人をコントロールしようとする人と関わることです。私は比較的おとなしい性格なのですが、矛盾や理不尽さを感じるときには粘り強く反抗してしまいます。

以前の職場でも、「それはおかしいと思います」と言って引き下がらず、相手をどんどん怒らせてしまったことがありました。その場の空気が悪くなっても一人で突っかかってしまうので、社会人としてはよくない行動だと思っています。

(「読書が好き」だというKさんの自宅にある本棚)

訓練を通して、自分に向いている仕事に出会う

―――Kaienで訓練をはじめようと思ったきっかけを教えてください。

Kaienを知ったのは、生活困窮者支援センターの方から就労移行支援について教わったのがきっかけです。3つの事業所を見学したのですが、空間が広々していたことと、苦手なパソコンの操作も丁寧にフォローしてもらえそうだと思ったことが決め手で、Kaienを選びました。

―――職業訓練ではどんなことをしていましたか?

まずはオフィスワークを経験する「オフィスチーム」に所属して訓練を行いました。私が苦手とするオフィス内での大人としての立ち振る舞いや、人付き合いの仕方を学びたいと思っていたからです。

ただ、次第に作業スピードについていけなくなりました。自分が一番足を引っ張っているような状態になってしまい、それを申し訳なく感じるようになったのです。そのため、3ヶ月ほどで「軽作業チーム」に移りました。

軽作業チームでは、封筒を折る、梱包するなどの作業を行いました。ここでも私は作業ペースが一番遅かったのですが、周囲と比べて自分がどのくらい遅れているのかが分かりやすかったのです。そのため、進捗報告やリカバリーがしやすく、ストレスがほとんどありませんでした。

その他にも、個人ワークの時間に「ファイナンシャルプランナー」の勉強をしました。今まではあまりお金のことを意識したことがなかったので、お金に関する知識を学ぶいい機会になりました。どんなときにお金が必要になるかを、ブロック的に考えて人生設計を立てられるようになったので、学んで良かったと思っています。

―――訓練で印象に残っていることはありますか?

軽作業チームに所属していたときに、紙をカッティングして封筒を作る仕事をしたのですが、周囲の人から「職人」と呼ばれたことが印象に残っています。また、梱包用の箱を作ったときにも「一番きれい」だと褒められたことがあり、とてもうれしかったです。

昔から絵や漫画を描いたり、プラモデルを作るのが得意だったりと手先が器用だったのですが、それが仕事の中で役立つことに気付きました。

また、軽作業チームは周囲の人と和気あいあいと喋りながら作業する時間もあったので、それが自分に合っていたと思います。自分を変えることも大事ですが、それと同時に“自分の特性を認めてもらえる職場を探すこと”も生き方の一つだと思いました。

(Kさんが飼っている猫のドブちゃん)

自己理解を深めたことで、緊張なく面接に挑めた

―――就活では、どういった業種・業界を目指しましたか?

訓練で向いていると感じた、軽作業系の職場を目指しました。職場選びの軸にしたのは、障害に対する理解が得られることと、自転車で通えることです。金銭面よりも、自分にとって働きやすい環境を重視していました。

1社目で無事に理想の職場への就職が決まり、本当に良かったです。その会社には実習でも行っていたので、就職後にミスマッチを感じることもありませんでした。

―――ご自分の就活を振り返って、やっておいて良かったことを教えてください。

Kaienで行った面接練習で、細かい対応まで教わっていたのが良かったです。

例えば、私は自己開示をよくするタイプなのですが、「いつでも何でも自己開示すればいいわけではない」と教わりました。相手が同じようなタイプの人であれば、自己開示することが信頼関係を築くきっかけになるかもしれませんが、人によって異なります。

「距離感を大切にするタイプの人からすると、あなたを“扱いにくい”と感じる可能性もあるから、自己開示をするかどうかは相手を見ながら考えた方がいいよ」とアドバイスをいただきました。私は嘘があまり好きではない性格なので、素直で正直でいるのがいいと思っていたのですが、そういう風に捉えられることもあるのだと知ることができました。

面接練習を通して自己理解が深まったことで、実際の面接では何でも話したい気持ちをぐっと抑えることができました。練習していたおかげで、緊張することなく本番に挑めました。

野菜の成長が、仕事のやりがい

―――現在の職場での仕事内容を教えてください。

農業関係の仕事をしており、野菜を育てたり、収穫した野菜を梱包・発送したりしています。日々行っている作業は細々したことですが、そうした積み重ねのおかげで野菜がどんどん成長していくので、成果が目に見えて分かりやすくやりがいを感じています。今まで経験した仕事の中で、一番楽しいです。

―――今後の目標や挑戦したいことはありますか?

今の仕事をできるだけ長く続けたいと考えています。また、職場で自分の好きな野菜を育てるスペースをもらっており、そこで紫色のカリフラワーを育てているところです。その野菜をしっかり育て上げ、自分で料理をして食べるという目標を叶えたいと思います。

付録  ~Kさんのこと~

(Kさんが出版したライトノベル(右上)や、イラストを担当した文庫(右下)など)

本や漫画が好きで、時間があれば小説を読んだり、アニメを見たりしています。また文章を書くことも好きで、ライトノベルで賞(コバルトノベル大賞・佳作)を獲ったこともあります。2024年には、一般文芸で第八回大藪春彦新人賞を受賞しました。担当編集者とうまく関係性を築きながら、これからも活動を続けていければと思っています。


*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われています。